【1】Green Shark Challenge -1
高層ビルの建ち並ぶ真ん中で僕は紫色に張り巡らされた空を眺めると、ビルから僕の足元へ何かが落ちてきて弾け跳んだ。それは真っ赤にタイルの上で広がった。
「なんだこれ?」
そこには緑や白や黒も見える。
「スイカ......」
そして僕の足元へ更にスイカは落ちてきて次々と弾け跳んだ。辺り一面にスイカの皮や果肉や汁が飛び散り僕のスニーカーはベトベトになり、水分を存分に蓄えたタイルはツルツルと捉え処無く僕は転びタイルの上でスイカの汁まみれになって悶えた。
そんな僕は立ち上がろうと地面に手を突いたが、スイカの汁に手をとられて更に滑りうつ伏せに這いつくばった動けない僕が前を向くと、大勢の人々がこのビル群に囲まれた広場の中に集まり狂気とも言える笑い声を上げながら落ちてきたスイカを踏みつけ。そして手に持った丸々としたスイカをナイフや包丁で切りつけ合い笑っていた。
その光景は紫色から赤黒く斑に拡がり、笑い声が不愉快に散らばり、ビル群は頂上からボロボロと崩れ落ちるも、まるで羽毛の様に柔らかく軽く広場へと舞い僕の頭上へと......
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8月12日
「うわぁああああああ!」
僕はベッドの上で手を伸ばし目を覚ますと目の前にはカーテンの隙間から朝日より少し強い光りが射し込んでいた。
「夢......。夢だよな。あんなスイカがたくさん有るわけ無いし。しかし、なんだあの不気味な夢は。」
僕は枕の横に置いていたスマートフォンを手に取ると、セーフモードで消えた画面の明かりが点くとニュースページが開いていた。
「これのせいか。」
ニュースページは中学生によるイジメ、その結果によるイジメを受けた中学生の自殺の記事であった。僕はそのページを閉じると、他の殺人事件や遠い国での戦争や、各国の政治家を介しての経済制裁。そういった物が並んで、とても明るい話題と言った感じの物は何一つそこには有りはしなかった。
僕はスマートフォンをベッドへ投げるとカーテンを開けて外の太陽の光りを全身に浴びながら背伸びをした。そして少し明るい気持ちになった僕は
「この世界が歪んでいた事なんて始めから判っている事だろ。この世界が正しかった事なんて今まで無かっただろ。」
そう呟くとベッドのすぐ近くに在るパソコンデスクへ座り、デスクトップパソコンの電源を押すと立ち上ると。部屋の入り口の流し台で電気ケトルでお湯を沸かして紅茶を淹れた。
僕は紅茶を啜りながらパソコンデスクへと戻ろうとすると。狭い四畳半の部屋にぎゅうぎゅうに並べた本棚からはみ出した本の山に躓いて、紅茶を溢しそうになったが、それでも溢さずにパソコンデスクの椅子へと腰を下ろして画面を眺めた。
そこには喧騒とした世間のニュースとは別に。僕にとって悪夢を見せる気掛かりな物がもう一つ有った。それは『Green Shark Challenge』通称GSCである。僕はSNSである『Mine Note』上に有る、そのGSCのアカウントページを開き眺めていた。
GSCはメディアで『自殺ゲーム』と呼ばれ。アカウントにアクセスし、DMを送信するとGSCのアカウントから1~50までの指示が送信されてくる。その指示に従い続けると50番目の指示により自殺してしまう。つまり1~49までの簡単な指示をこなすうちに利用者は洗脳されて50番目の指示に逆らえなくなってしまうのである。
チープではあるが単純にして効果は絶大で。このGreen Shark Challengeは2年前に出現し、今までに世界中で378人の自殺者を出した。その事に各国はアクセス禁止や削除を行い対策を施したが、日本だけは法の整備に二の足を踏みそのまま時間は流れ、放置されたまま若者の自殺を増やし続けていた。