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ルーキスinオルトゥス ~奇術師の隠居生活~  作者: ブロンズ
第四章:アクティブ編

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エピローグ:管理者の苦悩?




 依頼、断られちゃったけど。

 別に、スミカちゃんへの助力を諦めたわけじゃないよ。


 必ず、そう―――必ず。


 私は、彼女を救うんだ。


 己の使命を再認識して。


 その為に、鋭気を養わんと。

 クーラーの効いた部屋でダラダラとゲームをせんと、仕事終わりの私は家のドアを開く。

 


 こんな暑い日だし。



 入って最初の任務は、そうだね。


 まずは、冷房のスイッチだとも。



「ただい―――ま……?」



 しかし、どういう事だろう。



 ドアを開いた途端に。


 身体へ飛び込む冷気。


 何かが作動するような、静かなる機械音は……。



 ―――冷房、付いてる。



 私、切り忘れちゃったっけ?


 いいや、ちゃんと切った筈。



「……………」



 それらの情報から推測できる事実として。


 これは……いるね。

 

 間違いなくいるよ。


 各部屋の扉を覗きつつ廊下を歩き。

 私がリビングルームへ顔を出すと。

 普段の定位置であるソファーの上には、人ひとり程の大きさの、ブランケットを被った小さな山が出来ていて。


 何だね、あの大福は―――む……。



 ……………。



 ……………。



「否、大福はフェイクだ。本命は、丁度背中を狙える真後ろ――台所の陰」

「……………!」

「背後から襲い掛かって来る気だったね?」


 

 ゆっくり近づいても分かるよ。

 私は、君たちの性質を知り尽くしているんだから。 

 

 身体を翻して。


 素早く振りかえれば。


 そこには黒髪座敷童。


 少女とも見紛うような、ちんまい私の幼馴染がいて。

 そう、今に飛び込んでくる。



「―――お帰りだ……! さぁ、ルミ! 今すぐその母性の塊で私を――」

「こら、トワ」


 

 飛びかかって来るトワ。


 その頭を掴み、止める。



 本当に、悪い社会人だ。



「……全く。人の家で何をやっているんだい? 君は」

「見ての通りだが?」

「通報するよ?」



 合鍵を渡した覚えは無し。


 連絡を受けた覚えも無し。


 しかし、確かにそこに。

 自宅の中に居るトワは。

 私の言葉を鼻で笑い、勝手知ったるとばかりに冷蔵庫をゴソゴソ。


 これまた覚えのない缶を取り出し。



「これだけが、私の楽しみなんだ」



 カシュッ……とプルタブを開け。


 我が物顔に、ソファーの上で黒ビールを飲み始める。



「またお酒買って来たね?」

「冷蔵庫一杯にな。というか、何だ、あの冷蔵庫は……! つまみを探そうにも、野菜と肉と魚ばっかりじゃないか……!」

「冷蔵庫なんだけど」

「おまけに、戸棚にはインスタント食品ひとつもないと来た。一体、何を食べろって言うんだ!」

「野菜と肉と魚」

「私に料理をしろというのか……!」



 これが、社畜の末路。

 ロクに家へも帰れず、社員食堂やコンビニで日々の食を済ませている人間の限界。


 当然そのままは食べれないし。


 食材を料理には出来ないんだ。



「お腹、減ってるのかい?」

「……まぁ、ルミの手料理は後だ」

「食べていくんだ」

「勿論」



 両手で缶を潰したダメ人間は。

 当然と言わんばかりに、左右へ身体を揺らし。


 大福の上でぽよぽよ跳ねる。

 ソファーを自身の領土としたトワは、まだまだ空いている隣を、バンバンと叩き。



「さぁ、隣へ来るが良い」

「我が物顔だね」

「良いから、良いから。ルミがここ最近、何をやらかしたかを聞きたいんだ」



 やらかした前提なのは心外だけど。

 話すのは、別に良いか。



 ……………。



 ……………。



 でも、勿論その前に。



「ルミ……?」

「―――まずは、シャワーかな」




   ◇




 連絡もなしに、突然やってきた同年代の幼馴染。

 オルトゥスの管理者である天才。


 突然変異の機人。

 身体の成長と引き換えに、神域の頭脳を手に入れた女性。


 大企業ハクホウワークス勤務。

 電子遊戯開発課主任―――黒川永久。


 勿論、連絡は取り合ってるけど。


 実際に会うのは久しぶりの事で。


 

「―――へぇ、【剣聖】に会ったのか」

「友達になったよ」



 色々と聞かれて。

 私のニートズライフを、事細かに説明することになったけど。 


 今の話題は、もっぱらコレで。

 どうやら、トワはユニーク職に就いているPLを、事細かに全員把握しているみたいなんだ。



 その時点で、職権乱用だ。



「アレは、開発チーム傑作の一つでな」

「やっぱり、強いの?」

「―――サーバーに一振りしか存在しえぬ、特定の武器。それを入手した一人のみが得られるクラス。その剣は、やがて至高の領域に至る。夢に殉じる……故に夢殉。剣聖に貫けぬものなし……だ」



 恐らく、職業のキャッチコピーだろうけど。

 格好良いセリフだね、トワ。


 昔は酷かったけど。


 何時から中二病が再発したんだい?

 


「それで? シティクエストに参加―――って……よく行けたな」

「それこそ、その子さ」

「……ふーむ。確かに古代都市、か」



 全部ハクロちゃんのお陰。


 私は何もやってないけど。


 詳細な事は、本当に知らないんだね。

 私はてっきり、常日頃からトワに監視されていると思ったんだけど。


 いかに管理者でも。

 社会人として、ゲーム内()()では、一応のモラルはあるようで。

 


「安心したよ。監視はしていないみたいだね?」

「うん。面白くないからな」

「……あ、やっぱり?」

「いや、無職を見ててもつまらないとか、そういう意味じゃなくてな? ルミがとんでもない事をやる前提として。知らない方が、驚きもあって楽しいだろう?」



 相変わらず、彼女は私に何かしてほしいらしく。

 無職に何を期待しているのか。



「英雄譚をお望みなら、他所(よそ)を当たって欲しいな。それこそ、最強レベルには事欠かないだろう?」

「………ふふふ。私らしくない、と思ったか?」



 それは、まぁ。

 トワは、公平性を重視する傾向にあるから。


 強欲王とか。


 剣聖だとか。


 最初から強くて。

 環境を嘲笑うような職業は作らないと思ったけどさ。



 一応、対抗策は有るだろうし。



 システム的にも問題ないんだ。



「――戦って勝てば、奪える。そういう意味で、一応の公平性はあるんだろう?」

「お、よく知ってるな」

「画面が出てきた時は面白かったよ」


「だろう? 簒奪(さんだつ)が―――なんて?」

「とはいえ、だ。公平とは言え、あのシステムは、かなり血の気が多いね。奪取の選択画面が出た時は、随分と困惑したものだよ」


「……………」



 ぽかんと口を開け。


 ただただ固まる親友。

 まるで、幼子が好きなテレビを見ているときのアレだけど。


 こういうの見るとさ。


 悪戯したくなるよね。



 ……………。



 ……………。



 どうにも動かないから。

 悪戯心が作動して、そのちっちゃなお口に、剥いたみかんをイン。



「新しい甘味よーー」

「……………? ――むぐっ!?」


「旬の夏みかん。どう?」

「むぐむぐむぐ……ッ!」



 二個目。


 三個目。


 まだまだまだまだ、おかわりもあるよ。

 栄養もすごく豊富だし。

 成長のために、たんとたべると良いさ。きっと――きっと、まだ成長期の筈だから。



「七個、八個、九……」

「んむ……んが――――もがぁぁぁぁぁあ!」



 あぁ、そんな流すように。


 もっと味わって欲しいな。

 

 折角エナのお家から貰った、霊験あらたかな甘味なのに。



「……あのな、ルミ」

「うん。美味しい?」

「窒息の対処も完璧とは言え、人の口にミカンをそう何個も詰め込んだら………倒したのか!? あの怪物職を!!」



「じゃあ! もしかして、簒奪―――」



「してないよ?」

「ははははっ……! 遂に、ついに! ルミが無職を辞めて、最強への道を―――なんて……?」

「奪ってないよ? 友達のだもん」



 ……………。



 ……………。




「なぁぁぁぁぁ、んーーでーー、だぁぁぁぁぁぁ!!」



 そう言われても。


 どうでも良いし。



「最強職の一角なんだぞ、アレは!」

「ふーーん」

「興味薄っ!!」

「だから、戦いは好きじゃないと言っているに」


「こんのぉぉ……! なんちゃって平和主義!」

 


 私がミカンを剥くのを他所に。


 ぎゃーぎゃー騒ぎ続けるちびっ子。


 ここが郊外の一軒家で良かったよ。



「バカ! 無職! ニート!」

「社畜」

「………ぐすん」



 相変わらず、精神が弱いね。

 私がちょっと言い返すと、すぐに丸まっちゃうんだ。


 大福、二つに増えちゃったし。


 私も、少し言い過ぎたのかな。



「冗談、冗談だよ。ほら、お水」

「……うん」

「………飲んで?」

「のませて」



 零れないよう、ゆっくりと。


 気付けに水を一杯。


 素面に戻る表情は。


 落ち着きを取り戻すのだけは、早いと見るね。



「―――デバック……もとい、参考までに聞くが。どうやって倒したんだ? 戦闘系ユニークの簒奪には、対一の戦闘で勝利する必要がある。無職なんかに倒せるわけがないんだが」



 それはそうだろうね。

 ハクロちゃん、本当に凄く強かったし。


 実際、沢山キルされちゃったけど。

 


「そこは、多方面から吟味(ぎんみ)してね」

「―――道化師。視界生成だな?」

「流石に、分かるか」



 流石はトワだね。

 


「倒したという事実があり、ルミの持ち札を考えれば、な」

「古典的な手さ」

「……ほぼシステムの穴だ。普通は考えもしない。ハトの許可なんて取れる筈がないと先入観が働くし、よしんば考え付いたとして、一羽二羽が限界……何羽だ?」


「―――十羽くらい?」

「……化け物が。普通、先に脳が拒絶して、強制ログアウトだぞ」



 安全装置の効果だね。

 

 完全没入型……フルダイブという性質上。


 肉体の保護は最優先だし。

 処理しきれない情報が脳に過剰な負担をきたした場合は、すぐに強制終了という機能だけど。



「幸い、分析は私の得意分野だ。中でも、監視や盗聴には、特に敏感で―――ね?」

「……………」

「ごめんなさいは?」

「……ナンノコトダカ」



 ゲームの話はそこそこに。

 そろそろ、私からも言いたい事を言わせてもらわなきゃね。


 洗面所の鏡の裏とか。


 コンセントの中とか。


 寝室の通気口だとか。



「小型カメラ、盗聴器……随分と、沢山仕掛けてくれたみたいだけど。そっちも、設置場所が古典的過ぎるよ」

「……………」

「大方。今日来たのは、定期確認……だね?」



 折を見てデータを抜き取り。


 そのまま退散という寸法で。



「―――でも、まだ触ってない」

「……ぐぅ………!」

「自分自身が舞台上へ乗り込んだうえで、一緒に動いて私の行動をも操り。色々と収めた後に回収しよう……とか考えてるだろう?」

「……………」

「少し、欲張り過ぎたんじゃない?」



 私の推測は、おおよそ間違っていないようで。


 トワは罰が悪そうに顔を(しか)め。


 悪びれる事もなく唸り始める。



「ぐぬぬぬぬ……!!」

「忙しくて、確認なんて出来てないだろうけど。もう、全部外してデータは消しておいたよ」

「グヌヌヌヌヌヌヌヌヌヌゥゥゥ……!!」






「……ふ……ふっふっふ」






 しかし、どうしてか。

 次の瞬間には、彼女はしてやったりとばかりにニヤリと笑って。


 私なんかより。


 よっぽども百面相だね。



「奇術師ルーキス敗れたり、だな。さしものルミも、我が白峰工業の技術力の前には―――」

「あぁ、そうだ」

「………ん?」

「凄く高そうな、防水の超小型カメラも見つけたんだけど。お風呂場で」


「……………」


「データは、勿論消去済みだけど」

「How dare you(よくもそんな事を)!? 一番のお宝映像(予定)がぁぁぁぁ!!」

「何処に売ろうかなぁ」

「かえせ、かえせっ!」

「フリーマーケットに出品しようかなーー」



 カメラを出して見せびらかすけど。


 トワは小さいから。

 ぴょんぴょんしようが、まるで届かない。



「止めてくれ! それは最新の試作機だ! 他社にすればオーパーツの塊で、値段の付かない――」

「じゃあ、ライバル社行きだね」

「血も涙もないのか、この企業泥棒! 怪盗ルミエール!」


「盗撮魔」



 ……………。



 ……………。



「ううぅ……ゴメンなさい……」



 昔にも増して酷いよ、トワ。

 行動力と権限が拡大した分、更なる力を得ちゃってるし。


 一体、何が。


 何が、そうさせるのか。

 

 エリートな親友が、何時の間にか犯罪者に片足を入れてたんだ。



「……ゴメンなさい。でも、心細いんだ、ルミ」

「………トワ」


「高校卒業、すぐ就職。家にも帰れず、何も得ず」

「……ラッパー?」

「莫大な貯金だけが貯まる日々。使う時間もない」

「自業自得じゃない?」

「――ゴホン。それなのに、私が身を粉にして頑張ってるのに、何年もサクヤと一緒に旅行に行って」

「言い方に悪意あるね」


「私だって、ルミと新婚旅行」

「何か違くない?」



 色々とズレている幼馴染だけど。


 でも、やっぱり幼馴染。


 こんな風になったのも。


 責任の一旦は私にあるかもしれず。

 ちょっと……少なからず、可哀想に思う所はあって。



「――次の出勤は、明日なのかい?」

「……うん」

「なら、今日くらいはゆっくりしていくと良い」



 私の慰めに。

 彼女は、俯いていた顔を上げるけど。


 まだ元気がない表情で。


 顔だけは神妙に、更なる実を取りに来る。



「………じゃあ、一緒に寝ても良いか?」

「それくらいならね」

「お風呂も一緒は?」

「問題ないよ」

「アヒルさんも一緒なんだが」

「良いとも」

「じゃあ、じゃあ。会社でも安眠できるよう、今使ってるルミの枕を私に……」

却下(リジェクト)

「個人防衛の優先順位がおかしい! 自分の身体より大事か!」



 それは、そうだとも。



「自分のキルとレアアイテム、重要なのは後者だろう?」

「……ゲーム脳ぅぅぅ!」

「トワの所為なんだけど」

「ぐうぅぅぅぅ……くくくくくっ。流石は、私のルミ」

「私は私のだけどね」

「じきに、私の想像も付かないような、とんでもない大戦果を挙げてくれる筈さ……!!」






「フハハハハハハハッ……!!」






 いつの間にか、調子を取り戻し。


 一人で納得して一人で盛り上がっているの。

 やっぱり、本物の天才―――狂人感あるよ。



 元気も出たみたいだし。



 これで、問題ないよね。




「……ところで、私のカメラ返し―――」

「却下」









 ここ迄のお付き合い、有り難うございます。

 攻防の最中ですが、本部分をもちまして、第四章は終了です。


 部分数で言えば前章には劣りましたが、一つの物語がメインと考えれば、最長の章とも言えますね。


 ラストのボスは何と、頼りの仲間。


 かなーーりアグレッシブな主人公。

 

 怪しい影に、呑気な日常。

 完全なるマイペースさん。

 本人が言うには平和主義らしいので、ここ迄白兵をメインにした戦闘をするのは、絶対多分恐らく、この先ない可能性が高いです。



 では、予告を。



 次章も、単一の物語。

 これ迄殆ど触れる事の無かった地域、種族、キャラクターがメイン。

 また、世界が大きく広がります。



 ……………。



 ……………。



 そして、ここからが本題。


 更新ペースだけが取り柄の拙作ですが。

 他作品との兼ね合い、ストックの減少、何より、描写の向上意欲。

 そして、今以上に拙かった初期文章の修正作業や、キャラが定まっていなかった登場人物(名前ですら間違える)の会話を如何にかしたい……これらの言い訳を理由に、更新頻度を変更させて頂きます。


 更新は毎週土曜日に確定で。

 そして、ストックの具合により不定期投稿です。


 まことに勝手ではございますが、宜しくお願い致します。

 


 では、次週の新章―――第五章【ハイド編】にて。



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[良い点] d(˙꒳˙* )ええやん こういうのも好きです(*´∀`*)
[一言] 次章も楽しみにしてます!
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