【7】Mine note-2
朱美の緊張が解けた所でエミが僕達のテーブルへとメニューを持って現れ、尚吾の頭を
「馬鹿言ってんじゃないわよ!」
と叩き朱美はまたクスリと笑い。そしてエミはメニュー表をテーブルに置いて注文票を取り出し
「ペチコ先生があんた達の奢ってくれるから選びな。」
僕と尚吾にそう言うと。エミは次に朱美の方を見て
「ペチコ先生からお姉さんの分も言われておりますので、こちらから選んでください。」
と笑顔で注文を聞いた。いつもの事なので尚吾は窓の方を向いて
「アイスコーヒー。」
と言い。僕は
「じゃあ次ぎはホットコーヒー。」
そう答えると朱美は
「私はアイスコーヒーでお願いします。」
と注文を取り終えるとエミは
「畏まりましたー。」
とカウンターへ下がった。まだ不貞腐れている尚吾に僕はノートパソコンを指差して
「尚吾の得意なそいつで。何か調べられないの?」
と訊ねると。尚吾はキーボードをカタカタ叩き出して、落ち着かないまま窓の外を見て
「集中出来ない...」
そう呟いて。次にエミを呼び出して「いつもの。」そう言うと、エミは不機嫌な顔で真っ黒い布を渡して
「気持ち悪いけど。人の命懸かってんでしょ?ちゃんとやりなさいよ。」
そう言いながらカウンターの奥へと消えていった。そして尚吾は僕にメモ帳とボールペンを渡して
「タケ頼んだよ。」
と言い。真っ黒い布を頭から被り、布の中でモゾモゾと動き中からはカタカタと音が聞こえる。僕は不思議そうに見つめる朱美に
「尚吾は変わっててさ。パソコンのスキルは凄いんだけど、真っ暗闇の中でないと集中出来なくて。いつもこうやってパソコン作業するんだ。」
朱美はそう言われても得心はいかないようで。呆気に取られた表情で頷いた。そして、中から尚吾は
「S県F市F町。屍逝人。四人。車。」
そう言い出して。僕はそれをメモに録った。そしてまだ尚吾は布の中でモゾモゾしていると。そこに千香子が戻ってきて、その蠢く謎の黒い塊を見て一瞬止まったが
「何があったらこうなるの?」
と僕に質問してきたので事情を説明すると、納得はしたらしく真っ黒い布を頭から被った尚吾の横へ腰掛けた。尚吾はそんな事も気にせずにカタカタとキーボードを打ち
「屍の集い。四回目。練炭。ガムテープ。ゴムホース。」
そう言うので僕はメモを取り。モゾモゾと動く尚吾に
「尚吾。千香子先生が戻ってきたからもう良いよ。」
と布を剥くと。尚吾はキーボードを叩く手を止めて天井を見ると息を大きく吐いた。千香子はそんな尚吾を見て
「何か面白い事をやるわね。」
そう言うと。そのタイミングでエミが僕達のテーブルへドリンクを運んで各々に配ると尚吾から真っ黒い布を取り上げて畳みながら
「尚吾っておかしいですけどパソコンは凄くて匿名掲示板での誹謗中傷何かの犯人を割り出したりしていて。結構役には立つんですよ。ペチコ先生はドリンクどうします?」
そう言って。千香子からホットコーヒー2つの注文を受けると、真っ黒い布を小脇に抱えてカウンターへと戻って行った。僕は千香子がホットコーヒーを2つ注文した事に疑問を持ち。千香子に質問をした。
「誰か他に来られるんですか?」
「ああ、私の知り合いの探偵やってる変わった人を応援で呼んだの。プロだけどお金だったら心配しないで。Yellow Submarineにはたくさんの支援者が居るから。」
そう言うと朱美の方を見て
「だから朱美ちゃんは安心してね。郁恵さんは必ず見付けるから。」
と笑顔で続けて言った。そうこうしていると、エミが僕達のテーブルにドリンクを運び飲んで居ると。男にしては長髪でボサボサの頭に黒い中折れ帽を被り濃いグレーのサマーコートを羽織り、青と白のボーダーTシャツ、色落ちしたジーンズに革靴を履いた。やせ形の目付きの悪い男が僕達のテーブルへと現れた。