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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第五章:ハイド編

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エピローグ:精霊さんとクウォーター




 大精霊祭イベント、数週間続いた【精霊と大きな樹の実】は滞りなく終了し。

 堅実にポイントを獲得した俺たちは、ホームである鉱山都市を離れて通商都市の商業区画、その大通りへ向かっていた。



「便利系アイテムも潤沢、武器も最高……だけど―――トロフィーアイテム……って、誰が交換するん?」

「うーーん……」

「只のオブジェクトグッズだしなぁ」

「拠点に置く……、とか?」

「余ったポイントで交換できるなら良いんだが。何で当然のように各種アイテムより高いんだ?」



 既にめぼしい商品は大方の交換も終了。

 するかしないか迷う判断も終わり。

 

 今話しているのは、議論にさえ上がる筈もない……価値のないアイテム。

 何の効果もないような、只の置物(インテリア)で。

 金メッキが施されたような、よくあるタイプのトロフィーだ。

 イベントに率先して参加するような精力のあるPL達は、当然少しでも戦闘に役立つアイテムや冒険の役に立つ便利系アイテムを取得する筈なので。

 

 副効果など存在していない、何か利用する手段もない置物など。

 誰が欲するかもわからぬアイテムだ。



「置物はさて置き。今回のイベントは実りがありましたね」

「果物狩りだけにね。誰がバナナじゃい」

「……言ってないです。新しい装備も獲得できましたし、暫くは冒険もワクワクも止まりませんね」

「やっぱり、精霊さんが居なかったのは残念だけど……まぁ?」

「元々、大して期待してなかったからなぁ。そもそも、今回で手に入れたって話全然聞かねえし、大体証拠もないような書き込みばっかだしな」

「敢えて証明用に【写真家】は取らないからな。他のPLに撮って貰おうものなら、スクープされて面倒になる」



 宝くじが当たった時のような心境だろう。

 疑心暗鬼になった事で、自慢したいという欲求よりも保守的な考えが勝るのはよくある事だ。


 一時の気持ちで【O&T】の取材を受けようものなら。

 およそ、自由なゲームに支障が出る。



「その辺、将太も大変だったしな」

「……はは。ヨハネスさんめげねェからな」

「でも、コネ的に良いパイプ出来たし……」



「はあああぁぁぁぁぁ―――――ッッッ!!?」

「「……………」」



 思わず、全員で示し合わせたように耳を塞ぐ。

 この瞬間、俺達は現実世界で実際に耳を塞いでいる―――わけではないのだが。


 これは、アレだ。

 ボリューム調整機能の様な物で。

 耳を塞いだ瞬間、環境音など全ての音量が大きく下げられる仕組みとなっている。


 しかし、数秒経って手を離せども。

 どうやら、まだ店中のそれは続いているようで。



「―――――様じゃねえかよッ、どう見ても! 何処が小動物だ! 何処が! 何でお前はいつもいつも―――頭乗せんなッッ!」

「ちゃんと世話するよ? ほら、ふわふわ……ほぉら、明るくなったろう?」

「扱い照明器具!!」

「だって照明係君だし」



 ……………。



 ……………。



 これは、アレだよな。

 いつも通りと言えばいつも通りなんだが。



「まーーたノルドさんに心労が掛かってる、のかな?」

「色々と不憫だよね、あの家主さん」

「可哀想です」

「他人事みたいに言うな。俺たちの所為な場合もあるぞ」

「そもそも、突飛ではあるけどあんまり悪い事してないのが質悪いよね。怒るに怒れないっていうか」



 疫病神と福の神兼任だからなあの人。

 よくよく厄介事を持ってくることと引き換えに、あり得ない程幸運も呼び、店を繁盛させると。


 その分疲労心労もマッハ。

 儲けが出るのは良いが、結局忙しすぎて滅入って店を畳みたくなってくる……と。



「―――……やっぱり疫病神じゃないか? あの座敷童」

「早くいこーよ」



 ともあれ、在宅が確認できたという事で。

 開け放たれた店内へ侵入。

 

 五人で店内を見回し。

 売り場に居ない事を確認すると、自然な足取りでレジ奥の倉庫へ。

 無職の癖に、最近はあり得ない程に外出ばかりだったから、そろそろ連れが欠乏状態だったが。



「ルミねぇ!! やっほーーーい。ダーイブ!」

「遊びに来ました。だーいぶ」

「マスター! 取り敢えずジュース人数分!」

「一つは氷ナシで」



 補給完了。

 これで、また暫くは問題なくなる。


 倉庫兼事務所で座っていたルミねぇを捕捉すると同時に、白兵の間合いへ距離を詰め、彼女に抱き着く女二人。

 店主へふてぶてしく注文を付ける男二人。

 まぁ、いつも通りか。



「―――やぁ、皆。数日ぶりじゃないか」

「来やがったな。お前等」



 だが、ノルドさんまで、まるで普段通りのように反応するのはどうなんだ?

 少しは憤ってもいい所だが。

 或いは、彼女の影響でストレス耐性が高いのか?


 ……ってか仕事は?



「仕事は良いんですか、ノルドさん」

「おう、休憩中よ。店は空いてっから、客が入ってきたらすぐに向かうが―――っとと。ホラ、ブードゥをスムージーにしてみたんだ」

「「わーーい」」  



 準備が良いな、流石に。

 売り物にする前の実験台って所か。

 俺たちは差し出されるままに、ドリンクを飲みながら適当なダダンボールや椅子に腰掛ける。



「イベントお疲れ様です、ルミ姉さん。報酬は何を交換したんですか?」

「む。早速、よく聞いてくれたじゃないか。それはもう素晴らしい物だよ。さあ、皆こっちに」

「お店側……?」

「ズゾゾゾゾ……」

「ゾゾ?」

「ズゾゾーゾ……ゾーゾゾ?」

「そう、こっちさ」



 で、早速今回の話だが―――彼女の言う、素晴らしいもの。


 嫌な予感しかしないな。

 今にルミねぇは俺たちを扇動するように店頭へ。

 そのまま商店の壁付け棚に掛けられた広い絹布を取り去り、その下の物を俺たちに見せつける。



「じゃん。全五種類、木の実型トロフィーコンプリート」

「「……………ゾ」」

「……居たね、交換するような人」


 

 マジか。


 

「ピート型トロフィーでしょ? ピート型トロフィーでしょ? ウイユ型に、ブードゥ型、シークレットのビッグロートストロフィー」

「林檎、バナナ、葡萄……」

「……被ってるし四種しかなくないです?」

「ここにあるのは被っちゃったやつでね。本当は、部屋のインテリアに欲しかったんだ。残りは二階に」



 余り物適当に店に置いてるだけかよ。

 食料品店だから雰囲気には合ってるけどさ。


 それでいいのか店主と。

 俺達は、一斉にノルドさんへ視線を移すも。



「―――まぁ、何だ。くれるって言うから、利用させてもらおうと思ってな。ほら、そのスムージーどうだ?」

「……成程、そういう?」

「トロフィーの周りに完成品を配して……確かに売れそうだな」

「――なぁ、ルミねぇ。ポイント……」

「これを全部集めたら、すっからかんさ」

「ギャンブル中毒です!」

「私達にはダメって言っておいて、自分ばっかり!」

「大人はね、ズルいんだよ。ところで、皆はどんな物々交換を?」



 マジで、まるで意味のないアイテムに報酬ポイントをつぎ込むのは正気の沙汰と思えないが。

 絶対におかしいが。


 この人、本当に何考えてるんだろうな。


 立ち話もなんだと、倉庫へ引っ込みつつ。

 仲間たちは、嬉々として自分たちの戦果を報告していく。



「僕は上級回復アイテムを貰えるだけ。エリクサー症候群に使おうかと」

「使うって言う? ソレ」

「ロートススイーツたっぷり!」

「ふむ………っ」

「霊弓ロートス。今回の報酬ポイント全賭けした、Bランクのイベント入手レア武器です」

「おぉ、強そう」



 特殊状態異常【睡眠】効果付きの弓だな。

 本来、【銃士】の使用武器は読んで字の如く銃の筈なんだが。


 使用自体は出来るとはいえ、何故弓ばかり。

 慣れてしまっている分、タイミングを逸したのかもな。

 テツに造ってもらうって話も、出てはいる筈なんだが……。



「あ、君。乗るのは良いけど、果物ドロボーはダメだよ」

「「………?」」



 俺の思考を他所に。

 倉庫へ入るなり視線を移したルミねぇは、突然その一角に存在する在庫ピートの棚へ声を掛ける。

 ……誰に話してる? 遂に果物と話し始めた?


 視線の先は、棚の頂点。

 お山の大将を気取るかのように存在する黄金のまん丸は……。

 イベントって続いてたか?



「―――なぁ、将太。アトミック、いつの間にセイレイノモドキ出せるようになったんだ?」

「……いや、そもそもアトミック出してねえんだけど」



「「……………」」



 あぁ、紛れもなく、目の錯覚でもなんでもなく。

 そこには、確かに精霊が居た。

 黄色、或いは黄金にも見えるカラーは初めて見る種類であり、その光球は並ぶ食材に擬態している様子でもあった。

 ……訳がわからない。



「紹介がまだだったね。名前は、照明係君。私の新しい仲間さ」

「「ネーミングセンスぅ!」」

「ねェ、もうちょっとどうにかならない? ルミねぇ」

「それ、皆に言われるんだよねぇ。私としては気に入ってるんだけど……さぁ、照明係君。丁度良い感じの舞台に居るんだ。教えたのを、皆さんに見せてあげようか?」


 

「はい、右、左、右~左……」



「ワンツー、ワンツー……そこで一回転、大照明」



 くるり、くるり。

 ……ぺかーー。

 掛け声に合わせるようにして、光の球は踊るように浮遊を続け。

 最後に、一際大きく光る。


 ……芸仕込まれてるし。

 どうやら、本当にルミねぇの使い魔らしいな。



「―――あの子、アトミックよりよっぽどいう事聞いてない?」

「……なして?」

「やっぱ飼い主に似るんだな」



「―――あーーぃ、在庫補充のお時間で……あんだぁ、お前等。まだ倉庫いたのか―――おいッ。だから、頭に乗せんな、ルミエ」

「勝手に乗るんだよ。私の所為じゃないよ?」



 精霊を知っている俺たちでさえ、ここまで複雑に命令を受けている姿を見た事はなかったが。

 拍手と乾いた笑いの中で、倉庫へ入って来たノルドさんの頭へ留まる精霊。


 強面と精霊。

 これまた、何とも珍妙な光景だが。



「何か、仲良さそうっすね」

「おう、なーぜか妙に懐かれてる。やっぱ、妖精種の血のせいかもしれんなぁ」

「……妖精種?」

「あの、何の話ですか?」

「―――ん、ユウトたちにゃ言ってなかったか? 俺、四分の一がエルフなんだよ」



 ……へぇ、初耳だな。

 ノルドさんは、四分の一が―――なんて……?



「「うそぉぉぉぉぉ―――!?」」

「そのゴリゴリな強面で!? 妖精種は無理でしょ!!」

「詐欺じゃん!」

「うるせーな。気にしてんだ」



 エルフってより、どう見てもドワーフキングとかだろ。

 耳も尖がってないし。

 身体もしなやかさとは程遠く。

 何処をどう見れば、エルフ要素が存在するんだ? 



「四分の一……クウォーター……えぇ……? 確かに、果物が秘匿領域産とは聞いてたけど……ゲームじゃあるまいし……こんなエルフって」

「ピザたべたい」

「ハンバーガーたべたい」


 

 現実逃避が過ぎる。

 あと、クウォーターで想像するのそれかよ。



「言っとくが、案外珍しい事じゃねえんだぞ? 他の都市だって、植物とか野菜とか扱ってる店に俺みたいなのがいることはよくある。その辺は専門だからな」

「だよね。果物さいこー」

「……地産野菜のおいしさを広めるためのアンテナショップ的な?」

「―――そういう?」



 日常生活に入り込んでるって事なのか。


 俺たち人間種は、知らないうちに妖精種に侵略されていて。

 日常の中で、まんまと野菜の旨さを教えられて。

 もう、肉には戻れなくなってしまっていた、と。


 ……平和だな。



「―――ごめんくださーい」



「……んじゃ。俺も暇じゃねえから、仕事だ仕事。お前等は、勝手によろしくやっててくれ」

「大丈夫だとも。あ、そろそろ外暗くなるし、客引きいる? 丁度良い子が揃ってるんだけど」



 ハトの次は精霊を食料品店の客引きに使うつもりかよ。

 こういうのは、忙し過ぎても毒。

 良かれと思っているのだろうが、あまりに大繁盛すぎて疫病神の域に入ってんな、コレ。



「引き過ぎて源流干上がるわ。ふざけろ」



 ……ルミねぇの言葉を受け。

 元々の目的である果物の在庫を抱えた彼は、捨て台詞のように一言呟いて店頭へ。


 その姿に。

 何故か、恵那が口元を押えて小さく笑う。



「在庫を抱えて、転倒へ―――ふふふっ。これが抱え落ちですか」

「ぶッッ―――!?」

「店潰れてんじゃん腹黒」

「ブラック過ぎないかな、エナリアさん」



 言いながら、全員でおかしそうに笑いやがって。

 縁起でもなさすぎるぞ、コイツ等。



「あまり虐めないであげて欲しいな。彼のお店がなくなったら、私の寄生先が無くなっちゃうじゃないか」

「……ま、その時はウチに来ればいい。近くに新しいクロニクルが始動するって言うし、すぐ集まって一緒にやれる」

「良い考えですね。……ナナミ、行きましょう」

「……おけ。ちょっとノルッち転ばせて来るわ」

「俺も手伝うか」


「おいコラ」

「待ったまった、接客中だから……!」



 本当に行こうとする三馬鹿を、航と共に止める。

 冗談通じないぞコイツ等。



「ふふ。優しいね、ユウト。でも、今行くべきかを決める先は、そうじゃない」

「……ん。おい、回れ右」

 

「「伺いましょう」」

「ふふふ―――差し当たっては、夏休みを満喫する為の計画なんだけど、何処へ行きたい? 皆は色々考えてたかな」

「「海水浴!!」」

「うん、海水浴だね。そう来なきゃ」



 前々から話自体は出ていたんだが、皆ゲームばかりであまり固まってはいなかったからな。

 この機会に決めようという事なのだろうが。


 どうやら、彼女には既に考えがあるようで。

 ……正直、嫌な予感はする。

 昔から、ルミねぇに任せたイベントは俺達の想像の範疇を超えてくることに定評があるんだよ。 

 実体験でも、年長組に聞いた話でも。



「私からプレゼンするは、プライベートビーチと邸宅付きの避暑地だ」

「……なんて?」

「……あの、ゲームの話してます? 海岸都市あたりの」



 うわ出た。

 所謂、言語は通じても、己の常識から外れ過ぎて理解できないというやつだ。

 この場合、航と将太の反応こそ正解だろう。

 


「一泊で良かったかな。そろそろ邸宅の都合がついたらしいんだけど、来週って空いてるかな?」

「「空いてまーす!」」

「はぁ……、ホンットにこの人……」


「……ねぇ、てーたくって何? プライベートビーチって何? 避暑地ってなに……!?」

「おおおおちつけ、インテリゲンチャ航。……え? あの、それってどういう……?」

「巌さんに相談してね。それならと、色々手を回してくれたんだ。海水浴なら、昔使ってた避暑地で遊ぼうよ」

「「いわおさん」」



 成程……、話がデカくなったわけだ。

 もうダメだろあの一族。


 ルミねぇを甘やかしすぎだ。 



「いわお……巌。どっかで聞いたような―――優斗。誰だ」

「黒川巌さん。うちの学園の理事長。トワさんのお爺さんだな」



 その辺、あんまり知らない生徒多いんだよな。

 俺も知り合いの知り合いみたいな感じで知ってるだけだし。


 まぁ、アレだ。

 ここで重要なのは、何故かその名前が出て、気前のいい発言が飛びまくっている事で。



「……おい、まーーた凄い人出てきたぞ航」

「本当に、どうなってるの?」



 今更ながらに、繋いできた絆がヤバい。


 立場乱用ってレベルじゃねえぞ。

 将太と航の中で、どんどんこの人が何者なのか分からなくなってる気がするな。


 ………こっちも今更か。

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