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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第七章:セーブ編

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第15幕:黒幕だーれだ




「で、早速働いてもらってるんですの?」

「うん、昨日フレンドメールで内定貰ったって言ってたからね」

「当たり前のようにお友達……」

「わだかまりが解ければ、皆お友達さ」

「……はいはい。貴女はそういう人ですわね……はぁ」



 例の解散報道から数日後。

 ようやく落ち着きを見せたように見える世間様も、話題を出してしまえば未だ盛り上がりを見せる事実。


 サーバー中、第四位の最上位ギルドの解散話。

 話題性抜群なそれは、ここPL初期リスポーン地点の通商都市に在っても、未だ全く下火にはっていないみたいで。

 その当事者ともなれば……。


 

 うーーむ……―――おもち?

 やきもち?

 下火でじっくりなマリアさんは、何故だか白い頬をぷっくり膨らませていて。


 でも、その奇麗な翠の瞳も、うす茶の髪も……よぅく覗き込まないと見えないんだ。

 何でかって?



「大変だよね、マリアさん。そうやって顔隠さないといけないんだ?」



 全身灰色マントな外套顔隠し不審者さん。

 それが、今のマリアさん。

 お忍びの令嬢様というより、忍びじゃ出会え出会えって感じの彼女は、嘆息したように、でも嬉しそうに微笑む。



「……そういうものですわ。解散したとはいえ、おいそれと市井(しせい)に戻らせては貰えませんの。ほとぼりが冷めるまでは、もう少し身を隠させてもらいますわ」

「大変だぁ」

「各国重要手配犯、元海賊貴公子兼元診療所の女神に言われたくありませんわ。……本当に良かったんですの? 今回も、あんなにあっさり」

「ふふ……、元より私は根無し草さ。そのまま放置したわけじゃなし、大事ない」



 あの後、診療所は国に買い取ってもらった……。

 あ、そう言うと大層な感じに聞こえるけど、つまる話、皇都の中でも医療設備のまるでなっていない赤街をよろしくねって、私から皇女様に「お願い」して、代わりの人員をそのままに配置してもらったんだけどね。


 だから、今でもあの場所は機能してるし。

 三回出来るお願いの内、一個を使ったわけだ。



「はぁ……。そういうものですか」

「そういうものさ。さぁ、着いた」



 話の合間にあっという間。


 着いたついた、黒鉄商店。


 ……根無し草って言ったけど、実質的にはここが私のお家になるのかな。

 どっちかというと隠れ家?

 そうだね、私にとってかけがえのないアジトさ。



「店主君、帰ったよ―――」

「ルミエ」



 ………。

 ……………。



 早い歓迎だ。

 まるで出待ちしてたみたいだね。

 まぁ、それ自体は新しい店員さんと私が連絡を取り合っているから、もうすぐ帰るって分かるからだろうけど。

 そんなに私の帰りを待ち望んでくれてただなんて。

 


「早いね、店主君。なんか顔が悪いけど、機嫌でも―――」

「ルミエ?」



「「……………」」



「「……………」」



「「……………」」



「―――俺に何か言いたい事、あるか?」

「ごめんなさい」



「……こうなるって予想できてましたの」


 


   ◇




「えぇ、えぇ。同感です。私もまさか、一食料品店にここまでの事務作業があるとは思っていませんでした。もはや小売り店の稼ぎと仕事量ではありませんよ、これは」

「お疲れ様です、ヴィオラさん」

「いんや、マージで助かるぜ、ヴィオラ」



 あれから、何とかお許しを得て一段落。

 お客さんを出迎えて、商品の販促となる余興をして、お会計をして、お掃除をして、お客さんを出迎えて……。



「おい、バイト。次はこっち片付けろ」

「はーーい」

「終わったらあっちな」

「ほほーーい」



 お許し得てるのかな?

 私、すっごく働かされてるし、ずぅーっと愚痴を聞かされてるみたいだ。



「でなぁ? ツウショウトシオオドオリ、コクテツショウテンって一つ覚えみてェに喋る奴らがやってきて。それが全くなくならねえうちに、まーた大口の契約が幾つもよ。……ま、アホかと」

「えぇ、阿呆ですね」

「阿呆ですわね」

「うんうん、アホ―――」

「おめェだよ、お前。暫く店手伝えよ? マジで」



 何でも、一時を境にお客さんが更に急増して、彼は泣いて喜んだそうな。

 で、彼は考えたらしい。

 

『絶対アイツの所為だろっ!!』


 ……って。

 

 酷い言いがかりだ、悲しいね。

 その頃、私は帝国通商都市から遠く離れた皇都の診療所であくせく働いていたっていうアリバイがあるのに。


 ……でも、どうしてか了承せざるを得ない。

 良心が痛んでるのかな。

 ないものは痛まない筈なのに。


 これ、暫く長旅は出来そうにないのかな。

 マリアさんと半々のシフト制にしてもらえないかな、マリアさんに押し付けられないかな。

 ほら、私って良心ないし。



「じーー」

「ダメです」

「何も言ってないよ?」

「私、そろそろルミエールさんが真顔で何考えてるか分かるようになってますの」



 わぉ。

 それ、中々できる人いないんだよ?

 ユウト達ですら暫くかかったのに。


 話をしながら商品の梱包を終え、今度は新しいダダンボールの組み立てに移行するけど。



「あの、マリアさま。今更ですが、その御恰好でエプロンは……」



 元最上位ギルドのナンバー2にして、今やお店のブレーンとなったヴィオラさんが算盤(そろばん)を弾き弾き問いかける。

 彼女、珠算検定の段位も持ってるらしいんだ。


 で、確かに。

 思うに、顔と身体を隠した外套姿の上にエプロンって、凄く怖いと思うんだ。

 入って来たお客さん引いてるし。



「ふふふふ……。二つに一つですの……」

「「?」」



 お会計を終えたお客さんを見送ったマリアさんは、振り返りざまにフードの奥で乾いた笑みを漏らす。

 そのまま、ぼそりと呟く。



「私の素顔を全面に晒して、お店に新たな盛況が齎されてしまうのか。正体不明な怪しい店員のまま、細やかな恐怖をまき続けるか。二つに一つですの」

「脅迫か? 脅迫なのか!? ―――なぁ! 何でお前等異訪者ってやつはこうも極端なんだ!?」



 極端な手合いばっかりをお店で働かせる側にも問題あると思うんだ。


 

「あ、あの……。それで、なのですけど。マリアさま?」

「はーーい?」



 で、話は終わってなかったらしく。

 ヴィオラさんの言葉に、またまたお会計を終えたマリアさんがくると振り返り。



「あの……、その」

「?」

「そのような粗末な装いよりも―――もっと、こう……。例えば、ですが。ピンクとか。診療所に居た時に着ていた服は、どうされたのですか?」



 診療所?

 着ていた服って―――あぁ、ナース服?



「接客ならば、あちらの方が安心感を……身バレの危険性も……えぇ、と」

「苦しくありません? その切り口は」

「「……………」」



 苦しいね。

 凄く苦しいね。



「―――また着てみて欲しいと言いますか……! 何と言いますかぁ……!!」

((かわいい……))



 可愛いね。

 凄く可愛いね。


 初対面の時の反応が引っ掛かったけど、やっぱりあの格好に興味持ってたんだ。

 ヴィオラさん、本当にマリアさんが大好きなんだね。



「ふふ。あの格好は恥ずかしいですから。それに、明らか場違いですし」

「……ぅ」

「ですから。休憩の時間に、ね?」

「―――は、はい……!」



 マリアさん、あくじょ。

 絶妙に悪女な悪役令嬢だ。



「おら。話が終わったら、仕事に戻ってくれよ?」

「「はーーい」」



 そうだ、そうだ。

 ちゃんとお仕事しないと、実はまたまた金欠気味だったり。

 

 沢山働いて沢山稼がないと、と。

 手を動かしながら新たなお客さんを出迎える。



「はーい皆さーーん。こーーんにちはーー」



 んう? ……お客さん、知った顔だ。

 最初に入って来たナナミ……と、ユウト、エナ、ショウタ君にワタル君……と。


 皆いるね。



「あ、テツ君もいるよぉーー」

「こ、こんにちは」

「やぁやぁテツ君。おひさ」



 くしゃっとした黒髪で、やや気弱そうな。

 そして、愛嬌のある顔立ちの青年は、この都市に店を構える鍛冶公房ナコ・アセロの職人さんだね。


 Aランクの武器って、凄く珍しいらしいし。

 素材さえあればそれを幾つも製作できる設備を持った彼、最近はかなり有名になりつつあるって。



「おいおい……また大所帯だなぁ。どうしたんだ? 今日は」

「お邪魔します、ノルドさん。商談ですよ」



 おませさんだ。



「ルミねぇ。邪魔だろうから二階で話させてもらうぞ」

「うん、良いよ」

「「おーじゃましまーーす」」



 家主には丁寧に対応したユウト達は、私には勝手知ったると言った感じ。

 そのまま、六人の大所帯は階段を上っていく。



「―――ってなわけで。俺たちも出場するから、とびっきりの武器製作頼むわ」

「あはは……取り敢えず、全武器炎属性付与で良いですか?」

「ん、俺は良いぞ」

「構いません」

「おい、ちょっと待て。この流れって―――」

「僕も勿論……―――うん? 全員炎属性……?」



「「将太用済みじゃん」」

「擦り過ぎだろこのネタぁ!!」

 


 ………。

 ……………。



「あ。マリアさん、テツ君の事知ってたんだ?」

「以前、一度勧誘したことがありますの。私が直接ではないですけれど」

「Aランクの鍛冶装備を持つPLなど、そうそういるものではありませんからね。何とか取り込めれば、と思ったのですが」



 断られちゃったんだ。

 ソレ、或いは戦慄奏者が更にスゴイレベルアップを遂げるかもだったんだね。



「ちらと聞こえた出場とは―――やはり、鉱山都市でO&Tが主催する闘技大会ですかね?」

「恐らくは。優斗さん達も、進んでるんですのね……」

「ランキング一位を本気で目指してるからね、あの子ら」

「……それは」



 ヴィオラさんなら分かるよね、ソレがどれだけ大変な事なのか。 

 ギルド員は、多すぎても少なくてもよろしくはない。

 ギルドのフルメンバーとして、最もポイント稼ぎに効率的なのは50人で。


 戦慄奏者のような超の付く大規模ギルドでさえ、数ではどうしようもない。

 どころか、デメリットも大きく。

 人数が片手で収まる程度でしかないなら、それこそ夢のまた夢な思想。

 


「でも、如何にかするさ。あの子たちなら」

「……マリア様?」

「ルミエールさんが格別に目を掛けた子たちですの。まぁ……普通じゃ語れないですわ、多分。何をやらかすか分からないし、何をやらかしてもおかしくない」



 悪口?

 と……二階の階段からひょこと顔を出すナナミとユウト。



「へい、ノルっち。ジュースかもーーん」

「今日はロックで頼みます」

「あい、あい。要するにいつものな。ったく手がかかる……ルミエ、手休めるな」



 エンヤコラ、エンヤコラ……。

 店主君、口ではああ言いつつ皆への好感度高いよね。

 大体の事はやってあげてるし。


 こんな可愛そうな扱いの私と、何処で道が別たれたのかな。



「皆さん? 皆さんのギルドって、通年で人員募集中ですの?」

「へ?」

「えぇ、まぁ。人材紹介ですか? マリアさん」



 と……マリアさんが、階段の方へと声を掛ける。



「私とか、どうですの?」

「―――なッ!?」



 ので、今に前のめりになるヴィオラさんは私が押し留めておく。

 大丈夫、大丈夫だよ。



「あーー、っと……そう言う話なん?」

「ははは。想像通りだと思いますけど、今は不採用って事に。マリアさん、ちょっとカリスマ強すぎるんで。乗っ取られそうだ」

「ふふ。そうですの……。残念」


 

 互いに視線を交差させるユウトとマリアさん。

 まるで世間話のように気軽な会話の後、ジュースを持って二階へ戻っていくナナミたち。



「人が悪い―――ううん、悪い人だ、マリアさん」

「えぇー?」

「そんなつもり、欠片もなかったでしょ。あの子たちが断る事も分かってたし」

「……ふふ。確かに、ちょっと意地が悪かったですわね。―――私も、再出発ですの。暫くは一人で歩いてみますわ。だから安心してください、ね。ヴィオラさん」

「……うぅ。お人が悪い」



 ……マリアさん、何か吹っ切れた?

 なんか、絶妙に小悪魔悪女になってる。


 これこそ、悪役令嬢っていうのかな。



「―――あぁ、そうです。ノルドさん?」

「んお?」

「申し訳ありませんが、下宿アルバイターさんをちょっとお借りしますわ」

「すぐ戻るか?」

「えぇ、すぐに……。ルミエールさん。宜しいですよね?」

「そうだった。元々そういう話だったね」



 そういえば、私がお店に戻ってきたのは、端からマリアさんからの「話がある」という要件の為なんだ。

 二人きりで話せる場所を、という事だけど。

 二階は使用中だし。


 店主君とヴィオラさんがいるなら、店は全く問題なく動くと。

 外へ出た私と彼女はゆっくりと通りを歩く。


 

 ………。

 ……………。

 


「この都市は、いつだって賑やかですのね」

「ね。私、大好きだよ」

「私も。……始まりは、お互いにこの都市ですものね?」

「そうとも、公演仲間さ。あの噴水広場って、もしかしたらそういうご利益があるのかも」

「あそこで最初に公演を行ったPLはユニークになるってジンクス? ―――ふふっ」



 ………。

 ……………。



「……今回の一件、ですけれど。私、ずっと気になる事がありましたの」

「ほう、ほう」

「もしかしたら。この一件……とりわけ、私に関する事柄は。作為的なものがあるんじゃないかと―――いえ。今だから、確信を持って断言しますわ」



「この一件は。全て、一人の人物によって仕組まれていたのですわ」

「―――ほう?」



 それは、それは。

 真実ならば由々しき事態だ。


 一体、どこの誰がそんな大それたことを。



「ルミエールさん」

「ぎくっ」

「まだ何も言ってませんわ」



 ………。

 ……………。



「―――貴女、なんですよね? 逃亡中の私が診療所で働いていると、戦慄奏者に垂れ込んだのは」

「……………」

「確かに、戦慄奏者の情報網が凄いのは否定しませんけれど。当時は、あまりに速過ぎたのです。何より、最初から副団長だったヴィオラさんが来たのが、そもそもおかしかったんです」



「ブンヤとフレンドメールでのやり取りと限定したのも、そう。私や、外部の者に聞かれない手段を使った。ああやって私を匿いつつ……。貴女は、ヴィオラさんとの取引も、皇国の夜明けも、どころか私のギルドの解散も……全て、全て最初から見越していたんではありませんの? 全てを視ていたんではありませんの?」



「そう」



「貴女が、黒幕です。道化師ルミエールさん……!!」



 ………。

 ……………。



「―――ふふ。完璧だよ、マリアさん」



 今や手を握りこぶしに固めている彼女へ、私は悪役顔で告げる。


 そうとも、私が今回の黒幕というべき人間さ。

 敢えてその役を立てる必要があるなら……だけどね。

 

 そして、黒幕ならば。

 真実に辿り着いた者には、ご褒美を取らすべきだ。



「そんなに拳固めちゃって。もしかして憎い? 私の事」

「……癪なんですの。自分に腹が立ってるんですの。私、本当に一人じゃ何もできないんだって。私、出会ってからずぅーーっと貴女に頼りっぱなしで!」



 だから、自分に腹を立ててると?

 それこそ、違うだろう。



「役割分担さ。パーティもギルドも、そういう為のものだろう?」

「……む」

「それに、マリアさんは全てを暴いた。ご褒美、必要だろう?」

「む……、むぅ」



「じゃ……じゃあ―――私。私も、貴女の秘密を知りたいんですの。弱みを握ってみたいんですの!」



 名探偵破れたり。

 真に賢い犯人は、こうやって正義の味方を懐柔するのさ。


 でもマリアさん、中々に攻めるね。

 私自身自然に動いたから、バレるとは思ってなかったし……こと今回に至っては彼女は、それに見合う事をしたと私は思うし……いっか。



「うーーん。確かにね。一方的に弱みを握るっていうのは不公平だし」



 別に隠してもないし、ね。

 じゃあ……そうだね。



「じゃあ、これならどうかな。私、今は教職みたいな感じだけど。ほんの半年ちょっと前まで、世界中を旅してたんだ」

「……………」

「人は私をこう呼んだんだよ? 世界一の奇術師……ってね?」

「―――――」



 ………。

 ……………。



「―――……。ふふ……あははっ!」

「案外驚かないんだ」

「いえ、勿論驚いてますわ! そもそも、性別からして違ったんですもの。けれど、前々からそんな突飛もない事考えていましたもの……!」



 ルミエール、ルーキス。

 どちらも意味は光。


 金色の長髪に、蒼の瞳。

 どちらも人を欺く事と、人を笑顔にすることが行動原理。



「むしろ、何で気付かなかったんでしょうね!?」

「普通は、そういう人と偶然出会うとか、身近な人だったなんて思わないものだからね。模倣者、コスプレだってありふれてるし。因みに、知ってるのはユウトとエナとナナミだけだよ。ゲーム友達なら……」

「私が初めて!! です!」

「そうとも」

「わぁ!! ……ふふ。本当に世界を騙してますのね、貴女って。確かに、活動時期。そして独特の語り口。唯一、その独特の所作や口調、或いは表情なんかはまるで重ならなかったですけれど……そもそも、海賊貴公子として公演した時の貴女はそうでしたし……性別騙されましたし!!」



 むしろ、やっぱりそうだったのかみたいな顔で。

 彼女は、噛み締めるように、口にする。



「奇術師ルーキス―――……貴女が!」

「そっちも、もう廃業したけどね」



 ………。

 ……………。



「だから!! 貴女って色々と扱いが軽すぎですわぁぁぁぁぁ!!」

「んう?」

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