表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第七章:セーブ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/279

追憶(1):人とはちょっと違う事




 のどかな住宅街……一軒家の二階に存在する、整理の行き届いた部屋。

 大きめの本棚……ナンカ難しそうな本に混じるTRPGのルールブックとかは、部屋の主の趣味を感じさせて。

 意識高そうな中にも、遊び心がある感じ。

 雑誌なんかも、本棚に収まりきらない程あって。


 暇なときは、いつもそこをゴソゴソするのが私の楽しみ。

 散らかして怒られるまでがセット。


 でも、今回の目的はそっちじゃなく。

 部屋の中央……低い円テーブルの上に置かれた箱。

 

 サイズは、大きめのキャリーバックもかくや。

 それこそ幼稚園児くらいなら入れそうなサイズで。

 外装はしっかりとした造り。

 白色で艶があって、ノックすると硬い質感。



「ふーむ……。これが、そうなの?」

「あぁ。トワさんの会社が作った最新のVRMMOハード。ONだ」

「初号機……、出来たんですね……」



 うん、知ってたよ?

 ……前々から、そういうモノを開発しているという話は聞いてたけどさ?


 

「ねぇ、子供部屋オジサン」

「子供なんだが。何処で拾ってくるんだ? そんな言葉」



 拾ってないよ、勝手に付いてきたんだよ。

 じゃなくて。



「なんでなん? なんで優斗だけ!? ズルいんだけーど?」

「あのなぁ……」


 

 だって、そういう事でしょ?

 態々(わざわざ)私と恵那を呼び出して、見せびらかしたかったって事でしょ?


 あっきれたぁーー。

 恵那と同じくらい腹黒いじゃん。

 ……呆れかえる私に対して、見るからに高価だろう機器を見せつけるボンボンもまた、呆れたように首を振る。


 そうだね、ムカつくね。



「どういうものかも理解してないやつにこんな大荷物送り付けても、困惑するだけだろ。それに、この本体だけで、幾らすると思ってるんだ?」

「……それは」

「つまり? 何が言いたいん?」

「一週間以内には二人の家に届くらしい」



 じゃあ、今の説明何だったの? 



「と、いう訳で……」

「どういう訳なんですか?」



 おかしなことに。

 定期テストで常に学年トップを張るような優等生さまの中では、今の説明で私達が全てを理解した事になっているらしく。

 件の箱をコンコンと弾いた優斗は、ベッドの上に手を伸ばし。

 置かれていた厚紙の束をこちらへ向ける。



「まずは、コレを見て貰おうか」

「―――「よくわかる! 今日からあなたも根源の旅人~オルトゥス解説入門~」……うん?」

「コレも、送られてきたんですか?」

「本体と一緒にな。ついでに、二人に説明してやってくれ、と。そういう意味で呼んだんだ。同梱されてるソフトの解説を兼ねてな」

「最初に言ってくんない? それ」

「えーー、昔々……」

「ねぇ」



 さっきから度々話題に出てる人……トワさんっていうのは、私達の大好きな人の幼馴染だけど。

 彼女、とんでもなく頭良いらしくて。

 色々、電子機器の開発をしている会社で、電子遊戯課っていう所の主任をしてるんだって。


 で。

 その彼女が優斗に送って来たゲームソフトが、【オルトゥス】

 紙芝居に曰く。

 私達はプレイヤーとして、魔法も魔物も存在する世界の登場人物として生きていく。


 種族、職業も選びたい放題。

 途方も付かない程に広大な世界では、何をしても良い、どんな生き方も出来る……と。


 紙芝居が終わる頃。

 大体を理解するに至った私は、自信を持って口を開く。



「つまり……? どゆこと?」

「向こうでなら、何にでもなれるって事ですね。……良すぎる感覚を、普通のものにする事も。プール入り放題、匂い嗅ぎ放題」

「マジ!? 最高じゃん!」

「そう聞くとまるで意味わからんな」


 

 私の為に創られたような世界ですよ、それは。

 ホントに良いんですか!?



「……で、これはトワさんに聞いた話なんだが」

「わーい! ゲームゲーム!」

「存分に楽しみましょう」

「……トワさんに聞いた話―――」

「種族何があるって!?」

「人間は勿論、ドワーフ、エルフ……、半魔種っていうのもあるらしいです」

「なぁ。トワさん―――」

「エルフいいじゃん! 私エルフが良い! エルフで弓とか使いたい!」

 


「―――あの人。近いうちに帰って来るかもしれないらしいぞ」

「「……………!」」



 へ?

 今……、なんて?



「―――うそ……うそっ!! マジで!?」

「本当ですか!?」

「確かな情報だ。マネージャー経由だからな」

「そういう情報は先に言ってください!」

「大事な事だよ! そういうとこだよ!」


「……わる、かったな」



 逆ギレかな。

 何でか額に青筋を浮かべている優斗から目を離して。

 私は、導かれるように本棚へ視線をやる。


 もはや、棚に入りきらなくて。

 うずたかく積まれた雑誌の一面を飾っているのは、金色の長髪を一本に束ね、顔を仮面で覆い隠した男性。

 今や、世界一のマジシャンと呼ばれる奇術師。

 私達の、不審者お姉さん。



「ルミねぇ……、早く会いたいなぁ」



 ……………。



 ……………。




   ◇




 プールサイドの、奥の奥。

 陽が当たらないように屋根の付いた位置で体育座りをしながら、私はぼんやりとその光景を眺めていた。


 パシャパシャと、水を掛け合う水着の女の子たち。

 顔の下半分を沈めてブクブクと泡を作る子達。

 跳ねた水が、陽の光を反射してキラキラと光り……。


 みんな、本当に。

 凄く楽しそうに遊んでいるな……と。

 どうして、あんなに平気な顔で遊べるのかな、と。

 先生の指示も話半分に……まだ自由時間でもないのに、潜ったり水をかけ合ったり……なんて言うか、友達同士って感じがする子達を、ぼんやりと眺める私。


 日は当たらないけど、やっぱり夏なんだよね。

 ここ、凄く蒸し暑くて。

 体操服だと、汗ばんで更に頭がぼーっとしてくる。


 ……泳げない訳じゃない。


 身体が弱いわけでもない。



「七海ちゃん? 暑くないかしら。匂いは、大丈夫? 流石に、これくらい離れてれば大丈夫だとは思うのだけれど」

「……大丈夫」



 ただ……。

 私は、他の人よりちょっとだけ……少しだけ、鼻が良すぎるみたいで。


 先生は「大丈夫だと思う」なんて言ったけど、私もそう返したけど……本当は大丈夫じゃない。

 ここからでも、ちょっと嫌だ。


 えんそって、薬品の匂いらしい。

 デパートの、香水とかがいっぱい並んでるコーナーの……嫌なにおいとかと同じ。

 ずっと顔をしかめて。

 温度差と、孤独……楽しそうに笑うクラスメイトとの差を感じなくなることはなくて。



「あっつーー、プール入りたーい」

「お婆さん、さっき入ったばっかでしょ」



 教室に帰っても同じ。

 夏ごろにもなれば、一年生の教室には少なからず仲良しなグループが出来上がるけど。


 何でもない時、私に話しかけてくれる子は少なくて。

 登校して、授業に集中して、休み時間は教科書を何度も読み返して、給食を食べて。


 そんな事をしているうちに、一日が終わる。

 私も、下校する。


 ただ、この下校が毎日の鬼門で。



「「―――――」」

 

 

 一斉に授業が終わる、帰りの会が終わる。

 話の早い先生、長話の先生……どっちにせよ、どれだけ急いでも、通学路は沢山の生徒でごった返して。


 でも、どうしてか。

 一人で歩く一年生の姿は、凄く目立つ。


 私の前を歩く、ランドセルを背負った子達。

 集団で歩いている影響か、その動きは凄くゆっくりで。

 私がどれだけ遅く歩こうとしても、すぐに追いついちゃう。



「ほら、優斗大先生。次の問題はよう」

「はよ、はよ」

「あくしろ」

「お前らなぁ……。分からないから速攻で正解聞いてるんだろ? 何で続きを出題してもらえる権利があると思う? というかストック尽きるわ」



 誰とも目が合わないように、コソコソと横をすり抜けて歩く。

 追い抜いたら振り返らず。

 後ろから聞こえる笑い声を聞かないようにして早歩き。


 ……耳は普通で良かった。

 聞きたくないものまで聞こえてきたら、凄く嫌だもんね。


 

「これで―――……ぁ」



 関門を一つ乗り越えた私に、またしても。

 更なる試練が降りかかる。


 前に見えた集団は……、同じクラスの子たちだ。

 普段顔を合わせている分、さっきのとは比較にならないくらい気まずさを感じるね。


 向こうは、四人とかで固まってるのに。

 その横を一人で通り過ぎていくような度胸、私にはないよ。

 


「……どうしよ」



 顔を伏せて横を通り過ぎる?

 お母さんたちからも「全然足音がしない」って言われる私なら、イケる?


 ムリムリ。

 忍び歩きなんてしてたら、それこそ背後からヒソヒソされて。

 もう立ち直れない。


 ……。

 不意に視界に映ったのは、大通りから外れた横道。



 ……全ての道はローマなんとやらっていうしね。

 同じ方向へ伸びてるんだから、きっと家のある道へも繋がってる筈で……。

 私自身、小学校までの道全てを把握してるわけはないし。

 知ってれば、役に立つかも……。



「えーい、女は度胸……! 男は知らん……っ!」



 学校で、人通りの悪い道は使っちゃダメって言われてるような気もするけど、今日は特別。

 そう、特別な日なんだよ。

 自分に言い聞かせるようにして、私は車一台分くらいの細い道路へと入っていく。


 

「どーちーらーにしようかな。こっち! こっちに進めば……―――空き地?」



 我ながら、一人の時はよく喋る事。


 で、少し進んで早速迷いそうになっている訳ですけども。

 そこにあったのは、空き地だった。

 遊具の類も、砂場とかもなくて……ちょっとしたベンチくらいがぽつりとあるような、公園とはとても言えない住宅街の小スペース。



「―――――」



 ……誰かいる。

 こちらに背を向けるようにしてベンチに腰掛けている誰かは、手に食パンを持って……高く掲げていて。

 ご飯の途中かな。


 こんな時間に、しかもこんな場所で。

 たったひとりで飯を食べているなんて、ちょっと親近感……ぇ!?


 

「ぽい、ぽーーい」



 ……捨ててる。

 パン、捨ててる。

 そりゃあもう、丸のまま……フリスビーみたいに回転かけて。


 ……どうしよう。

 流石の私でも、食べ物を粗末にするような人を―――あれ、なんか。


 金髪。

 ……しかも金髪じゃん!

 金髪で、ポイ捨てって―――それってツマリ……怖い人って、こと?

 


「……んう? おぉ、良い所に来たね、君」

「………!」



 ―――しまった、見つかった。


 何で気付いたのかな。

 声も出していないし、足音もなかったのに……不意にグリンとこちらへ振り返ったその人……女性は、真っ直ぐに私を見ている。


 ……只の不良さんじゃないと、すぐに理解した。


 だって。

 目の色、蒼だし。

 髪の色だって……染めてるような感じじゃなくて、すっごく自然な金色なんだ。


 だから、ここから導き出されるのは。

 デラックスな不良さん……もしくは、外国人。

 外国人が、住宅街の片隅の空き地で、食パンをフリスビーみたくポイ捨てしてるんだ。


 ……何で?



「君、そこの小学校の生徒さんだね?」

「……ぁ」

「良いね。そこ、私の友達が通ってるんだ―――おぉ、もう少し……もう少し」



 本当に外国人なのかな。

 日本語ペラペラなのか、それとも私の英語力が極まってしまったのか。

 理解できる言葉で声を投げつつ、私を伺いつつ、女の人はチラチラと自身の足元を覗く。


 何を見てる?



「ほら、こっちこっち」

「……………」

「さ、早く。はやく」



 誘拐とか、不審者とか。

 そういう怖い人達が居るっていうのは知ってた。


 けど、どうしてなのかな。

 その時の私は、そういう考えが突然頭から抜けたようにベンチへと近付いてしまって。



「いま、丁度上手くいきそうなところだったんだ。……ごらん? 生命のきらめきを。新たなる獅子が産声をあげる、その瞬間を」



 ―――それは、数羽の鳥。

 見た事もないような白い鳥だった。

 ハトに似てる? けど、真っ白だ。


 数羽の白いハトたちは、嘴を動かして地面に落ちたパンをつついていた。

 一点ばかりを集中狙い。

 各々が真ん中に穴の空いた食パンを、一羽一枚ついばみ続ける。


 でも、やがて。

 彼等はパンをついばむのをやめる。

 意味が分からないというように、ぐるりと回る。

 ……突然、食パンが目の前から消えたからだろう。


 では、ソレは何処へ消えたか。

 顔を上げた鳩の首には……、ネックレスのようにソレが掛かっていた。


 ……確かに。

 外国人さんの言う通り、首元に嵌ったパンの耳は、ライオンの鬣のように見えなくもない。

 ふわふわで、ホーホー鳴いてて、凄く間抜け……っぽくて……。


 ―――ふふ。



「ふふ……ふふふっ」

「ははは」



 私は、思わず笑ってしまって。

 更に面白いのが……奇妙なのが? 私に合わせるようにして笑う外国人お姉さんの表情が、まるで変わらない事。

 本当に笑ってる?

 やっぱり、小学生を狙う怖い人?



「キミ、名前は?」



 そんな事を考えていたからだろう。

 それを問われた私は、「いけない」という言葉がすぐに頭に浮かんで。



「……ぁ……っと」

「良いね。ちゃんと理解している。怪しい人には、名前を教えちゃいけませんってね。でも、キミは怪しくなさそうだし。私からは名乗っても良いのかな?」



「私は、月見里(やまなし)留光(るみ)。人呼んで―――不審者お姉さん」

「……………」


 もう……何だろう、なんだろ。

 もう、ずっと押されっぱなしだけど……。


 一つだけ分かった事として。

 外国人さん、やっぱり不審者だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ