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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第五章:ハイド編

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第13幕:精霊のおまつり




「―――いやはや。すまなかったね? 途中で居なくなっちゃって」



 規律や治安などあったものではない都市外で当然(りふじん)かつ順当(なぞ)な襲撃を受け、一瞬のうちに吹き飛ばされてしまった事で。

 私は順当に妖精都市へ転送されて。

 そのまま都市から出れずに立ち往生していたわけだけど。 


 こちらの姿を認め。

 手を振り近付いてくる二人。

 街道の向こうから戻って来た彼女等は、すこぶる元気らしく。

 先程より明らかに仲良くなっていた二人へ、私は取り敢えずはと第一声で謝罪を告げる。



「あの――いや、それはルミエールさんの所為じゃないですし……有り難うございます」



 危険なティーパーティーを企画したのも誘ったのも私なんだから、罵声の一つも当然と思ってたんだけど。

 後半の感謝は……。

 庇ったことに対してかな。



「お礼を言われる事なんてしてないよ」

「……それでも、です」

「そっか。でも、私に出来るのはアレくらいだからね。無事に帰ってきてくれたし、仇も取ってくれたのならこれ以上の収穫なんて無いさ」



 ところで。



「クオンちゃん。なにか、少し吹っ切れた?」

「………! ――はい……!」



 それは良い。

 何故そうなったのかは分からないけど、この結果が目の前にあるのだから手放しに喜ぶべきだ。

 今の所、彼女の悩みを如何にかするのが私の方針だし。

 それが少しでも解消されているのは素晴らしい事。


 ……それを成したのは。

 恐らく、もう一人の女の子で――……彼女はどうだろうか。


 彼女もまた、今までとは一味違うみたいだね。 



「ハクロちゃんも、ね?」

「ん、成長した」



 それを自覚できているのが最高の成長さ。

 シティクエストが発生する前までの彼女なら、出会い頭にまず飛び込んできたはずだし。

 まるで、子供の成長を喜ぶ親の様な心境……。


 

「でもハグはするのね」

「ん。我慢した」


 

 成長の余地を残すのも良い事さ。

 正面からゆっくりと感じるのは、小さな温もり。

 頑張った子にはちゃんとご褒美をあげるのもまた方針ゆえ、受け入れるけど。

 クオンちゃんの前だし。


 多少は自重も……おや。



「……………」



 もっと白い目かと思ったけど。

 中々どうして、羨望の籠った何かを感じるね。


 可愛い物も好きみたいだし。

 羨ましいとかかな。 



「クオンちゃんもする?」

「……うぅ……、ぅーー……っ!! 遠慮、します……ッ」

「そんな苦渋の決断みたいに」



 

  ◇




「ほう、ほう。それは凄い」



 感動の再会の後。

 私が消えた後の顛末(てんまつ)を聞きたかったこともあって、取り敢えずと私達は三人でベンチに腰かけて話を始めたわけだけど。

 睨んだ通り、自分の目で確かめた通り。

 二人は、本当に流石だよ。

 


「秘匿領域まで来られる実力のあるPLを相手に、五対三の状況。それも徹底的に前衛向けの構成で対策されたうえで逆転勝利なんて。本当に凄いね」

「五対二だぞ」

「――ハクロちゃん」



 数合わせにさえさせてもらえないなんて、凄い足手纏いが居たものだね。

 でも、良いのさクオンちゃん。

 


「うん、まさしくその通りだ。訂正しようか」

「……良いんだ」

「お気づきの通りでね。今更というものだけど、何を隠そう。私は戦闘力皆無で貧弱この上ない無職さんなんだよ」




「……ねぇ。ハクロちゃん。ムショクって?」

「何の仕事もしてない人だ。しらないのか?」

「初耳なんだけど―――ぇ? 私の中のルミエールさんのイメージががが……」



 最も背の低い少女を真ん中に、それを挟んで座る私達。

 隣同士でずっと話されると、端に座る私は手持ち無沙汰になるけど。


 そんな事がどうでも良くなる異常事態だね。


 これはしたり。

 沢山一緒に遊んでおいて最低限の自己紹介すらまだだったなんて、恥ずかしい限りで。

 

 私は思い立ってベンチを離れる。



「さて―――――“小鳩召喚”」

「お。白黒だ」

「……これ、さっきの……?」

「では、美しき御嬢様。改めまして自己紹介を。私はルミエール。帝国商業都市に本拠を置く無職の道化師です」



 片手を横へ広げて仰々しく。

 不格好なまでに腰を折って死角を作り、胸に当てていたもう一方の手指でステータスパネルを操作。

 外装備(みため)を素早く変更。

 二度目からは呼び出した眷属君達が視界を遮る一瞬の間に操作し。


 くるり、くるり。


 初期装備、旅装、ドレス、海賊衣装、メイド服。

 まさしく七変化するコレクション。

 自然体で次々と変わりゆく私の姿に、彼女は呼び出した白黒(ぶち)ハト君(出現率15%)の体色みたく目を白黒させる。

 


「―――無職……道化師――無職……?」



 あぁ……そんな奇異なものを見る目で。

 クオンちゃんは感情を目で表現するのが得意みたいだね。


 得意というか癖というか。

 見る人が見れば、すぐにその時の感情が当てられるだろう素直さ……実に純粋な女の子だ。


 こんなに()()()()()()、素直で優しい子。

 現実でもゲームでもそうはいないだろうね。



「道化師。それは世界(オルトゥス)を騙し、起源(オルトゥス)を究明する者さ」

「……………うーん?」

「簡単に言えば手品師なんだけどね。どれ。手始めに、クオンちゃんの気分でも当ててあげよう。――実は、今から街道を征くって気分でもなくなってるんじゃないかな?」

「……あ、それは……その」



 皆迄言わなくて良い、初歩的な事さ。



「これが道化師の力。世界を見通す力さ。そしてハクロちゃんは――ふむ。甘い物が食べたいね?」

「ん、ケーキおかわり」

「さては、桃のケーキが食べたいね?」

「お見通しだぁ……」

「いや、それさっきのシャルロットが引いてるだけ……」



 ハクロちゃんもクオンちゃんも、二人共甘党だからね。

 折角のパーティーがあんな締めで終了しちゃったから、未だスイーツフラストレーションが満たされていないと考察しているんだ。

 そんな状態で危険な都市外だなんて、とてもとても……よいしょと。


 旅装に着替えてベンチへと腰かけつつ。

 私は今の寸劇への感想を聞いてみる。



「どうだい? 私の力は」

「……凄いのか凄くないのか分からなくなってきました。ルミエールさん、本当に何処までが本気なんですか?」

「うーん、内緒」

「うぅ~~」

「本当の事しか言わないかもしれないし、全て口から出まかせかもしれない。誰でも分かる事を仰々しく、最もらしく言うのも道化師の仕事みたいなものなんだ。済まないね」



 ケーキの事を思い出したのか、お腹を押さえているハクロちゃんを挟んで座りつつ。

 繰り返される幾つかの問答。

 のらりくらりと躱しつつ、クオンちゃんから懐疑的な視線を受けつつ。


 ほんの僅かな時間が経ち。


 そろそろ移動するかなと。

 私は再びベンチから立ち上がる。

 


「良し。では、こうしよう。ここは予定を変更という事で、今からお茶会……」

「――Hey、そこな別嬪(べっぴん)さんたち」



 ……んう?

 陽気かつ理知的な声に後ろを振り向くと、視界に入るはワタル君が着ているような燕尾服に近い黒地。

 中々洒落た服装だけど。


 NPCさんだね。

 背後から声を掛けてきたのは、エルフなNPCさんだ。



「寒空の下で長話というのもなんです。お茶でも如何でしょうか?」

「お茶かい? いいタイミングだね。丁度お店を探そうとしてたんだ」

「おぉ! 奇遇ですねそれは」


「もう! ルミエールさん……ッ!!」

「―――ルミ? ケーキ食べに行くのか?」

「ハクロちゃんまで……!」



 これは僥倖だとも。

 NPCさんともなれば、街の事には非常に詳しい筈。

 なれば、隠れた名店も流行りの新規店舗も何でもござれさ。 



「やっぱりそうだよ……! 最初に会った時もそうだったし……本当にのほほんとしていて……アレだよ。凄くアレだよ。この二人、危機管理能力がまるでなっていない……!」

「聞こえてるよー」


 

 クオンちゃんはお堅いね。

 こういう場では、少しくらい冒険するのが新しい発見に繋がるのに。



「――ところで、なんだけど。お兄さん? 私達、遂最近エデンに来たんだけど。この周辺で何か良い感じのイベントやクエストは無いかい?」

「くえすと、とは……あぁ。依頼の事ですね。成程、見目麗しい貴女がたは異訪者でしたか。なれば……フムぅ?」



 私の言葉に、首を捻って考え始めるエルフの男性。

 これはフラグが立ったかな。


 この世界。

 NPCさんは多けれど。

 当然、一人一人がクエストの発動条件(フラグ)を持っている訳じゃないだろう。

 

 そして、私の浅い経験に照らし合わせれば。

 そういうのは、大抵自分から積極的に話しかけてくれるNPCさんとか、重要な役職に就いている人が依頼して来るものだから。

 こうして話しかけてきた彼に。


 或いはと、聞いてみたけど……。



「では、くえすとという訳ではありませんが。大精霊祭など如何ですか?」

「ほう」

「……………え!?」



 さぁ、新規情報の登場だ。


 

「「大精霊祭」」

「だいせいれい―――あの。そ、それって……?」

「えぇ。ここ最近、何らかの要因なのか、異訪者の方々がこの地に訪れる事が増えておりましてね。それに合わせて開催される方針になったのですよ」



 ―――――大精霊祭。

 彼に曰く、それは都市のお祭り……お楽しみイベント。

 所謂交流祭のようなモノらしく。

 同じ種族ではあるけど、ちょっとした生活の差がある部族間の取引に関する交換レートの決定とか、法律の制定だとかを司っていた場らしい。


 でも、今日。

 異種族が流入した妖精都市は大きく様変わりしたから。

 出来るだけ彼等との融和を図っていきたいという方針を取っているエルフさん達はそれに合わせてお祭りを改革。

 どんな種族の人でも楽しめるように整備された現在のイベントになったと。



「そして、これは歴史の御話なのですが。そもそもこの祭りの起源は、我らが信仰する精霊と呼ばれる種族へ。或いはその長である大精霊様へと各氏族の代表が集まり森の恵みを供え、次の年の恵みを祈る物でした。彼等精霊様は、裁定者。精霊様がたの御前、清廉と潔白の元に腹を割って話すのです」



 狩猟民族が狩りの成功を祝って神様へ捧げものをするように。

 農耕民が豊作を祈って捧げものをするように。

 博物館のジオラマでも見たけど、彼等エルフもまた同じような歴史を重ねている訳で。


 古くから続く、大事なお祭りという訳だ。



「でも、どうしてそれが異訪者に合わせて?」

「………それは」



 些細な質問のつもりだったけど。

 ここに来て、それまで雄弁に語ってくれたエルフさんの歯切れがやや悪くなる。



「わるいはなし?」

「暗い話題かな」

「いえ、その様な事は―――えぇ、悪い事ではないのです。……ここだけの話なのですが」



 周辺の住民を警戒して声を潜めつつ。

 彼は、説明してくれる。


 大精霊祭……当然、名の通り。

 このイベントでは、公の場に多くの精霊さんが現れてくれるらしくて。


 しかし彼等は、悪心ある者に姿を見せたがらない。

 付いて行かないという特徴があると。


 ……成程。

 つまりはそういう事、今回のイベントの世界感的な肝は。



「――この方針は遂最近、ここ数週間の間に氏族議会で採択されたものです。……都市政府は、見極めたいのでしょう」

「今回の件で、私達がどのような存在なのかを試そう……と?」

「そのような意図があるのやもしれません」

「「なるほど」」


「つまり、精霊さんに私達を見て貰って」

「異訪者を測ろう……と」

「あくまで私共市井(しせい)の噂、憶測ですが。そういう事らしいですね」



 突然別世界から来訪者が流れ込んで来たら、疑心を抱くのも当然の事だからね。

 古来から伝わる方法で見極めようというのも当然の考えか。


 とは言え、私たちも千差万別。

 色々な性格や質があるからね。


 彼等の思い通りになるかは怪しい所で。

 異訪者とある程度の関わりがあるのなら、彼等もそれを理解しているだろうし……或いは、他にも思惑と言うべきものが存在する?


 ……ふむ、疑問だ。



「―――あ。じゃあ、話し合いながらお茶でも飲もうか。エルフさん、三名様ご入店で大丈夫かな?」

「えぇ! 有り難うございます、店舗はあちらです」

「……ぇ――え? ――あ。この人、お店の店員さんだったんだ」

「らしいね」

「クオン、何だと思ったんだ?」

「……………あははっ」



 スーツの胸ポケットにはロゴみたいなのも付いてるし。

 よく見たら制服だからね。


 もしかしたら()()()()()()かもしれないけど。

 このゲームってかなり健全だし。

 NPCさんがナンパとかするのは全然見た事ないし、当初考えたクエストのフラグという訳でもないみたいだったから、お客さんを探していたと考える方が自然だったのさ。


 ……客引きも風営法で禁止されてるけど。

 ここ、オルトゥス。

 治外法権ね。



 ……………。



 ……………。




「ご注文はお揃いで宜しいですか?」

「うん、全部だね」

「有り難うございます。では、ごゆっくりどうぞ」



「……モモ、なかった」

「そういう事もある。時には妥協も冒険の一つさ。そのデコレーションケーキも美味しそうだね」

「はい。どれも美味しそうで迷っちゃいました。……シャルロット」



 思えば、少ししか食べられなかったんだ。

 ピューリのシャルルート、また作ってもらおうね。

 

 話が弾むお茶の席。

 話題は当然、先程の大精霊祭とやらになるけど。


 ……幾らか話が進んで。

 注文が運ばれてくる頃、ケーキを頬張ったクオンちゃんが思い出したように言う。



「……んむ。そういえば、ルミエールさん。前に友達が精霊を使役してるって言ってました?」

「うん。言ったね、そんな事」

「ん、ショウだ。ふわふわだぞ」

「……………ふわふわ――ショウ……さんが? ……女性なのかな」



 あ、会話噛み合ってない。

 このままではショウタ君が「ねかま」というのにされてしまうよ。



「ふわふわでほわほわなのは精霊さんの方だね。使役しているのがPLネームショウっていう男の子なんだ」

「あぁ、そういう事」

「因みに精霊さんはアトミックって言うんだ」


「……爆発しそう」

「ん、するかも」



 怪しい所だね。

 どっちかというと、いつも爆発しているのは使役者の方だけど。



「それで――どうします? このイベント、近くにやると思うんですけど……あの。二人は、友達と参加したりだとかは……」

「私とハクロちゃんは完全ソロプレイヤーだからね。あちら――友人たちが来て欲しいって言ってくれればだけど、先約があれば丁重に断るさ」


「ん、ソロ。ルミが行かないなら行かない」

「……そっか。ハクロちゃんも――あぇ? 今更だけど、どうして二人でパーティー組まないんですか?」

「色々あってね」

「ん、色々。爆発する」

「――ねぇ、さっきから爆発多くないかなぁ?」



 気の所為さ。



「……でも。精霊は会いたいな」



 B級映画並みに爆発という単語が頻発する中。

 ストローで無くなりかけのジュースを啜っていたハクロちゃんが呟く。



「ほう? その心は」

「ふわふわ」

 


 成程、ふわふわ大好きハクロちゃんだね。

 クオンちゃんも頷いてるし。



「私も見てみたいです、精霊さん」

「クオンちゃんは参加したい。ハクロちゃんも興味津々……と。なら、話はとても簡単じゃないか」



 交わされる視線。

 どうやら、二人も同じことを考え付いたようで。



「じゃぁ、ここは。その大精霊祭、この三人で参加しよっか?」

「「おぉーー」」



 ふわふわ効果かな。

 二つ返事どころか、纏まるのが早過ぎる気がするよ。

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