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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第七章:セーブ編

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第11幕:陽はまた昇る




「―――聖女……? ルミエール様が?」

「はい、ステラさま。私はそう確信しました。この御方こそ―――いえ。この方々こそが、我々が待ち望んだ予言。夜明けを(もたら)す者、シャヘルであると」



 ビックリ顔のステラちゃん、神妙顔の枢機卿さま。

 二人は……あと、壁際の大司教様たちも。


 どうやら、これもまた一つのイベントのようで。

 皆、縋るような顔つきで私達を伺っている。



 ………。

 ……………。



「先に一つ、尋ねても良いかな」



 でも、その前に。


 コレがそういうモノだというのなら―――ほら、あるだろう?

 背景ストーリーってヤツかな。

 色々と聞いておかないと、私達としても分からないことだらけなんだ。



「感染爆発、診療所爆発、病床逼迫(ひっぱく)。皇女様が居るから今は何とかなっているというのは分かったけど。結局の所、ソレは根本的な話ではないんだろう?」



 それはあくまで対策であって、原因じゃない。

 真にこの国に渦巻いている、本当にどうにかすべき問題というべきものの正体。


 私が知りたいのは、まさにそこで。

  


「一体、この皇都で何が起こってるのかな」



 ほら、ヨハネスさんも待ってる。

 今に羽ペンと手帳を取り出して、今か今かと待ってるんだよ。



「―――死刻神アリマン。地底神の中で、最強とされる大神」

「「!」」

「死を刻む者。混沌を司る冥府の神。その権能による未曾有の厄災。先の皇都を飲み込んだ一件は、その前兆でしかないのです」



 曰く。

 この国には、遥か古の時代からずっと大いなる神の一柱が封印されているらしく。

 

 私達の知る神話によれば、地底の神々は天上の神々によって消滅させられたのが大半という話だけど。

 真実はそうじゃない。

 その殆どは、今なお存在している。

 完全に滅する事は出来ず、封印という手段しかとることが出来なかった。



「そう。アリマンは……この皇都に封印されているのです」



「―――何でその上に国創っちゃったんですの?」

「物語とは、そういうものなのですよ、マリア殿」



 ね。

 多分、監視の為とか権威を誇示する為とか色々あるだろうけど。

 大体何処もこんな感じで破綻するのかな。



「彼は。ノワール枢機卿は、魔神の信奉者だった。或いは軍を掌握していた将軍や、内政の深くに入り込んだ者達。国家の中枢に入り込んだ多くの者が魔神の信奉者であることが発覚して、未だいくばくも経ってはいない。御子の力と奉る事も、……親として救いを与えることすら出来ない」



「今の我々は、手足をももがれた状態。天に縋る以外、果たして何が出来ましょう」



 この場の、偉い人達同士でも信用し合えない状況。

 それが現状なんだろう。

 

 もし。

 もしも、第二次のクロニクルでPL達が敗北していたら。

 触手の方の枢機卿さんを倒す事が出来ず、骸骨軍団が皇国を埋め尽くしていたら……と。


 何度かネットを賑わわせていたし、或いは暗黒騎士達が勝ったルートなんていうのも考察されていたけど。

 結局の所、勝ったのは人界側。

 その上で、未だ苦しい状況が続いていると。



「現状維持。それしか私達には許されぬのです」



 この場にいる彼等偉い人達は、皆が高位の神官……は、当然なんだけど。

 そういう意味じゃなくて―――オルトゥスの職業的な意味で、3rd以上の僧侶派生を伸ばしているらしくて。


 彼等が常に回復魔法を掛け続けることで、皇女様を延命し続けていると。


 延命措置だけで、永遠に。

 ただ国民たちに加護を与え続けるだけの装置として、皇女様はそこに居るんだ。


 

「―――失礼しますね」



 で、そこに居るのならば私の患者さんだ。

 病気というなら、治すだけだ。

 

 一通り話を聞き終わったと認識した私は、助手さんと一緒に御子様の横たわる座敷に乗り上げ、確認に入る。


 ………。

 ……………。


 病状自体は、以前急患で対応したご婦人と同一。

 その上で、進行が圧倒的過ぎる。



「ルミエールさん。これは、あの……」

「うん、そうだね」

「……無理、とは(おっしゃ)らないんですの?」

「今の私はお医者さんだからね」



 今の私のレベルは、前に蘇生魔法を行使してダウンした時から僅かに上がって19。

 当然、レベルが高い程次にレベルアップするまでにかかる経験値は上乗せされていくわけだから。


 使える経験値は、前回より低いわけで。



「―――ふむ」



 目視での確認、および触診した限りだと……途轍もない。

 この病気の発症を感染といって良いのかはわからないけど、およそ病気になってから途轍もない程の時間が経ってしまっている事が分かるよ。

 そもそも、皇女様が病気だって噂が流れたのって……。


 あ、一応聞いておくけど。



「皇女様がこうなられてから、どれ程経過していますか?」

「―――およそ半年程前には、既にこの状況に」


 

 成程ね。



 ………。

 ……………。



 私の蘇生魔術は、ある意味では時間に干渉するもの。

 それは限定的かつ短期的な操作。

 それこそ「突然の死」とか、短期で急激に変化したというのならまだやりようはあるだろうけど、長期的に進行したものを無理に押し留めているだけの状態というのなら。

 治して進行して、治して進行させてを繰り返していたというのなら。


 ―――治せない。

 その事実は、蘇生魔法である“祈りの極光(アウローラ)”をもってしても、この子を治す事は決してできないという事を示していた。



 当初の私の計画だと、この段階で破綻、頓挫だ。

 いや、そもそもここまで大事だとは思ってなかったから、まずは経過を観察したり色々診察してから、また改めて考えようとか思ってたんだけどさ。


 残念な事に、そうはいかなくなった。

 だって―――私、悲しんでいる人たちに面と向かって「無理」って、言いたくないし。


 今この場でやろう、そうしよう。



「さて。俄然燃えてきた」

「……!」

「今が試し時。ぶっつけ本番、ってね。さぁ、マリアさん。私達で眠り姫さんを起こしてあげよう」

「―――……ふふっ。本当に、貴女は。―――えぇ! 頑張りますわ、応援でも何でも!」



 実の所、普段の治療でもマリアさんにはスキルで手伝ってもらったりしているんだ。

 彼女の持つスキルは、本当に万能型でね。

 

 戦闘は勿論の事、日常のあれこれにおいても。

 本人が戦えないという性質を加味しても、おつりがくるくらい強力なモノだ。


 

「今回は、魔力の消費を出来る限り抑えて欲しいかな」

「―――了解、ですわ」



 私一人では無理なんだ。

 だって、今使おうとしてるスキル……本当に途轍もないからね。



「ふぅーー、……行きますわ。選択―――焔の調律」



 深呼吸の後、キリっと目を細めるマリアさん。

 どうやら、団長モードだ。



「歌え、歌え、猛き白日(はくじつ)。荘厳なりし、陽の眷星よ。熱き焔で鉄を討ち、輝く威光で不定を融かせ」



 マリアさんの歌が始まると同時、彼女を中心として顕現する純白の方陣。

 詠唱が続く程に色濃さを増す円環を発生源とし、太陽のようなきらめきが目を灼く。


 そして。

 彼女は私の背後に立ち、背中に手を当てる。



「闇討ち払いし金色の野に、眩き光はもういらず。新たな世界に優しき光を……。紫紺の雫が大地を芽吹かせ、黒と鉛が緑を育てる」



「我は後ろを歩む者。大いなる陽の眷星なれば」



式句詠唱(パスワード)―――」



 流れ込んでくる情報、視界の端に映り込んでいる【魔力消費減少(大)】の文字。

 魔力消費を全体の20%に? 全く、凄まじいよ。


 この全能感。

 彼女の全力全開たる能力を一身に受けるって、こんな感じなんだ。

 癖になっちゃいそうだね。



「―――……さて。困ったね」



 まだ、足りない?

 おかしくないかな、だって五分の一だよ?

 マリアさんが歌いながら私の背中に手を当てた事で、一時的に消費魔力を20パーセントにまで抑えられたのに。

 あまりに破格な能力の筈なのに。

 ……その上で、私のやりたい事にはまるで足りなくて。



「―――こうなれば、最悪手。無職に戻ってでも……んう?」



 早くしないと能力強化(バフ)が終わってしまうと、手を(こまね)いていた時。

 背中に感じていた手の温もりが、二倍に増える。


 マリアさん、手増えた?



「ルミエール様ッ! ()()が必要というのなら、私も……!!」

「「!」」



 ………。

 ……………。



「―――うん。お願い」

「はい!」

「では、私ももう一度ッ」



 自分でも焦っているのか、何時の間にか友達用の口調になっちゃったけど。

 何と、今度は二人だ。

 これ以上私を有頂天(ジャンキー)にしてどうするつもりなのかな。



「歌え、歌え、猛き白日。荘厳なりし陽の眷星よ」

「歌え、歌え、淡き黄金。天に遍く神星よ」



 再び始まる二重の詠唱。

 驚く事に、マリアさんとステラちゃんのソレは……発生した魔方陣は、白と金色という色違いではあるけど、全く同一のモノで。



「熱き焔で鉄を討ち、輝く威光で不定を融かせ」

「救いを求めし光を受け入れ、理解の果てに無明を拓け」

「邪悪祓いし白日の野に、眩き光はもういらず」

「闇受け入れし黄金の野で、手を取り合って生きましょう」



「「新たな世界に優しき光を……」」



「紫紺の雫が大地を芽吹かせ、黒と鉛が緑を育てる」

「満天の銀より水を受け、黄金の地平に紅を望む」



「我は後ろを歩む者。大いなる陽の眷星なれば」

「我は左を歩む者。大いなる星の神星なれば」




「「式句詠唱(パスワード)―――歌え、神々の御伽歌(マイソロギア)ッ!!」」




 コレだ。

 足りなかったピースが、カチリと嵌ったのを感じる。



「もう一度魔力消費を五分の一に抑えましたわ!! 魔力すっからかん!」

「二人合わせて十分の一! です!」

「よし来た」



 なら、次は私の番だ。


 私の一次職であるユニーク【聖女】

 この職業のスキルは魔力を消費して発動させるアクティブ型のスキルが主かつ、その殆どが発声型の発動条件だ。

 丁度、今のマリアさんと同じような感じかな。


 じゃあ、私も歌おうか。




式句詠唱(パスワード)其は左に星(アリ・ステラ)其は右に月(ディク・シア)其は背に太陽(リア・ソール)



 固有の言葉を呟く事で始まる詠唱。

 先のマリアさんやステラちゃんと同様、私を中心として周囲に現れる複雑な紋様の陣は、二人のモノよりかなり大きいみたいで。

 多分、それだけ消費も大きいからだろう。


 魔力値50ある私が、消費を十分の一まで減らしてようやく発動ってどういうコト?



「―――ブンヤ」

「……えぇ。やはり、マリア殿のユニークと、御子の能力は。ですが、ルミエール殿のソレは……」



 ユニークスキルが持つスキル。

 その詠唱の一端には時として神の名や、創世神話の描写が挙がっている。

 当然、神々の御伽歌も同様。

 

 けど、私の場合は固有の神に限定されていないのかな。

 成程、確かに私は日本人らしい無神論者……だけど、その上で、クリスマスでもお彼岸でもちゃんと参加するタイプだよ?



『―――光の起源は此処に在り。根源は此処に在り』



 勿論、世界共通のめでたい行事……誰かの快方記念パーティーと来れば、全力参加さ。

 皇女様の完治記念となれば、それは凄いご馳走も出る事だろう。


 今から楽しみさ、楽しみだろう。


 ―――ね?

 皆、君が起きるのを待ってるんだから。




 さぁ、目覚める時だよ。






『――――――――――夜明け(ルーキス・オルトゥス)

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