精霊の力(3割)
『あぁそうだ。言い忘れていたけど、私、空飛べるからあなたもできるんじゃないかしら』
「いやそれもっと早めに言ってくださいませんかっ!? どうやってやるの早く説明してください!」
『簡単よ。飛べ、と念じるだけでいいわ』
「自室にいるときに言ってくださいよ、もうっ!」
そんな彼女の遅すぎる言葉を聞いて、適当な部屋の窓から思い切り飛び出す。既に一階に降りてしまった後なので、こんな悪態をついてしまうのはしょうがないと思う。自分の部屋の窓から出られたらもっと早く現地に着けるはずだし。
彼女の言う通り、飛べ、と念じるとふわりと体が浮き上がった。ちなみに街の人たちは、さっきの鐘の音を聞いてさっさと避難もしくは家の中にこもってしまったのか誰一人として外にいない。
故に、思いっきり高いところまで浮かび上がっても僕の存在はバレないわけだ。
一応、周りに人がいないか確認した後、遠くが見えるくらいの高さまでぐっと浮かび上がる。
煙が上がっているのは……、南東の方角か。そう思って煙の立つ方向へ意識を向けると、そちらにぐんと体が引っ張られる。
「ん、ぐっ……!」
何だこれ、めっちゃ速い……!
自分が出したスピードにちょっと震えながら、目指す方向へと体を飛ばしていく。
ぐんぐんと魔獣たちの元へと近づいていく。見ると、討伐隊の面々と交戦していた。
まずい、少し押されてる。早く向かわないと–––––––!
そう思うと、スピードが更に出た。その勢いそのままに、僕はその最前線目掛けて突進していく。
地面と足が触れ合った瞬間、
結構大きめの音と共に地響きがした。
どんだけスピード出てたんだろう。考えたくない。
「お、おいおい、なんだなんだオメェはよぉ。一体どこから……」
そんな、父さんの声が聞こえる。いや君の息子ですよと突っ込みたくなるが、バレてないならそれでいいや。バレると色々と面倒だし。
きっとちょっと光を纏っているのと、服装が動きやすいハーフシャツとハーフパンツって服に変わってるから、判りづらくなってるんだと思う。
すっ、と立ち上がると、魔獣の大群をきっ、と睨みつける。
今まで、怯えることしかできなかった奴らだ。そんなやつらと、本当に正面切って戦えるのだろうか。そんな不安が頭をよぎる、けど。
「加勢、します。僕にも、戦わせてください!」
そう、自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「お、おいおい、《《お嬢ちゃん》》、冗談言うなっての! シロウトが出ていい幕じゃないんだ。早く逃げな!」
「そ、そうですよ! ここはお姉さん達に任せて貴方は–––––––!」
近くにいた討伐隊の女性達が、そう、声をかけてくれる。夕方勤め先にいた人達だな。僕に良くしてくれる、数少ない人達だ。
確かに逃げ出したい。けど、息を一つ吐いてクリムゾンさんが現界した時に見た火柱を思い出す。
あんなことができる人が、僕に憑依してるんだ。だから、大丈夫……!
そう思うと、逃げるって選択肢は、自然と消えた。
「大丈夫、です。みんながやられてるの、黙ってみてられませんから」
不安を振り払うように、ニコッと笑う。大丈夫だ、いける。そう自分に言い聞かせる。
あと僕男なんだけどな……と思うけど、さっきの自分から出た声を思い出すと、どこか少し声のトーンが高くなっていたような気がする。気のせいだと思うけど。
『ふふ、いいこと言うようになったじゃない。漸く覚悟が決まったかしら?』
「……後に引けないってだけですよ。で、僕はどうやって戦えば……」
『別に難しいことはないわ。手から火を出したければ手から火が出るのをイメージすればいいし、口から火を吐きたければそれを強くイメージすれば良い。簡単でしょう?』
「用はイメージしろ、と……わかりましたよ」
後ろの討伐隊の人に聞こえないように、ヒソヒソとした声でクリムゾンさんの「声」に答えた後、
「–––––––っ!」
無言で思い切り魔獣の群れに向かって突撃した。
「あ、こら、ちょっと待て馬鹿野郎っ!!」
後ろで男の人が何か声を荒げているけど、無視する。
魔獣達はさっきまで衝撃に怯んでいたのかなにもしてこなかったけど、僕が突進したのを皮切りに一斉に雄叫びを上げてこっちに向かってくる。
––––––––やってみよう。いや、やるしかない!
そう思って、手のひらを頭上にかざして、強く、強くイメージする。
「火の玉よ、大きな火の玉よ––––––––」
イメージするは、大きな火球––––––––!
「出でよ!!」
強い熱が、上から伝わってきた。
それを感じて、半ば反射で腕を魔獣目掛けて振り下ろす。そこで、初めて自分が作った火球を目視した。
眼前に映る火球は、
ざっと見て自然系ギフテッドを持つ人が操るそれの3倍ほどの大きさ。
「え、えぇ……?」
思考が一瞬止まる。なんだあれ。
僕が呆然としている間にソレは、地面に着地し、
轟音、爆風と共に、あたり一面をまばゆい光で染めた。
そして、一通り暴れ狂った後、炎は四散する。
そして、そこには、なにも残っていなかった。
あたり一面、真っ黒コゲである。
「ウッソでしょぉ……?」
『……なんだ、私の本来の力の3割程度じゃないの。まぁでも、ここにいる獣ども程度なら、こんなもので大丈夫そうね』
何か、後ろでクリムゾンさんがとんでもないこと言ってるけど、
ただただ僕は、呆然とすることしかできなかった。