【52】Maria-3
マリアはギターをアンプに繋ぐと調整し振り向くと
「1曲目と、最後の曲の1番を通しでやります!」
そう言うと、マリアは息を吸い込みギターを鳴らし。イントロから始め歌へ入る瞬間から割れんばかりの大きな声で歌い始めた。その小さな体からどうやって出るのか判らない程の音量で。
冷やかしてやろうと近付いたURICOであったが、マリアの声量は以前と比べられない程のものになっていた。URICOはその声量と透明感の有る、感じた事の無い歌声に身震いし。冷やかす事が出来ずに舌打ちをするしか無く。URICOはそのまま楽屋へ下がり裏口へ行くと唾を吐いた。
マリアはリハーサルでエージに幾つか注文して、もう一度だけ歌いそこで納得がいき。ステージの始まる時間まで自由時間になり近くのコンビニへステージドリンクや小物を買いに出掛けた。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
僕は冨永零士と、二階堂芳美の旦那である二階堂二郎の浮気調査へ出向いていた。二階堂二郎は商社の課長で有り最近不審な動きが多く。休日も外出し一緒に過ごす事も無くなり、浮気を疑っているが決定的な証拠が無い為にそれを抑えて欲しいとの依頼である。
今回は捜査対象の休日を過ごす二階堂二郎に気付かれない様に僕と零士は交代で調査をすることにした。交代のタイミングは二階堂二郎が移動する際に交代するのが1番気付かれ難いと判断して撮影時に無音のカメラを持って追跡した。
二階堂二郎は高身長で爽やかで有りつつ筋肉質でユーモアもあり。如何にもモテそうな男で周りに女性が居る事も多く有るが、距離感は特に親密で有りそうなものは無かった。
「19時にはマリアのライブが有るから早目に終わらせたいんだけどな。」
そう呟きながら僕は二階堂二郎を追い続けている。二階堂二郎は友人達とBBQパーティーを昼から友人宅で行っている。しかしここでも怪しい気配も特に無く、あまり近付いても不審で有るので離れたビルの屋上から零士と二人で双眼鏡と望遠レンズカメラで見張る事にした。
「兄弟子。二階堂二郎が友人宅を出ました。」
「兄弟子って言うの止めて。零士さん。じゃあ、僕はここで指示を出すから。零士はビルから降りて尾行してください。」
そう指示を出すと。零士は親指を立てて二階堂二郎の下へ走った。僕は見失わない様に指示を出し、零士が対象に追い付いてからビルから移動を始めた。
それから16時になっても二階堂二郎に特に動きは無く。僕は少し焦りを持ったが、零士は初めての仕事に夢中になり全然気にもしていない。僕が少し余所見をしていると
「岳大さん。さっきからスマホをチラチラ見てますから待ち合わせと思うんですけどね。」
「そうですね。しかし今日の所は18時までにしときましょう。僕達も時間外になるんで。」
「えーっ。そんな。今日中に結果出したいんですけどね。」
「いや。この仕事は焦るとロクな事ないんで、その気持ちは抑えておいてください。」
「そうなんですね。岳大さんがそう言うなら。」
そんな会話をしていると。二階堂二郎の下へ一人の人間近付いて来た。しかし二階堂二郎の所に現れたのは会社の後輩の男性社員であった。零士は残念そうに
「今日は飲みにでも行くんでしょうね。あーあ、浮気の証拠は撮れそうに無いですね。」
「そうですね。まあ、時間一杯は追跡して見ましょう。」
僕と零士は距離を取り、離れた位置から二人の後ろを付いて歩いた。しかし人通りの少ない道を歩いてなかなか居酒屋や店に入る事も無く歩いている。そのうち公園に辿り着き二階堂二郎と後輩はまだ歩き続けて時間は17時になっていた。そこで二人は立ち止まり周りを確認すると抱き合いキスをし始めた。僕と零士は木陰に隠れて一部始終を写真撮影することに成功したが腑に落ちない気持ちで目を合わせると。二階堂二郎と後輩がラブホテルに入る所まで撮影し。水谷の居ない仕事は終了したが。奥さんの二階堂芳美の事を思うと不憫で仕方なかった。




