第4話「特性の力」
こうして俺達の晩餐は焼きイノシシになった。
リルルが拾ってきた薪に火を付け、キャンプファイヤーを焚き、そこでイノシシの肉を焼く。
表面が焦げ、香ばしい匂い食欲をそそる。
じうじう、と肉汁が零れ落ちてきたら食べ頃だ。
俺達三人は一斉にその肉にかぶりついた。
歯を突き立て、パリパリに焼けた皮を突き破る。
野趣あふるる弾力のある肉に斬り込むと、中から脂肪が溶けて液体化した肉汁が溢れて、口内に広がる。
「おいしー! これおいしいね。お姉ちゃん!」
「もふもふもふもふもふもふ」
ルークもリルルも満足げだ。
とくにリルルなんて黙々とかじりついている。
まるで日本人が蟹を食うときのようだ。
しかし、俺は――
「あれ? もしかしてレンヤさんの口にはあわなかったですか?」
俺の表情を見て察したのか、ルークが尋ねてくる。
俺は「う、うん。まあな」と小さく頷いた。
「俺の育った国ってさ、結構どれもこれも塩味が利いてたもんだから、舌がバカになってんだよ。だから俺にはちょっと物足りないな」
肉は美味い。美味いんだけど、だからこそ塩が欲しい!
この肉汁溢れる骨付き肉に塩を、出来れば岩塩をぶっかけて食べたい!
どうしてもそう思ってしまうのだ。
すると、その話を聞いていたリルルが突然口を開いた。
「もふもふ、ごくん。…………それならいい方法があるわ」
・リルル
判定:知識ロール。使用能力値『かしこさ』
目標値:10
能力値:8
実行値:『5,5,6』――出目『6』
結果:『8+6=14』――成功
リルルは立ち上がると、手近な場所に生えていた大ぶりの葉っぱを一枚引きちぎり、それを俺に渡してきた。
「なんだこれ?」
「これをお肉に捲いて食べてみなさい」
「野菜不足ってことか?」
「いいからっ」
強い口調で言われたので、俺は渋々肉に葉っぱを捲いて食べる。と――
「うおっ! な、なんだこれ! この葉っぱしょっぱい! 塩味がするぞ!」
「ナトリという植物の葉よ。山岳地帯に群生する植物で、根から吸い上げた地中の塩分を葉っぱに蓄える性質を持っているの。海が遠くて塩が手に入りにくい山岳部の村では、これを乾燥させ、細かく砕いて塩の変わりにしていたりするのよ」
『なあ神様。つまり今のリルルのダイスロールは、コレを知ってるか知っていないかの判定だったのか?』
『そゆこと。これは知識ロールといって、場所や魔物、植物などのいわゆる博物学の知識を判定するダイスロールなの。
今回の場合は近くにナトリの葉があったから、その葉についての知識をリルルが持っているかを判定したわけね。
一応専門的なことだから目標値は高めに設定したんだけど、さすが大導師さまですわ』
「はぁ。リルルって色んなこと知ってるんだな。
それにあの魔法も滅茶苦茶強かったし。すげえな」
「でしょでしょ! お姉ちゃんは本当にすごいんだよ!
学校でもずっと成績は一番だったし。ボクの自慢のお姉ちゃんなんだ!」
「……もう。ほ、ほめられてもこれ以上なにもでないんだからね。……もふもふ」
照れたようにこちらに背を向けると、リルルは再びもふもふする作業に戻る。
ルークも育ち盛りだからか、骨まで食べる勢いで肉にがっついていた。
そんな二人の様子を微笑ましく見つめるうちに、夜は更けていった。