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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第六章:ステップ編

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第19幕:野望を砕くは一刃の闇風




「我はノクス最高幹部、王位が一人……。死刻王ノワール! この地に眠る地底の大神を呼び覚ます者である!!」



 次々に変わりゆく展開。

 第三勢力が第三勢力を呼び、新たな勢力を呼ぶ。


 その中で。

 最後に現れた者へ、全ての視線が誘われる。


 それは、聖職者。

 白を基調とした、しかし、何ものにも染まらない清貧なイメージとは相反する、煌びやかな装飾の祭服を纏った男は、高らかに己の名を宣言し。


 ショウタ君達が、顔を見合わせる。



「……なぁ。イメージ的には、(やっこ)さんがラスボスって事で良いんだろうけど……。良いんだよな? オッサンだぞ」

「オッサンだな……」

「オジサンがラスボスは、正直ないよね? イケメンなら分かるけどさ」



 何か、酷い言われようだけど。

 ノクス……それって確か、レイド君達が追っている裏社会の権力者、【盗賊王】さんがいる闇組織の名前。

 

 ……アレかな。

 組織の最高幹部とかには、「王」の名前でも与えられるのかな。

 共通点として、盗賊王とか、死刻王とかだし。

 


「アールのイケメン野郎がノクスの伝令とか言ってたし、同じ攻撃が出来るのもまぁ分かるな。ぽっと出の組織だと思ったんだが、何処まで深く根を張ってるやら」

「案外、クロニクルそのものに深くかかわってるんだねー。海岸都市の時も、神がどうとか書いてあった気がするし」



 言われてみれば。


 一国の権力者まで構成員なんて。

 もしかして、私達が思っている以上にノクスって大きな陰謀を持った組織?



「―――神様の復活なんて企んでるんだから当然では? 罰当たりです」

「恵那的には無しか」



 神様は祈る対象であって、縋る対象ではない。

 見返りを求めるものでは、決してないと。


 それが彼女のスタンスだからね。


 で、現在、この空間に存在する勢力は四つ。

 私達傍観勢、円卓の騎士、魔族側勢力、皇国の枢機卿。


 一応、円卓さん達と枢機卿さんは仲間なのかな。

 魔族勢力は、先の一撃でほぼ壊滅状態と言っても良いし……血の気の多いユウトたちが未だ突撃しないのも、それを警戒しての事だろう。


 あの、ビーム攻撃。

 真正面から飛び込んだら、それこそ格好の的で……ぁ。



「―――“獄・炎刃滅却”」

「「!」」



 膠着状態の中、突然動き出す者がいた。

 魔族側の生き残りである騎士将軍が、目にも止まらないような速度で剣を振り抜く。

 

 黒い炎、紅い稲妻。

 凄まじいまでものチカチカエフェクトを纏った刃が、枢機卿の祭服に肉薄し。



「―――魔族ッ、根源の眷属。やはり我が前に立ち塞がるか」

「……!」



 しかし、刃は止まる。

 突如、枢機卿さんの背後から幾重もの黒い腕が伸びる。

 黒炎を纏った一撃は、幾本もの触手を断ち斬るも、しかし幾重にも重ねられたそれ等に、弾かれてしまう。


 黒騎士が飛び退る、その瞬間。



虚像(フェイク)―――”極光の一条星(ブライト・スフィア)”」



 枢機卿が手を伸ばす、合わせるように方陣が現れ、放たれる閃光。

 騎士は、身を翻して避け―――。



「―――っ!」

「キモッ!?」



 予想外の事が起きた。

 枢機卿さんの背から、千手観音のように生えた黒腕……さきほど騎士の斬撃を受けた触手が、四方八方へと真っ直ぐに伸び。


 先端が、クローバーのような四つ股に割れる。

 内部が空洞な筒状であることが伺えるそれは、今やポンプのように躍動し。



「王よ。アレ、こっちにも伸びてるのですが」

「……………」

「―――おーう、何かやな予感が……」



 熱を、光を持つ。

 大規模破壊の権化たる先程の攻撃には劣る、指先程の太さの……しかしPLをキルするには充分過ぎるレーザーが、網目のように花開き。


 無差別に繰り出される光の奔流。


 全てを貫き、暴れ始める光線。

 これ。私達、サイコロステーキになっちゃう……。


 

「―――“光輝城塞”―――最大出力!!」



 これ、何処かで同じような……そう。

 海岸都市で、海洋伯さんに護って貰った時と似たような状況だ。


 不意に私達の前へ飛び出したリドルさん。

 彼が何処からともなく取り出した盾を、前へ掲げると。


 黄金色に輝く膜が出現し、大きく翼を広げる。

 黄金の壁は、同じ光である光線をはじき返し……無力化して。


 凄い、輝きの城塞だ。



「皆さん、私の背後から出ないでくださいッ。これ以上の攻撃と来ると、流石に受けきれません……!」

「流石は聖騎士の上位派生……凄いな」

「助かったぁ。……4thって凄いんだ」



 戦闘系スキルへの理解が浅い私は、只凄いとしか分からないけど。

 ユウトたちも、ただただ感心するばかり。


 余程凄い防御技らしく。


 本当に助かったね。

 極論、ユウトやワタル君みたいな前衛職、ナナミやエナみたいな敏捷も高い後衛は避ければ良いけど。

 私やショウタ君は極端に近接戦に弱いし、職業適正による反応速度の強化などもない。


 早い話。

 あのビームを回避する手段がないわけで……いや。

 


「なんつーーマップ兵器―――!?」

「ヤバいって、コレぇ!」



 白兵戦に長けた前衛職ですら、回避は難しいらしく。

 

 蜘蛛の巣のように張り巡らされたレーザーは、今や無差別に対象を取る。

 この空間の全員が射程。

 それは勿論、仲間の筈な円卓さん達も同じで。



「ぶべらっ!?」

「何でこっち!?」



 個々の能力は、限りなく高いのだろう。

 しかし。

 個人個人が最高戦力である彼等は、互いを補い合うという事が少ないらしく。


 連携がやや少ない。

 少しずつ、一人、また一人と光に飲み込まれて消える。

 余りの眩さに、目が慣れていない影響もあるのだろう。


 ―――阿鼻叫喚の中。

 眩しさからか、ずっと目を細め続けていた騎士が、今まで見た事も無いような大きな弓を構える。

 対象は、私達ではなく。



「―――いけませんね、ノワール殿。我々にも、堪忍袋は……」

「待て」

「……っ」



 大弓に番えられた矢が、引き絞る腕が静止する。

 それは、白銀の騎士が手で制したからで。



「―――我が王。しかし」

「クエストの契約により、我々はノワール殿に敵対する事は出来ない。もし攻撃を加えれば、クエスト破棄とみなされるぞ」

「……ッ」

「でも、やられたらやり返さねえと。俺ら腹の虫が収まらねぇですが?」

「確かに。先に約束を違えたのは、あちら。もはや我々が手を貸す道理はない。ならば一時退却し、キルされた者たちと合流する……。ソレからでも良いだろう。どのみち、彼が健在ならば我々の達成条件は問題ない」



「もし、アレ等がノワール殿を倒す事があるとすれば……」



 一瞬、騎士はこちらへと視線を……表情の伺えない兜の覗き口を向け。

 しかし、すぐに踵を返す。


 以前の私みたく、教皇庁内の何処かにリスポーン地点が設定してあるのかな。

 


「……行っちゃったね、一位集団」

後顧(こうこ)(うれ)いが一つ消えたな」

「良かったのかい? 皆が狙うは、彼等の首なんだろう?」

「……そこまで自惚(うぬぼ)れてなーい」 

「ボスと同時に相手とか、瞬殺だろ。……俺らが。それより、こっちも全力でやらせてもらう。ルミねえも、俺らも。各々……やる事がある、だろ?」



「「……………」」



 皆の視線が、ステラちゃんへ。


 そして私へと移り変わり。



「―――決断は……、お早目に……!!」



 あまりに真に迫った、悲鳴とも取れる雄叫びを耳に、リドルさんへ収束する。

 早くしないと、彼ももたない。



「なるほど。ここは、戦闘にはまるで役に立たず、けれどクエストのキーになりそうな人が先へ進めばいいんだね?」

「「理解が早い」」



 最初から、私の目的はステラちゃんを皇女様の元へ送り届ける事だったんだと。

 今更ながら、思い出す。


 それ以外は考えなくて良いと。

 チャラオ君ら盗賊さん達、散っていたタカモリ君……レイド君とハクロちゃん。

 そして、ユウト達。

 皆が、私を先へと進めようとしてくれているんだ。


 さても、さても……。

 じゃあ、足手纏いは遠慮なく行くとしよう。



「では、ステラ様。ここは、彼等が受け持ってくださるみたいなので。私達は、先に進みましょう」

「……はい!」

「道中は、我々が露払いを」

「出来れば、の話ですがねぇ。神使達を相手に出来る自信はないので。はは」



 大丈夫さ。

 トルコさんやエルボさんも、すごく強いんだし。


 で、最後に。

 何か言い残す事があるとすれば―――うん。

 

 

「―――ユウト」

「うん?」

「協力……だよ?」



「……………はいはい」



 私の放った一言に、彼は嘆息したように了承し、前へと向き直る。

 リドルさんのスキルが解除され。

 今や、レーザーの雨霰に晒された皆は―――



「―――そろそろ慣れてきた、だろ?」

「うん、避けれるよぉ!」

「おれ! 俺は!?」

「あの攻撃、規則性があるから。それさえ覚えれば何とかなりそうかな。第二形態があれば終わるけど」

「心配なら、適当な柱の陰にでも隠れててください」



 いつも通り、平常通りで。

 敵の行動を分析する猶予があった彼等は、跳ねまわり、飛び回り。

 見事にレーザー攻撃を避け始め。


 その雄姿を見届けつつ。

 私も、いまやNPCさん達だけとなった仲間と共に、前を目指して走り始める。

 


「さぁ、フィナーレへ向けて、最後のあがきだ」




   ◇




――――――――――――――――――

【Name】   混沌の魔人 (Lv.70)

【種族】  ***


【固有能力】

・眷属*成(混沌)

・魔力極限充填


【基**力】          

体力:100 筋力:30

魔力:**   防御:50

魔防:50   俊敏:60

――――――――――――――――――




 人型エネミーでありながら、ボスに相応しい能力値。

 そもそも、俺たちの上限より10高いレベルって、明らかに設定ミスだろ。


 ……鑑定のレベルが足りてないのか、情報も所々文字化けしてるな。

 分かり易い所が化けてくれてるからまだいいが……しかし。

 名前とかならまだ分かるが、相変わらず能力値の文字化けっていうのは怖いぞ。 

 

 何があるか分からんし。



「まさか、魔力無限とかじゃないよな? 七海、そっちはどう視えて……」

「―――極限充てん……1sに100の魔力を回復……優斗、イチエスって何?」



 ……冗談だろ?

 一秒間に100の魔力回復!?


 鑑定のレベルが俺より高い仲間から齎された情報は、あまりに重要かつ理不尽。



「つまり……、つまりだ。枢機卿は、あの攻撃を延々繰り出せるって事で良いか?」

「優斗。本気で言ってる?」

「……矢が、通りませんね。全部蒸発します」

「殺意というか、威力高すぎだろアレ。掠っても死にそうなんだが? この分なら、俺のも無駄弾になりそうなんだが? 前衛さん達、如何にかして」



 遠距離攻撃は、全て黒の触手に阻まれるか。


 しかし、ことボス戦においては、前衛が作った隙に叩き込まれる遠距離攻撃こそが、ダメージソース。

 コレを通さずして、ボスエネミーを討伐するのは難しいだろう。



「あの触手……。術士系3rd、【闇術士】の黒影羂索に似てる技だな。上位派生か?」

「4thくらいありそうだよね」

「因みに。文字化けしてるから予測になるが、【眷属生成】って能力も持ってるらしい。使ってないからまだいいが、何か出されたら厄介かもな」

「……ズルじゃん」

「ボスが仲間を呼ぶのはズルですね」



 出たな、こっちは複数で掛かるし回復もするけど、ボスがそれをやったら非難する心理。


 ……取り敢えず、こっちも視てみるか。

 発動するは【鑑定家】の基本スキル、【看破】

 視界に映る対象から一つを選び、自身のスキルレベルに応じた情報を可視化させる、よくある能力だが。

 それで、奴の能力を……。


 一つ、二つ、三つ、四つ……ん?

 鑑定可能対象が余りに多い。



 ……………。



 ……………。



――――――――――――――――――

【Name】  アリマンの祝福 (Lv.70)

【種族】  ―――――


【基礎能力】          

体力:40 筋力:30

魔力:0   防御:30

魔防:50 俊敏:20

――――――――――――――――――




 眷属……眷属か!

 最初から喚ばてたわけだ!


 今現在表示されている、鑑定可能対象の多さは、そういう事で。

 あの触手が、全部鑑定できるとなれば。

 つまり、これは……。

 


「―――うっっわ!? ナニコレキモイーー!」

「……な」

「七海? 優斗? 何が見えてるんですか?」

「あぁ、残念なお知らせだ。あの触手。恐らく、部位ごとが独立したエネミーとして存在してる。アレ自体が眷属なんだ。一本一本、それぞれに耐久値があるし、魔力で召喚できるだろうから、当然無限に呼べるだろうな」

「「ま!?」」



 つまり。

 枢機卿は、無尽蔵に眷属を召喚し、無尽蔵にレーザーとビームを駆使してくる。

 勿論、こちらの魔力は有限で。


 これは、骨が折れそうなことだ。

 前衛は俺と航……ギリギリ七海な中で、これは……。


 ……この場に残ったもう一人。

 ちらと視線を向ければ。

 どうやら、あちらもこっちに注意を向けていたらしく。


 ……協力、な。

 ルミねぇの助言をもとに、俺はその存在へ声を掛ける。



「なぁ。お仲間たちは、今頃魔族領域に直送されているだろうが。……手、組まないか? 暗黒騎士」

「……優斗?」

「―――協力……出来るのか?」



 お仲間の反応は、まぁ当然だが。



「……………」



 あちらさんも。

 意外が過ぎるという表情……いや、表情は見えないが。

 およそ、そういう反応で。



「―――私を、信用するのか?」

「……いや。だって、PLだしな。NPCでもないなら、自由意思くらいあるだろ? 利用できるなら、何だって利用する。利害の一致だ。それに、アンタだって。関係ないPL倒すより、重要そうなNPCのボス格のが良い手柄だろ?」

「……………」

「アンタも、俺たちを利用してくれていい。それだけだ。報酬は、ドロップ者のもので……な」



 来訪目的として、ただ観光に来たという訳ではないだろう。

 それこそ、皇国を墜としに来た……とかの方が納得できる。


 なら。

 俺たちと敵対するより、皇国の権力者を墜とす方が、向こうにとってもずっと有意義だ。

 まさに、利害の協力。



「……はははっ。お前たちの実力は?」

「ある程度は保証するさ。コレで、皆3rdのレベル上限だ。そちら、鑑定は? 無ければ情報共有するが―――そこのバナナが」

「あ?」

「持っている。……この状況で、随分余裕だな」



 もう少し意思疎通が面倒かもと思ったが。


 案外絡みやすいな、将軍。

 ノリが良いというか、話を合わせるのが上手いというか。

 ある意味、損な役回りでもあるが。


 

「ゲームなんだ。楽しまなきゃ損だろ。互いに、やれるところまでやってみよう。取り敢えず―――どうせ、アレ当たったら一撃死だ。体力は気にしなくて良いな。ショウタ、いつもの」

「ほいほい。“紅蓮咲き”」



 魔法を攻撃として使えないなら、補助に使えば良い。

 いつもやっている事だ。


 仲間の火属性魔法が、俺の背後で炸裂し。

 俺の体力がガリガリと削れる。

 後ろからの爆風で吹き飛ぶままの身体を持ち直しつつ、愛剣であるBランク武器【骨董斬鬼】を振り下ろす。



「ぬぅ……! 面妖な……」

「現地人の間で流行ってんのか、ソレ」



 文字通り爆速の剣技は、ギリギリのところで触手に防がれてしまうも。


 今のは、手応えあったな。


 続き、二撃……三撃。

 レーザーに当たらない程度で慎重に攻撃を仕掛け、分析を進める。


   

「俊敏が60ある割には……反応速度的には、そこまでだな。歳の所為か?」

「―――抜かせ。キサマ等は、神への生贄よ……」



 繰り出されるレーザーはあまりに速いが、本体と触手自体の敏捷は低いと。

 触手の方は、俊敏20。

 能力値から見ても遅いのは明らか。

 あれ一本一本に武器を持たせたりとか、そういう直接攻撃に使わず、防御に充てているのはその為だろう。


 敏捷が60ある本体もが、やや遅いのは気がかりだが。

 ……或いは。

 眷属の操作やレーザービームにリソースを裂いている分、本体の動きは緩慢にならざるを得ないのか?

 確かに、あのレーザーがあるだけで、十分反則攻撃だしな。


 ……なら。

 そこに付け入るスキがあるか? 


 

 ……………。



 ……………。



「よし、方針が固まった」

「作戦か。当然、あって然るべきだ。私にも聞かせて―――」



 おっと。

 高尚な騎士様は、何か勘違いをされているようだ。

 


「いつも通り。俺たち前が隙を作るから、後は流れだ! 全員、気合入れろ!」



「……えぇ?」

「まあ、うちのやり方はそういう事なんで……。頼むぞ、暗黒騎士さん! 俺たちも足を引っ張らないように頑張るからよ!」

「「宜しくゥ!」」



「……ねぇ、そこは「足を引っ張るな」じゃないの?」



 おい。

 素の口調が出てんぞ、暗黒騎士。

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