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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第六章:ステップ編

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第9幕:因縁解消できるかな




「「うイーーーーッス!!」」

「帰れ下郎!」

「何しに来たネ」

「我らの手が滑らぬうちに立ち去りなさい。誤って剣が抜けないとも限りませんよ」



 屋敷の前で睨み合う……否。睨む騎士と、笑顔の野盗。

 注目すべきは、その温度差で。

 一方が敵意剥き出しなのに対し、もう一方は逆撫でするように手を振り、ニヒルな笑みを浮かべ。



 ピリピリ、ニヤニヤ。

 

 ピリ……ニヤ……―――ふむ。



「―――決めた、今日はビリヤニだ」

「おい。なに今日の晩飯思いついてんだ」



 ビリヤニは、インドで人気(ポピュラー)な炊き込みご飯。

 肉の旨みが溶け込んだご飯に、スパイスがふんだんに混ぜ込んであって、すごく美味しいんだけど。


 私は、羊のマトンを入れたのが一番好きだね。

 あれにヨーグルトサラダを添えれば、たちまち瞼の裏に大衆的でエネルギー満ちた本場の景色が広がるんだ。



「メインはどうしよう。牛? 鳥? やっぱり羊? ……レイド君はどう思う?」

「豚」

「三大宗教に正面から喧嘩を売りに行くね。神様が怖くないのかな」

「この稼業やってる時点で察してくれや……で、いま気にすんのは、明らかにこっちだろうがよ。ちっとは止めようと思わねえのか?」



 ふむ。

 君の言わんとすることはわかるんだけどね。


 でも、それを言うのなら。

 そもそも、彼らをけしかけたの君だろう?

 団員たちを止めようともせず、ただ私の動向を伺うように立つ団長の思惑やいかに?


 或いは、全部任せるという事なのだろうか。

 なんて無責任な。


 (しか)ってあげるべきなのかな。

 いや、ここは自分で過ちに気付くチャンスをあげるべきだ。



「……………」

「―――おっと、んな無表情で見つめられても困るぞ。そもそもそも、呼びつけたのもお前だろうが」

「それもそうだね」

「はえーよ、掌返しが」



 言われてみれば。


 そうだった、元凶私だった。

 屋敷を訪ねるより前に、彼らへフレンドメールを送っていたのも、屋敷の位置を教えたのも私。


 イコール、こうなったのも、私

 全部予想できた事の筈なのに、何も考えてなかった私の所為だったのか。


 なら、こうしてはいられないよ。



「リドルさん、リドルさん」


 

 剣の柄へ手をかけつつ、威嚇するように「シャー!」している騎士さんたちへ、声を掛けながら近づくと。

 リドルさんは、手を制するようにこちらへ向け、私の前に出る。



「下がっていてください、ルミエール様。やはりこの下郎たちは危険です」

「コイツら、危ないネ」

「もちろん分かるさ」



 リドルさんとレストさんの言葉を、肯定するように頷く。

 頭ごなしに否定し、「彼らは安全」とは言わない。

 実際危険ではあるし、友人と自負している私ですらいつ後ろから刺されるか分かったものじゃないからね。


 

「でも、こう考えてみるのはどうかな。この門は、屋敷唯一の入り口で。次々に敵さんがやってくる危険な場所。睨み合ってて、いつ死角から漁夫の利を狙われるかも分からないし、このまま戦闘なんて共倒れ、主人を守る騎士が居なくなっちゃうかもって」

「……………」

「良いことを考えたんだ。一度、ここは彼らに任せるんだよ」

「……何ですって?」

「敵は当然、この門を通って屋敷の一階から攻めてくる。ステラさまたちの居る二階との間に彼らがいたら、どうなると思う? ……勝手に襲いかかるかも。手を汚さず、やっつけてくれるかも」

「おぉ」

「もしかしたら、双方共倒れになってくれるかも」

「「おぉ!」」

「おーい、全部聞こえてますぜぇ」


 

 かなり声は潜めたはずなのに。

 そう言うスキルがあるとはナナミから聞いていたけど。

 盗賊の聞き耳って、すごいんだね。


 ……聞こえない体で行こっと。

 


「取り敢えず、彼らには私から色々と言っておくからさ? 皆さんは、先に戻って守りを固めておかない?」

「「……………」」

「では、そのように」


 

 良かった。

 一応、納得はしてくれたみたいだ。


 これで、一方は解決。

 今度はもう一方を説得にかからないとね。


 こちらを振り返りつつも屋敷の中へ戻っていくリドルさんたちの姿を見送り。

 そのまま、私も踵を返す。



「ねえ、君たち。貴族のお屋敷を攻め落とすのって、凄くワクワクしない?」

「するする!」

「男の怒号、女の叫び……この上なく興奮しますな」



 いい趣味だ。

 なら、もっと素晴らしい提案をしようじゃないか。



「名誉団員だしある私から、面白くて、いい儲け話があるんけど……プレゼン、聞きたくならない?」

「なりますなります」

「の前に、良いか。そもそもだ。どのみち参加するつもりではいたが、何で呼んだ?」

「友達だし?」

「……体の良い便利屋扱いなら帰るぞ、珍獣」

「目的の話だね。それこそ、本題さ」



 私がクエストの正体を知ったのはつい今し方だなんて、つゆとも思わせない不敵な笑みを浮かべ。

 自信しか感じられない態度で、向き合い。


 今度は、彼らの説得をと。



「私がお勧めするのは、題してお姫様にキッスを大作戦」

「おい、無表情でとんでもないことに言い始めたぞ」

「夢は大きい方が良く、野望はどれだけ抱えても良いとされているだろう? まさしく、それさ」

「成程、分からん」

「うん。で―――」

「「何が?」」

「何が「で」なんだ?」



 全てを置いてきぼりにする言動。

 コレもまた、コミュニケーションの一つ。

 

 握手の時に、相手の腕を力強く引き寄せるとか。

 一度話の間を空けるとか。

 相手を引き込むには、自分のペースに話を持って行くには、様々なテクニックがあるけど。


 今回は時間が惜しいし、手短かつ強引に行こうね。



「ひとまずは、私とこの家を守ってほしい……あ。()()()()()()助けて欲しいんだけど」

「言い直す必要が?」

「意味が全然違うんでない? 協力か救援か。日本語ってムズカシーー」

「新手の命乞いか? ……俺たちが良いって言って、あいつらが納得するか?」



 確かに。

 彼ら【傍若武人】は、リドルさん達からすれば、酷い目にあわされた覚えしかない盗賊さん達で。

 因縁解消、出来るかな?

 そこは、私がどれだけ上手く話を運べるかなんだけど。


 ちゃんと、双方に理のある話ではある。



「今回はハッタリじゃないんだ。本当だよ? 嘘じゃないよ? もう、ものすごい報酬が待ってるよ。多分」

「わぉ、驚く程ふわふわ」

「マシュマロよりふわふわ」

「こつとんきゃんでい」




   ◇

 



「―――おじゃまーー」

「「おーーじゃましまーーす」」


「ルミエール様……」

「大丈夫。一階より上は入らないでねって言ったから」

「大丈夫な要素ありますか? それ」


「いやぁ、へへ……先程はどうも」

(それがし)たちの連れがご迷惑を……ふはは」

「先頭で煽ってたのはあんた達だと記憶してんですが? 野蛮な賊にも身を落とすと、記憶の分別すらつかなくなると見えますね」



 額に青筋すら浮かべていそうなトルコさんに対し、けろりと謝罪するチャラオ君とタカモリ君。


 彼ら、プライドがないからね。


 多分、そういう生態なんだよ。


 先導して、団体さまを屋敷の一階へと踏み入れさせた後。

 ひーふーみー……と。

 私は、その場に腰を落ち着ける彼らをぐるりと見渡す。


 体良くお屋敷に忍び込めたからって、家探しする子がいないか心配だったけど。

 一応、全員居るかな。



「いんやーー。ひっさしぶりにルミちゃんと行動できるって聞いたもんだから、そりゃもう飛び上がったわぁ」

「主に、ルミ殿がこの国に居ることについて、ですがね。まこと、どのような密航を?」



 密航前提らしい。

 こんな最前線に、私の実力で来れるはずがないもんね?


 まぁ、気になるなら教えてしんぜようか。



「ふふ……実は―――」

「おおかた、アイツらに姫プしてもらったんだろ」



 その通り。

 でも、冗談の一つくらい言っても良いじゃないか。

 

 レイド君の一言で、納得したように頷く盗賊さん一行。

 どうやら彼らは、海岸戦線で共闘したユウトたちのことを高く評価してくれているらしく。



「―――ところで、他の皆さんは? いつもより少ないよね」



 最初から思ってはいたけど。

 確認がてら数えてみて、やっぱり。


 彼らのギルドは中規模クラス。

 ギルドの最適なフルメンバー50人とはいかずとも、その半分……もう十人くらいは居るはずだけど。


 ……見た感じでは、少ないよね。

 生粋のゲーマー集団だし、クロニクル初日にそんな数がログインしていないとも思えないし……。



「情報収集だ。ウチの面子の能力はご存じだろ?」

「まぁ……―――そっか」



 そう言うことね。


 盗人派生の職業は、隠密索敵情報収集なんでもござれな【器用】に重点を置いた能力構成。

 そのユニークであるレイド君もまた、器用AAの最高峰さんだ。


 器用が高いと、安全域である都市内部では、NPCとの交渉に補正が入るらしくて。

 よりスムーズに情報を仕入れられるらしいね。



「―――ところで、俺らのソファーは?」

「あると思うか下郎」



 本当に補正入ってる?



「おい、おい。お貴族様は客人に茶の一つも出さねえのかーー」

「おいおいおい」

「嫌がらせカーペットしちゃうぞ、おいコラ」


 

 彼ら、本当に三下ロールとやらが好きなんだね。

 絨毯の敷かれた床の上で、連なるようにして寝転ぶ盗賊さんたち。

 その姿は、確かに。

 人を通り越して物、カーペット。


 成程、これが……。



「嫌がらせカーペット……。誤ってふんづけちゃいそうだ」

「「ありがとうございます!」」

「……このっ」

「落ち着け、トルコ」

「ですけど、隊長」

「大丈夫だ、欲しいというなら出してやれ。……茶に毒をだな?」

「なるほど?」

「だから聞こえてるんだっての、なるほどるな」



 NPCさんって、こんなジョーク……推定冗談(たぶんジョーク)も言うんだ。

 周りにいる人たちが皆親切だから、全然聞かないけど……まるで、最初からクエストの悪役として出てくるNPC。



「さても、さても……んん?」

「「!」」



 とりあえず、力になってくれそうな人たちを集めたは良いけど。

 どういう方針でいこうかなと。


 選択肢を絞り始めた矢先。

 突然。屋敷の外から、大きな声と物音が聞こえて。

 それも、一つや二つじゃなさそうで。


 どころか。

 軽く数十はありそうかな、コレ。



「もしかして、別行動の盗賊仲間さんたちかな。ちょっと多い気がするけど、団員の数増やした? 対戦慄走者を想定してるのかな」

「「……………」」



 ―――急に静かになった。


 ……と。

 今まで楽しそうにじゃれあっていた盗賊さんたちが、一斉に絨毯への頬擦りをやめて立ち上がる。

 瞳に、剣呑なものが宿る。

 


「「……ッ!」」



 リドルさんたちも。

 唐突に態度を改めた彼らに反応してか、剣の柄へ一斉に手を掛け。



 ……………。



 ……………。



 これ……。



「―――なぁ。ところでよ、ルミエール。話は変わるが。お前さんに誘われる前に、ちと面白い話を聞いたんだが」

「ほう……?」



 こうくるのか。

 確かに、情報こそが彼らのアドバンテージ。

 先の話題にも出たように、事前の下調べしていない方がおかしいと言うもので。

 

 では、彼らの仲間は今……。

 タカモリ君とチャラオ君が立ち上がり、各々の武器を抜く。



「さて、さて」

「取り掛かりましょうか? 団長」



「おう、―――アンタ等、皇国に狙われてんだってなぁ?」

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