【3】Green Shark Challenge -3
アパートから歩き。本屋の角を左に曲がりそのまま真っ直ぐ歩くとコンビニが有り。その先の階段を上がり線路を跨ぐ橋を渡った。
その橋を歩いていると丁度線路の上辺りに一人の女の子が立っていた。そんな何気無い光景は僕の中に違和感を残したその女の子は肩までの栗色の髪でTシャツに黒いパンツ姿の高校生ぐらいであった。僕は気にはなったが尚吾が待っている事もあり、橋を渡り大学前駅の入口へと急いだ。
駅の前に着くと尚吾は水泳帽を被りゴーグルを付けて海パン一丁で噴水の前の縁石に腰をかけてスマートフォンを弄っていた。尚吾はそんな奴でいつも何か仕掛けてくる。つまり愉快犯だ。しかし大学に入って四年も一緒に居ると馴れてくるもので僕は何喰わぬ顔で尚吾に
「飯どこ行く?」
と言うと尚吾は水泳帽を地面に投げて
「突っ込めよ!人がこんな格好で駅前で準備してたのに!」
「いや。いつもの事だから。」
そう言い返すと。尚吾はバッグを持って駅のトイレへと入って行った。僕はそのまま駅の前で待たされた。そして少し待つと、ちゃんとTシャツにジーンズ姿の尚吾が出て来て。
「ごめんタケ。じゃあ腹減ったし行こうぜ。」
尚吾はそう言うと。とりあえず、また橋を渡って駅の反対へと移動する事にした。すると橋の方から日常を切り裂くような悲鳴が上がった。僕と尚吾は慌てる事もせずに橋の階段を登ると、床に座り込んで叫んでいるOL風の女性や立ち尽くすサラリーマンの男性が数人居た。僕達はその光景の間を通ると、そこはさっき女の子が立っていた場所で線路の真上。その床にはさっきの女の子の物らしい左腕が千切れて血を流しながら落ちていた。
尚吾は座り込んでいる女性に近寄り
「大丈夫ですか?」
と声をかけ。女性は狼狽えて震えながら
「女の子がいきなりそこから飛び降りて。電車が来てブシャッて......」
声を絞り出す様に言うと。スマートフォンで警察に電話をして状況を説明し始めた。僕はさっきの女の子を思い出しながら落ちている腕を眺めて居るとその腕には『green』と書かれていた。僕はそれから、OL風の女性の顔に返り血が着いているのを確認するとポケットからハンカチを取り出して尚吾に渡した。尚吾はハンカチを受け取ると女性の顔を優しく拭いて立たせてあげて、そこから離れ女性と話していた。
僕は橋の欄干から下を覗き込むと。そこでは駅の職員達が出て来て現場を確認していた。そんな中で床に落ちた女の子の腕に目をやると、そこにはメガネをかけた長い髪を後ろで束ねた女性がしゃがんで。その腕に手を合わせるとそのまま立ち上り駅の反対へと歩いて行った。
警察が来て一通り事情を説明すると、僕と尚吾は解放されて代わりにその場に居たサラリーマンの人達が警察に事情聴取を受けていた。僕と尚吾はランチに行く予定であったが、食欲が失せたので近所の喫茶店に行く事にした。僕は喫茶店に行く間にも先程の腕の事が頭から離れないでいた。
確かにあの腕には『green』の文字が刻まれていた。こんな所でも『Green Shark Challenge』の犠牲者が出ている事に、僕は感傷に更けていた。それは他人の指示に従いこうもあっさりと人は死を受入れられるものだろうかと言った事である。例えば人とのやり取りで『お前死ねよ。』等の言葉を受けたとして。実際に死ぬ人間なんて居るのだろうか?そんなことを漠然と考えながら尚吾の後ろを付いて歩いた。
そうこうしている内に僕達は、駅裏に在る喫茶店『水玉』へと辿り着いた。ここの喫茶店のマスターは僕達の大学のOBらしくコジャレた風貌の顎髭を生やした三十代の細身で気さくな男であった。うちの大学の学生は結構利用する者が多く僕と尚吾もよく利用していた。