第8話「戦いの後」
テラゴリラとの戦いが終わって少し経つと、
「……ぅ、ぁ…………、あれ、わたし…………」
ルークのヒールにより蘇生したリルルが目を覚ました。
「お姉ちゃん!」
「るぅ……く?」
「よかった! ほんとによかったよぉ!」
ルークが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらリルルを抱きしめる。
リルルは最初自分の状況が良く理解出来ていなかったのか戸惑っていたが、意識が覚醒するにつれ、自分がどうなっていたか、そして自分がどうして戻ってこれたのかを理解したようだ。
彼女はそっとルークの頭に手を添えて、その髪を撫でる。
そしていつものしっかりとした姉の声で、泣きじゃくるルークに語りかける。
「も、もう……本当に、ルークは泣き虫なんだから……。
そんなことじゃ、いつまで経っても、お父様と、おかあ、さまに、……笑われ……ぐすっ」
だが、その声は最後まで続かなかった。
無理矢理取り繕った表情はすぐに解れ、声は震え出す。
そして、リルルの本当の気持ちが悲鳴のような泣き声と共にあふれ出した。
「う、うわぁああぁぁあああああああああっっ!
こわかった……! こわかったよぉっ!
突然、目の前がまっくらになって!
なにも、みえなくて、きこえなくって……っ! すごく、つめたくて……!
どんなに目をあけようとしても、あけられなく、って……!
私、もう目が覚めないんじゃないかって、ううぅ、うわあああああっ!!」
「お姉ちゃん……っ」
抱き合い、自分の半身の無事を喜び合う二人。
その光景を、俺は何も言わずただ眺めていた。
そこに俺の立ち入る場所はなかったから。
ただ、少し離れた場所から、本当に良かったと胸をなで下ろして。
――そして、しばらくすると、リルルが立ち上がり、俺の元へやって来た。
「……か、格好悪いところを見せちゃったわね…………ぐすっ」
まだ少し眼が赤いが、だいぶ持ち直したようだ。
あんな目にあったってのに、本当に強い女の子だ。
「とんでもねぇ。確かに途中、確かに色々あったけど、
最初のリルルのフレイムがなかったらどうにもならなかった。
間違いなく、リルルが今回のMVPだ」
言って、俺は何気なくリルルの頭に手を伸ばす。
だけど、途中で気づいた。
「ああ悪い。子供扱いはきらいなんだったな」
俺は手を引っ込める。
いや、引っ込めようとした。
だが、その手を、リルルの小さな両手が掴んできた。
そして――
「いい」
「え?」
「今くらい……、子供に戻りたいときも、あるのよ」
何かを訴えるような瞳で、俺を見上げてきた。
俺はすぐに彼女が何を欲しているのかを察して、
「……ああ」
リルルの頭を撫でてやった。
ゆっくりと、慈しむように。
そのとき、リルルが浮かべたはにかむような笑顔を、俺はきっと忘れないだろう。
こうして、俺のロールワールドでの初クエストは幕を閉じたのだった。