【74】Transparent dot-1
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1月10日
その日は一件の依頼から始まった。僕はいつもの様に水谷珠樹の探偵事務所へと訪れて先ずは事務所の掃除を行っていると、そこへ探偵事務所の後輩である冨永零士が元気に出勤してきた。
「おっ、兄弟子。今日は早いですね。」
「今日は何か早くからマリアが出掛けてさ。僕もそれで起こされちゃったって感じ。」
「あっ、そうそう。そういや表にお客さん居ましたよ。」
「だったらお通ししろよ。零士。」
僕は入り口のドアを開けると、そこには背広姿に眼鏡をかけた如何にも家庭を持ったサラリーマンと言った風貌の中年男性が立っていた。軽く挨拶を交わして水谷のデスクへと案内した。男は名刺を水谷へと渡すと、水谷は彼をテーブルソファーへと案内して対面に座った。そして零士へお茶を出す様に指示をすると本題へと入った。
「どうも水谷珠樹と言います。今日はどう言ったご用件で? 」
男は眼鏡を人差し指で持上げて、ポケットから1枚の手紙を取り出してテーブルへ置いた。そして
「私は玉田 観月と言います。実は今朝、家のポストへこの様な手紙が入っていまして。」
『お前の娘は預かった。警察には言うな。3日後の1月13日に三千万円用意しろ。虎立つ見牛断つ旨経つ寝、音取ら去る耳雨々上手右。by Transparent dot』
「そして手紙を読んだ私が寝室へ戻ると娘の姿は無く、妻と捜したのですが何処にも見当たらなかったんです。そして警察にも言えずに、こちらの探偵事務所へ娘の捜索を依頼に来たのです。」
水谷は話し聴き終わると立ち上り、手袋をはめて手紙の端ををソッと持ちコピーに掛けて依頼人の玉田へと渡した。そして水谷はコピーした手紙を見ながら
「とらたつ...... こたつ...... 。トランスペレント...... 。そうですね。予定は三日後となっていますね。それではこちらで調査をした後に、またご連絡致しますので今日の所はご家族の下へ戻ってあげてください。」
そう言うと玉田は軽くお辞儀をして、事務所を後にした。水谷は何事も無かったかの様にコピーした手紙をテーブルに置いて羊羮を噛っていた。僕と零士は二人で興味深々にコピーした手紙を覗き込んだ。この暗号めいた手紙の謎を解く事で水谷に認められ様な気がして二人は真剣に考えたのであるが、水谷はそんな僕達に
「その手紙、この事件は何か違和感があります。幸島岳大君、冨永零士君はこの事件には触らないでください。」
そう注意を施すとお茶を啜り欠伸をした。そしてパソコンで調べものをしたかと思えば、そのまま事務所から出て行った。
僕は零士と二人になる事は時々あって、歳も近い事もありそんな時は二人でくだらない会話をしていた。零士は手紙を二部コピーすると1枚を僕に差し出してきた。手紙を受け取り
「この件は水谷さんも触れるなって言ってた事だし止めとこうぜ。」
「何かもう少しで解けそうな気がするんですよ。」
「マジで? でもさ、水谷さんは解いた上で僕達に触れるなって言ったのかもよ。僕はこの事件はいいや。」
「そうっすかね。俺はそうは思わないけどこの文章は解けそうなんですよね。たまには水谷さんを越えてみたいじゃないっすか。」
そう言うと零士は手紙を握り、熱くなって事務所を出て行った。僕は必然的に事務所の留守番となってソファーで横になりテレビを点けて眺めている。テーブルの手紙のコピーに手を伸ばして
「水谷さんが感じた違和感ってなんだろう。transparent dot...... 透き通った水玉...... 。この事件にもポルカドット611が
関わっているのか? 」
僕はその言葉の持つ違和感に水谷のデスクに座ってパソコンでtransparent dotを調べた。




