【77】Transparent dot-4
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1月11日
朝日と共に僕とマリアは探偵事務所から二人で歩いてアパートへと向かった。結局眠る事の無かった僕とマリアはただ零士との思い出を胸の内で繰り返し無言で歩いた。マリアは黙って虚ろに歩く僕の手を握り
「タケ...... 悲しいね。」
「うん。」
「それでもアッシ達は生きてるんだね。」
「そうだね。」
そんな何でも無い言葉を交わすと、また黙って僕達はアパートへと辿り着いた。まだ僕は目を閉じると零士の顔が浮かんだが、昨日からの疲れもあって気付けば眠りに着いていた。
暫くすると僕はギターの音色で目を覚まし、目の前でマリアがギターを弾いている。何気ないいつもの光景に何故かホッとしている自分が居る。僕は探偵事務所へ出入りする限り零士の様に事件に巻き込まれて命を落とすかもしれない。そして自分のみならずに周囲の誰かを犠牲にしてしまうかもしれない。そんな事を思うとこのまま事件に関わり続ける事が非常にナンセンスな事に感じた。
マリアはそんな僕に気付くとギターを置いて抱き付いてきた。小さい体を震わせながら。僕はマリアの体温に愛しさを覚えて頭をソッと撫でた。
「タケ暫くバイト休んでよ。アッシ、タケまで居なくなったらどうなるか解らない。」
「そうだね。水谷さんから連絡が入るまでは休もうと思った所なんだ。」
僕はそう言ってベッドから起き上がり、炊事場へと向かった。そしてコンロの上の料理を見て
「ご飯食べようか。」
「うん。今日はタケの好きなハンバーグハヤシライスにしたんだ。」
「ありがとう。嬉しいよ。」
僕とマリアは、この狭い部屋で二人でベッドに並んで座り寝起きの晩ご飯を取り始めた。何気ない幸せな時間が続きます様にと願いながら。
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「危険には晒さないつもりでいました。その想いが弱さを作ってしまったのかもしれません。」
「珠樹は零士くんに捜査を止めるように言ったんでしょ? なら彼は満足だった筈よ。」
「そうは思えませんけどね。」
「死んだ人の事を考えるのは止めなさい。答えなんて無いんだから。」
喫茶店『水玉』で水谷は園部千香子と会っていた。今までの経験の中で従業員が死んだ事はなかった。しかし今回のTransparent dotの事件で冨永零士が犠牲になった事が水谷にとっては自信を喪失させる出来事であったのだ。
そんな水谷の隣に店主の乙野夜がコーヒーを持って腰掛けて
「零士君の事は残念だったね。」
そう言ってコーヒーを啜り、それからは黙っていた。乙野もここまで落ち込んだ水谷を見たのは初めてで掛ける言葉が無かったのだ。
「もしTransparent dotを捕まえたいのであれば殺すしか無いのでしょうか? 」
突然の水谷のその言葉に千香子は
「今までの話しから、Transparent dotはこないだのReptilianみたいに存在が社会に認められていない存在。しかし身柄の拘束ぐらいなら出来るでしょ。」
「Transparent dotには嫌な予感しかしないのですよ。」
水谷の言葉から少し間を置いて乙野は
「そうだね。俺も今までに無い危険を感じるよ。繊細さと大胆さを持った者は実に危険な事が多いからね。」
水谷は立ち上り帽子を深く被り
「暫く身を隠そうと思います。あなた達二人に幸島岳大君と高城尚吾君の事を頼みます。それでは。」
テーブルにお金を置いてそのまま喫茶店を出ていった。こうなった時の水谷は人の話しを聞かない事を理解していた乙野と千香子は目を見合わせた後に静かにコーヒーを啜った。
「仕方ないわね。」
「そうだね。」
そう相槌を打った後に乙野と千香子はどうやって二人を納得させるかを話し合った。




