第6話「ボス戦・前編」
◆◇◆◇◆――――戦闘開始――――◆◇◆◇◆
敵:テラゴリラ(クエストターゲット)
HP:30
ちから:8
きようさ:3
すばやさ:3
装甲値:?
『は、はぁあああ!?!?
ちょ、ちょっとまて、なんだ『ちから8』って!
実行値6でダメージ14! 実行値1でもダメージ9って、
HP7のリルルなんて装甲含めても殆ど一撃圏内じゃねえかよッ!?』
『まあ野生の魔物に人間が立ち向かうっていうのはかなりのリスクを伴うことだから。
レンヤの世界のゴリラにだって殴られたら人間の頭蓋骨なんて一撃で粉々になると思うよ。
そしてコイツはただのゴリラじゃない。テラゴリラなんだから!』
くっそ、明らかにやべえ敵なのにふざけた名前しやがって…………っ。
『ゴリラの『すばやさ』は3。なら俺の方が早く動けるな!』
『もちろん! 行動は!?』
『攻撃だ! まず装甲値を割り出しておきたい!』
『了解! ではダメージロールどうぞ!』
・レンヤ
判定:ダメージロール
能力値:5
実行値:『1,2,4』――目なし『二回目の出目にチャージ+1』
『5,2,5』――出目『2』+『チャージ1』で実行値『3』
結果:『(3+5)-?=0』――ダメージ『0』 自動失敗!
※テラゴリラの装甲値が『8』と判明!
テラゴリラに走り寄り、俺が渾身の力を込めて振るった剣。
だがそれは、テラゴリラの分厚い胸板に硬質な音を立てて弾かれてしまう!
俺の手にはまるで巨大な岩を剣で殴り付けたようなしびれが返ってくる!
「いってぇえ! な、なんつう堅さだよ! ホントに生き物かコレ!」
『戸惑っている暇はないよ! 今度はテラゴリラの攻撃だ! ターゲットはレンヤ!』
・テラゴリラ
判定:ダメージロール
能力値:8
実行値:『6,2,3』――目なし『チャージ+1』
『1,4,5』――目なし『チャージ+2』
『6,1,1』――出目『6』+『チャージ2』で実行値『8』!
結果:『(8+8)-2=14』――ダメージ『14』!
『ぎゃあああああああああああ!!!!』
『うっわ、ここにきてチャージシステムが荒ぶり始めたよ……』
『俺のHPが15だからダメージ14ってもう殆ど死んでるじゃねえか! 絶対回避だァッ!』
『では回避ロールどうぞ!』
こ、このロールはミスれない! 頼むぞ俺の運命ダイス!
・レンヤ
判定:回避ロール
能力値:6
実行値:『2,1,1』――出目『2』
結果:『6+2=8』――命中ロールの目標値『8』
・テラゴリラ
判定:命中ロール
目標値:8
能力値:3
実行値:『5,2,5』――出目『2』
結果:『3+2=5』――命中力『5』 命中失敗!
『テラゴリラが振り上げた拳をレンヤ目掛けて叩きつける!
だがその丸太よりも太い腕から繰り出される圧倒的膂力は、レンヤを捉えることはなかった!
地面に叩きつけられた拳は、土を吹き飛ばし、地面を大きく陥没させるよ!』
『こ、こここっこ、こええええぇぇえええッ!!!!』
やばい、ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!
死ぬ! こんなの一発でも貰ったら絶対死ぬ!
いままで、正直俺はどこかゲーム感覚だった。
だってサイコロで結果を決めるんだもの。
だけど、本物の怪物の力を前に、俺のなかの浮ついた気持ちは一瞬で霧散した。
怖い。ただひたすらに、怖い。なにも考えられなくなるくらい、怖い。
これが、モンスター。
これが、戦いなんだ…………!
「レンヤ! 大丈夫!?」
「っ…………!」
情けないことに、俺は離れた場所から呼びかけるリルルの声に応えることが出来なかった。
喉が震えて、肺が萎縮して、言葉を発することが出来なかったのだ。
そんな中、リルルは毅然とした表情でこの魔物に対し、杖を構えた。
「全てを喰らい尽くす炎の力よ! 敵を焼き払え!」
黒魔法:フレイム
目標値『9』消費MP『3』
ダメージ量:かしこさ+実行値
備考:近くに最低、松明大の炎が無ければ使用不可能
・リルル
判定:フレイム発動ロール
目標値:9
能力値:8
実行値:『4,4,3』――出目『3』
結果:『8+3=11』――フレイム発動成功!(残りMP10)
判定:フレイムダメージロール
能力値:8
実行値:『1,1,5』――出目『5』
結果:『8+5=13』――ダメージ『13』!
リルルが構えた真紅の杖。
そこから迸る魔力の光が、キャンプファイヤーの炎から炎弾を作り出す。
そして作り出した炎弾を砲弾として、テラゴリラに砲撃。
黒い剛毛に覆われた巨大な魔物は、一瞬で炎に包まれた。
『ここで弱点特攻発動! テラゴリラは炎に弱い!
弱点特攻により、テラゴリラに対して1d6(六面ダイス一つ)分の追加ダメージ!』
判定:追加ダメージロール
1d6:4
『ダイスロールの出目は4! この数字をフレイムダメージロールの数字と合算!
合計ダメージ17ポイント! テラゴリラのHPは残り13だよ!』
「ウボォォオォオォォォオォォオォォオォ!!!!」
『やっぱ魔法TUEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!
ボスモンスターの体力を一撃で半分以上もってったぞ!
リルルの姉貴パネェッス! マジリスペクトッス!』
『でも今のフレイムでキャンプファイヤーの勢いがだいぶ弱くなったよ。
フレイムは残り一発しか撃てそうにないね。
そして次はルークの手番だけど、テラゴリラの奇襲によりルークは戦闘参加が1ターン遅れるよ。
具体的に言えば、2ターン目のルークの手順になったときに、戦闘に参加出来る』
『メインヒーラー遅刻かよ!』
だけど、それでも問題ない!
リルルはまだMPを10残してる。
フレイム一発、フォース一発で完全に削りきれる!
それで俺達の勝ちだ!
――確かな勝ち筋が見え、俺は全身の震えから立ち直る。
『さあそれでは2ターン目開始だ! 一番手はレンヤ! どうする!?』
装甲値が8もあったら俺の攻撃はせいぜい3ポイントくらいしか通らない。
それなら――俺の今するべきことは、さっき見えた勝ち筋を絶やさぬこと。
つまり、このパーティの主砲リルルを守りきることだ!
『戦闘中に出来る行動に『かばう』ってのがあるんだよな?』
『え? うん。あるけど。でもそのためには『かばう』相手の前に移動して立っておく必要があるよ。
レンヤは今、1ターン目に攻撃を選んで、リルルからは放れた位置にいる。
ここからリルルの前に戻るには同じく1ターンかかるよ』
つまりこのターンにリルルに攻撃がいった場合その方法じゃ庇えないってことか。
でも、それなら別にやりようもある!
『だったら俺はゴリラとリルルの直線上に立つ!
そしてゴリラがいつ突進して来てもいいように構えておくぜ!』
直線上に立っていれば右から来ようが左から来ようが、どうとでも対応出来る!
俺は多少ダメージを貰うかも知れないが、俺のHPなら一撃はまず耐えられる。
このターンの最後にはヒーラーのルークも戦線に加わるから、まあなんとかなるはずだ。
『…………本当にそれでいいんだね?』
『ああ、もちろんだ。何か問題があるか?』
『ううん。問題は無いよ。ただ、――レンヤ、君はとても大事なことを忘れているよ』
え?
な、なんだよ、それ。
神様、そんな深刻な顔して、俺が何を忘れてるって言うんだ……?
『ではレンヤは移動して、テラゴリラとリルルの直線上に立った。
そして次はテラゴリラの手番だ。
テラゴリラは自分の体力の半分以上を一撃で持って行ったリルルに対し危機感を覚える!
この場で真っ先に潰さなければならない存在は、他ならぬ彼女だと、野生の勘が囁く!
テラゴリラの攻撃! ターゲットはリルル!』
『させるかよ! 当然かばうぜ! 直線上に立ってるんだ! 出来ないとは言わせないぜ!』
『いいや、出来ない!
テラゴリラはその場で大きく跳躍!
レンヤの頭上遙か上空を跳び越えて、リルルにジャンピングアタックだ!』
な、なにぃッ!?
『そ、そんなのありかよッ!』
『レンヤ。君はこの魔物がどうやってここに来たか、忘れていたみたいだね』
『どうやってって…………あっ!』
そうだった。
コイツは10メートル以上ある森の木々を、【跳び越えて】ここに来たんだった!
『この跳躍力にはもっと注意を払っておくべきだった。
跳躍力のことを完全に失念していた以上、レンヤは突然の事態に対処出来ない!
よってレンヤの『かばう』は自動失敗だよ!』
『く、くそ……ッ!』
・テラゴリラ
判定:ダメージロール
能力値:8
実行値:『2,6,2』――出目『6』
結果:『(8+6)-4=10』――ダメージ『10』!
や、やべえ! リルルのHPは7。喰らったら一撃だ!
『だが『きようさ』はリルルの方が高い……! まだチャンスは――』
『ううん。残念だけどそうもいかない! ここでテラゴリラの特性が発動するよ!』
『と、特性だと!? モンスターにもあるのか!』
『あるっ。人間のものとは少し違うけど、生き物である以上、当然才能はある!
テラゴリラの特性は『巨体』!
この特性を持つモンスターの攻撃は『防御ロール』で受けることが出来ない!
よってリルルは強制回避ロールだ!』
『ま、マジかよ!』
リルルの『すばやさ』は――1しかねえ!
「リルルゥッッ! 死ぬ気で避けろォ!!!!」
「くうっ!」
・リルル
判定:回避ロール
能力値:1
実行値:『6,2,6』――出目『2』
結果:『1+2=3』――命中ロールの目標値『3』
え、3? 3って、おい、おいおいおい! ちょっとまてそれって――
・テラゴリラ
判定:命中ロール
目標値:3
能力値:3
結果:自動成功
「ぁ、やだ…………」
「ゴオォオォォオォォオオオオオォオォォオォォ!!!!!!」
リルル:HP7→-3
巨大な魔物の踏み付け。
その速度から足の遅いリルルは逃げ切ることが出来ず――
リルルは、――死亡した。
そしてリルルの命が失われた直後、ルークがテントから飛び出し、
――その惨状を目にする。
巨大な魔物の足下。
あまりの衝撃にひび割れた地面に伏す、
――変わり果てた姉の姿を。
「え、ぉ、おね、お姉ちゃ、……ん? ぁ、ああ。ぅ、
うああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」