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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第六章:ステップ編

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第14幕:終了まで半分




 異常なほどに乱立した、無数の短期クエストを達成し。

 その度に、ポイントを入手できるシステム。

 それが。

 それだけが、このクロニクルの本質……正体。


 ―――果たして、本当に?


 小クエストの度に報酬が出て。

 更に、終了時にも豪華報酬が約束されているのは分かるし。

 レイド君やユウトたちから聞く限りでは、確かに効率が良くて美味しいイベントらしいけど。

 内容自体は、普段のクエストとそう違うものでなく。


 数百対数千は当たり前、本物の大戦争……。

 あの第一次と比べてしまえば、明らかに劣る。

 右肩下がりは怖い物。

 壮大な戦いを用意できるだけの、観客への「(つか)み」を心得てる運営が、本当にそんな単純な考えなのかな。


 或いは……、サプライズがある?

 

  

「―――半分しか残ってないなら……むしろ、此処からが怒涛の展開?」

「かもです」



 クロニクル初日。

 私達はイベントの鍵であろう皇国中枢、【教皇庁】への侵入方法をステラちゃんに用意してもらうつもりだったんだけど。

 ステラちゃん曰く「時間が必要」との事で。

 その後、一週間返事を待ち。


 今日、ようやくお迎えがやって来た訳だけど。

 一週間のうちに色々な情報が入ってきたことも有り、話題は考察一色で。



「戦果を取り合う。それ自体は、第一次と同じでも。今回は、目的の違うPL同士が無為に戦っているだけのクエスト……だが。一応、繋ぎ合わせると一つの物語になりそうって話だ」

「何があるんでしょう?」

「それを今から解き明かしに行くんだろ? オレら無職ご一行が」

「アンタ達と一緒にしないでくれるか?」

「えぇ。私達は、まだ貴方達を仲間とは認めてません」

「ははは。警戒心の強い事……。陰謀論が急速に拡大してるってよ、今。もしかしたら、現地人はPL同士を争わせて、共倒れでも狙ってるんじゃないだろうかって」

「言うて。死なないしなーー、俺ら」



「「ハイハイ、メタメタ」」



 確かに、共倒れなんて狙っているなら今更だ。

 今回のクロニクルは何度でも再参加が出来る仕様だし。


 二週間もやるし。

 一度キルされた後何日も参加できないと、反感も大きそうだから。

 その辺りを考慮しての事だと思ったんだけど……。



「その死なないってのが、今回は厄介かもしれねェなぁ」

「今回厄介!」

「こんかいやっかい?」

「こーんかーーい」

「狭いんだから大きな声出すな、というか意気投合すんな。確かに、敵も続々戻ってくるわけだからな。後は―――()()()()か?」

「おう。見える地雷でしかねェ」



 レイド君の深いのか浅いのか分からない訳知り顔な言葉。

 元気よく答えるは、ショウタ君とステラちゃんとニャニャさん。


 異色の組み合わせ……彼等が賑やかに動くと、馬車が揺れる。

 あぁ~~、ぐらぐら揺れる~~。

 そう、この揺れ。

 鉄道旅よろしく、船旅よろしく……旅行っていうのは、揺れこそが一つの大きな要素だと私は思うんだ。

  

 でも、この揺れとも、もうすぐお別れかな。



「ふん、ふーん、―――ステラさま。あとどれ位で着いちゃいますかね」

「はい! もう間もなくのラストスパートです! ヨハン、最高速!」

「いーそーいでーーくーーださい~~」

「勿論でございます……!」

「「……………」」



 車窓からわずかに顔を出した二人が声を掛けるは、盗賊事件の時もお世話になった、御者のヨハンさん。

 彼、凄いんだよ。

 只の御者なのに任務の為ならいつでも命捨てる準備OKだし、常に懐にナイフ仕込んでるらしいし。



「ステラ様はともかく。シスターさん、まるで急かす気感じないっつうか、一番危機感無い人に言われても困るんだよなぁ……」

「そもそも、なぜ急いでるんです?」

「舞踏会じゃないのかい? 外なんか、もう大分賑やかだよ」

「無職が王子様と結ばれる話か」

「アテンションプリーズ。お客様の中にツッコミ担当は居りませんか」

「ユウトクン以外いないってよ。一歩出れば物理的に突っ込んではくれんだろうが」

「そと、賑やかですからね」



 中も、こうして賑やかだけどね。

 外が賑やかなのは―――



「クソッ、一時退却―――ぶべらッ!?」

「これで三人抜きぃ!」

 


 ……………。



 ……………。



 ―――あぁ、凄い乱闘。

 世界一治安の悪い国でも、もうちょっとマシだった筈だけど。


 青街の中央へ向かう中。

 クエストに関係のある戦い、まるで関係のないフリーな戦い。

 PL同士が激戦を繰り返し、安全な場所なんて存在しないだろうことが伺える都市内部。


 でも、私達が襲われる事はなく。

 時折見られる戦闘をまるで物見遊山のように見物しながら通り過ぎていく。



「ってか―――狭くね?」

「狭い」

「狭いな」

「狭いですね」

「定員いっぱい乗ってまだ乗り切れないんだから、仕方ないだろ」

「ふーーん♪」



 馬車in私達。

 今回のクロニクルにおいては、全域が戦闘可能区域、破壊不可構造物に指定されているけど。

 破壊不可の効果範囲は広く、馬車などの移動物にも適応される。


 例え移動中でも、だ。

 動くお城とかあったら、サイキョーなのかな。


 戦いの中を優雅に進む馬車。

 中々奇異な光景だけど。

 こういった移動手段を確保できる立場の人たちは、攻撃に怯える事無く動き回れるという事でもあって。

 重要NPCなどは、特に動かしやすいだろう。


 しかし、狭いのも確かだ。

 フォレストさんの手配してくれた馬車は、全部で三台。


 先頭を行く第一号に、リドルさん達護衛組。

 

 第二号に私たち。

 ユウト、エナ、ショウタ君、レイド君、ステラちゃん、ニャニャさん。


 第三号に、ナナミやワタル君、ハクロちゃん、タカモリ君やチャラオ君。


 ……残念だけど。

 レイド君のお仲間たちはちょっと数が多かったから、全員は乗り切れなくて。

 仕方なくジャンケン。

 一号車や三号車の空いた席に乗り込み。

 あぶれた子達は、徒歩で後ろから付いて―――来ていた筈だけど……。



「ふんふーん」

「……レイド。お仲間、今も付いてこれてるか?」

「さて。ついさっきまでは愚痴たらたらうるさかったが。今はもうなーーんも聞こえんし、やられたんじゃねえか?」

「本当にうるさかったですね」

「こっち乗れなかったナナミチャンといい勝負だろ。それより……」



 鼻歌を楽しむ私をチラリと一瞥し。

 解せぬと言いたげなレイド君が、口をへの字に曲げたまま呟く。



「なぁ、リア友さん達に聞きてェんだが……。なーんでこんなに上機嫌なんだ? この無職は」

「ふーん、ふんふーん♪」



 私が上機嫌だって?

 私は、常に元気で活力に満ちた人生を送っているよ。


 そうとも。

 この前新聞の折り込みを見て買ったサプリ―――



「ルミ姉さん、馬車が大好きなんです」

「……ほーん」

「そういえば。以前、馬車旅の最中に襲い掛かって来た無粋極まる盗賊どもが居たって聞いたが」

「……記憶にネーナ」

「リドルさん達に聞けば思い出す? あっち、今大丈夫かなぁ」

「恐らく、修羅場かと」



 だよね。

 一号車、犬猿の仲である騎士さん盗賊さんチームだし。

 


「―――蟲毒(こどく)……だよな」

「はッ。出てきた時、どっちが生き残ってるかって? ―――賭けるか?」

「あ、俺ら賭け事禁止なんで」

「およそNPCたちだろうがな」

「強いんですよ……! リドルたちは!」



 ここぞと会話に入ってくるステラちゃん。

 確かに、そうだろう。

 護衛組の彼等は、全員がレベル五十以上。


 トルコさんは【狼戦士】

 野性味ある言動に違わない、戦士派生の特殊職……ユウトやレイド君達も殆ど見た事の無いレア職。


 エルボさんは【堅牢騎士】

 同じ戦士派生で防御に定評のある人気職、聖騎士より更に防御偏重なカチカチは、硬派な彼にピッタリ。


 レストさんは【刀士】

 スマートな容姿から繰り出される、一撃の鋭さ、速さに重きを置いた、大人気かつ扱いの難しい職代表。


 そして、リドルさんはLv.65の【天騎士】

 何と、聖騎士の上位派生たる4th。

 私を除く私達PLが目指している、未だ解放されていない上位職業である実力者だ。


 前々から、強いとは思ってたけど。

 第三進……私達で言う3rd、更には4thまでアリだったなんて。



「古代都市の下弦騎士と同等か、それ以上って……。レイド君。彼等、本当に凄く強かったんだね」

「な? 美味そう、だろ?」

「まだ戦う気だったの?」



 当時もずっとその気だったけど。

 一応の共闘関係になった今でも、その感情を切り離すつもりは無いらしい。


 むしろ。

 蟲毒してたら、仲間がキルされたっていう大義名分が出来て喜ぶかも?

 

 ……で。

 流石にステラちゃんとニャニャさんは戦闘要員ではないらしく。

 

 彼女たちを護るのが、この二号車に入る私たちの役目。

 最終防衛ラインと言っていいんだけど。



「―――何でそこに私がいるのかな。両端とかじゃダメだったのかな」

「勘違いしてるかもしれんから言っておくと、ルミねぇも護衛される側だからな」

「あぁ。端から戦闘要員には数えてねえぞ」

「大人しくしててください」

「いや、マジで。唯一このクエスト受けてる人なんで、キルされたら凄くメンドイ」



 酷い言われよう。


 お留守番もダメ、倒されてもダメ、フラフラしてもダメ。

 まるで護送だよ。



「ならさ、ならさ? この際、ずっと馬車で移動しないかな? 屋内も」

「引きこもりのレベルが高すぎる」

「……いや、理にはかなってるな。案外アリなのか?」

「ダメで~~す」


 

 ニャニャさんにあえなく却下された。

 モラル的にNGらしい。



「ま、今は大丈夫っすよ。この馬車、破壊不可能なんすから。ゆっくりしててください」

「タイタニックに乗ったつもりで、な」

「うーん。そうだけどさ? 馬車は破壊不可能でも―――御者のヨハンさんは破壊できるよね?」

「ルミ姉さん?」

「人の心とか無いのか?」



 NPC自体はキルできるし、ヨハンさんが倒れれば馬車も止まる。

 誰がやるのかはさておき……さて置き。


 それ自体は事実だ。



「……考えなかったわけじゃねえけどよ。態々、ソレ言っちゃ……」




「―――ぬわぁぁ!?」 




 ……………。



 ……………。



「「ヨハンさぁぁぁん!?」」



 すぐ外から聞こえた大声に。


 攻撃される心配なんて完全に忘れて、皆が車窓から同時に顔を出し。

 ぎゅうぎゅうになってしまった彼等は、ドアを開けた方が良いという結論に至ったらしく。


 気を利かせて、私が扉が開け放ち。

 御者の安否を確認すべく、戦場の奥地に繰り出した我々達が見たものとは。



「―――み、皆さま……、アレを」



 良かった。ヨハンさん、無事だった。

 ただ、御者席で固まってただけだ。


 急に馬車が立ち止まったのは。

 盗賊に囲まれたわけでなく、何らかの障害物によって(はば)まれたわけですらなく。

 彼がそうした理由は、私達にもすぐに分かった。

 

 皆が、違和感を覚えて空を見上げる。 


 それは、黒点だった。

 空に現れた、小さな点々だった。

 青空に広がる、不自然な黒だったそれらは、徐々に徐々に大きくなって……やがて、何処かで見た事があるような形を取り。


 ある程度距離が縮まり、確認できるようになったその姿。

 ある個体は長い体毛を持ち、ある個体は蛇のような鱗を持ち。


 大きな翼を広げ。

 長くしなやか、或いはゴツゴツの尾を風になびかせる。



「あれは―――もしかして、竜?」

「何か乗ってね?」


 

 空を駆ける、その魔物。

 そう……竜の背には。

 それぞれ、重厚な鎧を纏った何者かが乗っている。


 かつて何処かで見たような、既視感のある光景は……。 



「「―――――暗黒騎士ッ!!」」



 まさかの、予想していなかったイレギュラー。


 第一次クロニクルで戦った勢力。

 薄明領域という未探査エリアの更に先……未だ、PLが踏み込む事の出来ない魔族領域に本拠を有する彼等。


 アレは……魔族。

 或いは、そちら側のPLだ。

 人界には居ない筈の彼等が、何のアナウンスもなくこの皇国に居るなんて……まさか。

 


「もしかして……旅行?」

「かもです」

「「なるほど?」」



 やっぱり。

 航空が可能な彼等なら、世界の裏側にだって行けるだろうからね。

 態々団体様で皇国まで来るなんて、もしかしたら宗教に興味がある人たちなのかも……。



「―――っておい」

「……これ、完全に人界侵略だろ。ぜってー皇国墜とす気だぞ、アイツ等」



 その可能性も捨てきれないかな。

 観光か侵略、二択に絞れた。 



「では―――このクロニクルの本質は。皇国を領土にしようとしている魔族と、それを食い止めるPL側の戦という事で良んですか?」

「……いんや」

「皇女様とお嬢様を狙ってる、皇国の強硬派がいる。だから、実質は―――」



 第二次クロニクルは。

 三つ(どもえ)の戦いって事になるのかな?

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