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【10】Mine note-5




 尚吾が水谷からメモ帳を取ると。水谷は直ぐに僕の方を見て煙草を吸い


「友引郁恵さんが部屋に居る事を直ぐに見抜いた幸島岳大君なら。その屍逝人がどれ程エキサイティングな推理素材か判るよね?」


「僕は事件なんかを調べるの好きだし。興味有りますけど、今から死のうとしている奴になんか興味有りませんよ。それに郁恵さんが部屋に居るのだって、電気メーターが動いていただけだし。」


僕がそう答えると水谷は


「中からペチコさんが出てきたら、全てを話すからそれを聞いて考えると良い。」


そう言って煙草を黙々と吸いアパートの壁を眺めていた。そんな水谷を見ながら僕はふと思った。水谷珠樹を略せば水玉でポルカドット611は、この水谷珠樹では無いだろうか?この飄々(ひょうひょう)とした印象からもコメントの雰囲気と重なり。僕は耐えかねて水谷へ質問をした。


「僕は少し気になっている事が有りまして。水谷さんはポルカドット611と何か関係は有るのでしょうか?」


僕はその質問に対する水谷の反応を、少しも見逃さぬ様に注視した。水谷は煙草のケムリを吐き出しながら


「おじさんの名前を略すと水玉だからかい?安易だなぁ。そんな質問を気軽に出来ちゃうって事は、君は余りポルカドット611の事を知らないみたいだね。簡潔に答えを言うならNOだ。」


そんな話をしていると部屋の中から千香子が出てきた。そして柔らかい笑顔を見せ


「郁恵さんはもう大丈夫だから。後は二人きりにしてあげましょう。失敗続きの郁恵さんを前に朱美さんの堅実さが眩しかったみたいね。その事を朱美さんも理解して反省しているし、帰りましょうか。」


そう言うと。水谷は「あいたたっ」と腰を押さえながら立ち上り、煙草をポケット灰皿に仕舞うと


「ペチコさん。あの娘は白ですか?黒ですか?」


「郁恵さんにポルカドット611との接触は見られませんでした。友情と現実の間の焦躁だけです。」


「そうですか。しかしあの娘の接触した『屍逝人(かばねいくと)』は限り無く黒ですね。これがさっきの喫茶店で言った『その先の事』です。」


「この子達の前でその話しは止めましょう。今のままならまだ引き返せますし。」


「最近の若者の自殺には『green』の文字が刻まれる。そして......」


「珠樹。止めなさい。」


「I区通り魔事件。Y県一家殺害事件。S区エンタービル爆破事件。その他6件の事件の容疑者は皆『ポルカドット611』の名前を残している。」


その水谷の台詞に千香子は右手で頭を押さえて。「あ~あ言っちゃうし。」と水谷を睨んでその後に僕の顔を見て


「岳大くんの瞳孔開いているし。興味持っちゃったじゃない。」


僕は今までにポルカドット611に感じていた違和感が頭の中で繋がり。水谷を見ると水谷はまた煙草を取り出して火を着けて


「君の思考は逃げられなくなったね。」


とニヤリと笑んだ。そして話を続けて


「高城尚吾君。屍逝人の4回は#自殺者募集の投稿を行った回数ですよね。」


千香子は水谷のその言葉に


「屍逝人は4回自殺志願者を集めている。つまり満たされちゃったのよ。自分の呼び掛けに命を捨てる人間が集まる事によって。承認欲求と虚栄心が満たされ自己肯定感を増して、それに

快感を覚え繰り返している。」


「そうですペチコさん。そしてその引き金を引いたのは初回の自分の自殺の失敗。その後にポルカドット611との接触。屍逝人が募集を掛けている1回目の後にポルカドット611はMine note上に現れた。それで合ってますか?高城尚吾君。」


水谷が尚吾にそう訊ねると。尚吾は少し考えて黙って頷いた。そんなやり取りを後に僕達は解散した。気付けば汗だくになっていた。暑い夏の日の夕暮れが近付いていた。そんな中で静かに僕はポルカドット611の存在へと呑まれ始めていた。




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