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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第五章:ハイド編

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幕間:追憶の小旅行(下)




「わぁーー、これぞ宴会場って感じじゃん」

「私達だけなのに、どうしてこんな大宴会するような広い部屋に……」

「逆に、小さい部屋の準備がないんだろ」

「……逆転の発想過ぎるよ」

「……俺ぁ、疲れてるんだ。残りのビックリは明日に回してくれねえか」


「今回は右端の区画だけだね。ほら、卓上の準備されてるあそこ、好きな所に座って良いってさ」



 宴会ムード、ってやつなのかな。

 温泉で疲れと汚れを洗い落とし、食事用のスペースへと通された私達だけど。


 フロアによって分かれている構造で。

 洋風ならパーティ会場。

 和風なら宴会場の様式。

 どちらも一番下の収容人数でこれと、今の私達にはあまりに広いスペースなのは確かなんだけど。

 リラックスできるという点で、私達が選択したのは旅館の様な和風の雰囲気を持った部屋。


 勿論、雰囲気に合わせ浴衣(ゆかた)常備で。

 ゆったりとした装いだと、気持ちまで軽くなって来るよ。



「本当に、良い温泉でした……。流石天然」

「だよねーー。最近の施設のって、ホラ。何か塩素の香りとか強くてさ、後から匂いが気になって来るじゃん? そういうのもなかったし」

「スパだと、どうしてもね」

「七海とかは入れないし、そこら辺全部問題なしなのは流石だよな」

「そ、塩素ダメ~~」



 鼻が良すぎるのも困りものという訳だ。

 温泉の批評を交えつつ、数十人が座れるだろう広い部屋の中で、予約席のように存在する区画へ赴き。


 適当に席どりを決めていくわけなんだけど。



「「……………」」

「みんな?」



 さて……皆、横並びに棒立ち。

 疲れている筈なのに、どうして座ろうとしないのかと考えながらも。

 何かしらの考えがあるんだろうと、私は先に手近な席に腰を掛け……。



「―――勝利」

「です」

「みんな、ビーチフラッグってまだ続いてたっけ」



 と、同時に一斉に。

 彼女等は突発的な椅子取りゲームをしたくなったのか、瞬く間に席どりは決定したようだ。


 両脇はナナミとエナが固め。

 エナの横にスミカちゃんで、男の子組が対面に、と。



「―――まぁ、そんな気はしてたけど……。二人共、もう少しお(しと)やかさとか、さ?」



 あきれ顔で呟くスミカちゃんは、今日一日で苦労人のポジションを確立してしまったみたいで。

 同じく息を吐くユウトが取りなす。



「放って置いた方が良い。早い者勝ちは確かだし、こうなったら梃子(てこ)でも動かん」

「お前もなーー?」

「当たり前みたいに対面に座ったあたり、何も隠しきれてないよ優斗。見損なった」

「このシスコン」

「年上好き」

「薄情」

「人でなし」

「場所代われ」



 けど、彼もまた呆れを買っていたみたいで。

 二人の口から放たれる、怒涛の罵倒にもなんのそのの涼しい顔。

 スルーを決め込んだみたいだ。

 確かに、彼もまたナナミとエナが動き出すのとほぼ同時に私の対面に来てたね。


 ところで、近所のお姉さんは()()()()コンプレックスに入るのかな。

 いたとしても、それは姉を名乗る何かじゃないかな。



「―――流石に、お若いですね。皆様は」

「「佐内さん」」

「えぇ、そのまま。どうぞごゆっくりお寛ぎを。こちらには各種テーブルゲームもご用意しております。夕餉(ゆうげ)が一段落着きましたら、ご利用ください。食事もすぐ参りますので―――あぁ、お先にお飲み物も」

「「……………」」

「すみません、マジ一泊幾らです?」

「―――ルミ先生、本当に良いんですか?」

「大事ない、大事ない」



 今更遠慮なんてしなくていいんだ。

 どうせ、全部向こうが持ってくれるんだからね。


 無職の心得とは、貰えるものは貰っておく厚かましさと聞いたんだ。



「―――月見里様。お久しぶりです。本日のお料理には、こちらがおススメですが」

「貰うとも。この再会を祝して」



 やがて、複数のスタッフさんが飲み物を運んできて。

 私が顔見知りのスタッフさんと話している間に、彼等の前にもジュースが置かれる。


 炭酸、果物系、様々だけど。

 どれも瓶っていうのが良い。

 瓶の飲み物が一番おいしいって言うのは、科学的根拠に基づく結論らしいからね。



「月見里……やまなし?」

「ルミ姉さんの苗字です」

「あ、そっか。時々ルミさんの苗字忘れそうになるんだよな」 

「ゲームやってると互いの苗字もな」



 それはそうかも。

 ユウトは相馬優斗。

 ナナミは菅原七海。

 エナは坂下恵那。

 ショウタ君は中村で、ワタル君が島野……スミカちゃんが姫乃と。 


 覚えているようで、案外怪しいものだ。

 でも、教師としては、生徒の名を覚えていないのは大問題。

 ここは一つ、いついかなる時、酔って思考が乱れてても覚えたままかどうか確認を取らないと……んむ。



「……ん、美味しい。やっぱり独特の甘い香りが良いね」

「ルミねぇ、それ―――おさけ?」

「おさけ。ほら、ナナミ」

「……うーーん! アルコゥゥル!」


 

 ちょっとコップの匂いを嗅いでもらっただけなのに。

 すぐさま渋面を作る少女。


 でも、何でだろ。

 猫のフレーメン反応みたく、嗅いではポカンと口を広げ、嗅いでは広げてを繰り返す。

 ハマっちゃったかな。


 

「うーーん、成程ぅ。やっぱり花の香りするねぇ。ほう……ほう。そして、パイン的なこの芳香は―――多分……黒山峰?」

「おぉ、流石です。この地方の名産、大吟醸黒山峰でご明察ですよ」

「嗅覚はともかく。相変わらず、こういう所だけは変に名前覚えてるな」

「……花の匂い……する?」

「匂いの元は花酵母だね。日本酒には花から抽出された酵母が使われる事も多いんだよ」

「……まだ飲めないし」



 あと数年の辛抱だね。

 成人年齢が18歳になってから随分経つというけど、未だお酒は20歳からだ。



「各々、コップは持ったかな」



 で、焦らし過ぎも良くないし。

 話す時間もある事だから。味見もそこそこに、そろそろ始めさせてもらおうかな。



「では、遅くなってしまったけど、今学期はお疲れ様。九月からも勉強と遊びの両立を求道して頑張ろうね。かんぱーい」

「「カンパーイ!」」




   ◇




「こっちと見せかけてこっち―――と見せかけてこっちかのこっちかな?」



 難しいよ。

 どうすれば、より面白く出来るのか。

 選択肢の限られる二択問題っていうのは、自由度が低いから逆に難しい。



「うーーん……」

「―――あの、ルミ先生? もしかして酔ってます?」

「酔ってない酔ってない」



 あんまり考えるから、そう思われちゃったかな。

 全然酔ってないよ。

 全く酔ってないよ。

 


「……優斗。これ、どうだ?」

「分からん。顔色全く変わらないからな。俺たちの前ではあんまり飲まないんだよこの人」

「表情計測器の優斗でも分からないんだ」



 いつの間にそんな役割を得たんだね、ユウトは。

 私の顔ってそんなに分かりにくいかな。


 まぁ、良いや。

 私は、スミカちゃんの握るトランプの一枚をするりと頂く。

 そう、私はババ抜きの最中だ―――今終わったけど。



「はい、じゃあ一抜けね」

「なんで……? ねぇ、どうしてなんです?」

「教えてやろうか。取られる瞬間だけ意識してもダメなんだよ。この人の場合、始まってからずっと全員の視線と表情見てるからな。誰がジョーカー持ってるかずっと把握してるし、たらい回しだったカードは絶対に見逃さない。だから、すぐ上がる」

「余程運がよくないと、先に一抜けは無理ですね」

「あと、手持ちシャッフルする時は絶対に見えない角度で混ぜないと駄目だよ。入れ替えても意味ないから」

「もうチートじゃん」

「今の考えてた時間って何だったの……?」

「「いかに面白く上がれるか、とか」」

 

 

 はい、正解。



「良いんだよ、ルミねぇが上がるのは想定内だし。次に上がれば実質一位……ほら、恵那のバーン!」



 ナナミもエナも残りカードは僅か。

 でも、実はジョーカーを持っているのはナナミなわけで。


 さて、どう取るか。



「……こちらは?」

「ふん」

「……こっちは?」

「ふふん」



 恐るべきことに。

 ナナミは、カンニングを経てエナの残りカードが何かを把握したうえで、自身の手持ちを二枚と見せかけて、その実バラカードとジョーカーでエナのペアカードをピタリとサンドし、隠しもっていた。

 つまりは、合計四枚。

 エナは己のペアを引こうとしても、タネに気付かなければ前後に重ねられたハズレか大外れのカードを引かされる訳で。



 ……………。



 ……………。



「では、間に挟まっている幻の四枚目を頂きま―――……七海、放してください」

「これはっ、いかさまを使ったに違いない! 分かる訳がない……!」

「ジャンケンの時の復讐です」



 「上がり」、と。

 見事ペアのカードをもぎ取ったエナが二番手で上がる。

 イカサマという点では、ちょっとしたズルをしたのはナナミだけどね。


 ……挟んでも、取る瞬間に違和感でバレるし。

 そもそも作戦が欠陥か。



「……相馬くん。恵那ちゃんは、何で分かるの?」

「邪悪に対しては、人一倍に敏感だからな。悪意をもって引っ掛けようとした時点で七海の負けだ。堂々と勝負するべきだった」

「……どっかで聞いたぞ、その前の方の台詞」

「うん、聞いた。著作権的にどうなの?」

「残念、とっくの昔に切れてる―――上がりだ」



「……三位ぃ」



「あ、上がり」



「僕も上がり……はは。ゴメンね、姫乃さん」


 


「うううぅぅぅ……。皆、ズルい」

((カワイイ))




 スミカちゃん、正直すぎるよ。

 本当に、顔に出やす過ぎる。

 結局ビリになってしまった彼女は、口を尖らせて私達を非難するけど。


 自分が負けた根本的原因が分からないみたいだ。

 さて。もう一回その可愛らしい表情が見たいから、もう一戦。



「じゃあ、次は私がシャッフルするから―――」

「「駄・目・で・す!!」」

「………よよよ」



 酷いよ、皆。

 どうしてそんなに私を邪険にするのかな。



「ルミ先生は一番駄目! 絶対ああしてこうしてとかでイカサマする気ですよね! うまく表現できないけど!」

「カード取り上げろ、何かしらイカサマするぞ、絶対!」

「あぁ、やるぞ。具体的には、配られた段階に全部捨て札で上がろうとするぞ、その人。マジでやる」

「「チートじゃん!」」



 こらこら。

 手品前にネタ晴らしはご法度だよ。



「あの、ルミさん。本当に、どうやったらそんなに何でも出来るようになるんですか?」

「ふふふ……知りたいかい? ワタル君」



 手品はやる前に終わってしまったけど。

 そちらのネタ晴らしがご所望なら、教えてあげよう。

 

 私は、また一口お酒を呷る。 

 頭がぼぅっとして来て、思考が(くりあ)になって……。

 そう、大事なのはこの状態。

 何でも出来てしまいそうな全能感。



「―――そう、この全能感。詰まる所、お酒を飲めば気分が落ち着いて集中出来るっていう事なんだ。実は私が無表情なのも、全部お酒のお陰なんだよ」

「ナ、ナンダッテー」

「オドロキダー」

「……酒飲みの言う事は真に受けるなって言われてるんです」



「もう、ババ抜き終わり! 大人が大人げない!」



 やっぱりこの説明は無理があったかな。 

 私の言葉を話半分に聞いていた皆は、やがてそれが有益な物ではないと理解したか、ジュースをチビチビやりながら雑談をする方向へシフトしたみたいで。

 やがて、久しぶりに商売道具(トランプ)を弄んでいた私もそれに加わる。

 


「―――文化祭。何やるのかな? やっぱり定番の喫茶とか、しちゃうのかな」

「うちのクラスはねぇ……」

「イヤな予感しかしません」



 本当に心配そうな様子で眉を顰めている二人は、果たして何が怖いというんだろうね。

 うちには、とても真面目で良い子たちが揃っているというのに。



「メイド喫茶とか、やらせてきそう。クラス教員参加で」

「メイド」


 

 そういうのもあるのか。

 ゲーム内で結構見てるから、案外面白そうに思えてきたよ。


 ……他の皆の話は―――。



「私だったら、まずは相手の技術に見習えるものがあるかを引き出して。カウンターを狙いたいときは、攻撃を剣の柄で受け止めてから……」

「ふむ、成程」

「……意外過ぎるね。姫乃さんが戦士職なの」

「まずは攻撃を柄で受け止めてるスキルにツッコもうぜ。見たことねえぞ、んな神技。俺が出会ったら取り敢えず神頼み一択だわ」



 スミカちゃん、優斗たちに混ざって議論しているね。

 白兵戦の高揚を楽しいと表現していた彼女らしく、やっぱりそういうロマンが分かるみたいだ。



「神に頼んでも、ロクな事になりません。その前にカミカゼ特攻で行きましょう」

「更に禄でもない事になってる! 逃げた方がマシだろ!」

「お腹真っ黒じゃん」

「神職の家柄なら、もっとマシな意見ないのか?」


「私は神様を信じるのではなく、神様を信じる人たちの信念を信じているんです。神様は見守るだけです、何かしてくれるわけではありません」

「おい」

「仮にも巫女が言って良いの?」

「それより、文化祭の話だよ。お化け屋敷一択! 恵那は妖怪ハラグロー!」

「お化けなんているはずありません。それよりも縁日です。七海は狛犬のコスプレでもやっててください」

「誰がいぬじゃ!」


 

 場が大分混沌としてきたけど。

 まだ話してたんだ、文化祭。

 折衷(せっちゅう)案でお化けコスプレの縁日とか、ダメかなぁ。



「がるるるるっ」

「ぐるるるる」

「……わたし、もう二人の性格に対する考え粉砕だよ。他の子いなくて本当に良かったぁ」



 ―――でも、なんだろうね。


 こうしていると。

 昔の、互いにライバルみたいな関係だった二人を思い出すみたいだよ。


 あの頃は、二人も今より幼くて。

 感情を制御して我慢をするという事が大変だったから、抑えるのも難しくて。

 

 それでも。

 巡り合ったからこそ、二人……三人は、いつも楽しそうだった。 



「絶対にお化け屋敷が良いよ! ね? ルミねぇ!」



『……本当に、私、仲良くなれるの? 皆と、誰かと』

『なれる。君の未来はこれからさ。教えただろう? 呪いなんて、読み方次第。いつでも福音に転じられるんだって』



「絶対に縁日の方が良いに決まってますよ、ね?」



『……あなたの事、信じても―――良いの?』

『良いとも。私は、ずっと三人の味方さ。道を間違ってしまったら、一緒に引き返そう。それなら、きっと怖くないから……ね?』



 ……………。



 ……………。



 私を挟み、捧げるように笑顔を浮かべる二人。


 その表情を肴にくいっと呷る。

 ……酔ってきている証拠だよ。

 本当は、こんなに早いペースはご法度なのに。


 私の二日酔いの症状は、頭痛ではなくダルさに傾く。

 あと、喉の渇きがね。

  

 一つ、水を注いでちびりちびりと……。

 うまい、もう一杯。



「文化祭も良いね。第二クロニクル、……素晴らしいとも。あとは、私には関係ないかもだけど。聞こえた話では、もうちょっとで大迷宮五十層とか、遺跡の話とか? 4th開放なんて噂も囁かれてて。イベントも目白押しだし」



「……後は―――オフ会とか、したいよね」

「「おぉ」」



 二学期からは、どんなイベントが待ってるのかな。

 今から、楽しみになって胸も膨らんで―――む。


 膨れ(でぶっ)てる、飲み過ぎたんだ。

 ご馳走ばっかりなのに、水でお腹が風船なんて。

 やっぱり、お酒を飲むと、お腹がマヒして入り過ぎちゃうからいけないね。




ここ迄のお付き合い、有り難うございます。

最終話はゲーム外での締めが恒例にになりつつありますが、本第五章もこれをもって終了となります。

お急ぎ方は最後の予告だけ見ていただければ……。



……では、あとがきを。

やっぱり、VRゲームの文字起こしって難しいですね。

特に、Lv.とか、スキル○○とかのステータス系画面。

世の作家さんはこれで文章の水増しをすると聞く事がありますが、一度作ったらコピペ出来るとはいえ、正直そのテンプレートを考えて作るのが大変で、沢山書ける人を尊敬したい程です。発想力、本当に凄い。


そして、今章のメインと言えば、二章のクロニクル人魔大戦(仮称)で初登場した謎のプレイヤー暗黒騎士。

その正体は実はクラスメイトだったという事で、今回は彼女「姫乃澄香」ちゃんを中心とした物語となっておりました。

優等生な女の子が、ゲーム内では最強の一角。

凄いっすね。

惜しむらくは、激しい戦闘描写に文章力を追い付かせてあげられない事。


……元々素人文章ですが、その内もう少し読みやすいように一~五章の文に修正を加えたいと思う今日この頃。決して物語自体に影響は与えないつもりですので、その折は適当に流して頂ければ。



最後に、例の如く次回予告を。


次章は、ずばりステップ編。

その名の通り、奇術師は新たなステージへ飛翔。

ふよふよな仲間が加わった主人公の前に新たな試練と、大きな変化が。

頼りの仲間は盗賊団?

更には、アイデンティティに関わる問題浮上!?


第一話、来週更新(希望)



―――是非次章もお付き合いを。

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