【18】S Ending-8
「お兄さんも早く脱ぎなよ。チャッチャと。」
僕はそんなマリアに慌てふためきながら
「いや!服着てよ!そんなつもりで来たんじゃないから!」
「えっ、カラオケ来てやんないの?」
「いや!カラオケは唄う所だし!」
「真面目過ぎ激ウケる。」
とそんなやり取りの後にマリアは服を着始めた。そしてカラオケのリモコンを見ながら
「アッシ。カラオケに来て唄うの久しぶりだな......」
そう呟きながら曲を選び始めた。僕はチラリとマリアを見ると、その言葉に懐かしみと言うよりも寂しい気持ちが心なしか感じ取れた。マリアは
「古い曲だけど。」
と言いながらマリアが唄い始めると。今まで僕がマリアに抱いていたイメージがガラリと変わる程の美声であった。声も通り大きくストレートに胸を打ち。その強弱による言葉の表現力は何か痺れる物を感じさせた。僕はそのマリアの歌に、気付かないうちに心から拍手を送っている。
マリアが唄い終わると僕はもう一度拍手しながら
「君メッチャ歌が上手いよね。僕はこんな上手い人初めて見たよ。」
自然とそんな言葉が口からこぼれた。マリアはそんな僕をキョトンとした顔で見ると、その後に初めて照れ臭くて紅くなった顔を見せた。マリアはその照れを隠す様に
「アッシ唄ったから次はお兄さんだよ。」
とカラオケのリモコンを僕の膝の上にトンと置いた。僕は正直歌が苦手で下手くそで散々なもので有ったがマリアはそれでも楽しそうに聴いて。また自分も楽しそうに唄っていた。一頻り唄い終えて間が空くと僕はマリアに
「あのさあ。君って凄い才能を持った人だと思うんだ。街を歩いていても君は注目を浴びるし。人の心に突き刺さるような歌も唄える。それってなかなか居ないよ。」
「いや、あのあれ。アッシ実は歌手目指してたんだけど。見た目こんなんだからオーディションでいつも落ちちゃってさ。ピアスの穴もタトゥーも消えないじゃん。学校も出ていないし。だからもういいんよ。」
「いや。良くないと思う。あのさ、僕の友達にネット関係に詳しい友達がいてさ。あの動画配信のヤツに出してみようよ。きっと君は世界から注目されるよ。電話番号教えてよ後で連絡するから。」
「タケって何でそんなに一生懸命なの?マジでウケるし。しかもこのタイミングでナンパ?」
「違うよ。君の歌を知って欲しいんだ。」
「何?超アッシ何か嬉しいし。」
そう言うとマリアは僕の頭を両手で掴み自分の顔へと引き寄せた。そしていきなり息が掛かる程に顔を近付けて僕に口付けをした。そして二又に分かれた舌を僕の舌へと絡めて、僕の舌は滑らかに湿った温かい物に両サイドから挟まれ。口の中で包み込まれる様に踊る舌に何とも言えない気持ちに襲われた。
僕とマリアの唇は離れたが、唾液が細い糸となり。少しして離れた。茫然とする僕にマリアはニコリと微笑んで
「解らないけど。アッシはまたタケと会いたいと思ったから電話番号教えるよ。その動画配信やるならまた会えるんでしょ?」
「ああ、うん。」
と僕は軽く頷き。僕はその場で尚吾にメッセージを送りマリアの動画配信の事を伝えた。するとその横でマリアは僕にもたれ掛かりコーラを飲みながら
「動画配信したら皆アッシのこと見てくれるんかな?」
「いや。判んないけど君の歌が誰にも知られずに消えるよりかは全然チャンスが有ると思う。」
「アッシ、ホントはあそこの駅で自殺する人達と集まってみんなで死のうと思ってたの。」
「へぇ。」
「うん。でもアッシ何かタケの事信じてから死ぬ事にするわ。やれるとこまでやってみる。」
そう言うとマリアはスマートフォンでS Endingのメンバーチャットに「今日は参加出来なくなりました。」とだけ書いて。チャットグループを削除した。




