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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第七章:セーブ編

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第16幕:文化祭の法則




「―――メイド喫茶!」

「いいや! 執事喫茶だ!! 硬派、寡黙、優美! それに比べて、あんなフリフリしたプロ意識の欠片もない媚び衣装の何処が……」

「あーーーんだってぇぇぇ!?」

「Rhine超えたなこのやろぅ!!」


「Rの発音メッチャえぇ!」

「英語力ぅ……ですかね」



 ………。

 ……………。



 ………。

 ……………。



「……はぁぁぁぁ……、分かってないねぇ。ここまでなーんも分かってないとは想定外だねぇ。やんやん? 恵那。言っとくけど、幼馴染だからって容赦しないよ?」

「わたしも、がっかりです。この世には神も仏もないってことを教えてあげますよ、七海」



 片や。執事喫茶派を率いるは、その愛嬌と明るさ、そして大抵を笑って流す大らかさでクラスの太陽と呼ばれるナナミ。

 片や。メイド喫茶派を率いるは、古い家柄ゆえの淑やかさと清楚さを備え、先走りがちなナナミを諫めつつ、周囲へ見せる抜群の気配りにおいては並ぶ者なし、クラスの月とされるエナ。


 思想の異なる二人を旗頭に両陣営は睨み合う。

 ―――うん。

 今、一応授業の体を取ってるんだけどな。

 このままだと放課後までもつれ込んじゃいそうな感じだ。

 


「なぁ。もうちょっと冷静に……立つな立つな、メンチ切るな睨み合うな!」

「……六限終わりそうだし。今日中に決まるのかなぁ、コレ」

「……面倒くせぇ」

「あはは……」



 両陣営の仲裁を図るは、クラス委員を務める秀才コンビなユウトとワタル君。

 実行委員に就任したショウタ君とスミカちゃんも交えてバランスも良い。


 今更に気付く、見事に知ってるメンバーが戦争の中核だけど。

 戦争の火種は、どうやら大陣営同士のものに限らないみたいで。



「あーー、もぅ! なんで分かってくれないかな!? 普段クールなルミちゃん先生だからこそ、フレンチメイドのギャップが映えるんだって! カワイイの追求、新たな扉ァ!」

「それ実感できんの普段を見てる生徒だけじゃない! 文化祭には父兄の方々も来るんだから、先生らしさを全面に押し出したヴィクトリアメイドに決まってんの! クールオブクール! ホンモノノ機能美!」



 メイド喫茶派もメイド喫茶派で、内部の派閥争いが激化。

 今の所は古き良き伝統派と革新を求める急進派で対立してるけど、このまま更に枝分かれしそうだし。


 このままじゃ空中分解しそう。



「ねぇ、皆。単純な疑問なんだけど、執事服って結構凝ってるイメージだし。それに、着こなすのも難しいんじゃないかな。女の子なら可愛いで押せば行けるかもだけど……僕達、いけるの?」

「「―――――」」



「流石。普段から着てるやつは言うことが違うな」

「―――優斗」



 ワタル君の冷静な言葉に一瞬場が静止する。

 真顔で固まる執事派の皆さん。

 或いは、彼はメイド喫茶派の放った刺客だったりするのかな。


 

「―――いやいやいやいやいや、行けるって!!」

「そうそう! 男衆でも、最近は色々メイクあるし、映える服だって沢山出てるんだから。おもいっっきりお腹周り締め上げてさ?」

「……あ、素材は端から見てくれないんすね」

「うーーん……? 素材だって中々じゃない? 将太君は髪ワックスで固めて胸元開けてさ?」

「―――ふぇ!?」

「あ、航君は勿論鬼畜系インテリメガネね!」

「うん……うん? ……勿論?」



 どちらの派閥もそうなんだけど、既に勝ったつもりで色々構想広げてるし。

 どんどん話が盛り上がっちゃってる。

 何だかんだで、やっぱり男子はメイド喫茶派、女子は執事喫茶派が多いみたいだけど……残念な事に、このクラスの男女比は半々。



「どちらにせよ、半数は裏方って事になるな、そうなると」

「性別的なアレで時間制シフトの入れ替わりが難しいしね。どっちかは全員裏方とかになるのかな」

「執事喫茶なら女子も普通に映えるよ!」

「「ぬぬぅ……!!」」

「メイド喫茶なら大義名分込みで色々なスタイルの組み合わせが試せます。普段のオシャレのヒントになりますよ」

「「ぬ……!」」



 私やクラス担任さんの考えは勿論、皆が納得しての可決なんだけど。

 満場一致って、実はかなり難しいんだよね。


 

「クールにエスコートされてギャップにキュンしたい……!!」

「オムオムに萌え萌えキュンしてほしいです……」



 同じキュンなのに違うキュン。

 ずっと一緒に居る幼馴染なのに、どうしてここまで趣向が食い違っちゃうかな。

 今や、陣営での睨み合いは無意味。

 国境の壁は取り去られ、各々が各地で火種を蒔き続ける無法状態。


 世はまさに世紀末……混乱の最中。


 機械仕掛けでも何でも、必要なのは全てを丸く収める絶対の法。

 時代は救世主を求めてる。



「イツキ先生。出番―――」

「無理です」



 即答。

 こんなにアッサリ用心棒が破れちゃったら時代劇も終わりだね。

 バベルの塔は神様に届いちゃったみたいだ。


 クラスを受け持つ二年目の若手教師さんは、この熱量のまま、生徒の自主性のままを尊重する事に決めたようで。

 もしかしたら、他に何かしらの理由があるのかもだけど。


 ……でも、大丈夫。

 例えそうだとしても、私の出る幕なんてない。

 あまりに戦乱の時代が長く続けば、やがては我に返る者も現れ始めるし。

 世を憂う存在だって、必ず現れるんだから。



「ね、二人共」

「「……………」」


 

 戦場の中央。

 竜虎と言わんばかりに互いを牽制し合う両者。

 普段クラスの中心で、色々と均衡を取っている二人がこの始末だと、何人も近付けない空間なのは想像に難くないけど。


 そんな場所へ、悠々と踏み込んでいく影は。



「確かに、ちょっと食い違っちゃってるかもだけどさ? 話し合ってみて、落としどころも見えてきたんじゃかないかな。ね?」



「―――この光……、まさしくッ!!」

「―――出たな」

「あぁ、お星さま澄香さまの出番だ……」



 そうとも。

 ナナミを太陽、エナを月とするのなら、スミカちゃんは星。

 普段は一歩引いた位置でクラスを俯瞰しているけど、それはあくまでも全体を常に見渡す為。


 人は太陽や月を神として崇めはするけど、願い求めるのはいつだって流れる星々だろう?

 輪からあぶれた存在が居れば、いつでも彼女が現れて優しく照らしてくれるんだ。

 ……二次被害で玉砕した男の子は数知れず。

 クラスの平和は三人のバランスでなってるとか何とか、三人がフッた数だけで学園の男子生徒の半数がーーとか何とか。



「でもね? 話し合いにしてはやりすぎだよ。まず、第一に……あんまり皆を扇動して刺激しない」

「ゴメンなさい」

「申し訳ないです」

「第二に、ルミ先生は教員であって、主役はあくまで私達なんだからね?」

「―――あ、うん。それは私も言いたかったんだ」



 さっきからチラホラ私の事話題にしてるけど。

 私、文化祭に関しては殆ど干渉するつもりは無いんだ。


 当然、着せ替え人形の予定もなしね。


 

「で、より予算と労力を少なくやりたいっていうのも分かるけどね。みんなそれだけ熱量があるなら、多少手間があっても最高を求めるのが良いんじゃないかな。そうだよ。どっちもやっちゃえばいいじゃん」



 うんうん。

 あまりに熱くなり過ぎて、皆その選択を忘却してたみたいだからね。

 冷静に言ってくれてよかった。


 双方をそれぞれ作る大変さを避ける、っていうのも大切だけど。

 本当に大切なのは、全員が納得する事だからね。


 皆のやる気が出るなら、そういうのも良いんじゃないかな。



「あとは、男女がどっちの服も好きに選べるようにとかね?」

「「―――ん?」」



 うん?



「だからさ―――皆で頑張ろう……? 男女逆転侍従喫茶……」

「「却下」」

「だよねーー?」



 まぁ、そうなるよね。

 果たして、スミカちゃんのソレは本心なのか冗談だったのか。

 

 見事に息の合った台詞と共にクールダウンした両陣営は、全員着席。

 さっきまでの喧騒が嘘のように、つつがなく進行していく会議。

 凄いね、スミカちゃんパワー。

 彼女、軍団指揮とか向いてるのかも。



「んじゃ。初心に戻り、順々に消費してくぞ。そもそも、本当に喫茶店系で良いのかだが……」



 ようやく鎮まった教室の中。

 委員四人衆筆頭のユウトが動いて。

 彼は皆が争っている間にひとり電子黒板へと入力していた文字を順々に指していく。


 一つの食べ物に絞った出店は当然として、縁日、お化け屋敷、申し訳程度の研究発表……。

 どれも定番どころだね。



 ………。

 ……………。



 議論は進み。

 やはり、形式は当初の予定通り喫茶店……侍従さんメインの軸で組み立てていくみたいで。

 次に、彼等は誰が何を担当していくのかを定めていく。



「―――なあ、ルミねぇ」

「どうかした?」

「話が纏まりそうだから、先に聞いておこうと思って。前に、色々と紅茶淹れてくれただろ? あれ、俺らでも買いに行けるか? 喫茶店で出せば良いんじゃないかって」

「お、良いな」

「アリだね、それも。ほら、色が変わるやつとか、甘さ感じなくなるやつとか」

「へーー。そういうのもあるんだ……」



「じゃあ、裁縫班結成ね」

「「おぉ!」」

「製菓担当襲名!」

「―――ルミちゃん、お菓子作りおせーて!」



 成程、なるほど。

 食材発注とか製作に関しては生徒の領分になるだろうけど、ヒントを与えるのは教師の役回り。

 良いとも、そこは了承だ。



「じゃあ、ウチら数日のうちに採寸しておきたいんだけど―――あ、伊月せんせも着てくれるよね?」

「「ねーー?」」

「え? 僕!?」

「何なら一番似合いそうな気がするし、お願いしまっす!」



 イツキ先生、やっぱり女子生徒に人気あるんだ。

 年齢的に趣味も近いし、絡みやすい性格っていうのが大きいかな。


 教師はあくまで裏方だけど……まぁ、雰囲気を壊さないために着るだけなら。

 あ、そうそう。



「先に言っておくけど。やるからには優秀賞……、いや、最優秀賞を取るくらいの気概でね?」

「ナチュラル鬼畜ルミねぇ」

「息を吐くように鬼畜」

「裏方が良いし、あまり気が乗らん」



 これだけいい素材が揃ってるんだから。

 当然、ビジュアル系のお店ならトップだって狙える。



「下から数えた方が早い順位だったら、クラスの公用語を英語にしようね」



 だから、ここは一つ発破も掛けて。



「……オワタ」

「ガチガチのディストピア……」

「うーん。案外面白そう?」

「だな。バラエティー系で見る外国に放り込んでみた企画みたいで」

「面白がれるのお前等二人だけじゃねえか!」



 発音や訛りはともかく、ユウトとワタル君は普通に行けちゃうからね。

 なら、二人限定で文字数制限とか……。



「で。逆を返せば……上から数えた方が早かったら。優秀賞とか取ったら、ご褒美って事だろ?」

「「!」」

「あぁ。そうなるね」


 

 勿論。

 それらは表裏一体なんだから。



「うぉぉぉぉ!! 燃えてきた!」

「予算追加、予算追加して! やくめでしょ!」



 かつてない盛り上がりを皆が見せる中。

 授業中という体であるからか、軽いノックと共に開く引きドア。



「失礼します。……相馬優斗は居るか―――いるな」



 現れたのは、すらりとした長身の男子生徒さん。

 上履き等の色から三年生であることが分かり。

 付き従うように斜め後ろに立つ真面目そうな女生徒さんも合わせてバランスも良い、いかにもエリートな感じの黒髪イケメンさんだ。



「……如月(きさらぎ)会長」

「校内放送で呼び出すなと言われたからな。直接来てみたが……、文化祭シーズンの予定は既に一杯か?」



 前々から庶務的なお手伝いをしてるって言ってたっけ。

 夏ごろには計画書の作成とかも任されてたし、もう実質役員の一人じゃないのかな。


 アレで、頼まれると断れないタイプ。

 多分、文化祭期間中も二足の草鞋(わらじ)なのかな。



「―――ね。会長も似合うと思わない? 執事服」

「破壊力ヤバそう。背高いし、体格も良い感じ……くッ、着せたい」

「アレはもう何着ても似合う手合いだろ。何なら、ウィッグとか付けてさ? ヴィクトリアメイド限定ならメチャメチャクールビューティーで売れそうじゃないか?」

「イケメン死すべし」

「滅べばいいと思う」

「イケメン同士の立ち話―――へへ……絵になる絵になる」



 ユウトも姿勢は良いけど、会長さんも。

 ああやって話しているだけで分かる、貴公子然とした佇まい。

 容姿とかそういう面だけじゃなくて、一本筋の通った背筋とか、所作とか……そういう人って、雰囲気から育ちの良さが見え隠れするんだ。


 だから、姿が変わっても分かり易かったりする。



「―――予約は入れたぞ」

「今度何かお返ししてくれるのなら、喜んで。ウチの予算上乗せしてくれても良いですよ」

「考えておこう。明日までに」

「「おぉっっ!!」」



 お話終わったかな。

 口元を浅く歪めて笑みを作った会長さんは、ユウトから視線を外し……。

 


「……………」



 と―――そこで、どうしてか私と彼の視線が交差する。



 ………。

 ……………。



 一秒―――二秒……三秒……。

 こういうののお決まりって、ほんの一瞬交わる程度の筈なんだけどな。

 手でも振っておこうかな。



「会長?」

「いや。―――皆、実行委員は頼めば待ってくれるが、時間は大切に。委員会提出資料の期日などよりも、自分の時間を大切に、な」



 生徒の模範たる人物の言葉なのかな。


 お付きさんの言葉が契機だったのか、或いは偶々なのか。

 視線を外した彼はクラスをぐるりと見まわし、よく通る声で話す。


 要するに、早く下校しようねって。

 そういう事らしい。

 時間を見れば、確かにホームルームの時刻に(もつ)れ込んでるみたいだし。


 ……私とクラス担任のイツキ先生に一礼する会長とお付きさん。

 そのまま、ゆっくりと閉まる引き戸。



「―――じゃあ……お言葉に甘えて。残りは、明日詰めるとしよう。目指すは最優秀だ。締まっていくぞ」

「楽しんで、だけどね」

「「おぉーーー!!」」

「よし。ホームルームも巻きで行こうか。皆、着席してくれ」



 区切りの良い所でイツキ先生が締めに掛かり。

 この分なら、数分経たないうちに下校だ。

 

 ……今から追えば、お話とかできるのかな。

 前のクロニクルで撤収してくれたお礼とか?


 リアルで話す事じゃないかな。


 でも……ユウト達、トワからプレゼントされた組はさて置いても。

 ワタル君やショウタ君、スミカちゃんに会長さん……うーーむ。


 前々から思ってたんだけど。

 初販が大量入荷していたあの大型デパートの近辺なだけあって、この学園でONのハードを持ってる子って結構多かったりするのかな?

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