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脱サラ異世界転生  作者: 天地無用
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第5話「二人の過去」

 ホゥ、ホゥ、とフクロウだかフクロウっぽい魔物だかの鳴き声が響く黒い森。

 俺は子供二人をテントに入れて、火の番をしていた。

 流石に魔物が出る森で見張りを立てずにキャンプするわけにもいかないからな。


『うん。賢い判断だ。ロールワールドでの立ち回りがよくわかってきたじゃないの』

『まあ今日一日で色々あったしな』

『ふふ。いつから今日一日が終わったと錯覚していた?』

『なん、だと…………』

『ここで1d6(六面ダイス一つ)でダイスロール!

 おっと、奇数か。それならテントからリルルが出てくるね』


 あれ? 寝ていたんじゃないのか?


「どうした。目が覚めちまったか?」

「…………」

「ん? なんだか顔色が赤いけど…………」


 よく見れば内股をこすり合わせてもじもじしている。

 おいおいまさかまだあのスーパークリティカル引き摺ってるのか……?


「……お、おしっこ」

「は?」

「ずっと我慢、してたの。ルークを叱った手前、なんだか行きづらくって……でも、もう限界」


 あ、ああ。なんだそういうことか。ずいぶんと可愛らしい理由だ。


「はは。なるほどそりゃ確かにそうだな。

 ルークには内緒にしておいてやるから、その辺の茂みで適当に済ませてこい」

「…………」

「……ん? どうした。言われなくても音なんて聞かないぞ」

「そ、そうじゃなくってっ! い、い…………いっしょに、きて……」

「なに?」

「そこの茂みでするから……、すぐ側に居て……。一人は、こ、怖いの…………」

「…………」


『登場一日でキャラブレかな?』

『違うよ! 確かにリルルは強いけど12才の女の子なんだよ! 怖いものだってあるの!』


 まあそれもそうかも知れないが。

 今まで本当にコイツ一人でいいんじゃないかなってくらい活躍してたから、

 今のリルルの弱々しい表情は、なんというか、かなり意外だった。

 俺も火の番があるからあまりテントからは放れられないが、

 すぐそこの茂みでする分には、付き合ってもいいだろう。


「わかったよ。ついて行ってやる」

「ありが、と…………」

「すぐ隣で立ってればいいのか?」

「そ、それはすごく恥ずかしいから、その、茂みのすぐ後ろで、待ってて」


 言って、リルルは茂みに入る。

 すぐに聞こえてくる衣擦れの音。


「あ、あの。さっきはああ言ったけど、音も出来るだけ、その、聞かないでね」

「耳塞いどくから、早く済ませな」


 言葉通り俺は指を耳に突っ込むわけだが、――まあ茂み一つ挟んだだけの距離だ。

 これだけ近いとどうしても聞こえるのは言わないでおこう。

 どうせ言われなくてもリルルも承知していることだろうしな。

 それにしても――

 俺はトイレを済ませて茂みから出てきた照れ顔のリルルに言う。


「リルルってもっとしっかりしてると思ってたけど、意外と恐がりなのな」

「……しっかりしないとダメなだけよ。あの子の前では」

「あの子って、ルークのか?」

「そう。…………私達、親が居ないから。

 私がお母さん代わりにあの子を守って、一人前の男に育てないとダメなの」

「…………」


 こんな小さな子供が二人でハンターだ。

 もしかして、とは俺も思っていたことだった。


「親御さん、亡くなったのか?」

「ええ。……私達の両親は二人ともモンスターハンターだったの。

 ダンタレスじゃない、もっと都会の、お城がある町で活躍していたわ。

 お父様もお母様も、とっても強かったのよ」


 だが、とリルルは燃えるたき火を見つめながら続ける。

 その強かった両親が、ある日、お城を襲ってきたとても強い魔物に喰い殺されたと。

 最初、リルルもルークもその知らせを信じなかったという。

 何日も何日も、絶対に両親が帰ってくると信じて待ち続けた。 

 いつだって、どんなときだって、二人は帰ってきてくれたから。

 今度だって、と。

 だけど、待てども待てども両親は帰らず――

 やがて家の蓄えも底をついた頃、


「お城の兵士さんが、瓦礫と化したお城の中から、二人の装備を拾って届けてくれたの。

 そのとき初めて、私達は二人が死んでしまったことを受け入れたわ。

 そして同時に、思ったの。

 この戻ってきた装備は二人の遺言だって。

 私達二人に強く生きてくれという、お父様とお母様の願いだって。

 だから私は弱虫の弟を強くしないといけない。

 あの子を一人前の男に育て上げないといけないの。

 だって、私はあの子のお姉さんなんですもの」

「そう、だったのか……」


 その話を聞いて、俺は二人の装備の豪華さに納得した。

 あれは彼女たちの両親が使用していた装備だったんだ。

 そして二人はそれを手に、両親と同じハンターの道を歩むことにしたのだ。

 両親のように強く生きるために。


「ホント、……えらいんだな。リルルは」


 ちょっとじーんと来ちゃった俺は、反射的にリルルの低い頭に手を伸ばした。

 ルークにしたように、彼女の頭を撫でてやろうと思ったのだ。

 だが、その手をリルルはするりとくぐり抜け、

 低い位置から俺を避難するように見上げて、苦言した。


「子供扱いしないで」


 確かに、そうかもしれない。

 リルルは、正直俺なんかよりずっと立派だ。

 小さいだけで子供扱いしてちゃ、コイツらをバカにしたハンターと変わらない。

 だから俺は「悪かった」と手を下げる。


「……ふぅ。面白くもない話をしちゃったわね。

 なんだかすっかり目も覚めちゃったし、そろそろ見張りを交代するわ。

 レンヤも明日に備えてすこしくらい寝ておきなさい。明日は決戦でしょうからね」

「……ああ、そうだな。そうさせてもら――」


 そのときだった。


「ウォォオオォォォオォォォォォゥゥホウゥゥゥ!!!!」


 森そのものを震撼させるような巨大な雄叫びが、夜の静寂を打ち破った。


「「――――!?!?」」

「こ、この声! 間違いないわ! テラゴリラの雄叫びよ!」


 しかも、聞こえてきたのは雄叫びだけじゃない。

 ガサガサと、メキメキと、ドスンドスン、と

 小枝をかき分け、木々をへし折り、地響きを響かせながら――

 音の主が真っ直ぐこちらに近づいてきていた。


「やべえぞ、これ! 真っ直ぐこっちに来てるぞ!」

「たき火で私達の位置がわかってるんだわ! ルークを起こして!」

「そ、そうだ! ルーク! 起きろッ! 敵襲だ!!!!」

「ふぁ、え、な、なに?」

「ゴリラがこっちに来てる! 急いで準備して出て――」


 瞬間――

 10メートルはあろうかという周囲の高い木々を跳び越えて、

 俺達がキャンプをたてていた、森のひらけた空間に、

 上背三メートル以上の巨大な、巨大すぎる赤い眼をしたゴリラが俺達の目の前に現れた。

 

「ウホッ、ホゥ、ホォォオォオォゥ!!!!」


 ドンドンドンドンッ!

 魔獣テラゴリラの激しいドラミング。

 近くに居るだけで耳が痛い。

 まるで直接鈍器で殴り付けられるようだ。

 一体どういう力をしているんだ。――いやそれよりも度肝を抜かれたのは、


「で、でけえ……っ! 想像してたのより三倍はでけぇッ!」

「やっぱりそうだわ。レンヤ! ルーク! コイツが今回のターゲットよ!」


『お、おいおい。神様、ということはまさか――』

『そういうことさ。このクエストの山場! ――――ボス戦開始だ!!!!』

 

「ウホホッ、ウホッ、ホォオォォオオオオオオオオオ!!!!!!」

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