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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第六章:ステップ編

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140/279

第8幕:アリステラの御子




――――――――――――――――――――――

【World Quest】 未曾有皇演



【概要】

皇都は現在、複数勢力の野望が渦巻いています。

無数に発生する指定クエストを受理し、期間内

に多くの戦果ポイントを獲得しましょう。


指定クエストの達成に応じて【ギルドポイント】

及び【戦果ポイント】を獲得可能。

【戦果ポイント】引き換え対象賞品は、クエス

ト終了後に公開されます。


【仕様】

本クエストでは、皇都全域を戦闘可能域に指定。

全域を破壊不可構造物に指定。

その他、侵入可能区域はクエストマップに表示、

条件達成でエリアが解禁される場合があります。



【達成・未達条件】

unknown/進行に応じて個人解放



【備考】

・開催:9/17日~9/30終日

・再参加可能/デスペナルティは特殊戦闘の規約に準拠

――――――――――――――――――――――




 鎮まり返った部屋の中で。私は、そのメッセージが現れるのを(しか)と確認したけど。

 果たして、果たして。

 今頃、外はどうなってるのかな……。


 屋内ゆえにまるで分らないけど。

 クエストの内容から見るに、沢山のPL達が方々を動き回って大騒ぎをしているんだろう。


 お婆さまや、くゑすとはいつかのう?

 お爺さま、昨日終わっちゃったでしょう―――っと。



「良いね、良いね、長期的クロニクル。一日で終わると、参加できない人も多いから……って事なんだね」



 開催期間は二週間。

 広大な都市の全域が戦場……安全な場所は皆無という、PLの初期開始地点になっていないからこそ出来る暴挙。

 随分と贅沢なリソースの使い方で。


 

「でも、これだけじゃ情報が不足気味だなぁ」



 現在地は、見ての通り青街にあるお屋敷で。

 クロニクル開始日に私がここへ来たのは、フレンドメールとは別枠で存在するNPCメールで「会わせたい人がいる」と呼ばれたからなんだけど……。



「最終日は二週間後……、タイムラインが出来て考察ページで全てが分かるのがそれからだから、どうなるのかなぁ。今からそっちも楽しみだなぁ―――……ぉ?」



 ―――コンコン、と。

 ノック音の後、ゆっくりと開く扉。


 向こうに立ち、優雅な一例と共に応接室へ踏み入れてくるのは。

 僧侶派生のPLが着ていそうな西洋法衣……祭服を纏った淡い蒼髪の女性で。 



「―――ルミエールさま~~、お久しぶりで~~す」

「あ、ニャニャさんだ」



 可愛らしい名前が良く似合う、ほわほわな雰囲気の女性。

 彼女は、リドルさん達と同じく馬車の旅でご一緒した一人。

 どんな時もマイペースで、落ち着きのある人だよ。


 両手を広げて歩んできた彼女を、私も立って出迎え。

 互いに両肩を抱き合い、三回ほどその場でグルグル回る。



「前お屋敷に来た時居なかったから、心配してたんだ。久しぶりだね?」

「お久しぶりですーー」

「でも、祭服……って。ニャニャさん、もしかしてこの国の所属?」

「そうなんですーー」

「わはーー」

「わは~~」

「……えーー、コホン。会話……会話? を、されている所失礼致します。私から説明しますと、彼女はブライト教の司祭です」



 ふわふわな雰囲気の中、特に脳を介さず話していると。

 時を同じく、後ろから部屋に入って来ていたリドルさんが説明してくれる。

 司祭っていうのは、聖職者階級の一つ。


 司教に続く位。

 でも、女性の司祭っていうのはかなり珍しいし。

 仕組みがあちらと同じなら、一定の立場のある人物の筈で……徳も高いのだろう。

 道理で、どんな時も冷静。



「司祭……凄いんだね。私に紹介したい皇国の人って、ニャニャさんの事だったんだ」

「は~~い、私で~~す」

「となると、聞いた話を整理すると……? ステラさま達は、この国へは使者として来ていて。本来は例年通り、ステラさまと立場を同じくする人と面会する筈だったのに、門前払いを受け。おかしいと色々調べる為に、前々から関係もあって橋渡し役でもあったあちら側の人間、ニャニャさんを招いて現在へ至る……と?」

「えぇ、その通りです」



 情報を並べ立てても難しい。

 複雑な問題だ。

 私、ただ漠然とステラちゃんを護って欲しいっていうクエスト受けただけなのに。



「その、同じ立場の人っていうのは?」

「それは、リアさまですね~~」



 りあさま。

 


「リア・ガレオス殿下。皇国の皇女様です」



 首を(ひね)る私に、リドルさんが耳打ちしてくれる。

 確かに、司祭さんと貴族さんが同じ立場と考えるのは疑問があったけど。


 それもそれで、同じ立場じゃなくないかな。

 いかに皇帝の懐刀な貴族さん達でも、王族とは立場が違い過ぎるだろうし……。



「―――その御話は、我々が致しましょう」



 と、開いていた部屋の扉を潜り。

 現れたのは、ナイスシルバーフォレストさん。

 そして、令嬢ステラちゃん。


 ……どんどんお客さんが。

 お客さんの側は私の筈なのに。

 やっぱり、クロニクルが発令されてしまったから、事態が大きく動き出しているのかな?


 これも指定クエストとやらの一つだし。

 ……クロニクル開始直前にメールが来たのも、およそ予定通りなんだろう。



「フォレスト様」

「えぇ。こちらは、私が。リドルは隊を率い、あちらをお願い致します」

「は、承知しました」



 ……皆、忙しそうだ。

 あっちって何だろう。

 もしかして、歓迎会でも開いてくれるのかな。



「では、ルミエール様。セイファート様、そちらへ」

「んう?」

「はい~~」



 あ、ニャニャさんか。

 

 聴き慣れない名前と共に、席に促される私達。

 今回も、前回と同じく対面に座ったステラちゃん達と向き合う事になって。

 令嬢、司祭、無職。


 実に奇妙な取り合わせだ……。



「―――さて、どこからお話したものか……。ルミエール様は、三聖というものをご存じでしょうか」

「………不勉強なもので」

「難しいですからねーー。わたしも、お勉強大変でしたーー」

「大変でした……!」



 ステラちゃんもニャニャさんも、優しいと。


 私の感激が終わる頃を見計らい、フォレストさんが片眼鏡が光らせる。



「三聖とは、即ち。リアソール、アリステラ、ディクシアの御子を指す言葉。三国に分かたれた天上神様の加護を与えられし、いと尊き存在の事です」

「―――おぉぉ……。聖女っていうのかな、それ……うん? ―――うん、理解が追い付いてきた。使者っていうのは、そういう事なんだ。ステラさまと、リア殿下って方が、その三聖様なんだね?」

「その通りにございます」



 ……………。



 ……………。



 ―――もしかして私、凄い現場に居合わせてる?

 これ、皆に話したらどんなこと言われるかな。


 ひとりでズルい?


 みんなで一緒に?

 

 私達と分けっこしようよ?


 ……恐らく、そんな感じだろう。

 いつの間にか聴き慣れてしまっていたそれら神様の名だけど。

 オルトゥス全体で見れば。

 明らかに、大きすぎる事象―――私はその渦中に何時の間にやら紛れ込んだ砂粒であるらしく。

 或いは、PL全員がそうなのかもしれず。



「―――では。皆さんの目的っていうのは、会えなかったリア殿下と会談する事、安否を確かめる事……かな?」

「「その通りですぅ……!」」

 


 パチパチと拍手が起こり……実に気分が良い。

 今の私、実にデキる冒険家。

 実はわたし、ウミガメのスープとかマーダーミステリーとか、水平思考の推理ゲームも得意なんだ。



「この皇国に陽神リアソールの加護があるように、帝国には星神アリステラの加護が。ステラ様は、星の神を信仰する一族の御子なのです」

「凄いんだね、ステラさま」

「――ぁ……有り難うございます!」

「わたし、三聖っていうのは聞いたことがなかったけど、皇女様なら知ってるよ? 確か、病に掛かってるって……―――だから会談が出来なかったんじゃ?」

「……その、私たちは」

「―――ステラ様、私が」



 あちらも、探り探りという風に話していくのは。

 あるじは、どっしりと構えているべきだから?

 或いは、部外者である私には、まだ最重要な情報などは話さないようにという事なのかな。


 確かに。

 ステラちゃん、まだ小さいから口滑らせちゃう可能性があるかもだし。


 ともあれ。

 主に代わり、執事さんが話し始める。



「三聖の玉体には、大いなる加護と寵愛が存在します。それは、精神や肉体の保護を始めとする神たる力。当然、病など掛かりようもなく。もしそれが可能ならば、それこそ神の権能による呪いを置いて他に在りますまい」

「……………」

「増して、治す事叶わない病であれば。殊更(ことさら)、権能を持ちしステラ様にお会いにならないという事こそ不可解。何より……セイファート様」

「はい。―――わたし、リアさまのお付きなのですけど。最近は一回も会わせて貰ってないんです~~。わたしのお友達も、みんな会ってないって。心配です……」


 

 それは、確かにおかしいね。

 お付きって事は、身の回りの世話をしていたって事だろうし。

 彼女が真面目なお仕事中にふわふわし過ぎたのでもなければ、突然会えなくなるっていうのは不合理だし。


 治せるかもしれない人がいるのに招かないのも、凄くおかしい。

 増して、相応のお医者さんが自分から治しますよと言っているのに、だ。


 これは、事件の香りが……。

 


「りあさまが病気だとして、神様の呪いかもって話だよね? じゃあ、相手方にも三聖がいる? 聞く限りだと、三聖って一族の継承なんだよね。一族の人なら、誰でもなれるのかな」

「一族の一人のみに、古代魔法としての力が宿ります。月神の御子は王国におりますので、可能性は低いかと」

「古代魔法」

「は……。ステラ様の持つ属性は、星」

「リアさまが太陽ですーー」



 どんどん知らない言葉が。

 属性って、あの属性だよね? 魔法の。

 公式で発覚している物としては、確か……。基本属性として、地、水、火、風があり。


 その上位は派生があって。

 ショウタくんが使っている火属性の上位派生【炎属性】とか、水の上位【氷属性】、地の上位【闇属性】、風の上位【雷属性】などがあって。

 

 更には地と水の派生である【木属性】

 水と火の【霧属性】

 火と風の【嵐属性】

 風と地の【無属性】みたいな複合型とかがあるとは聞いたけど。


 古代魔法。

 星や太陽の力なんて……うーーん。



『我は、後ろを歩むモノ―――即ち陽の炎……』



『詰まる所、アチアチですわ!! 神々の御業バンザイですわ! いざ、神々の御伽歌(マイソロギア)~~ですわ!』



 ……………。



 ……………。



「―――うーん、……うん? 聞いたこともないね」

「神の加護を与えられた者のみが扱える、固有魔法ですな」



 つまり、凄いって事なんだね。

 なんか、何処かで聞いたような気がしなくもないけど、世界って広いし……或いは、PLにも使い手が……。



 ―――ガリ……、ガリガリッ。



「「……………」」

「何の音でしょーーう」

「コーヒーでも()いてるみたいだ」

「なるほど~~」



 ―――ガンッ、ガンッッ。



「「…………」」

「何の音でしょーーう?」

「結構深煎(ふかい)りしてるみたいだ。今日は徹夜の予定なのかな。私、砂糖も入れて欲しいな」

「なるほどーー、ミルクたっぷりが良いですねーー」



 ドタ、ドタドタ……バタンッッ。



「―――はぁ……、はぁ……、くッ……!」



 あ、リドルさんだ。

 凄く忙しそうに、ノックもなく入って来たけど。

 別に、コーヒーは持ってないね。


 抜き身の剣だけ……―――殿中(でんちゅう)でござる?



「ねぇ、リドルさん。さっきから随分賑やかだけど、お祭りかい?」

「そう見えますか?」



 部屋へ踏み入れてきた彼は一度片膝をつき。

 荒く息を吐きながら剣を収め……しかし、すぐにまた扉から出て行ってしまう。



「祭り……確かに、そうかもネ」

「前口上に血が付きますが、ねぇ? ククッ」

「お前たち。御嬢様と客人、増して恩人の前だぞ」



 と、今度はその同僚のレストさん、トルコさん、エルボさん。

 彼等は、装備を整え。

 更に荒く吐いていた息を整える。


 その尋常ではない様子に、流石の私も一度席を立ち。

 コッソリ、窓から外を見ると。

 どうやら屋敷内へ、あべこべな装備を纏った人たちが意気揚々と侵入してきていて。



 ……………。



 ……………。



「―――もしかして、ここ。いま襲われてたりするのかな?」

「他にどう見えるネ?」

「この御方は……。相も変わらず、のほほんと……」

「いえ、いえ……ルミエール様はそうでなくては―――さぁ、次。来ましたよぉ」



 どんどんガチャガチャ。

 借金取りが家の前に来ているような音と共に、部屋の前がにわかに騒がしくなり。



「―――侵入ぅぅッッ!! ここが悪党どものハウスねェ!!」

「我ら、ギルドランク四十位の精―――ェイ!?」



 入った端から斬られて消えるPLさん達。

 彼等も、皇国へ到れる手練れの筈なのに。


 やっぱり。

 強いね、ここの護衛さん達。


 TP狩りで有名なあのレイド君達をして、「強い」と言わしめたNPCさん達だし。

 対一なら彼等に分があるのかな。


 でも、いつまでも持ちはしないだろう。


 私には彼等を癒す手段なんて皆無だし。


 NPCがりすぽーんしないのは、今や私でも知っている基本だ。

 いずれ、必ず押し切られる筈で。



「あの……ルミエールさまっ!」

「うん?」



 と、ここに来て初めてステラちゃんからお呼びがかかる。



「わたし、ルミエール様のお力は聞き及んでおります! たった一人で任務を受領し、スミレたちを護り。護衛も只の一人も欠けさせる事無く、無事にお送りいただいたと!」

「そう伺っておりますな」

「凄いんですよーー、凄いんですよーー」



 ……うーーん、齟齬(そご)が。

 何故か、実際にあの場に居た筈の人にさえ齟齬が。


 もしかして、依頼上であのクエストを受けたのが私一人だったから、情報としてはそういう風に記録されちゃっているのかな?


 実際の所……。

 落ち武者君達が大暴れして、私は棒立ちしてただけなんだけど。

 これがNPCとPLの齟齬かぁ。


 彼等は、あくまでシステム上の存在だから。

 「クエストを私が完遂した」という記録は持っていても、「どのように私が完遂した」という記録はない。


 所謂、結果ありきなんだろう。

 だから、根拠がなくともここまで信頼してくれている訳で。

 

 緊張と焦燥(しょうすい)、期待。

 多くの感情を交えたステラちゃん。

 冷静であらねばならないフォレストさん。

 のほほんとしたニャニャさん。

 ……後は防衛隊の皆さんを見回した後、何時の間にか籠城戦に巻き込まれていた私は、今一度外を伺いながら尋ねる。



「ここ、どれくらい持ちそうかな。二週―――こっちの時間だから……四週間とか、どう?」

「持って数日、か?」

「それ、ウソ。加勢ないと一日持たないネ」

「我々家臣団が命を賭して二日ほどかと」



 このままだと全滅必至の確認よーし。



「ニャニャさん。私達、中央の教皇庁へ入れたり―――する?」

「無事にたどり着けるのであれば~~」



 マップの解放よーし。



「ステラさまは、リア殿下に会いたいんですよね?」

「はい……!」



 覚悟の確認よーし。


 決まりだ。

 この真っ白なキャンバス。

 何をするかが完全に自由な、オルトゥスというゲームを体現したようなクロニクルに在って。

 私の指針が此処に定まったよ。




「―――……クロニクルの終わりまでステラちゃんを護る。加味して、皇女様にも会えるように動く」

 



「……良いとも。実に良い巡り合わせだ」



 ここに来て、私に冒険運がまわって来たのかもね。

 土産話として、皆があっと驚く大冒険に発展しそうだよ。


 一先ず。

 そろそろ彼等も来る筈だし、懐かしの同窓会と行こう。



「ねぇ、フォレストさん、ステラさま。この状況さ、お仲間が私だけだとちょっと心許ない―――よね?」

「「?」」

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