【16】S Ending-6
千香子の合図に僕はチラリとその女性を見た。如何にもやつれて今にも死んでしまいそうな顔色でバサバサの長い髪に小汚ない服装の女性であった。僕は正直に余り関わりたく無いと思っていたが千香子は立ち上りその女性の方へと歩み寄った。
僕はその事に驚いたが不足の事態に、僕の出来ることは思い浮かばずに下手に動くべきでは無いと。その場を動かずにスマートフォンを取り出して眺め。何か不穏な事が起これば出ていこうと考えた。
しかしそんな僕の心配とは裏腹に、千香子はその女性と穏やかに話を進めていく。僕は離れた位置で声も聴こえないが二人の姿は見えている。その女性は涙を流して感情的に話しているのに対し千香子はそれを黙って優しく聞いている。
そしてO駅に到着する頃には二人で手を握っていた。千香子は僕に目で合図を送り僕は二人に近付き会釈をすると一緒に駅を降りた。
その女性は和恵と言うらしく。やはり『S Ending』の参加者であった。頼る者も無く生活していたが会社や地域で人間関係に上手くいかずに、離職を繰り返し生活費も底を尽き死のうと思ったが。一人で死ぬことが出来ずに今回の集まりに参加したらしく。僕は無理に話し掛けずに後ろを付いて周囲に気を配っている。
千香子はそんな和恵に優しく微笑みながら話を聞いては頷いて。たまに自分の話を織り混ぜて話をしていた。
「和恵さんは今は色んな事で頭の中がいっぱいになって他の事を考える余裕がないのよね。それはそうとどうせ死のうと思っているなら、少し私に付き合ってね。」
「わ、わたし何かで良ければ...。」
そう言いながら千香子は、和恵をビルに在る銭湯へと連れて行った。僕は突然の事に銭湯の前で待ち惚けとなり。その向かいのハンバーガーショップで和恵が屍逝人と接触したどれであるか確認した。7人の内、友引郁恵、和恵。そして1人は白木の相棒のコココで残りは4人である。今は10時40分残り7時間で4人と出会わなければいけないかと思うと少し焦りはしたが、成るようにしか成らないと思うしかなかった。
それから20分程で千香子と和恵が銭湯から出て来ると心なしか和恵の顔色に少し赤みが差していた。そして千香子は
「じゃあ次は教え子がこの近くでお店やっているから、そこに付き合ってね。」
そう言い。僕と和恵を引き連れて更に移動した。僕はとりあえず、されるがままに行動を共にしたがエステ店へと辿り着いたので。僕はまた時間を潰すことにした。そして次にも教え子の開いた美容室へと行き。それから服も買おうと言い。気付けば和恵は別人の様に綺麗になり輝いていた。
和恵は戸惑いながらも手持ち鏡で自分の姿を見て嬉しそうに眺めている。その頃、丁度昼過ぎになり一度駅前に向かい。その途中に在るカフェでランチを取る事になった。僕達は3人でランチメニューの魚介パスタとピザを食べる事にした。
食事をしていると和恵はポロポロと涙を溢し始め
「わ、わたし何かがこんなにして貰って。どうやってお返ししていいのか。家も仕事も無くして......」
そう言う和恵に。千香子は
「じゃあ、体で払って貰うね。」
とニコニコしながら答えた。それを聞いて和恵は
「えっ、わ、えっ...」
と顔を赤らめて戸惑うので。千香子は笑いながら
「何か勘違いさせちゃったわね。私は大学で教授やっている傍らで会社を3つ持っているんだけど人手不足で困ってたのよ。社員寮も在るから明日から来てね。凄く助かるから。」
と和恵に名刺を渡すと。和恵は小さく名刺を見ながら。コクンっと頷いた。そして千香子は
「帰りに案内するから。ご飯は楽しくいただきましょ。作ってくれた人に失礼になっちゃうわ。」
そう言うとパスタの上の手長海老を指で摘み殻を外して口に入れて笑顔を向けた。僕も
「そうですね。」
と相槌を打ち。和恵も少し笑顔を見せて食事を始めた。




