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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第五章:ハイド編

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第11幕:恐ろしく強いよ彼女ら




「―――可愛い! ハクロちゃん可愛いっ!!」



 可愛いよね。

 身体が小さくとも、これで目立たない訳があるかと言わんばかりに輝く白銀の髪。

 素晴らしく庇護欲をそそる半眼の赤い瞳。


 まんまるほっぺはモチモチだし。

 肌は雪化粧もかくやの滑らかさ。

 その上、機能性を優先するあまりに装備は隠しステータス【重量】が殆どない布製だしで。


 硬質で冷たい金属もなく。


 或いは、「一思いにやってしまえ」と。

 自分から誘っているのでは――なんて相手に錯覚させる小さな大剣士は。

 可愛いもの好きなら思わず抱き締めてしまうだろう可憐さ。


 それを咎める事は出来ない。


 でも、ちょっと待っただよ。



「苦しい……苦しい……」

「モチモチ……!」

「るみ……くるしい……るみ……」



 お助けが入ったね。

 音声だけ聞くとまるで私がやってるみたいなのはアレだけど、助けてあげなきゃ。

 至近距離の声さえ聞こえぬ程に興奮するクオンちゃんを刺激しないように近付きつつ、後ろから彼女の肩を優しくたたく。



「クオンちゃん、クオンちゃん?」

「――え?」

「……くるしい」

「……ぁ」

「………くるしい」

「―――ごっ、ごめんっ! ……ゴメンね?」

「……ん」



 ゲーム内だから、別に危なくなんてないだろうと思うだろうけど。

 実際、不思議な感覚なんだよコレ。

 苦しいけど苦しくないっていうか。


 普通に水とかは入れるけど。

 やっぱり、頭まで浸かってると次第に生理的な拒絶が大きくなって、耐えきれずに出ちゃうような感じだし。


 よしんばそれを我慢できても。

 ある時を境にして、体力も当然に減り続けて死んじゃうから。


 そういうのが嫌な人は、長く息の続くらしい魚人さんとかがお薦めらしいね。

 何故か、転生する人は皆無らしいけど。



「―――話を戻そうか。さっき紹介した通り、クオンちゃんも普段は一人で遊んでるらしくてね。戦闘に重きを置いてるから、前々からハクロちゃんと引き合わせたかったんだ」

「……強い?」

「私の見立てだと、かなり」

「おーー」



 今は、丁度自己紹介を終えた所で。


 何度か一緒に遊んで。

 二人と交互に遊ぶように、複雑な予定を組んでいるうちに、思ったんだよ。

 

 やっぱり気が合いそうだなって。


 普通、共通の友人だからって、友達同士を無理やり引き合わせるのは良くないけど。

 私が居なくても仲良くなれそうなら別。


 ハクロちゃんは常に友達を欲しがっているし。

 クオンちゃんも刺激と冒険を欲している。

 だから、丁度良い。



「うん、うん。良いライバルになれそう、かな」

「……あの、ルミエールさん? その言い方だと、私がハクロちゃんと戦いたいみたいに聞こえるんだけど」

「戦いたいのか?」

「違くてね?」



 で、クオンちゃんの実力だけど。


 彼女は正統派の剣士で。

 剣の技量は多分ユウトと同等以上。

 この多分という予測は、私の中で戦闘力の基準があの五人というのもあるけど。

 私が余りに弱すぎて、相手の正確な実力がまるで測れない事に起因するんだ。


 これは、痛みとか想像力……機械の計測と同じで。

 最高値を10として、相手が11でも100でも、違いが分からないのと同じ。

 全部エラーという事だね。

 で、彼女は同時に魔法もある程度扱える事から、私自身は戦士系3rdの【魔剣士】だと睨んでいる。


 これもユウトと同じで。

 白兵も魔法もいける口。

 その為、ソロな人たちにもポピュラーな職といえるけど。

 役職的な攻撃力はちょっと低めらしい、ある種バランスの取れた前衛だ。



「うーん。確かに戦うのは好きだけど……あんまり大々的に戦いたくはないというか……。あと、ハクロちゃんを倒すのは……ちょっと―――うぅ~~ん……?」

「ハクロ、負けないぞ」

「うぅ~~ん……」



 私は知ってるから良いけど。

 初対面で戸惑うクオンちゃんから見れば、身体に不釣り合いな大剣を背負うハクロちゃんはどう見ても戦いの素人なんだろうね。


 だって、明らかに装備選択を間違えてるから。


 筋力を超える要求値の武器然り。

 使用可能な職じゃない装備然り。

 ステータスに大幅な下方修正が入ったりだとか、根本的に装備できないとかがあるあるなこのゲームシステムを理解していれば、この小さな大剣士は冗談に見える存在で。


 ……しかし、彼女は【剣聖】

 剣のカテゴリに属する武器なら、要求値などの装備条件、体格の制限、戦闘における使用条件を完全無視できるイレギュラー。


 私が出会った中では、最強のPLなんだ。



「ふふふ。強いよ……彼女は」

「……………」

「ん、強い」

「……そっか。なら……ううん、ゴメン。ちょっと考えすぎちゃった。改めて宜しくね? ハクロちゃん」

「ん。クオン、よろしく」



 清らかな優しい笑みで手を差し出す少女と、何の不満も表現せずその手を握る少女。

 クオンちゃんもソロPLらしいけど、実は誰かと遊ぶのも好きっていうハクロちゃんとの共通点に運命を感じちゃったんだ。

 2人なら仲良くできるよ、絶対。



 ……………。



 ……………。



『ルミエールさん! この店とかどうですか!』

『ふむ、創作クレープ』



『ルミ、あの店が良いぞ』

『ふむ。創作クレープ』



『―――ぁ、あれ……!』

『んう? 何か気になるお店でも――【ゴブリンズヴェルンド】エデン支店……ヴェルンドって……鍛冶師? あぁ、武器屋さんなんだコレ』



『――ん。ここ』

『あぁ、此処ね』

『来たことあるのか?』

「うん、武器屋だよね。少し前にちらっと覗いたんだ」

「……ルミが?」



 ……………。


 

 ……………。



 だって、習性も似通ってるし。

 同じ通りを通った場合、目を留める物の系列が姉妹の遺伝子適合率単位で一致するし。

 


「それで……今日の目的はどうします?」



 手繰り寄せた記憶をもとに、一人うんうんと頷いていると。

 クオンちゃんが期待の眼差しをこちらへ向けて来て。


 そうだろう、そうだろう。

 初めての三人旅ともなれば、さらに世界が広がり、楽しいひと時になる事は請け合い。

 日程が気になるのも当然。

 

 ……とは言え、もう決まったような物さ。



「初めての三人行動だ。やっぱり、ここはアレしかないよね」

「ん」

「……アレ?」

「「ピクニック」」

「うわぁ、ソレしかないんだぁ―――何で……? 私、本当に大丈夫かな? すっごく楽しそうなのに、すっごく不安というか……ハクロちゃんもやっぱり不思議な子だし……やっぱり、類は友というか……」

「ルミはカモ?」

「そうとも。知り合いには弱すぎる事で有名でね。ガーガー」



「……突っ込んだら負け……! ツッコんだら敗け……! あ、あの! 目的地は……!!」



 無論、心配はいらないさ。



「さっきそこで聞いたんだけどね? 「あっちから都市外へ行ったら何処へ着きますか」って。で、「別の都市が何処にあるのかも分からないけど、街道を進んでれば何処かには着く」って教えて貰えたんだ」

「ん、着くな」

「―――うそ。もしかして、本当にツッコミ私だけ?」



 あ、そうそう。

 何度か遊んでお願いしているうちに、クオンちゃんが幾らか砕けた口調で話してくれるようになったんだよね。

 やっぱり、ゲームだし。

 周りに丁寧な言葉遣いの人が多いから、こういうのが新鮮で良いんだ。


 仲間って感じがして……ね。

 



   ◇



 

 山に遭難した時、最も怖いのが凍死や餓死などだけど。

 次に怖いのは、お化け……じゃなくて。


 およそ野生動物との遭遇だろう。

 だって、厳しい自然の中で爪や牙、独自の武器を磨いた動物と、武器を捨てた人間の力関係は明らかで。

 自然界では蹂躙されるしかない。


 ならば、思い切って剣でも持てば対等?


 否、いな。

 そんなモノで互角なんて考えるのもおこがましく。

 やっぱり、人間は矮小だ。


 例えば、身長の二倍は優に超える巨体。

 ずんぐりとした巨躯。

 それが、レッサーパンダのように二本足で立って、両手を高らかに掲げて威嚇するのを想像して欲しい。



「……わぁぁ……もふもふ」

「ん。部屋に欲しいな」



 何か聞こえるけど。


 普通、怖いだろう?


 本当に、こういう所なんだよ。

 本能に刻まれた恐怖をまるで感じさせないこの反応こそ、二人がオルトゥスの戦闘システムに大きな適性を持つ証拠。

 二人が目の前の脅威を脅威とも認識していない証拠で。


 やっぱり、この二人は凄いね。



「―――あれ、スウグだ。ちょっとカタい」

「すうぐ?」

「うん、魔物の名前。()()強いんだよね?」

「ん。()()()()カタい」



 常に黄昏色の光が差す秘匿領域において、何処か神々しく輝く白黒の体毛。

 モフモフの腕はずんぐり太く。

 ナイフほどもある爪が幾本と生え。

 ビール樽のように太く巨大な筋肉質の身体を支えるのに、たった二足で事足りるという事実。


 威嚇する顔は牙剥き出しで。

 両前脚を高らかに上げれば、体長4メートルはかたい。


 ……その名も、【スウグ】

 野良のボスさんみたいな扱いで。

 とっても厄介な魔物らしい。


 曰く、秘匿領域には幻想生物の名を冠する魔物が多いらしく。

 それらは現実での知名度が高いほど強力だという。


 で、調べたところによると。

 中国には、騶虞(すうぐ)という伝説上の獣がいるらしいけど、歴史を紐解くとその正体がパンダの可能性が急浮上。

 

 そして、パンダと言えば動物園の大人気者。

 或いはそっちの知名度の所為なのか。

 知名度が全くない筈なのに、とっても硬くて重くて厄介な魔物さんに昇華されてしまった、つよーーい存在。


 悲しき魔物……無辜の狂獣スウグ。




「―――――シッ!!」

「おぉーー。クオンやるな」




 ………と、聞いていたんだけどなぁ。


 

 二人……強すぎ?


 飛び回る銀の閃光の前に、人体を容易く引き裂くであろう一撃必殺の前脚裂きは空を斬るばかりで。

 ハクロちゃんの速度に翻弄された所に、すかさず叩き込まれるクオンちゃんの重い一撃。

 

 耐えきれず仰け反るクマさん。


 あぁ、なんて凄い……じゃなくて。

 お仕事、お仕事。



 これぞ、好機……!!



「ていやっ」



 戦闘における何かしらの役目を果たさんと。

 私が放った全力投擲な渾身の一撃は、鋭くモフモフ毛皮へ吸い込まれ。

 すこーーーん……と。


 しっかり弾力。


 素晴らしいね。



「ウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ……!!」

「うーむ」



 跳ね返って地面に刺さった白爛を尻目に、私は首を捻る。

 定期的にナコちゃんの所へ持って行ってる私の武器が。

 まるで歯が立たないとは……。



「……というか。私、相手にもされてない?」



 あまりにダメージがない故、蚊に刺されたとでも思っているのか。

 クマさん私に見向きもしてないよ。

 

 ()()()も稼げないとか。

 もう、いる意味ある?



「ルミエールさん、そっち大丈夫ですか!」



 うん。おかげさまでね。

 巨大なクマさんを一人相手にするクオンちゃんは、攻撃と回避の合間にこちらを気遣う余裕すらあるらしく。

 最早緊張感など皆無。


 で、何時の間にかいなくなっているハクロちゃんは。



「ひとーり、ふたーり、さーーんにん」



 カシャン、カシャン……と。

 気の抜ける声と共に発生する何かが砕けるような音の連続。


 戦闘状態にない魔物は、取り敢えず一番近くのPLか、一番無防備なPLを優先して襲うらしいけど。

 棒立ちの私へ目掛けて次々やってくる敵を、千切っては投げ、千切っては投げ。


 

「魔物、数える時ひとり計算なんだ」

「ハクロちゃんは優しい子だからね」

 


 前方も後方も、漏れなく完全な蹂躙の一途を辿っている現状。

 挟まれた私に出来る事なんて何もなく。



「……凄いなぁ。本当に大剣で……一撃必殺がコンセプト……?」

「そうなのかな」



 身の丈に合わない筈の武器でむそーするハクロちゃんに、感嘆の言葉をもらすクオンちゃんだけど。

 多分、そうじゃない。

 あれ、多分ハクロちゃん自身は普通に武器を振っているだけで。

 ただ単に、一撃一撃が必殺技みたいな威力なだけ。


 仮に一撃を避けたと喜び、勝機を見出す間もなく。

 二度目で普通に狩られるだろうね。

 これは、もう二度と私じゃ勝てないのかもしれないなぁ。


 暇潰しなあら捜しとばかりに、前後で戦う二人を観察しつつ。

 私は悠々と落ちていた白爛を回収しに屈むけど。



「わわっ……! 今のは結構危なかったかなっ!」

「はーち、きゅーう」


「……うーむ。投げる意味すらない」



 そのままの態勢で顔を上げれば。

 身体を掠めた爪撃が面白いと言わんばかりに。 

 たった一人でボスレベルの魔物とニコニコで戦う少女と、無表情で幾多の破砕音を数える少女。


 今現在、私達はパーティーを作っておらず。


 経験値は共有されない。

 経験値は回収できない。

 ひいては、私自身のレベルは全く上がらない。

 こうやって二人が楽しそうに剣を振っている間、刺さった白爛を使って地面にお絵描き(絵は残らない)してても襲われない。


 普段は、ちょっとは飛び火くらい来るけど。

 今日は武力二倍で、もう何もなく。

 私が無意味なお絵描きを終えたのは、意気投合したらしい二人がおしゃべりをしながら戻って来たころで。



「やぁ、奇遇だね」

「ん。十三だった」

「……あはは。ぇーーっと。ゴメン……なさい?」



 別に、怒ってないよ。

 狩場を同じくしている他PLさん達から気の毒そうな目を向けられていただけだし。


 それはそれは気の毒そうに。



「うん、怒ってないとも。戦闘の幕に私の出番はない、と。台本に書いておくとも」

「……拗ねてます?」

「ううん、全く」

「ん? ルミに幕は与えないぞ。中に色々隠すからな」

「あぁ、そういうね?」

「あと、気が付いたらしゅやくになってる」



 当然さ。


 垂れ幕が開いてからが勝負。

 どれだけ早くお客さんの心を掴み、撃ち抜くかが腕の見せ所だからね。



「でも、幕が開いてからじゃない。準備、片付け、余暇。私はいつだって戦闘モードだよ。いまだって、ね」

「「……………」」



「――ぁ。でも、確かに一回、ルミエールさんの戦闘スタイル見てみたいかも」

「……ふっ」



 誤解が加速する。

 どうやら彼女は、私に期待を寄せ過ぎているみたいで。


 恐らく、こうだ。

 さっきのはただの遊びで、私はちゃんと戦えて、武器を投げたのはふざけていただけだ……と。


 違うんだよねぇ。



「ん、大丈夫だ。ルミはハクロが守るからな。戦わなくて良いように代わりになるぞ」



 そして、もう一方の女の子は。


 なんて強欲なんだろう。

 そこまでして経験値が欲しいと申すか。



「……どうやら、ハクロちゃんにはお灸をすえる必要アリだね」

「ん?」

「私の経験値は私のモノだよ」

「ん?」



 ……知ってたとも。

 それはただの邪推で、ハクロちゃんはそんな悪い事を言う子じゃないなんて。


 これはただの建前。

 ちょっとした策を考え付いただけさ。



「……ふふふ。良いとも、良いとも。思い知らせてあげるよ、私の実力を」

「戦わせないぞ」

「戦わずして勝つのは私の得意技さ」


「……え? 本当に何の勝負?」



 言い放ちつつ、私はキザに指を振り。

 アイテム欄から虎の子である直径20センチ程の白い箱を取り出して二人に見せつける。



「……それ。もしかして――ケーキの……箱!!」

「ズルい。絶対作ったのノルドだぞ」

「くくく……二人に教訓を教えてあげるさ。力っていうのはね。作った人間じゃなく、持っている人間の物なんだ。いまこの場を握っているのは、紛れもない私さ」

「………ん。ハクロの負け」



 勝った。

 勝利とはいつだってかくも虚しいものさ。



 でも、ここからが私の本当の奇策。



「じゃあ、そこの木陰で三人で食べようか」

「……都市外ですけど」

「二人が守ってくれるし、負ける気がしないんだ。あわよくば間をすり抜けて貰って戦闘の機会が欲しいんだ」 

「本音漏れてる……」 

「ねらいそっちか」

「さぁ、どうぞお席へ。本日のアントルメは、白桃(ピューリ)を贅沢に使ったシャルロット……シャルルートになります」

「シャルロット……あらかじめ焼き上げた生地にババロアを流し込んだケーキ! 冷やして食べるフランスのお菓子ですね!」



 発祥はイギリスだけど、昇華させたのはフランス。

 あまりメジャーじゃない筈のお菓子を、よく知ってるね。


 そう、この生地はビスキュイと言って……っと。


 博識な少女を敷いた絨毯の上に座らせて。

 あとは彼女もその隣に……あれ?


 主賓の一人は?

 よもや、お茶時に限ってハクロちゃんの陰が薄くなるなんて事はあり得ないし……。



「……ん? まだか?」



 既に座ってた……!

 マイ・スプーンとマイ・フォーク両手に準備万端……!!

 流石剣聖。 

 どんな相手であれ、抜刀の速さには随一みたいだ。



「じゃあ、切り分けつつクオンちゃんへ簡単な解説を。帝国通商都市に、私が下宿してるお店があってね。これはそこの店主君が作ったんだよ」

「うわぁ……洋菓子店なんですか!」

「食料品店」

「……うん?」

「八百屋じゃないのか?」

「ソレも合ってるね」

「うん??」

「お店の役割が迷子でね。最近は色々な所に手を広げてるんだって。……これは私の憶測なんだけど、PLと関わった事でNPCも成長してるんじゃないかって」


「……成程」

「ソフィアもノルドの所にお買い物行ってたぞ」



 それは、それは。

 どうやら私達だけじゃなく、NPC間でも世界が広がっているらしいね。


 弾む話、切り分けられるお菓子。

 極上の甘味を物欲しそうに眺めている間に魔物に襲われる複数のPLパーティーさん達を尻目に、私達は別のパーティーに話に花を咲かせて、ついでにハト君達も呼んで……。



 ……………。


 

 ……………。



 フム? とっさの思い付きでやった事だけど、やっぱり都市外でこんな事するのはまだ早かったかな。


 エナじゃないけど、分かるとも。

 あの人たちのは、悪意のある視線だ。


 あいや、そもそも。

 ここは魔物の湧くフィールドの一角。

 PL間の戦闘が推奨されてすらいるこのゲームにおいて、そんな区域で優雅にお茶会なんてしている奇特な少人数……パーティー? を襲わぬ理由もなく。


 視線の主は悪くない。


 けど、何だかな。

 あの人たち。

 私やハクロちゃんは別としても、あろう事かお菓子にさえ目もくれず、その視界に収めているのは……。



「―――クオンちゃん、危ないっ」

「え?」



 長く考える間なんてなく。

 不意に飛んでくる衝撃。

 全力で甘味を堪能中という最も無防備な状態では、流石のクオンちゃんも分が悪かったようで。


 可愛らしい疑問符を浮かべるクオンちゃんを庇って突き飛ばすけど。

 彼女たちのレベルなら、余波の爆風くらい何の心配もないだろう。 



 ……………。



 ……………。



 ……ふむ、おかしいな。


 よく見た景色さんだ。


 凄く真っ暗で、先が無くて。

 ……ピートの中?

 猫さんみたいに割って出て行けないかな。



 うん。



 また死亡(デスポーン)しちゃったよ。

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