どこかであった、精霊との出会い
–––––––––炎が目の前に広がる。
1人の可憐な美少女を中心に、目も眩むほど、眩しく鮮やかに光を放つ炎が広がっている。
艶やかな黒色の髪に
燃えるような深紅の瞳を携えた彼女に視線が吸い込まれていく。
その姿はやたらにくっきりと浮かび上がるように存在感があって。
どこか神々しかった。
だからだろうか。それとも単純に突然のことでびっくりして、呆然としてるだけだろうか。わからないけど、尻餅をついたまま体が動かない。
「……危ないところだったわね。少年?」
そう、目の前の少女は見た目のイメージとは全く異なる、落ち着きのある口調で呟いた。
僕より少し年上にみえるものの、それでも「少女」を彷彿とさせる彼女の見た目とは、どうしても合わない口調だ。
そして、周りに目を落とす。
彼女が目を向けた「その周り」にはあるものが転がっていた。
そう、幾ばくかの獣の残骸。
無惨にも燃え尽き、骨のみとなった、獣の燃え滓。
魔界からやってきて村や畑を襲う「魔獣」と呼ばれる獣の、成れの果てだ。
「少しばかり加減はしたつもり、だけど……、やり過ぎたみたいね」
僕はアレに食いちぎられるかと思っていた。
死ぬかと思って目を閉じようとしたその時、鮮烈で、巨大な光の柱が目の前に飛び込んできて。
それは、まるで一つの星が大きく弾けたような、目も眩むような光景で。
彼女が姿を表したのは、その直後だった。
「天界からあなたの事見つけたと思ったら、魔獣に殺されかけてるんだもの。びっくりしたわ」
そういう割には特に取り乱した様子なく、彼女はじっと僕を見つめている。
そして、そのままにこりと優しく微笑む。
その表情は、普通ならどきりと心臓が跳ねるものなのだろうけども、今はそれ以上に驚きが体全身を包んでいる。
「でも、こうして君に力を見せる形で現界できたから、まあよしとしましょうか。きっとこの方が、説明も楽になるだろうし」
そうして、未だ腰が抜けたまま、へたり込んでいる僕の元へと歩んでくる。
その歩き方はとても綺麗で、どこか別世界へと連れて行こうとするかのような、そんな感覚に囚われた。
「まぁ、現界してしまった以上、今見せた程度の力すら出せなくなってしまったけれど。だから−−−−−−−−−」
彼女は、僕の目の前で歩みを止めて少しの間見下ろした後、しゃがみこんで僕のことをじいっと見つめる。
「貴方に憑依させてもらう必要がある。その膨大な魔力をもった貴方こそ、この炎の大精霊、クリムゾンの力を行使するにふさわしい存在よ」
困惑して、上手く回転しない僕の頭でも、一つはっきりと捉えきれた言葉があった。
炎の大精霊、クリムゾン。人間より上位な存在であり、この世界を作ったとされる精霊の中で炎を司るとされる精霊。
知る人ぞ知る、高名な大精霊。そんな大精霊が、僕の目の前にいる。そんなの、側から見たら信じられないことだけど。
あの火の柱–––––––––––––、自然系の力を使える人間が出せる威力のそれとは程遠かった。
まさに、神業。人が行き着けるかわからない領域の威力だった。
だから、この状況下で大精霊と言われても、妙に違和感なく飲み込んでしまう自分がいる。
「さぁ、フィスト・スカーレット。契約して私の力を最大限引き出すために–––––––––––––キスして頂戴」
そしてこの僕の名前とともに発された彼女の言葉は、
とても鮮明に脳裏に刻み込まれた。
「……すみません。詳しい説明を求めます……」
それと同時に訳がわからなかった。
ようやく発せた言葉は、とても情けない口調だった、気がする。
でも、それはきっと仕方のないことだな、と思うよ。