【49】dot monster-6
dot monsterは水谷に言われている事が的を得ている事に恥ずかしい気持ちを持ちながらも冷静を装おうとお茶を口にした。水谷はそんな反応を見ると
「焦りも心配も劣等感も要りませんよ。こう見えて15歳の時から20年間探偵をしていますからね。経験値が違いますよ。君はまだ若い。これから成長する人間です。」
「うるせえよ。経験値が何だ俺の方が優れているんだ!」
「その台詞を矢が腹部に刺さって倒れている所で言いたかったんですよね。それが穴を埋める条件だったのですかね。」
そう水谷が言うと。dot monsterは言葉に詰まりながら
「うるせえ。」
とだけ言うと。水谷は羊羮を食べながらdot monsterの羊羮を指差し
「糖分は脳の栄養になりますよ。」
柔らかく、その選択肢を自分で選ばせるかの様に勧めた。そして続けて
「君のお陰で久しぶりに旅行を楽しめました。ああ言った状況でもないと、なかなか行きませんからね。ありがとうございます。久しぶり次いでに、久しぶりに命を狙われるのも楽しかったです。」
dot monsterはその言葉に、羊羮を口にし始めた。水谷はお茶を啜り
「命を狙われるって言うのは不思議と生を実感します。生と死はワンセットですからね。海外で海賊に誘拐された商船の解放や。テロ組織に入った息子の帰国。暴力団に騙し取られた権利書の奪還その3つの依頼は本当に殺されかけました。」
シャツのボタンを外して晒した身体には銃痕や、広い切り傷や、火傷の痕があちらこちらに見られた。水谷はシャツのボタンを止め直し
「君は殺す気が有りませんでしたね。しかも今回が初めての犯行。それは大したものです。普通、劣等感から起こる衝動的犯行は大脳皮質が機能せずに弱い物に向かうのですが。いきなり難易度の高い所に挑む辺りに、君の理性的な部分を私は評価します。ここで働きませんか?日当は一万円からのスタートで。追い掛けるのもお金が掛かったでしょう。」
その言葉にdot monsterは戸惑いを見せた。自分を殺しに来た人間に対して寛容さ見せるにも程がある。その気持ちは逆に水谷の気持ちを確かめてみたい。その様な気持ちを生み出し
「俺は......あんたを殺そうとしたんだぜ。」
「違いますよ。君は力を見せ付けたかっただけです。自分を認めて欲しくて。それを採用試験として合格を出しました。君は良い探偵に成れます。」
「俺はポルカドット611に言われただけで。あんたを殺そうとした軽卒な人間だぜ。神童なんて持て囃され社会で挫折しただけの。冨永 零士って23歳の、ただの無能な人間だ。」
「良いと思います。人間なんて常に矛盾の中で矛盾を抱えたまま生きていくのです。自尊心と挫折心を同時に抱えるなんて普通の事です。運悪く挫折して、運良く殺人犯に成らずに済んだだけです。今日から泊まり込みでも良いですよ。近くに銭湯も在りますし。」
水谷は羊羮の食器を片付けて、お茶を淹れた急須を持って戻り。零士の湯呑みに注ぎ入れ、自分の湯呑みにも注ぐと水谷は
「これから友人達に旅のお土産を配りに行きます。冨永零士君も一緒に来ますか?」
そう言うと零士は水谷の淹れたお茶を啜り
「本当に俺に才能が有ると思いますか?」
「有りますよ。後は経験と訓練ですよ。」
「ありがとうございます。俺はとりあえず今日は帰ります。明日また来ても良いですか?」
「もちろんです。働きにでも、殺しにでも構いませんよ。」
水谷は指でピストルを作り笑った。水谷はそのまま零士を駅まで送りお土産の羊羮を渡し
「それは冨永零士君の分のお土産です。遠慮無く持って帰って食べてください。」
そう言って送り出し。その後に僕のアパートに水谷はお土産の羊羮を持って来てくれて、今回の一部始終を話してくれた。そして何だか水谷は帰る時に嬉しそうに見えた。




