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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第五章:ハイド編

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第14幕:少女騎士の葛藤




「―――なッ、―――なんですとぉ!?」



「……まさか、そうなるとはな」

「油断してました」



 うん? そこまでかね……?


 今が夏休みとはいえ、実は彼等生徒らは油断できない。

 何故ならば、進学校である柴が咲高校には、登校日という学生諸君には面倒な物が存在しているからだ。


 朝、私が登校……出勤して、教室へ入ると。

 ユウトたちに囲まれ。

 一斉にクエストのお誘いを受けたわけだけど。

 今回の演目は【大精霊祭】という名前のお祭りイベントらしく。



 ……………。



 ……………。



 うん。

 既に先約があるんだよねぇ。



「――そういう訳だからね。今回は、ギルドメンバーの皆で楽しんでくると良いよ」

「えぇーー」

「ぶーぶー、です」

「――ははは……。でも、ハクロさんはともかく、妖精都市で出会った子って……」

「マジで陽キャ過ぎだろ、ルミさん。どういうフットワークしてたらそんなに友達三昧な遊び方になるんすか?」

「幸福の秘訣は、自然体である事さ」


「ぐぬぬぅ……休みに入ったら沢山遊んでもらうからねッ!!」 

「逃がしませんよ」



 今回は随分諦めが早いと思ったけど。

 成程、これは。

 先んじて高い交渉条件を設定する事で、次点の目的をそっくり手に入れるというよくある手段を使って来たと。

 向こうも中々考えてるじゃないか。



「おい、ルミねぇ教師……」

「だよね。長期休暇も忙しいんじゃないかな?」


「あ、それは大丈夫だよ」



 それ自体は問題ない。

 だって私、正式な教員じゃないから。


 本職じゃないし。

 昔はこういう役職とか、公務員への締め付けが強かったと聞くけど、現代の教育法令は緩ーくなってるからね。

 お仕事は、意外なほどに少ないんだよ。


 その分、皆から頼まれた事のお手伝いとか、次学期の行事への準備とか。

 お悩み相談とかは頼まれてるけど。

 皆と遊ぶ時間に関しては、問題ない筈だ。



「……そうか。そう来るとなると――ライバル、だな」

「そうなるね。……ぁ、ところで。今更なんだけど。皆のお友達には、今私が秘匿領域に居る事は内緒にしていて欲しいんだ」

「………? なして?」

「本当に今更じゃないか? ……友達っていうと……向こうも、こっちでも?」

「そ。どっちも」



 五人には意味不明だろうけど、予防線なんだ。



「もしかして、指名手配の手が伸びて来てたりします?」

「うん。そうかも」

「絶対に違うって事は分かるね、ソレ」

「……いや。あるかもしれんぞ、航。いま向こうで海賊コスチュームが大人気って聞いたしな」

 


 向こうの住民さん達には、早く海賊貴公子の事は忘れて欲しいんだ。

 海岸都市へ観光に行けないじゃないか。


 男の子三人の冗談へ適当に相槌を打っていると。

 さて、何を企んでいるのやら。

 ヒソヒソと何かを相談するようにしていたナナミとエナが、くるりとこちらを向く。



「では。その件を喧伝(けんでん)しない代わりに。ゲーム内と現実で、それぞれ二日の拘束権を要求します」

「要求しまーす。遊んでくださーい」

「良いとも」



 これ幸いと、夏休みの予定を組むつもりだろう。

 ナナミとエナのチョイス。

 私も楽しみだね。


 八月に入ったら。

 海に行って、花火大会に行って、お祭りと、水菓子、あとカレーも食べて……。



「……くそっ、その手が――交渉チャンスが。男の夢が……、ルミさんの水着選びが……!」

「あれで良いだろ。二人はショッピングセンター(SC)の方で随分と楽しんで来たみたいだしな」

「「……………」」

「……時価、だったか?」

「――あははは……」

「うい、仰る通りでぇ。……うんまかったぁぁ……」

「旨いだろうな、マスターが変わりなければ。暫く行ってなかったし。俺も行きたいな、あの喫茶」



 当時の優斗たちはまだまだ小さかったからね。

 私達年長組が連れて行ってたから、それがなくなって疎遠になっちゃったのは仕方がないさ。


 そうして、話が一段落し。

 今だ早い時間な朝の教室へ、生徒がまばらにやってき始めた頃。



「―――ふぁ……んっ……。おはよー、みんな」

「おはー」

「よっ」

「眠そうだね、すみちゃん。今朝のニュース見たぁ?」

「……えーーと」



 開け放たれたドアを潜ってやってくるのは、クラスでも女子の中心に居るスミカちゃん。

 ちょっと寝不足気味かな。


 でも、すぐさま女友達に囲まれて楽しそうだよ。

 ここは、頃合いを見て……。



「―――やぁ、スミカちゃん。おはよ」

「……ルミ先生?」

「うん。私だけど、どうかした?」

「……―――あーー、いえ。おはようございます」



 何だと思ったんだろうね。

 通学路に私のそっくりさんか、ドッペルゲンガーさんでも居たのかな。



「―――お? ……お、来た来たァ! 公式情報、秘匿領域妖精都市にてイベントクエスト【大精霊祭】が開催決定」

「……確かに。イベントは七月三十日から開催、と」

「明後日じゃん!!」

「急な話ですね。急いで開催地の下見を……」


 

 携帯が手放せない現代学生諸君。

 絶えず画面とにらめっこしていたショウタ君は、どうやらオルトゥスの公式サイトを閲覧していたみたいで。

 

 案外急な日程だ。

 でも、オルトゥスでは毎週何処かしらの都市でイベントクエストがやってるみたいだし。

 その一つと考えれば、こんなモノなのかな。



「……………」

「スミカちゃん、どうかしたのかい?」

「……ぁ、いえ。何でも……ない、です」



 可愛らしいね。

 本当は会話に入りたくて、ウズウズしているんだろうに。


 彼女もまた、同じゲームをやっている身で。

 時たま五人の会話に参加して聞き手に回っていることが多い印象だけど。


 何でか、これ迄自分の事はあまり話さなかった。

 ユウトたちも皆いい子だから、事情があるのだろうと無理には聞かなかったみたいだけど。


 しかし、その原因を探るのが私の今回のミッションで。

 さぁ、全部見せちゃおうね。



「……じーー」

「あの」

「じーー」

「口で言うのってどうなんですか? なにか付いてます?」

「シミ一つない可愛い顔、寝癖もない奇麗な黒髪だよ」

「……有り難うございます。……―――そ、そういえば――ルミ先生って、最近はオルトゥスで何やってるんですか?」

「んう? 私かい……?」



 ……………。



「最近は鉱山都市にある迷宮っていうのを一日覗いてたんだ。悟りをひらけないかなっていうのと……あと、ほら。深淵を何とやらって」

「……成程? 迷宮って、やっぱり魔物が強いんですかね」

「そうだねぇ……。中々かなぁ」



 ふふんと鼻を鳴らすけど。


 私が一回だけ内部へ行った時は、終始守ってもらってたんだよねぇ。

 実際、下層へ行く程強いんだろうけど。


 未だ底は見えないというし。

 やっぱり、「えんどこんてんつ」というものなのかもしれないよ。



「スミカちゃんは、調子どう? 何か強い魔物見つけた?」

「わたし、は――えぇと……ぁ、そうですね。確か、スウグ……っていう感じの名前の魔物がそこそこ強かったですかね」



 おや……?


 その辺は言うんだ。

 てっきり、全部ぼかされちゃうと思ってたんだけど。



「――スウグ、ね……」

「知ってるんですか?」

「……あぁ、うん、知ってる知ってる。この前食べたよ」

「ルミ先生?」



 む、いけないな。

 私はこういう誰も喜ばない嘘が余りに下手なんだ。



「コホン。……ともあれ、スミカちゃんの成績に関しては全く言う事がないからね。お互い、休みはゲームを頑張ろうか」

「はい、全力で楽しみます。ところでお仕事は大丈夫ですか?」

「ノープロブレム」


「――ねぇ、さっきからなに二人だけではなしてんのさ」

「ゲームの話なら僕達も一緒に話して大丈夫ですか?」



 話が長引いたかな。

 そろそろ、皆の関心がこちらに向いたようで。


 やましい物でなし。

 勿論、一緒に話して大丈夫だとも。



「勿論良いとも。夏休み中の勉強会開催の話だけど、大丈夫だったかな」

「「ノーセンキュ!」」




   ◇




『じゃぁ、ここは。その大精霊祭、この三人で参加しよっか?』

『『おぉーー』』




 ……………。



 ……………。



 おぉっー! 

 ……じゃないよーーっ!!


 私、完全に任務の事忘れてるじゃんっ!

 大精霊について調べるのは良いけど、それって絶対一人行動の方が良かったじゃん!


 午前だけあった授業が終わって。

 帰宅した部屋の中。

 立派なVR機材が傍らに存在するベッドの上で顔を埋めて、思わず足をバタバタするけど。

 本当に、もう何度目の問答だろコレ。


 約束からあれよあれよと数日が経ち。

 登校日すら挟んでおいて。


 結局答えは出なかったし。


 偵察はどうしたの? 任務はどうしたの?

 同族からの襲撃って明らかな異常事態まで受けたのに、どうしてこんな事になってるの……!?

 


「うぅ……、どうしよう……」



 任務の途中で王都へ帰るわけにもいかないし。

 ルミエールさん達に迷惑かけたくないし……。


 足をバタバタさせながら。

 どうすべきか考えるけど。

 うまい案なんて、考え付く筈がないんだよね。



「約束、しちゃったんだから。もう、後戻りなんて出来ないよぉ……」



 こんな調子じゃ、先行きには不安しかないけど。

 楽しんでこそのゲームだって、そう言ってたし。


 優柔不断な自分に呆れつつも。

 約束の時間へ刻限が進む中で、覚悟を決めた私は冷房を調整してからゲームのスイッチを起動する。




 ―――やっぱり、他人の空似だったんだよね……。

 



 ―――それにしても、似過ぎだけど……。




 ……………。


 

 ……………。



 そして、体感数秒しないうちに。

 私は、妖精都市の大通りにある宿屋のベッドで目覚めて。

 立ち上がり、簡単に準備を整える。

 向かう先は、パンフレットにも載っていた妖精都市最大の名所【世迷いの森】だね。


 

「世迷いの森は、秘匿領域固有種である【ロートス】の樹木が群生する森林地帯。悪心を持つ者が入ると、二度と出ることは叶わない……精霊様達が住む幻想の森。―――ロートスの果実は幻の味……果実……!」



 ……まぁ、味はともかく。

 精霊さんの姿とかはよく分からないけど。

 ルミエールさん達に曰く、ふわふわのほわほわらしくて……全然わからない。


 私の先行きみたく。

 分からない事だらけけど。


 今、確かなのは。



「………うん。やっぱり――強い人が、多いね」


 

 このイベントクエストは、どうやら多くのPLに目星を付けられているらしくて。

 ワイワイと賑やかな一帯。


 精霊さんは、何でも契約(テイム)が可能らしくて、しかも凄く希少らしいから。

 やっぱり、皆が欲しいのかな。

 当日になってすら、未だベールに包まれたイベント内容。

 いくら名前が示唆されているとはいえ、本当に仲間に出来るのかどうかは分からないけど。


 ……私の二次職【鑑定家】の鑑定スキルはLv.3。

 決して高くはないけど。

 それでも、明らかな実力者のプレイヤーがあちこちにいるのは分かって。


 これ、TPって人たちだよね?

 【妖精種】以外で秘匿領域へ来られる人たちは、皆強いってルミエールさん(本人除く)が言ってたけど。

 

 ……何でだろ。

 やっぱり心が躍って、凄く楽しくなってくる。



 ……………。



 ……………。



「―――戦闘イベントなのかは分からないけど……うん、そうだよね」



 もしも、彼等と戦えると言うのなら。

 思いっきり、全力で戦ってあげよう。

 だって、私は冥国四騎士の一人―――暗黒騎士ヴァディス・クウォなんだから。

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