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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第六章:ステップ編

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第15幕:髑髏な騒乱




 東より、続々と空に現れる黒影。

 その総数は、百に届くかといった所で。


 最早嫌でも目に付く彼等を見上げる人界PLらは、何かトラウマでも刺激されたか。

 次々に矢を射かけ、銃弾を撃ち出し、魔術を放つけど。

 高度は、魔術が届くか届かないかのラインらしく。


 ……いや、降りて来てる?


 魔族側のPLも……彼等も、一枚岩でもないのか。

 挑発染みた攻撃が運悪く身体を掠め、悪態をつきながら降りて来て戦いを始める者、未だ旋回をしつつ様子を見るような挙動を取る者、様々で。


 そうだよね。

 未だ正体不明な彼等と言えども、やはりPL……根っこは私達と同じ。

 個人個人の自由意思とゲームを楽しむという目的がある訳で。



「おぉ。捻り潰してやらぁ……、この***がぁ……」

「―――ルミ姉さん?」



 私じゃないよ?

 今降りてきた人がそう言ってたんだよ?



「マジで、いきなり何言い出すのかと思いました。無表情毒舌系お姉さん、アリだと思います。わぁ、新たな扉が」

「開けなくて良いからね」



 と。前が(つか)えた事で、後ろの馬車に乗っていたワタル君達も降りてきたみたいだ。



「この距離じゃ聞こえんが、ルミねぇは別だな。……どうするか。ある意味、チャンスでもある。今回に至っては、敵方も魔物の物量でゴリ押しは出来んだろうし、前回の雪辱を晴らす機会になり得るぞ?」

「確かに、レベル的にも大差ない筈だよね。今なら……」

「竜も戦ってみたかったしな」

「―――でも、何でこのタイミング? もしかして、私たちの所為なのコレ?」



 各々、想定外の来訪者に驚きつつも。

 私達―――ステラちゃんが教皇庁の前まで来たから、それがトリガーに? ……と。

 ナナミが、誰に聞くでもなく恐る恐る述べるけど。

 

 いや。多分、これは。


 

「うーーん。僕たちの方も、主軸に沿って行動させられてるんじゃないかな」

「おうよ。やっぱ、連動してんだろうなーー」

「あの。連動、とは?」

「俺たちだって、呼ばれた口って事よ」



 説明しながら、自らのステータス欄を展開して何かを確認していたらしいレイド君。

 彼は、答えを示すようにそれを口ずさむ。



「59分56秒、57秒、58秒……告知はなかったが……。ほれ、クロニクル開始から、これで丁度半分」

「「開始時刻!」」



 そう―――()()()()だ。

 たった今。

 丁度、時刻はクロニクルの開始と終了の境界線。


 私達がステラちゃん達に導かれたのも。

 魔族領域からの来訪者が此処に存在するのも。


 全て、巨大な力に付随するオマケに過ぎないという事で。 



『―――確認。現時点でのイベント参加プレイヤー死亡者総計―――12713人』

「「!」」 



 今に、それが始まった。


 今回のクエストでは。

 かつてのクロニクルなどや一般クエストなどには存在しなかった、プレイヤーの「総死亡回数」という表示が存在していて。


 その表示の意味、存在理由など。

 私たちの疑問でもあったけど。



『プレイヤーの死亡数に応じた遺骸の大軍勢(スケリタル・レギオン)が出現します』



 今に理解した。

 これこそが、メーンイベントの一つであるのだと。 

 

 地形破壊不可のお陰で、丁寧に舗装されていた筈の道路が歪む。

 歪みが、卵の様な球体のモヤとなり。

 あちこちでモヤが膨らみ、弾ける。


 現れたのは、白く、細く。

 瞳に光どころか、瞳すら、肉すら存在しない―――全身骨格。

 理科室でお馴染み、骨格標本君達……スケルトンだ。



「スケリタル……スケルトン?」

「骸骨……?」

「野生は初めて見たな。むしろレアじゃねえか?」



 ゴブリン、オーク、スケルトン、オーガ、スライム……。

 オルトゥスの世界感は、現代版西洋ファンタジーが主なのに。

 小説などで語られるような、メジャーもメジャーな敵たちが未だ殆ど出てこない事で知られていたけど。


 ここで?




――――――――――――――――――――――

【World Quest】 未曾有皇演(phaseⅡ)



【概要】

現在、皇都内部に不死者の軍勢が出現しています。

複数の勢力で協力して軍勢を掃討し、期間内に多くの戦果ポイントを獲得しましょう。


クエストの達成に応じて【ギルドポイント】及び【戦果ポイント】を獲得可能。

【戦果ポイント】引き換え対象賞品は、クエス

ト終了後に公開されます。


【仕様】

本クエストでは、皇都全域を戦闘可能域に指定。

全域を破壊不可構造物に指定。



【備考】

・開催:9/23日~9/30終日

・再参加可能/デスペナルティは特殊戦闘の規約に準拠

――――――――――――――――――――――




「まーーた戦争かよ!!」

「何で宗教都市で骸骨軍団なんだよ! 聖地のオーラ的なサムシングで即浄化しろよ!」

「せめてなんか着ろ! 着飾れ! 宝石とか、宝石とか!」

「剥ぎ取るモンなんもねえじゃん、肉すらねーーじゃん!」


 周囲から聞こえる声。

 どうやら、まわりの人たち―――おおよそ盗賊だけど―――周りの人たちも、同じような事を考えていたらしい。

 僅か数十秒の間に、色々な事が起こり過ぎだね。



「再参加可能って、そういう……バカやん」

「何なの、これ。どうすればいいの?」

「簡単だろ。予定通りか、骸骨か、魔族か……」



 そうとも。

 私達PLが取れる選択は、いつだって自由。

 予定通り教皇庁へ侵入出来るかを試すか、第一次の雪辱を望むか、切り分けて第二次を重視するか。


 最悪、手ぶらで帰っても良い。

 全て、自由。

 それが、このゲームだ。



「ほら、ほら。考えてみ? クエスト文では上の人たちの事大して触れてないみたいだしぃ? 今回に至ってはあんまり考量する必要ないって事だろ? 後、「複数の勢力で協力」って、案外あっちと手組んでも良いって事じゃね?」



 チャラオ君。

 やっぱり、軽いようで頭回るよね。



「―――そういう考えですか」

「流石に、無いんじゃ」

「アリアリ。第一次の時と、第二次のクエスト発令画面の、決定的な違い。気付かない?」



 ……あ、そうだ。

 第一次の時って、確か「本クエストは【人界領域】【秘匿領域】開始のプレイヤー専用」って。


 じゃあ―――と。

 魔族領域からの来訪者へ視線をやれば。


 彼等も、何かに戸惑っている様子で。



「―――アッチも同じ画面が出てるっぽいか?」

「……かも」

「まぁ、選択的には自由だが、死にたくねえなら時間はねェ。―――来るぞ」

「「!」」



 そうだった。

 現在進行で、周囲には溢れかえる程のカルシウムが……。


 今に、骸骨が。

 地面から溢れ出る不死者が、地を埋め尽くす濁流のように襲い来る。

 

 けど、そこは流石に歴戦の戦士たち。

 この皇都に集まった異訪者は、その大半が精鋭揃いゆえ。



「死角を作るな、ファランクスだ!」

「確実に減らしてけェ!!」



 家屋を破壊できないのをこれ幸いと逆手に取り、壁を蹴ったり飛び上がったりと跳ねまわり、次々に殲滅していく。

 骨っこが単体ではあまり強くないらしいのもそうだけど。

 やはり、TPは違う―――んう?



「―――あれは……?」



 圧倒的戦力差をものともせず敵を殲滅していく者たちの中でも、特に目立つ一団は。

 ぼろきれの様な灰色の布を纏った数十の影。

 彼等―――否。それらは、どう見ても人間の挙動ではあり得ぬ動きを取りながら、恐ろしい正確さで敵を蹂躙する。


 動きの中で、布が捲れ。

 腕や足から、白い骨が覗く。


 ―――何と、骸骨だ。


 軍勢たる、無手無装備の骨っこたちとは異なり。

 武器を持った灰布の骨っこたちは、壁を蹴り、見事な太刀筋で同じ骨っこを破砕していき……。

 同士討ち?



「ねぇ。あの骨っこたち、凄く良い動きしてるけど……。敵なのかな、味方なのかな」

「……おーーっと」



 私の疑問に。

 同じ方向へ視線を向けたユウトが、目を細めながら呟く。



「GR3位、【亡者の千年王国】だな。死霊系ばっか使っている連中だ」

「入団条件が死霊種のあそこね」

「多分、()()()()()で生み出したアンデットを使役しているんだと思います。使い魔の動きが良いのも、レベルと学習練度から考えれば自然かと」

「召喚スキルだって?」



 サーバー第三位。

 所謂最強ギルドの一角と聞いて、ちょっと身構えたけど。

 急に親近感が沸くじゃないか。



「……興味あるね。わたし、ちょっとお話聞いてくるから―――」

「捕獲」

「「アイアイサー」」

「ちょっとだけ。ちょっとお話して来るだけだから」


 

 数歩踏み出す間もなく、手取り足取りで捕獲されてしまう。


 だって、召喚仲間なんだよ?

 ペット連れの井戸端会議みたいなものなんだよ?



「ダメ?」

「「ダメ」」 



 そんなーー。

 ……でも、確かに今はその時じゃないのかも。

 井戸端会議だって、高速道路のド真ん中ではやりようもない。


 色々と驚きが重なって、ちょっと冷静さを欠いていたかも。



「そうだったね。ステラちゃんもニャニャさんも待たせてるんだった。先を急ごうか?」

「……急に冷静になるじゃん」

「誰が進行妨げてたと……ウチの無職がスマンな、盗賊さんたち」

「いえ、いえ」

「それでこそルミちゃんよ。さ、ダンちょも―――大将?」

「……ふへっ」



 まるで、それが当然のように。

 今度は、レイド君が吸い寄せられるようにフラフラと、舌なめずりと歩いて行く。


 勿論、あのスゴクツヨイほねっこたちの所へ。

 ―――わんわん?



「はーい、狂犬捕獲。ダンちょはすーぐこれだもんなぁ」

「油断も隙もないですなぁ……」



 今度は、彼の両翼が素早く動き。

 羽交い絞めにして、私たちの元へと引っ張り戻してくる。


 流石に良い連携だ。

 その対象が自分たちの頭目なのはどうかと思うけど。

 

 

「いやはや……。スミマセンな、某たちの親分が」

「こちらこそ、うちの無職が……なぁ、マジで話もクエストも進まないから、いい加減に―――というか、何処行く気だった? 怒らないから言ってみろ、戦闘狂」

「三位……、三位ッ!」

「話にならん。コイツ、ルミねぇと一緒に縛って馬車ぶち込んどけ」

「どっちも普通に逃げていきそう」



 相変わらず、生粋のTPキラーだね。

 何かを訴えるように「サンイ」と連呼する彼を、呆れるように監視する両翼。

 彼等、案外苦労してるんだ。



「じゃあ、予定通り。全員で先に進むって事で―――」

「あ、ゴメンなさいついでにもう一ついい?」

「同じ要件だと思うのですが、某からも」



 再び、申し訳なさそうに。

 チャラオ君とタカモリ君が、大きく手をあげ。



「んじゃ、タカちゃんから」

「えぇ。某とチャラオは問題ないのですが―――……あれ」 



 その手を、そのまま横へ向ける彼等。

 その先には……。



「「三位! 三位ッ!!」」



 ……………。



 ……………。



 ダメそう。

 よく考えたら、PK大好きなのはレイド君だけじゃなくて、彼ら全員なわけで。

 この場にいる数人の盗賊団員さん達も、狂犬状態に。

 余程、ジャイアントキリングをお望みのようだ。

 


「うーーん、ダメそう。……やっぱ、俺たちゃこっちで楽しませてもらうか? 後から来る奴ら……徒歩組、教皇庁の中だとどうせ合流できねえし。ダンちょ、それで良い?」

「サンイ、サン……あ? あーー。ま、良いんじゃね?」 

「長はどうされます?」

「俺は、当然―――……まぁ、ちょっくら中の見てくるわ。……タカモリ、お前はこっち」

「承知」



 そのままの勢いで三位を狩りに行くのかと思ったけど、案外冷静な彼。

 どうやら、教皇庁入場をお望みのようだ。


 じゃあ、盗賊さん達の方針は決まったね。



「私は……まあ、クエスト受けてるし。ユウトたちも、当然こっちだろう?」

「もちもち」

「当然です」

「よし来た。じゃあ、ハクロちゃんは―――」

「ルミと一緒が良い」



 彼女も彼女で、戦闘狂の気があるから。

 案外、暗黒騎士と戦いたいとか、骨骨の軍勢相手に無双したいとか言うかとも思ったけど。

 それならそれで、無問題。


 むしろ心強い。

 リドルさん達が居るのは勿論だし。



「ハクロちゃんに、レイド君まで来てくれるなんて。案外行けそうじゃない?」

「……ガルルル」

「弓が鳴りますね」

「俺。ちょっと、本気出しちゃおうかな~~」



 意図せず、ナナミたちの対抗心に火もつけられたし。

 これは完璧な布陣だ。


 さあ、行こうか。


 

「ニャニャさん。私達、此処からどうすればいいか分からないんだ。先導お願いできる?」

「はーーい」



 馬車の扉を開き、中へ声を掛け。

 途中下車のチャラオ君らを除き、再び搭乗した私達。

 どういう訳か、先から、何故か骨っこたちは私達の方へ来る気配がなかったけど。


 恐らく、その原因は……。


 改めて向き直るは。

 邸宅の鉄柵すら、及びもつかないような巨大な正門。

 守衛の人たちの数も、通常の領主館などとは比にならない、石造りの構造物―――皇国教皇庁。 


 直立不動の守衛さん達は。

 馬車に乗った私達が近付くと、手に持った長槍の柄を床とでカツンカツンと鳴らす。



「―――止まられい。固有名と役職を」

「教皇庁シャレム所属。第五位司祭ニャニャ・セイファート」  



 車窓から顔を出す私たちの前で。

 ニャニャさんと彼等との間で、やり取りが始まった。



「これさ? 強行突破とか、出来ないのかな」

「多分無理」 

「あの門番共、皇国の最高戦力、【神使】だ。他には、黒鉄機兵とかいうのも居るらしいが。下弦騎士より強いうえ、倒したら倒したで奥からもわらわら出てくる。ちな、経験談な」

「某たち、一度ボコボコに叩き出されてますゆえ」

「「……………」」

「エリア自体は、強行突破でも解放されたんだけどなぁーー、そっからがなぁーー」



 オルトゥスは、各国の軍隊が凄く強い世界感らしいからね。

 レイド君達でも無理となると。

 無理やり押し通るのは、至難だろう。



「お客様もご一緒なのですよーー?」



 さりげないカミングアウトの中でも、あちらの話は続くけど。

 どうやら、雲行きは怪しく。


 また、カツンと柄が鳴る。  



「―――客人? 否、此処を何処と心得るか」

「恐れ多くも、四光神様の祝福が宿りし聖域、教皇庁。只でさえ、既に神使ならざる者達に穢されておるのだ。これ以上、得体の知れぬ存在の影と穢す事は許されぬ。我らの槍が伸びぬうちに、異訪者たちを連れ、早々に立ち去る―――」



「お待ちなさい」



 しかし、そんな中。

 満を持して、その声が響く。

 カツカツと……確かな、しかし不快でない足音と共に、開け放たれた馬車のステップから彼女が降りていく。



「「………!」」

「―――これは、よもや……!」



 成程、確かにこれは正規の侵入方法なのだろう。


 天上の神々である四光神を信仰しているのが、皇国のブライト教で。

 彼等は、その使徒。

 ならば、彼等がステラちゃんに(かしず)かない道理はない。

 だって、彼女は……。



「私は、左を歩む者。星神アリステラが御子―――ステラ・クライト・ララシアです」

「「……ッ!!」」

「代行者として。皇国に、夜明けを齎すために参りました。その門を開きなさい」



 今の彼女は、美麗な中にも幼さの残る貴族令嬢ではない。

 神の意を伝える御子。


 古来の原始的な宗教儀礼に始まり。

 世界各地に存在した彼等、彼女等。

 人々に畏怖と崇拝を以って崇め奉られてきた、真に神の意思を伝える巫女だ。



「……粋な演出だねェ」

「その言葉がもう無粋だぞ、盗賊野郎」

「時代劇、最近見てないね「目に入らぬか」、「ははぁーー」って」

「ルミねぇ……」

「流石に古すぎじゃないっすか?」



 小声に雑談を交えて目を見張る中。

 ずっと閉ざされていたであろう、重厚な巨門の両扉が開かれる。

 

 車窓から覗く、三色。

 水路の青。

 彫像の白。

 煉瓦の赤 

 馬車に乗るまま、広大な庭園を抜ければ。



「さぁ、此処からは徒歩です!」

「てくてくしましょう~~」



 バッキンガム宮殿もかくや。

 まるで大広間化と錯覚するような回廊が、何処までも続き。

 全長は五十メートルを優に超え、部屋だけで何百とありそうだ。


 途轍もないデータ量。


 ……これが、教皇庁なのかと。

 普段なら値打ち物がどうとか、あの壺は幾らかとか。

 そういう言葉の一つも飛ばす仲間たちすら、呆けたように前へと足を動かし続ける。


 そして。

 ニャニャさん案内の元、絢爛豪華な広間に到着した瞬間だった。



「―――――やぁ。本当に来る人達が居たんだね。異訪者さんたちの言った通りでビックリ……!」



 動きやすそうな半袖に長ズボンの恰好は、ボーイスカウトを彷彿とさせ。 

 ハクロちゃんよりやや高いくらいの背丈。

 紫の髪色を持つ彼は……子供?

 可愛らしい顔立ちの、小学生程の少年が、私達を出迎えるように現れる。

 

 しかし。

 その子供を確認した瞬間、ユウトとナナミ、レイド君が一斉に前へ飛び出る。

 私やステラちゃんを護るように塞がる。


 ……三人の共通点は。

 皆、二次職が【鑑定家】であるという事。



「―――何か見えた? よくない物」

「「見えた」」

「というか、見えない。……能力値が全然見えない。私、かなりレベル高いのに」



 共有しても意味がないって事だね。 

 つまり、この子は只者じゃないって事かな。



「ちょっと待ってね? プトレマイオス……、トレミー……、シュンタクシス。地を穿て、アトラスの大斧よ」



 底の見えない存在と聞き、つい私も身構える中。

 男の子は、成長途中である事が伺える中性的な声でソレを謳い上げ。


 迷宮の雄牛さんが持っていそうな、巨大な斧が地面から生えてくる。

 色々言いたい事はあるけど。

 本当に。大きい。

 多分、二メートルは優に超えていて……ハクロちゃんと大剣の差といい勝負だ。 


 こんな特徴的な装備。

 象徴ですと言っているようなもので。


 しかも。



「今の。天文学者さんの名前……、トレミーの48星座から来てるかな?」

「星座……となると」

「やっぱ……、アレか?」



 そうなっちゃうよね。

 あの子、すっごくその気みたいだし。

 さても、さても……これはちょっと、此処で脱落する覚悟の準備をしておかないと。



「イッチニ、イッチニ……」

「―――ルミねぇ?」

「何のアップしてるんですか?」

「退場」  



 ほら。教皇庁に入れたのなら、私って用済みじゃないかな。

 各自、此処からは自由行動でさ。

 私、ちょっとこのすんばらしい建物を観光してくるから、此処は皆に任せて―――あ、来る。



「紫紺の斧槍トール。侵入者排除任務、いっくよぉーー!」

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