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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第六章:ステップ編

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第16幕:紫紺の斧槍




「あーーん? ()()()だぁ、()()()()だぁ? ……ちっと難しい言葉ばっかり使わないでくんねェかな、ボク。ませてんのかぁ? ガキはガキらしく、ブーブー遊びだろぉ?」



 煽る、煽る。

 現れた男の子へと、煽り散らす。

 相手が子共であってもまるで容赦しない、大人げないお兄さんがいる。


 

「―――うん。ここまで来ると、いっそ仲間だと思われたくないね」

「激しく同意」

「えぇ。知らぬ御仁(ひと)ですな」

「おい、アンタの団長」



 これには、タカモリ君ですらやり過ぎに感じてるみたいで。


 意図は分かるけど、絵面的に皆が距離を置く中。

 不意に、悠々と武器を構える男の子へ近付く影が一つ。

 

 何と、ニャニャさんだ。

 知り合いなのかな。



「トールくん?」

「ゴメンね、ニャニャおねーさん。誰も通しちゃダメって言われてるんだ。特に……何だったかな。金髪の、みこさんだったかな。とにかく、金髪ダメだって」

「そんなー」

「「……………」」

「おい、おい。ボーイ。どかねェと虐めちゃうぞ」

「ふふふ……。良いよ? ボク、こうせんてきな人大好きなんだーー」



 どうしてそんなにやりたいのかね、彼等は。

 平和主義の私には分からないけど。


 もう、戦闘は必至。

 どちらが先に仕掛けるかの話でしかなく、それ以外ないという雰囲気。



「来ないのなら―――ボクから行くよっ!!」



 そして、先に仕掛けてくるのは……あれ?

 斧を横へ構えたように見えたのも束の間。

 先程まで少年が居た場所には、もはや何もなく、誰もおらず。


 

「させませぬぅ!」

 


 私が目を瞬くと同時に、その声が響く。

 鎧下と言うべき装束の影が、凄まじいまでもの反応速度で。


 私達の前へ躍り出たタカモリ君。

 彼は、目にも止まらないような恐るべき一撃を、確かに捉えているらしく。


 革の巻かれていない聖柄の刀で迎え撃つ。



「―――ぐ……ッ、ぐぁ!?」

「へへーーん。力なら負けないよ!」



 けど、割り込んで防御してくれたのも束の間。

 交じり合った刀と斧が火花を散らし、一瞬にして彼は後方へ吹き飛ぶ。


 一瞬見えた私の眼が確かなら。

 彼は、攻撃を確実に往なすような角度で受けた筈だけど。


 あわや壁に激突、といった所で壁に足から着地。

 衝撃を緩和し、その場に倒れ込む。



「―――サムライ。生きてっか?」

「……マズいですぞ。あの(わらわ)、筋力馬鹿です。擦り上げようとした筈が、体力がほぼミリ迄……。これは、まともに打ち合いなど考えない方が良いかと」



 白兵戦における打ち合い、競り合いの場合は、互いの【筋力】を参照して優劣が付けられる。

 能力が高そうな彼で、この状況なら。

 それ程までに、圧倒的な膂力差なのだろう。


 およそ、比べるべくもない程に。 

 あの小さな身体の、何処にあんな力が……。



「ん?」

「ううん、何でもないよ」



 そういえば、お仲間にも居たね、凄く似たタイプの子。

 最近のゲームって、小さい子がすごく強いのが流行りなのかな。



「どう? レイド君。挑発が効いたかは分からないけど、力量は測れた? 勝算、ありそうかな」

「―――はッ……。こりゃ、こりゃぁ……。紫紺の斧槍……まぁ、皇国所属の12聖だろうが……。このタイミングで出てくるかね、普通」

「先に行かせる気ないですね、これ」

「全員で掛かって……、それでも勝てるかは微妙だな」



 12聖天は、未だ一度として討伐された事の無い個にして最強格のNPC個体。

 それは、私ですら知ってる事で。

 


「「……………」」



 ただならぬ気配を感じているのか。

 武器に手を掛け、護衛対象を後ろ手に庇い続けるリドルさん達。


 果たして。

 ステラちゃん達を護りながら、越えられる……?



「私がやる」

「……手伝うぜ、嬢ちゃん」

「いらない」

「まぁ、まぁ。堅いこと言うなよ」



 皆が、厳しいという顔をしていた。

 その筈だった。

 でも、この二人は……余裕とも異なる、深い笑みを形作って前へ出て行く。


 ハクロちゃんが剣を肩から降ろし、レイド君が短剣を抜き、相対する。

 どちらも、私の知る最上位のPLで。


 ……二人がその気だと言うなら。



「―――ルミねぇ」

「うん、良いとも。じゃあ、私達は―――ステラさま、ニャニャさん。足速い方?」

「へ?」

「運動は苦手ですねーー」



 私達は私達にとっての目的を達成するために動こうと、意思を固めた。



 つもりなんだけど。



「って訳で、俺たちが遊んでやるよ、ボウヤ」

「え!? ダメだよ! 誰も通すなって言われてるんだから、全員ここで僕と戦おうよ!」


 

 でも、小説や漫画でなし。

 相手がそれをさせてくれる道理もないと来れば……簡単に行かせてくれるわけもない、よね。


 先へ繋がる通路の前を占領する少年。

 動けない私達。

 このまま睨み合いをしていても、何一つ解決しないのは当然で……。



「―――タカモリ。万歳」

「……承知」



 数秒と経たず。

 ぼそりと呟くレイド君、頷くタカモリ君。



「皆さん、土産話は期待してますぞ。皇女さまやルミ殿なしで再入場は出来るか怪しいので。では、某はこれにて」



「―――“私信、雷轟”」

「わぁ……!」



 先の男の子の攻撃に勝るとも劣らない、雷の様な踏み込み。


 後の事など考えていないと言わんばかりに。

 まるで、捨て身のように攻撃を繰り出すタカモリ君。


 命を燃やすかのような、鬼気迫る剣技。

 それで尚、男の子はあまりに速く。

 


「わはーー!」

「ッ……“極言霊―――天掴み”」



 攻撃は、絶えず彼を削っていく。

 掠っても止まらない。

 穿たれても、止まらない。


 遂に、タカモリ君の一撃がその小さな頬をわずかに掠め。



「わわっ! やるじゃん、おじさん! ―――じゃあね、“銀歩(ぎんふ)”」

「なッ!? おじ―――」



 しかし……遂に、彼は。

 不意に男の子の手に出現した銀色の大斧に斬り裂かれ、硝子のように砕け散る。


 本来なら、決して簡単ではない「此処は任せて」作戦。

 それを、彼はやり抜く。

 高レベルの白兵戦を得意とする一流の彼が、完全な捨て身だからこそ可能となった境地。

 瞬時に見極めた歴戦の仲間たちは、既に行動を終えていて。



「―――タカモリさん、アンタ(おとこ)だ!!」

「盗賊団唯一の良心!」

「マジ感謝ぁ!」

「良い人です」



 涙ながらに走り出す私たち。


 只、仲間を先へ通す為だけの自爆特攻。

 合理的過ぎて、もう何が何だか分からないよ。

 レイド君達盗賊団の持つ厄介さっていうのは、まさにこういう所から来ているんだろう。



「ねえねえ。これって、アレだよね? 敵地に乗り込んで、少しずつ味方が離脱していくっていう。私、こういうのやってみたかった―――」

「「はよこっち!」」

「です」



 あぁーー、引き摺られていくーー。

 こんなエスコート、私だけいいのかと思ったけど。

 他非戦闘組の二人も、護衛組に手を引かれて付いて来てくれている。


 どうやら、問題はなさそうで……。 



「もーー! 通さないって―――わぁ!?」

「へへ……。言っとくが報酬山分けなーー! ちょろまかすなよーー」

「よーー」



 後方から、やや遠くなった事で小さく鳴りつつある声が聞こえて。


 案外、気が合いそうかな。

 分け合えるような報酬なら、喜んで差し上げるつもりだけど。



「どう思う? あの二人」

「問題ないし、こっちには関係ないさ。多分、斧槍とやらはあそこから動かない」



 仲良くなれそうか、という問いだったけど。

 ユウトのこれ……あの二人への信頼なのかな、無関心なのかな。



「あの子は、あの空間に固定されちゃっているって事かな。通っちゃえばこっちのもの?」

「恐らくな。……向こうより、現状の最強戦力が離脱したのが痛い、って感じだ。むしろ、地獄見るのは俺らかもな」



 ―――うん。信頼、かな。


 私達は、これからクロニクルの中心で……それこそ、大きな物語の当事者になる。

 ご馳走を実際に目の当たりにして。

 その上で、失敗すれば、全部取り上げって……。


 確かに、地獄かもね。

 でも、それも一興さ。


 どんな結果でも、私は受け入れるし。

 それに、あちらだって……あの二人なら、或いは―――ね。 




    ◇




「“斧正(ふせい)なりし天削(てんさく)”」

「「!」」

 


 襲い来る、双腕に握られし鉄と銀の大斧。

 刃と質量の暴風の中心たる少年は、まさしく台風の目。


 今回のクロニクルにあたり、()()()()()()ルール。

 不壊指定されている筈の構造物が、床が、壁が、石柱が……次々と派手に砕ける異常。


 それを目の当たりにして尚、盗賊は固まらない。

 短剣を放り、槍を高跳びのように跳躍に用い。



「おい、おい……何だってこんな損な役回りぃ! やっぱやるって言わなきゃ良かった!」

「……うるさい」



 忙しなく、動き続ける。

 低空を瓦礫の雪崩が襲えば、大剣を足場に上へ。

 そのまま、中空で手元に呼び出した弓から矢を射かけ。


 敵が、再び迫れば。

 短剣を放る。

 鎖を瓦礫へ絡み付かせ、岩の重みを生かし回避……。

 単一の武装にまるで固執する事無く、使い捨て同然……全てを使い捨て、台風を凌ぐ。



「オジサン、びっくり箱だ!」

「戦略兵器みたいなびっくりボーイスカウトにゃ言われたくねえな! 火と、風……絶対【嵐属性】だろ、ボクぅ!」



「フフフっ、正解! “炎斧(えんぶ)嵐々(らんらん)”」



 可笑しそうに笑う少年が銀の斧を振り上げると同時。

 最早、山と見紛う火柱が立ち。



「―――おい、おい」



 小細工を踏み潰す嵐が、盗賊へ襲い掛かる。



「斬る、斬る……“夢殉(むじゅん)”」



 その、刹那。

 前へ飛び出た少女が―――魔法を。


 焔の大山を、唐竹と割る。



「―――は……ッ!? 戦士系、刀剣派生の3rd……? 聖騎士、堅牢騎士、刀士、魔剣士……精霊騎士? 魔法を斬る……? 何だ、そのふざけたスキル。ズルいぞッ」

「ん、ズルい。本当の武芸百般なんて出来るわけないって、馬鹿ししょうが言ってた。それ、なに?」



 レイドは、あり得ざるスキルに驚愕を隠せず。

 ハクロもまた、武器を使い捨て同然に、しかしあらゆる武器に熟達したその動きに目を細める。



「知らねえのか? 器用度が高いと、複数の武器扱えるんだ」

「お?」

「俺のは例外も例外だが、な」

「お?」



 互いに、互いを認めていると言えるのか……と言えば、そうではない。

 仲間ではなく。

 彼等の関係は、まさに共闘者だった。



「あは……あははは! 強いね、オジサンたち! すっごく強いよ! 騎士さん達もそうだけど、異訪者って凄いんだ!」

「……あ? 異訪者の騎士?」

「楽しいな、楽しいね―――“斧鉞(ふえつ)なりし回帰”」



 不意の、地響き……否。

 世界のルールにさえ干渉した、斧による裂傷が、揺らぎ、飛び回る。

 


「さっきの―――戻って来るってか!! 不壊なんだろ!?」



 少年が両の斧を掲げた、瞬間。

 瓦礫が、破片が。

 散乱したそれらが、元あった形へ回帰すべく、己の意思を持つかのように吹き(すさ)び始める。


 元あった場所へ、もとの形へ、戻ろうとしている。

 当然、間に誰かが居れば……。



「―――不壊……! ふざけすぎだろ! 防御のしようがねェ!?」


 

 未だ、レイドらに課された【地形破壊不可】は有効で。

 彼等からすれば、決して壊れも砕けも弾けもしない、絶対の飛び道具を集中砲火されているようなもの。

 あまりに理不尽、不条理。



「強かったよ、オジサンは」



 増して。

 術者が、只ソレを見ている訳もなく。

 面で襲い来る瓦礫を避けんと、何とか身体を捻ったレイドに対し、絶対に避けられない角度で。


 既に、斧を振りかぶっている少年。



「クソがッ、死―――」

「……あぇ!?」



 盗賊が、圧倒的な剛に呑まれかけた……、刹那。



 紫のオーラと、白のオーラが衝突する。

 スキルの類ではない。

 これは―――何らかの繋がりのような物による、共鳴。


 

「イヤ―――、でも……。ルミの友達、だから……」

「!」



 銀斧の一撃を捌き、続く鉄斧の強襲も往なし。

 己の反応速度に付いてくる、尋常ならざる少女へ。

 少年は、目を細める。



「……君は」

「ハクロ。ルミたちの友達、アルバウスの弟子だ」



 盗賊も既知である前者はともかく、後者は、およそ現実では聞かぬような名。

 普通なら、首を傾げて終わるだろうが。



「「―――白刃の剣聖アルバウス!」」



 少年だけでなく、仲間である筈のレイドさえもが驚愕に叫ぶ。

 知らぬも無理はないだろう。

 彼が少女と知り合ったのは、つい先日だ。



「おい、おいッ! それこそ聞いてねえぞ!? どういう集まりなんだよ無職周りぃ!」

「……へぇ。あのお爺さんの」

「お爺さんの」

「―――ってェ……、なんだぁ!? もしかしてコレ、12聖天繋がりの戦いだったりするのか?」

「「……………」」

「おーーい、おいッ!? 何か言って、俺の部外者感がヤバいから!」

「……うるさい」



 今に場違い感を覚え始めた盗賊だったが。


 忘れてはいないと言わんばかりに吹き荒ぶ瓦礫の嵐。

 防御不可という、理不尽極まるフィールド。


 

「揃いも揃って……。ルールの改変、魔法自体の破壊……。世界の法則にまで干渉できんのか? 十二聖天ってのは―――よッッ」



 嘆息など、ごく一瞬。


 暴風雨の中。

 避けられぬならと。

 それさえも利用し、高速で襲い来る瓦礫を足場として跳躍。


 

「弱ェし、強欲なんだよ、オレは。使えるもんは、全て使う。出せるモンは、すべて出す。奪えるモンは、すべて奪う」

「あ……!」

「―――あと、無視は頂けねェ」



 ほんの一センチ、二センチ……殆ど床を擦るよう、身体を地と平行に滑らせ。

 間合いに踏み入れた瞬間、大音響の踏み込み。


 まるで、床から生えたかのように。

 圧倒的低空という死角から少年の懐へ潜りこんだ盗賊は、幾本目かの短剣を突き出す。

 それを胸部への致命攻撃と呼んだ少年は、急ぎ両の斧を引き戻すも。



「ヤベェ反応だな、マジで」



 盗賊の狙いは、力点である斧の持ち手を抑えることにこそあった。


 遠心力により質量を何倍、何十倍とする刀身とは異なり。

 より持ち手に近い部位は、質量も大きく下がる故。

 圧倒的筋力差があろうと、「拮抗(きっこう)」まで落とし込める。



「あれ……? 斧が……」



 ほんの一瞬、遅れる動き。


 その一瞬だけで事足りた。



「―――“夢殉”」

「ッ!! ……ぇ?」



 レイドの機転によって、完全に静止したソレは、あまりに無防備。

 その上で、少女の放った攻撃が身体を狙ったものではないというのも、NPCの思考を一瞬遅らせる。


 もし、身体を狙ったのであれば、返り討ちだったろう。


 しかし、現実は。

 横から放たれた致命攻撃、爆発的な質量に耐え切れず。

 静止状態で攻撃を受けた両の斧が―――同時に砕け散る。



「へへ……狙い、同じだったなぁ、嬢ちゃん」

「……ん」

「イヤそう!!」



 武器には耐久値があり、定期的なメンテナンスが必要であるが。

 魔法により形作られた武装は、更に損耗が早いとされる。



「馬鹿師匠が、言ってた。武器を作る為には凄く魔力を使うから。そういう敵は、武器を狙えって」

「良いねェ、気ぃ合いそう」



 いつしか、少年は茫然と立ち尽くし。

 反対に、レイドとハクロは先までの歪な連携が嘘のように共鳴する。

   

 いま、まさに。

 彼等は、たった二人で、レイドボスと言うべき強敵を追い詰め……否。

 僅かでも、拮抗する事が出来た。



「―――さて……。こんなんで終わりな筈ねェよな。出せよ、新しい斧。鉄の斧、銀の斧って来たんだから……まだあるだろ? 金ピカ」

「単純だぞ」

「の方が分かり良いだろ? あと、願望。もしくは、金の槍か? どっちでも結構だが、せめてあと一本で終わってくれよ、マジで。そろそろ、武器の持ち合わせががが」



 全てが複雑なルールや設定、や伏線で固められたゲームは、疲れる。


 だからこその自由。

 だからこそのオルトゥス。

 今この瞬間さえも、好きに戦うのみ、と。


 両者は、油断なく構える……が。



「―――う……、ぅ」

「「え」」



 対する12聖は。


 無手の両手を降ろし、肩を震わせる。

 そのあまりに無防備な様子に、ハクロが……不意打ち奇襲はお手の物であるレイドさえもが、一瞬手を止め。



「うわあぁぁぁぁーーーん!!」



 次には、完全に硬直。

 


「……あーーぁ。なーかせた、なーかせた……、―――俺たちが」

「あ……、ぁぅ……」

「って、マジで動揺すんのかよ。嬢ちゃん、やっぱピュアなんだな」



 どうすべきかと。

 普段の無気力無表情が嘘のように、本気でオロオロし始めるハクロに対し。

 レイドは、目を細めて敵を観察していた。


 だからこそ、気付いた。



「―――っと、失礼ッ!」

「あ!?」


 

 それが起きたのと、盗賊が少女の襟首(えりくび)を掴み、思い切り引っ張ったのは、まさに同時。

 先まで二人が立っていた位置を、暴風が駆け抜ける。

 転がっていく身体。


 もし、その場に居残っていようものなら。

 消滅は免れなかったろう。



「……ありがと」

「良いって事よ。この状況は、マーージでヤバそうだからな」



 それを認識し、小さく呟くハクロに、打算込みだと手を振ったレイド。

 彼等は瞬時に立て直すも、追撃はなく。



「トール……? 泣いてる? 虐められたの?」

「うぅ……ぅ」

「よし、よし。大丈夫だよーー、もう一人じゃないからね」



 しゃっくりを上げて泣きじゃくる少年……トールへ歩み寄った存在は。

 その髪を撫でながら、慰めるように言紡ぐ。


 深い蒼……紺色の髪色の、少女。

 ……少年?

 トールの、ボーイスカウトを思わせる風体とも異なる……青みがかった、セーラー服とも水兵服ともとれる風体は、格好こそやや女性よりだが。

 

 よくよく伺えば、何処か男性的な特徴も伺え。

 その背には、金色の刃を持つ長槍が背負われている。



「ん……やり?」

「……だな。―――もしかして、俺ら……、ヤバい勘違いしてねえか?」



 レイドは、気付く。

 そもそも、違和感があったのだと。


 見た目通り、年齢通りの子供であったとしても、アレが一国の最高戦力である【12聖天】であるという仮説は間違いないが。

 だが、あまりに不自然。

 真なる十二聖とは、決して数える程のPLで互角に渡り合えるものではなく。


 

「……おい、おい……紫紺……斧槍……ちッ。そういう事かよッ!」

「……………ん?」



 十二聖天は、特定の色と武器の名を冠する怪物たち。

 象徴とする色。

 象徴とする武器。


 紅蓮の戦鎚、蒼穹の魔砲、白刃の剣聖……。

 どれも、色は一色、武器も一種。



「さ。立って立って」

「……う、うん」



 蒼髪の少年の激励を受けたトールは、涙をぬぐうように、目元で腕を往復させ。

 やがて、立ち上がる。

 二人の少年が、並び立つ。

 


「お待たせ、異訪者さん。ここからが、本番だよ。―――ボクは、陽光の御子が守護星、ポール」

「お、同じく、トール」



「「12聖天、紫紺の斧槍……尋常に参る!!」」

 


 倍……などというものではない。

 二倍、四倍?

 久しく感じなかった絶死の警鐘に、盗賊は獰猛な笑みを形作り、毒づく。




「―――――はは、クソが。二人で一人の12聖。ジェミニ……。双子座って所か?」

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