第21幕:お楽しみリザルト
「―――ね、ハクロちゃん?」
「………ん」
「そろそろ、熱くない?」
「んんーーん」
質問に首を振る少女は。
まだまだいけるぞ、と。
抱き着き、顔を埋めているハクロちゃんは離れない。
一向に、離れようとしない。
それ自体は構わないんだけど。
何時になっても、プシュケ様が話を切り出せないみたいなんだよね。
「―――のぉ、ハクロ。……ハクロよ」
「んんーん……」
「そろそろ、良いかの?」
「んんーーん」
反抗期来たれり。
拒否の声が響いた回廊に、再び虚しい静寂が戻ってきて。
「……ルミエールよ」
「はい、プシュケ様」
「ハクロの補佐として、我が家に仕える気はないか? 其方がおると、対話が円滑に進む気がするのじゃが」
これが、異文化交流なのかな。
何故かは分からないけど。
私は、両者の仲を取り持つ通訳としてのロールを求められているようで。
でも、私はいつも通りだし。
「申し訳ありません」
丁重にお断りさせて貰って。
それを理解していたからか。
彼女も、深追いする事は無く、やや残念そうに肩を竦めると。
「―――わらわは。わらわは……間違えていたのか?」
ここに来て。
話が進まないからか。
この一件の根本となる疑問を、私達に聞こえるように放って。
「……のう、カルロよ」
「……………」
同じ疑問を。
敵対することになった勢力の首魁へと、改めて尋ねる。
……………。
……………。
そう、テリスさんは、しっかりと生きていた。
それは、少し前の事。
剣聖が敵を蹴散らし。
まだ、私達が人質にされた侍従さんや、捕縛された兵士さん達を助ける前の話だけど。
……………。
……………。
嵐のように乱入し。
小さな厄災が、一方的な蹂躙の盤面を覆す。
『――――ぐうぅぅぅぅぅぅ――ッ!?』
『何という速度を―――がぁッ!?』
「どいて……っ!!」
不意打ち気味に飛び込んできた少女は。
たちまち、私に斬りかからんとしていた騎士さん達に向け、大剣を一閃。
彼等も、瞬時に防御したモノの。
それは、小さな巨人が持つ圧倒的な威力を、正面から受ける愚策で。
防御に構えられた剣諸共。
鎧諸共に、吹き飛ばされ。
騎士さん達は、壁に激突。
流石の技量か、共に受け身を取って瞬時に起き上がろうとするけど。
それすら予測していたのか。
二撃目が、炸裂。
遠心力を生かし……さながらハエ叩きのように。
壁と大剣とで、挟み込み。
叩き付けられるその一撃。
……面での攻撃だから、大丈夫だと思うけど。
凄まじい金属音と共に、二人は、力なくその場に崩れ落ちて。
『これで、終わり……!!』
ハクロちゃんは、迷いなく。
次なる獲物を見定め。
己が武器を、戦慄に目を見開く男性へ。
反乱の首謀者へと、迷いなく振り下ろし……。
『『……………!』』
―――でも……。
私が止める間もなく。
その動きは、止まる。
プシュケ様も驚いているけど。
何より驚愕している様子なのは、剣を振り下ろされたテリスさんで。
『―――ダメです、ハクロ様……二代目剣聖ッ。斬れ……斬れ! 斬るのですッ!!』
何と、自分からソレを懇願する。
収集が付かなくなると。
どちらかが倒れない限り終わらないと、正しく彼は分析しているから。
実際、その通りだろうから。
私だって、同じ事を考えて。
しかし、彼女だけは。
決定打を握るハクロちゃんだけは、その剣を振り下ろすことは、決してなく。
『終わらぬのです……! 私が消えねば、この戦いは――』
『私の所為、だと思うから』
『テリス……ごめんなさい』
『……………!』
深々と、ハクロちゃんは頭を下げて。
何の事だろうと。
首を傾げる私だけど。
反乱の首謀者である彼だけは。
何かを理解したように、悟ったように、項垂れるように崩れ落ちて。
『……………』
力なく、その場に座り込み。
そのままなのもアレだから。
私が、ゆっくりと縄を取り出して。
解けないように、気絶している騎士さん達を含め。
三人を、グルグル巻きにさせてもらったんだけど。
『テリスさん。侍従さん達は、どちらへ?』
『……先の通りにある部屋だ』
『あぁ、どうも』
『これを――それぞれの部屋の鍵も、持っていけ』
私自身。
対立型のクエストというからには。
プシュケ様かテリスさん――どちらかが消えるまで、延々続くと思っていたんだ。
でも、領主側の将はアルバウス様で。
反乱勢力の将は、彼の筈だったのに。
まだ、双方が生きている筈なのに。
既に、クエストが終了したような雰囲気になっているのは……何でだろうと。
疑問を覚えつつも。
私は、窮屈な思いをしているだろう人たちを助けるために、歩き出して。
◇
「……………見誤ったのは、私だったのかもしれませんな」
人質の皆さんを解放した後。
戻って来た私の耳へ、彼の独白が入ってくる。
彼自身、沢山悩んだ様子で。
プシュケ様とハクロちゃんへ。
それを語る様子は、とても反乱を起こした人間の姿には見えなくて。
答えを出さぬ二人。
ただ、流れる時間。
「―――それは、どうであろうな」
静寂を破ったのは。
やってきたのは、最強NPCなお爺さんで。
「………師匠」
「生きておったか、わが剣よ」
「えぇ。またも、死に損ないました。――プシュケ様。ご無事で、何より」
凄く元気そう。
というより、無傷?
悠々と歩いてきた老騎士は。
迷うように向かい合った主へと、ゆっくりと跪いて。
「……アルバウスよ。わらわは」
「反乱勢力の騎士は、皆降伏。最早、趨勢は決しました。何を憂う事がありましょうか」
主の言葉を遮り。
首を横へと振る。
そして、口を閉ざしたプシュケ様から視線を逸らすと。
彼は、再びグルグル巻きテリスさんへと向き直り。
「――テリスよ。儂の勝ち、であるな?」
「………は」
黒幕っぽい台詞……!
……………。
……………。
だけど、この場合は、違うんだろうね。
恐らく、だけど。
アルバウス様も、こうなる事を――戦争になるという事を、分かってたんだ。
彼は、騎士団の指南役。
勧誘とか、情報のタレコミがあっても不思議じゃなく。
主へ、警告する事も出来た筈で。
でも、彼はそれを言わなかった。
それは、恐らく。
未だ年若いであろう領主へ、大きな試練を与える為で。
「改善点は、見つかりました。ここより新たに始めましょうぞ、主よ」
「……………!!」
「儂は、貴方の剣。正面からの敵であるならば、どのような存在とて滅することは出来ましょう。しかし……戦い以外は、知らぬのです。これより他の方法は」
この戦いは。
彼女が真の主となるために、必要な物だった……の、かもしれない。
だって。
騎士の言葉を受け止めた彼女は。
対立していた元臣下へ。
自ら、向き合っていて。
「―――テリス。我が補佐官よ」
「……………」
「最早、遅いのかもしれぬ。しかし、わらわに、今一度機会をくれぬか」
「……今は、何も話す気になれませぬ」
「道理じゃな。では、整理を付け次第、ゆっくりと語り合うとしよう。次は、時間を気にせず」
ここからどうなるか。
それは、NPC次第で。
もう、私達が出る幕じゃないんだろうね。
「―――連れてゆけ。くれぐれも、滅多な事をするでないぞ」
「「は」」
改めて助け出された人が。
モノを言わなくなったテリスさんを、ゆっくりと連れて行く。
敵軍と鉢合わせないかとも思ったけど。
もう、何処からも戦う音は聞こえてこないし……。
本当に、終わり……で良いのかな。
結果として、誰も死んでないし。
戦いは、どうなったんだろうね。
―――引き分けとか?
彼に聞いてみれば。
アルバウス様に聞けば、外部の情報が見えてくるかな。
「アルバウス様。よく、ご無事で」
「……ふむ。確かに、不死性による異訪者の攻勢は厄介であったが。我が騎士団であるのなら、まるで問題はないからの」
流石に彼程にもなると、凄い自信だね。
この都市に集まったPLは。
最前線のTPだったろうに。
それ程、己が騎士団の事は知り尽くしているって事なのかな。
「そもそも。都市内へ駐屯している騎士は、正騎士ではあるが、我らの主力ではないからの」
「……………? どういう事ですか?」
「異訪者ルミエールよ。其方は、我らが団を束ねる者と、でおうた事があるか?」
―――それ、どういう………ぁ。
……そう言えば。
彼は、あくまで指南役。
団長とか、副団長とか。
確かに、月光騎士団の中核である人物たちに会ったこと、ないよね。
機会が合わないのかな、とも思ったけど。
そもそも、この都市にすら居ないとか、あるのかな?
「上弦騎士は、皆出征しておるでな」
「……上弦……月? じゃあ、都市へ残っているのは、下弦騎士ですか?」
「む? 既知であったか」
「……………」
だって、分かり易いし。
月の満ち欠けに由来する用語で。
新月、上弦、満月、下弦。
彼等が何なのかは。
その名前から、簡単に想定できるね。
「上弦騎士ともなれば、皆領主への忠誠は絶対。あ奴らが戻って来ていたのであれば、反乱は瞬時に鎮圧されたであろうが」
「現在は、薄明領域の駐屯地にて、長期任務じゃ」
つまり、本領発揮はまだだぞ……と。
まだ、強い人達がいるんだ。
……………。
……………。
―――都市政府、強すぎ?
本当に、PLが勝てるものなのかな。
戦いなんて興味ない私でも、不安になって来るよ。
「―――アルバウスよ。簡単な説明は、終わったか?」
「はい」
私達の話が終わると。
一人で距離を置いて。
何かを考えるようにしていたプシュケ様が、歩を詰めてくる。
用があるのは。
私ではなくて、隣にいる子なんだろうね。
「アルバウス。剣を」
「……は。こちらを」
でも、物騒な会話で。
彼女の言葉に。
老騎士は、腰に下げていた剣を差し出し。
受け取るままに、プシュケ様の視線の先に映るのは――私の服の裾をつまんでいる少女で。
これは……アレだね。
初めは、危ない話かとも。
一度とは言え―――脅されたとはいえ、反乱勢力に加担した罰とも思ったけど。
なんと、なんと。
間近で見られる日が来るなんて、何たる僥倖だろう。
「ハクロちゃん? こうだよ、こう」
「………ん?」
見本を見せるように。
私が膝を付いて跪く。
それを真似るように。
ハクロちゃんも、膝を付いて、形だけでも畏まる頃。
「ハクロよ。今の今まで、其方は、あくまで客人としての扱いに留めおいたが。この件で、わらわの腹は決まった」
若き領主は、跪いた彼女の肩を剣の腹で撫でる。
―――アコレード。
所謂、叙勲式。
中世において、騎士の称号を与える儀式だ。
「―――我が騎士、ハクロよ。其方を、我が家の上弦騎士とする」
「……………!」
「いずれアルバウスの跡を継ぎ、正式な12聖となるが良い」
「………ん!」
先程までの様子とは裏腹に。
その言葉の意味を、理解しているからか。
ハクロちゃんが返すは。
意志のこもった肯定で。
なんと。一気に、上位騎士に成っちゃったけど。
コレで、彼女は制式に古代都市の守護者となり。
単なるPLではなく。
この世界の人々と結びついた、真なる騎士に成ったんだ。
「―――其方の働きを、期待しておるぞ」
「………ルミ」
でも、やっぱり心はPL。
とっても自由らしくて。
普通とちょっと違うのは。
儀式が終わるか終わらないかという間に、我慢できないと、私へと話しかけてきたことで。
「どうかした?」
「……ありがと」
……………。
……………。
「助けるのは、当然の事だよ。大切な友達だから―――ね」
「ともだち」
「―――でも。もう、パーティはダメだ」
「だよね」
爆裂鉱の事は、簡潔に話しておいたけど。
もう同じ手は通用しないみたいだ。
ハクロちゃん。
コレで、負けず嫌いだからね。




