第16幕:紫紺の斧槍
「あーーん? しこんだぁ、おのやりだぁ? ……ちっと難しい言葉ばっかり使わないでくんねェかな、ボク。ませてんのかぁ? ガキはガキらしく、ブーブー遊びだろぉ?」
煽る、煽る。
現れた男の子へと、煽り散らす。
相手が子共であってもまるで容赦しない、大人げないお兄さんがいる。
「―――うん。ここまで来ると、いっそ仲間だと思われたくないね」
「激しく同意」
「えぇ。知らぬ御仁ですな」
「おい、アンタの団長」
これには、タカモリ君ですらやり過ぎに感じてるみたいで。
意図は分かるけど、絵面的に皆が距離を置く中。
不意に、悠々と武器を構える男の子へ近付く影が一つ。
何と、ニャニャさんだ。
知り合いなのかな。
「トールくん?」
「ゴメンね、ニャニャおねーさん。誰も通しちゃダメって言われてるんだ。特に……何だったかな。金髪の、みこさんだったかな。とにかく、金髪ダメだって」
「そんなー」
「「……………」」
「おい、おい。ボーイ。どかねェと虐めちゃうぞ」
「ふふふ……。良いよ? ボク、こうせんてきな人大好きなんだーー」
どうしてそんなにやりたいのかね、彼等は。
平和主義の私には分からないけど。
もう、戦闘は必至。
どちらが先に仕掛けるかの話でしかなく、それ以外ないという雰囲気。
「来ないのなら―――ボクから行くよっ!!」
そして、先に仕掛けてくるのは……あれ?
斧を横へ構えたように見えたのも束の間。
先程まで少年が居た場所には、もはや何もなく、誰もおらず。
「させませぬぅ!」
私が目を瞬くと同時に、その声が響く。
鎧下と言うべき装束の影が、凄まじいまでもの反応速度で。
私達の前へ躍り出たタカモリ君。
彼は、目にも止まらないような恐るべき一撃を、確かに捉えているらしく。
革の巻かれていない聖柄の刀で迎え撃つ。
「―――ぐ……ッ、ぐぁ!?」
「へへーーん。力なら負けないよ!」
けど、割り込んで防御してくれたのも束の間。
交じり合った刀と斧が火花を散らし、一瞬にして彼は後方へ吹き飛ぶ。
一瞬見えた私の眼が確かなら。
彼は、攻撃を確実に往なすような角度で受けた筈だけど。
あわや壁に激突、といった所で壁に足から着地。
衝撃を緩和し、その場に倒れ込む。
「―――サムライ。生きてっか?」
「……マズいですぞ。あの童、筋力馬鹿です。擦り上げようとした筈が、体力がほぼミリ迄……。これは、まともに打ち合いなど考えない方が良いかと」
白兵戦における打ち合い、競り合いの場合は、互いの【筋力】を参照して優劣が付けられる。
能力が高そうな彼で、この状況なら。
それ程までに、圧倒的な膂力差なのだろう。
およそ、比べるべくもない程に。
あの小さな身体の、何処にあんな力が……。
「ん?」
「ううん、何でもないよ」
そういえば、お仲間にも居たね、凄く似たタイプの子。
最近のゲームって、小さい子がすごく強いのが流行りなのかな。
「どう? レイド君。挑発が効いたかは分からないけど、力量は測れた? 勝算、ありそうかな」
「―――はッ……。こりゃ、こりゃぁ……。紫紺の斧槍……まぁ、皇国所属の12聖だろうが……。このタイミングで出てくるかね、普通」
「先に行かせる気ないですね、これ」
「全員で掛かって……、それでも勝てるかは微妙だな」
12聖天は、未だ一度として討伐された事の無い個にして最強格のNPC個体。
それは、私ですら知ってる事で。
「「……………」」
ただならぬ気配を感じているのか。
武器に手を掛け、護衛対象を後ろ手に庇い続けるリドルさん達。
果たして。
ステラちゃん達を護りながら、越えられる……?
「私がやる」
「……手伝うぜ、嬢ちゃん」
「いらない」
「まぁ、まぁ。堅いこと言うなよ」
皆が、厳しいという顔をしていた。
その筈だった。
でも、この二人は……余裕とも異なる、深い笑みを形作って前へ出て行く。
ハクロちゃんが剣を肩から降ろし、レイド君が短剣を抜き、相対する。
どちらも、私の知る最上位のPLで。
……二人がその気だと言うなら。
「―――ルミねぇ」
「うん、良いとも。じゃあ、私達は―――ステラさま、ニャニャさん。足速い方?」
「へ?」
「運動は苦手ですねーー」
私達は私達にとっての目的を達成するために動こうと、意思を固めた。
つもりなんだけど。
「って訳で、俺たちが遊んでやるよ、ボウヤ」
「え!? ダメだよ! 誰も通すなって言われてるんだから、全員ここで僕と戦おうよ!」
でも、小説や漫画でなし。
相手がそれをさせてくれる道理もないと来れば……簡単に行かせてくれるわけもない、よね。
先へ繋がる通路の前を占領する少年。
動けない私達。
このまま睨み合いをしていても、何一つ解決しないのは当然で……。
「―――タカモリ。万歳」
「……承知」
数秒と経たず。
ぼそりと呟くレイド君、頷くタカモリ君。
「皆さん、土産話は期待してますぞ。皇女さまやルミ殿なしで再入場は出来るか怪しいので。では、某はこれにて」
「―――“私信、雷轟”」
「わぁ……!」
先の男の子の攻撃に勝るとも劣らない、雷の様な踏み込み。
後の事など考えていないと言わんばかりに。
まるで、捨て身のように攻撃を繰り出すタカモリ君。
命を燃やすかのような、鬼気迫る剣技。
それで尚、男の子はあまりに速く。
「わはーー!」
「ッ……“極言霊―――天掴み”」
攻撃は、絶えず彼を削っていく。
掠っても止まらない。
穿たれても、止まらない。
遂に、タカモリ君の一撃がその小さな頬をわずかに掠め。
「わわっ! やるじゃん、おじさん! ―――じゃあね、“銀歩”」
「なッ!? おじ―――」
しかし……遂に、彼は。
不意に男の子の手に出現した銀色の大斧に斬り裂かれ、硝子のように砕け散る。
本来なら、決して簡単ではない「此処は任せて」作戦。
それを、彼はやり抜く。
高レベルの白兵戦を得意とする一流の彼が、完全な捨て身だからこそ可能となった境地。
瞬時に見極めた歴戦の仲間たちは、既に行動を終えていて。
「―――タカモリさん、アンタ侠だ!!」
「盗賊団唯一の良心!」
「マジ感謝ぁ!」
「良い人です」
涙ながらに走り出す私たち。
只、仲間を先へ通す為だけの自爆特攻。
合理的過ぎて、もう何が何だか分からないよ。
レイド君達盗賊団の持つ厄介さっていうのは、まさにこういう所から来ているんだろう。
「ねえねえ。これって、アレだよね? 敵地に乗り込んで、少しずつ味方が離脱していくっていう。私、こういうのやってみたかった―――」
「「はよこっち!」」
「です」
あぁーー、引き摺られていくーー。
こんなエスコート、私だけいいのかと思ったけど。
他非戦闘組の二人も、護衛組に手を引かれて付いて来てくれている。
どうやら、問題はなさそうで……。
「もーー! 通さないって―――わぁ!?」
「へへ……。言っとくが報酬山分けなーー! ちょろまかすなよーー」
「よーー」
後方から、やや遠くなった事で小さく鳴りつつある声が聞こえて。
案外、気が合いそうかな。
分け合えるような報酬なら、喜んで差し上げるつもりだけど。
「どう思う? あの二人」
「問題ないし、こっちには関係ないさ。多分、斧槍とやらはあそこから動かない」
仲良くなれそうか、という問いだったけど。
ユウトのこれ……あの二人への信頼なのかな、無関心なのかな。
「あの子は、あの空間に固定されちゃっているって事かな。通っちゃえばこっちのもの?」
「恐らくな。……向こうより、現状の最強戦力が離脱したのが痛い、って感じだ。むしろ、地獄見るのは俺らかもな」
―――うん。信頼、かな。
私達は、これからクロニクルの中心で……それこそ、大きな物語の当事者になる。
ご馳走を実際に目の当たりにして。
その上で、失敗すれば、全部取り上げって……。
確かに、地獄かもね。
でも、それも一興さ。
どんな結果でも、私は受け入れるし。
それに、あちらだって……あの二人なら、或いは―――ね。
◇
「“斧正なりし天削”」
「「!」」
襲い来る、双腕に握られし鉄と銀の大斧。
刃と質量の暴風の中心たる少年は、まさしく台風の目。
今回のクロニクルにあたり、世界が定めたルール。
不壊指定されている筈の構造物が、床が、壁が、石柱が……次々と派手に砕ける異常。
それを目の当たりにして尚、盗賊は固まらない。
短剣を放り、槍を高跳びのように跳躍に用い。
「おい、おい……何だってこんな損な役回りぃ! やっぱやるって言わなきゃ良かった!」
「……うるさい」
忙しなく、動き続ける。
低空を瓦礫の雪崩が襲えば、大剣を足場に上へ。
そのまま、中空で手元に呼び出した弓から矢を射かけ。
敵が、再び迫れば。
短剣を放る。
鎖を瓦礫へ絡み付かせ、岩の重みを生かし回避……。
単一の武装にまるで固執する事無く、使い捨て同然……全てを使い捨て、台風を凌ぐ。
「オジサン、びっくり箱だ!」
「戦略兵器みたいなびっくりボーイスカウトにゃ言われたくねえな! 火と、風……絶対【嵐属性】だろ、ボクぅ!」
「フフフっ、正解! “炎斧嵐々”」
可笑しそうに笑う少年が銀の斧を振り上げると同時。
最早、山と見紛う火柱が立ち。
「―――おい、おい」
小細工を踏み潰す嵐が、盗賊へ襲い掛かる。
「斬る、斬る……“夢殉”」
その、刹那。
前へ飛び出た少女が―――魔法を。
焔の大山を、唐竹と割る。
「―――は……ッ!? 戦士系、刀剣派生の3rd……? 聖騎士、堅牢騎士、刀士、魔剣士……精霊騎士? 魔法を斬る……? 何だ、そのふざけたスキル。ズルいぞッ」
「ん、ズルい。本当の武芸百般なんて出来るわけないって、馬鹿ししょうが言ってた。それ、なに?」
レイドは、あり得ざるスキルに驚愕を隠せず。
ハクロもまた、武器を使い捨て同然に、しかしあらゆる武器に熟達したその動きに目を細める。
「知らねえのか? 器用度が高いと、複数の武器扱えるんだ」
「お?」
「俺のは例外も例外だが、な」
「お?」
互いに、互いを認めていると言えるのか……と言えば、そうではない。
仲間ではなく。
彼等の関係は、まさに共闘者だった。
「あは……あははは! 強いね、オジサンたち! すっごく強いよ! 騎士さん達もそうだけど、異訪者って凄いんだ!」
「……あ? 異訪者の騎士?」
「楽しいな、楽しいね―――“斧鉞なりし回帰”」
不意の、地響き……否。
世界のルールにさえ干渉した、斧による裂傷が、揺らぎ、飛び回る。
「さっきの―――戻って来るってか!! 不壊なんだろ!?」
少年が両の斧を掲げた、瞬間。
瓦礫が、破片が。
散乱したそれらが、元あった形へ回帰すべく、己の意思を持つかのように吹き荒び始める。
元あった場所へ、もとの形へ、戻ろうとしている。
当然、間に誰かが居れば……。
「―――不壊……! ふざけすぎだろ! 防御のしようがねェ!?」
未だ、レイドらに課された【地形破壊不可】は有効で。
彼等からすれば、決して壊れも砕けも弾けもしない、絶対の飛び道具を集中砲火されているようなもの。
あまりに理不尽、不条理。
「強かったよ、オジサンは」
増して。
術者が、只ソレを見ている訳もなく。
面で襲い来る瓦礫を避けんと、何とか身体を捻ったレイドに対し、絶対に避けられない角度で。
既に、斧を振りかぶっている少年。
「クソがッ、死―――」
「……あぇ!?」
盗賊が、圧倒的な剛に呑まれかけた……、刹那。
紫のオーラと、白のオーラが衝突する。
スキルの類ではない。
これは―――何らかの繋がりのような物による、共鳴。
「イヤ―――、でも……。ルミの友達、だから……」
「!」
銀斧の一撃を捌き、続く鉄斧の強襲も往なし。
己の反応速度に付いてくる、尋常ならざる少女へ。
少年は、目を細める。
「……君は」
「ハクロ。ルミたちの友達、アルバウスの弟子だ」
盗賊も既知である前者はともかく、後者は、およそ現実では聞かぬような名。
普通なら、首を傾げて終わるだろうが。
「「―――白刃の剣聖アルバウス!」」
少年だけでなく、仲間である筈のレイドさえもが驚愕に叫ぶ。
知らぬも無理はないだろう。
彼が少女と知り合ったのは、つい先日だ。
「おい、おいッ! それこそ聞いてねえぞ!? どういう集まりなんだよ無職周りぃ!」
「……へぇ。あのお爺さんの」
「お爺さんの」
「―――ってェ……、なんだぁ!? もしかしてコレ、12聖天繋がりの戦いだったりするのか?」
「「……………」」
「おーーい、おいッ!? 何か言って、俺の部外者感がヤバいから!」
「……うるさい」
今に場違い感を覚え始めた盗賊だったが。
忘れてはいないと言わんばかりに吹き荒ぶ瓦礫の嵐。
防御不可という、理不尽極まるフィールド。
「揃いも揃って……。ルールの改変、魔法自体の破壊……。世界の法則にまで干渉できんのか? 十二聖天ってのは―――よッッ」
嘆息など、ごく一瞬。
暴風雨の中。
避けられぬならと。
それさえも利用し、高速で襲い来る瓦礫を足場として跳躍。
「弱ェし、強欲なんだよ、オレは。使えるもんは、全て使う。出せるモンは、すべて出す。奪えるモンは、すべて奪う」
「あ……!」
「―――あと、無視は頂けねェ」
ほんの一センチ、二センチ……殆ど床を擦るよう、身体を地と平行に滑らせ。
間合いに踏み入れた瞬間、大音響の踏み込み。
まるで、床から生えたかのように。
圧倒的低空という死角から少年の懐へ潜りこんだ盗賊は、幾本目かの短剣を突き出す。
それを胸部への致命攻撃と呼んだ少年は、急ぎ両の斧を引き戻すも。
「ヤベェ反応だな、マジで」
盗賊の狙いは、力点である斧の持ち手を抑えることにこそあった。
遠心力により質量を何倍、何十倍とする刀身とは異なり。
より持ち手に近い部位は、質量も大きく下がる故。
圧倒的筋力差があろうと、「拮抗」まで落とし込める。
「あれ……? 斧が……」
ほんの一瞬、遅れる動き。
その一瞬だけで事足りた。
「―――“夢殉”」
「ッ!! ……ぇ?」
レイドの機転によって、完全に静止したソレは、あまりに無防備。
その上で、少女の放った攻撃が身体を狙ったものではないというのも、NPCの思考を一瞬遅らせる。
もし、身体を狙ったのであれば、返り討ちだったろう。
しかし、現実は。
横から放たれた致命攻撃、爆発的な質量に耐え切れず。
静止状態で攻撃を受けた両の斧が―――同時に砕け散る。
「へへ……狙い、同じだったなぁ、嬢ちゃん」
「……ん」
「イヤそう!!」
武器には耐久値があり、定期的なメンテナンスが必要であるが。
魔法により形作られた武装は、更に損耗が早いとされる。
「馬鹿師匠が、言ってた。武器を作る為には凄く魔力を使うから。そういう敵は、武器を狙えって」
「良いねェ、気ぃ合いそう」
いつしか、少年は茫然と立ち尽くし。
反対に、レイドとハクロは先までの歪な連携が嘘のように共鳴する。
いま、まさに。
彼等は、たった二人で、レイドボスと言うべき強敵を追い詰め……否。
僅かでも、拮抗する事が出来た。
「―――さて……。こんなんで終わりな筈ねェよな。出せよ、新しい斧。鉄の斧、銀の斧って来たんだから……まだあるだろ? 金ピカ」
「単純だぞ」
「の方が分かり良いだろ? あと、願望。もしくは、金の槍か? どっちでも結構だが、せめてあと一本で終わってくれよ、マジで。そろそろ、武器の持ち合わせががが」
全てが複雑なルールや設定、や伏線で固められたゲームは、疲れる。
だからこその自由。
だからこそのオルトゥス。
今この瞬間さえも、好きに戦うのみ、と。
両者は、油断なく構える……が。
「―――う……、ぅ」
「「え」」
対する12聖は。
無手の両手を降ろし、肩を震わせる。
そのあまりに無防備な様子に、ハクロが……不意打ち奇襲はお手の物であるレイドさえもが、一瞬手を止め。
「うわあぁぁぁぁーーーん!!」
次には、完全に硬直。
「……あーーぁ。なーかせた、なーかせた……、―――俺たちが」
「あ……、ぁぅ……」
「って、マジで動揺すんのかよ。嬢ちゃん、やっぱピュアなんだな」
どうすべきかと。
普段の無気力無表情が嘘のように、本気でオロオロし始めるハクロに対し。
レイドは、目を細めて敵を観察していた。
だからこそ、気付いた。
「―――っと、失礼ッ!」
「あ!?」
それが起きたのと、盗賊が少女の襟首を掴み、思い切り引っ張ったのは、まさに同時。
先まで二人が立っていた位置を、暴風が駆け抜ける。
転がっていく身体。
もし、その場に居残っていようものなら。
消滅は免れなかったろう。
「……ありがと」
「良いって事よ。この状況は、マーージでヤバそうだからな」
それを認識し、小さく呟くハクロに、打算込みだと手を振ったレイド。
彼等は瞬時に立て直すも、追撃はなく。
「トール……? 泣いてる? 虐められたの?」
「うぅ……ぅ」
「よし、よし。大丈夫だよーー、もう一人じゃないからね」
しゃっくりを上げて泣きじゃくる少年……トールへ歩み寄った存在は。
その髪を撫でながら、慰めるように言紡ぐ。
深い蒼……紺色の髪色の、少女。
……少年?
トールの、ボーイスカウトを思わせる風体とも異なる……青みがかった、セーラー服とも水兵服ともとれる風体は、格好こそやや女性よりだが。
よくよく伺えば、何処か男性的な特徴も伺え。
その背には、金色の刃を持つ長槍が背負われている。
「ん……やり?」
「……だな。―――もしかして、俺ら……、ヤバい勘違いしてねえか?」
レイドは、気付く。
そもそも、違和感があったのだと。
見た目通り、年齢通りの子供であったとしても、アレが一国の最高戦力である【12聖天】であるという仮説は間違いないが。
だが、あまりに不自然。
真なる十二聖とは、決して数える程のPLで互角に渡り合えるものではなく。
「……おい、おい……紫紺……斧槍……ちッ。そういう事かよッ!」
「……………ん?」
十二聖天は、特定の色と武器の名を冠する怪物たち。
象徴とする色。
象徴とする武器。
紅蓮の戦鎚、蒼穹の魔砲、白刃の剣聖……。
どれも、色は一色、武器も一種。
「さ。立って立って」
「……う、うん」
蒼髪の少年の激励を受けたトールは、涙をぬぐうように、目元で腕を往復させ。
やがて、立ち上がる。
二人の少年が、並び立つ。
「お待たせ、異訪者さん。ここからが、本番だよ。―――ボクは、陽光の御子が守護星、ポール」
「お、同じく、トール」
「「12聖天、紫紺の斧槍……尋常に参る!!」」
倍……などというものではない。
二倍、四倍?
久しく感じなかった絶死の警鐘に、盗賊は獰猛な笑みを形作り、毒づく。
「―――――はは、クソが。二人で一人の12聖。ジェミニ……。双子座って所か?」




