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あっさり済んでしまった説得

「お兄ちゃんが家に女、連れてきた」

「おい妹よ。もうちょっと言い方どうにかできないの……ってどっか行っちゃったよ。もう」


 家に帰って、僕の傍に立つクリムゾンさんをみた途端に我が妹、ルーナ・スカーレットが発した言葉がこれ。何を想像したんだか。

 いつも眠たげで口数が少ないうちの妹にしては珍しく驚いたような顔してたけど。無言でどこかに行くなよ。なんかシュールじゃんか。

 

 ––––––––––さて、その後、僕の必死の抵抗虚しく半ば押し切られるように彼女の居候を取り決められ、家族の説得の為に彼女を家に連れてきた訳だけど。


 どう説得すんの。これ。


 隣にいる人異性やぞ。どこの誰とも知らない異性をいきなり連れてきて「居候させてやってください」なんでそんなこと−−−−−−猛反対される気しかしないんだけどな。

 いや、この人が炎の大精霊であることを話せればきっと話はもっとすんなり行くのかもしれないけど、彼女自身が今の人間界において自身の素性をあまり明かしたくはないらしい。

 聞けば、「私たち(精霊)の存在が神話と化した現代で私の存在が知られてみなさい。悪目立ちするし何されるかわかったものじゃないわ」との回答が返ってきた。


 ごもっともでございます。

 おかげで説得の難易度跳ね上がったけど。


 故に、彼女の素性は隠した上で、居候を頼まないといけない。ホント、難易度高くて泣きそうだよ。全くもう。


「ふふ、独特な妹さんね。仲良くなれそうだわ」

「……そうですね。きっと仲良くなれますよ。きっとね」

「あら、随分とご機嫌斜めね? どうしたの?」

「家族の説得のことで頭がいっぱいなんですよ察して」


 そんで当の本人は何も気にすることはないと言いたげな雰囲気で泰然としてるし。この状況でその自身じみたものはどこから出てくるんだか。


「大丈夫よ。私にだってしっかりとした考えがあるのだから。これからパートナーとして長く付き合っていくのだから少しは信じて欲しいものね」

「側から見たら誤解を生みそうな言い方しないでください。僕のこといじってるつもりですか」

「あら、ご名答。察しがいいのね」

「おいコラ」


 彼女は僕を少し見下ろしながらクスクスと笑う。確かに貴方の方が身長高いし見下ろす形になるのは仕方のないことかもしれないけどさ。


 目線がわざとらしいんじゃ。恥ずかしくなるからやめてよ。


「イチャイチャしてる。同年代の女っ気一つなかったお兄ちゃんが。むー……」

「今の話のどこを聞いてイチャイチャしてると判断したのさ。ていうかその目やめてよ。責められてるみたいじゃんか」

「事実、責めてる。色恋なんかに、うつつ抜かしてるから」


 いつの間にか戻ってきた妹が僕を非難するような目で見てくるけど、こっちはクリムゾンさんの相手で手一杯だからこれ以上突っ込む余地を与えないでほしいところだ。

 普段表情を表に出すことがあまりないから、お前本当にルーナか? なんて言いたくもなる。

 まぁ、妹がここに戻ってきたということは、やはり。


「おかえりなさい。フィスト。お父さんも今日はもう帰ってるわよ。で、その子がルーナの言ってた……」


 親を呼んできたということだ。母親がルーナ後ろに立っている。

 母の呼びかけに応えるように、クリムゾンさんは片膝をついて、頭を下げた。


「はい。私、フレイヤと申します。この度はフィストさんのご家族にお願いがあり、伺いました。お話、聞いていただいても宜しいでしょうか」


 名前をそのまま言うわけにはいかないから、偽名を使って。

 さっきの厳かな雰囲気とは打って変わって、そう言った。



 『それから10分、説得の時間を挟んで』



「いや待ってよ父さん。本当にいいの……って確かに連れてきたのは僕だけど、それでもあっさりすぎない?」

「何言ってんだ! 彼女、行くアテもない中、お前を助けてくれたんだろ? 多少の恩返しをするってのが男じゃねぇかフィストよぉ!」

「いやそれ言われちゃ確かに……母さんはいいのそれで」

「大丈夫よー。身寄りのない子を放ってなんておけないしね。それに彼女、しっかりしてそうだから間違いも起こらないでしょうし」


 えぇと、絶対に難航すると踏んでた家族の説得についてですが、ものすごくあっさりと解決しちまいました。

 嘘でしょ。


 居候する言い訳として、彼女はこんな経緯を用意していた。


『つい最近、両親が死別し、天涯孤独となった。行くアテもなくとりあえず仕事を探すためにクリオネという街にに向かっていたところ、魔獣に襲われている少年を見かけたので、無我夢中で助けた。ここで会ったのも何かの縁だということで、彼に居候させてもらえないかと頼んだ』


 ……まぁ、なんかありがちな展開な気がしないでもない。ありがちすぎて逆に嘘っぽすぎやしないか。

 なんて、そんなこと思うくらいには取ってつけた感が満載な言い訳だったんだけど。


 うちの両親、純粋だったよ。

 速攻で信じました。なんだこれ。


 それを聞いた瞬間、母はしみじみとした表情に、父さんに至っては目に涙を浮かべて「大変だったなぁ……」なんていう始末。純粋なのはいいことだけど、さ。ここまでくると逆に色々心配になってくる。


「取り敢えず、空き部屋があるからそこ使いなフレイヤさん。俺たちのことは家族と思ってくれていいからな!」

「ありがとうございます。優しい家族に巡り会えて、幸運です」

「ふふ、今日は腕によりをかけて晩御飯、作っちゃおうかしら。お母さん直伝のレシピが活きる時ね!」


 本当、うちの両親、適応力すごくないっすか。息子である僕がビビるレベルなんだけど。、

 そんで彼女は横目で『ほら、だから言ったでしょう?』とでも言いたげな目でこちらを見てくるし。僕の心配、本当になんだったんだろう。


 まぁルーナだけはソファからテーブルに座る僕たちをジト目で見つめて唸ってたけど、あれで人懐っこいやつだし、すぐに慣れるんだろうなとは思う。


 その後はあれよあれよという間に話が進み、『ご飯作るから2人で待ってなさい』ということで僕の自室へと向かった。

 ドアを閉めて、ふう、と一息吐く。


「なんとか、なっちゃいましたね……。マジっすか」

「ふふ、当然じゃない。大精霊の私にかかればこんなものよ」

「それ理由になってないと……思います。多分」


 なまじあっさりとうまく行ってしまったものだから、彼女の言葉を完全に否定できない。

 ちくしょう歯痒いったらありゃしないよ。ドヤ顔で笑う姿にツッコミを入れたくなるけど、我慢する。


「さて、そんなことより2人きりになれたわね。これなら恥ずかしくもないでしょう。さぁ、契約しましょう」

「唐突に何言ってんですか。後これから夕飯あるんだからそんな時間ないはずってやめてくださいまだ心の準備が……!」

「大丈夫よ。契約するだけなら時間もかからないわ。……にしても、流れに任せていけるかと思ったけど、やっぱりダメね。もう」

「膨れっ面したってダメなものはダメなんだから仕方ないでしょう……」


 急に、彼女がずいと顔を近づけてくるものだから思わず顔を背けてしまう。仕方ないと思う。だって彼女すっごく可愛いし。

 それにまだ、僕がキスすることを許したわけじゃないし。今日明日でほいとできるものじゃない、気がする。


 あぁもう、事態がどんどん変な方向に向かってる気がする……。これからの事を考えるほど、頭を抱えずにはいられない。

 

 ぺたんとその場に座って、ちょっと頭を抱えた。

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