【8】Mine note-3
男は僕達のテーブル着くなり。挨拶も無くポケットから名刺を取り出して千香子以外の人間に配り。その名刺には『私立探偵 水谷珠樹』と電話番号が書かれていた。それを読んだ朱美は水谷に向け
「私、三浦朱美と言います。水谷さん。どうか友達の友引郁恵の事を宜しくお願いします。」
そう頭を下げると。千香子の隣に座った水谷は帽子を脱いで、朱美に一礼するとコーヒーに角砂糖を6つ入れて。ズズッと啜り。フーッと息を吐いて鼻を擦った。考えてみれば僕も、この水谷と言う男とは初対面であるし。挨拶をしようと水谷へと話し掛けた。
「今日は。初めまして。僕は幸島岳大って言います。何となくの流れでここに居ます。」
それに同調して。尚吾も続けて
「初めまして。俺は高城尚吾って言います。さっき色々調べてですね。」
と言い。尚吾は僕にメモを水谷へと様に合図するので。僕が水谷へとメモを渡すと。水谷はメモを見る事も無く
「朱美さんでしたね。貴女の依頼は友人で有る友引郁恵さんの自殺を止めたい。と言う事で宜しいですかね?その依頼内容の違いによって私は、この幸島岳大のメモを見る必要が有るのか無いのか変わってきますが。」
その様に朱美に問い掛けると。朱美は頷いて
「はい。」
そう答えると。水谷は次に千香子へ
「ペチコさん。彼女の依頼はその様ですが、その先の事は今回は無しで良いですね。」
そう言うと、コーヒーを啜りながら目を閉じた。千香子は水谷へ
「それはその時に考えます。」
と応えて。水谷はそれを聞くとコーヒーを一気に飲み干して手で口元をサッと擦り。尚吾のメモをサマーコートのポケットに入れて立ち上り
「じゃあ終わったゲームを終わらせに行こう。」
そして水谷はテーブルに千円をタンっと軽やかに置くとスタスタと喫茶店『水玉』から出て行ってしまった。あまりにもアッサリと出て行ってしまい。僕達は水谷に置いていかれた。尚吾は頭を掻きながら
「俺のメモ帳持っていってるし。何だよ『終わったゲームを終わらせに』って。終わってんなら良いじゃん。何?自分を捜せって事?」
そう言う尚吾に千香子は宥める様に
「ああ言う人なの。きっと珠樹と答えは一緒の所だから捜しましょ。」
そう言ってエミを呼び、会計を申し出た。僕は水谷の一連の行動を思い返しながらコーヒーの香りを嗅ぎ口に入れた。僕の隣で唐突な話の流れに不安そうな顔をしていた。千香子は顎に手を当てて考えている。きっと水谷珠樹が何処に向かって行ったのかであろう。そうした中で幾分か経ち。尚吾は体を上げて皆に向けて声を上げた。
「郁恵さんはMine noteでサブアカウントを使い。集団自殺を呼び掛ける『屍逝人』と連絡を取りS県で落ち合う約束をしていた。ってS県に行くの?今から?冗談でしょ?」
その言葉に僕は少し違和感を持ち、逸る尚吾に向けて
「水谷さんはメモを見なかった。」
そう言うと。皆が僕に目を向けたので続けて話した。
「あの人が聞いたのは朱美さんの名前と、友引郁恵さんの事は千香子さんから聞いたとして。それでも屍逝人の事は知らないんだ。つまり郁恵さんのアパートです。そこに行ったのだと思うんだ。」
そう話し終わると。尚吾はしれっと朱美さんの手を握り真剣な眼差しを作り
「朱美さん。早速、郁恵さんの家へと向かいましょう。」
そう言って立ち上がった。千香子も立ち上りカウンターへと支払いを済ませに向かったので。僕は後ろから付いていき
「ごちそうさまでした。」
と一言声を掛けて店の外へと出ると。尚吾は後から出てくる僕達の事を待っていた。僕は先にやり取りで有った隣の駅周辺の方を指差して
「こっちだったよな?」
と尚吾に確認して。皆が揃うと郁恵のアパートへと向けて出発した。




