第2話「ほかほか新米パーティ誕生」
たどり着いた10番テーブルでは、どこからどう見ても小学校高学年程度にしか見えない子供のハンターが二人、木のジョッキになみなみつがれたミルクを飲みながら、他のメンバーの到着を待っていた。
二人とも金髪碧眼で顔立ちもよく似ている。
たぶん双子なのだろう。
耳が尖っているということは、種族はエルフか。
ともかく俺は二人に話しかけてみることにした。
「なあ。ここが『テラゴリラ討伐』クエストのテーブルであってるか?」
「ほえ?」
尋ねると、少年の方のエルフがくりくりと大きな青色の瞳で俺を見上げ、
瞳孔をきゅっとすぼめると慌てたように立ち上がった。
「あ、は、はいっ! あ、あってましゅ! ここであってます!」
「……そうか」
やっぱりそうか…………。
出来れば違っていて欲しかったんだが、そんな都合のいいことはダイスの目でいい数字を出さないと起こらないのがこの世界のルールらしい。
「えと、えっと、お、おにいさん、も、このクエストを?」
「ああ。そりゃな。そうでなきゃ来ない」
「あ、ぅ、そ、そうですね、ごめんなさい」
何故謝る?
先ほどから気になってはいたが、ずいぶんと気の弱そうな子供だな。
昔買っていたハムスターを思い出す。
本当にこんなのでハンターが勤まるのだろうか。
――と、俺がそんな素直な感想を抱いていると、
バンッ! とテーブルを叩いて、もう一人の子供。
女の子の方のエルフが目を怒らせながら少年エルフを怒鳴りつけた。
「コラ、ルーク! なにをオドオドしているの! クエストリーダーは貴方なんだから、もっと毅然としなさいな!」
「で、でもぉ……、大人の人だし…………、こ、こわいよぅ」
「関係ないわ。私達だってもうハンターなんですからね。立派な大人よ! シャキッとしなさい! 貴方がそんなんだからどこのクエストにも参加させて貰えないのよ!」
「あう、あうぅ……」
同じ顔だが女の子の方はずいぶんと気が強そうだ。
倍ほど身長の違う俺の顔を臆した様子もなく見上げ、堂々と話しかけてくる。
「こんにちわ。私はリルル。こっちは弟のルークよ。貴方のお名前は?」
「泉レンヤだ」
「レンヤ。私達が子供だからといってなめないでよね。このクエストのリーダーはルークなんだから! 『お前達みたいな子供は帰ってママのおっぱい吸ってろ』なんて言ったら、クエストから叩き出すからね!」
『どうも子供だからって相当なめられたみたいだね』
『まあこの見た目ならそうだろうよ。でも俺も新米ハンターだし』
「そんなこと言わねえよ。俺も人のこと言える立場じゃねえからな」
『ではここで第一印象ロールを振って貰おうかな』
『こんなとこでもロールすんのかよ……』
『しますとも。それがロールワールドですから。
このロールでルークとリルルの初期好感度を決定するよ。
使用能力値は『かっこよさ』。
幸運ロールと同じで、目なしは二回まで振り直しオッケー。三回目なしで実行値は0。
目標値は、……二人は今まで散々大人のハンターにバカにされて、門前払いをくらってきたからね。
ギザギザハート補正で、――目標値は8。
8未満だとあまり友好的ではないギスギスした関係に、8以上でそれなりに友好的な関係になれる感じでいくよ』
『俺のかっこよさは3か。ダイスロールで5以上を出さないと失敗って結構厳しいな、おい』
『不機嫌ですから。仕方ないね。ああでも8未満を出したからってクエストから追い出されたりはしないから、それは安心して。二人の態度が余所余所しく、あるいは刺々しくなるだけで』
それもそれで嫌だが、まあ追い出されないなら気軽に振るか。
判定:第一印象ロール
目標値:8
能力値:3
実行値:『2,2,2』――『ゾロ目』
結果:スーパークリティカル!
『『ファッ!?!?!?』』
『ちょおま、こんなところでスーパークリティカルかよ! さっき出てこいよ!』
『えっと、じゃあ、二人とも貴方の顔を見るや、突然頬を赤らめて、目を潤ませて、股をもじもじさせ始めるよ』
『なんじゃそりゃああああああああああああ!?!?』
『具体的言えば発情しているようね。甘いフェロモンの香りが漂ってくるね』
『漂わすな! ガキになんてことさせてんだよ!? しかも一人男まじってんぞ!?』
『そういう需要もあると思います』
『俺にはねえよ!』
『まあ発情はさすがに冗談として、うーん、こんなところでスーパークリティカル出されてもなぁ。まあ無難に好感度が最大値になる感じで。
それでは、レンヤを睨み付けていたリルルはすこし頬を染めながら、生意気なことを言っちゃったことを後悔するように目を逸らしてこう言うよ』
「むぅ……わ、わかってくれればいいのよ。わかってくれれば。……ごめんなさいね。ちょっと気が立ってたのよ」
「まあイライラするときってのは誰にでもある。気にしなくていい」
「…………ん」
「はぁ。よかった……。やさしそうなひとで。ね? おねえちゃん」
「ま、まあ、さっきまでの図体ばかりでかい連中と比べたら、見る目あるんじゃない?」
『そう言いながらリルルとルークの二人はレンヤのすぐ隣に密着するように椅子を動かすわ』
『やめんか!』
『これが運命というものよ。文句はあんなところでスーパークリティカルを出した自分の運命に言うことだね』
『ぐぬぬ……』
いやほんと、なんてところでクリティカルの無駄遣いをしてるんだよ俺は。
この反動が後半に来なければいいんだが……。
と、俺が先のことを心配していると、隣のリルルが席を立ち、俺達に向かって言った。
「じゃあメンバーも揃ったことだし、早速クエストに出かけましょうか」
「え? こ、この三人だけで行くのか?」
思わず声を上げる俺。
いやだってさ、ダイスロールの結果的にも見た目的にもコイツらは新米なわけで。
そして俺もほっかほかの新米なわけで。
こんなほかほかトリオじゃゴリラにだって美味しくいただかれちまうんじゃないか?
「せめて一人くらいベテランを入れた方がいいんじゃないか……?」
「……それは、その、ボクもそう思うんですけど」
「何か問題があるのか?」
「……朝から半日待って、ようやくレンヤさんが来てくれたくらいなので…………」
「マジかよ。モンスターハンターって人手不足なのか」
「掲示板にドラゴン退治が貼っていたでしょう。今日ベテランは大抵そっちに行っちゃってるみたいね。まあそうでなくても低難度のゴリラ退治クエストなんて見向きもされないとは思うけど」
ああ、そういうことか。
「私は待つのは反対。無駄になる気しかしないし、私達を散々バカにしたような奴らに入ってこられるのも嫌だもの。
でも決めるのはクエストリーダーであるルーク、貴方よ」
「ぼ、ボク……が?」
リルルに決断を迫られ、ルークは眉を頼りなく垂れさせて困り顔になる。
そして捨てられた子犬のような瞳で俺を見上げてきた。
「あの、レンヤさんは、やっぱりベテランさんがくるのを、まちたい、ですか?」
『うーん。正直言えば不安はあるが。……なあ神様』
『なになに?』
『報酬って黒板に書いてあった額を参加者で山分けなんだよな?』
『そうだよー』
『だったら――』
「……いや。俺もやっぱりこの面子でいいよ。
確かにチームメイトをバカにするような奴に入ってこられるのも迷惑だし。
それに今俺金欠でさ。報酬が減るのも痛い」
そう答えると、途端にルークの表情が華やいだ。
「じゃ、じゃあこの三人でいきましょう! ボクも、三人がいいです!」
そしてぎゅっと俺の手を握ってくる。
小さくてぷにぷにと柔らかい手だ。
本当に男なのか、すこし不安になってくるくらい愛らしい表情に、ちょっと困惑する。
「お、おう。じゃあよろしく頼むわ」
「はいっ。レンヤさん。こちらこそ、よろしくおねがいしますっ」
「よろしくね。レンヤ」
こうして俺は新米ハンターの双子エルフと一緒にパーティを結成し、テラゴリラ退治に赴くこととなったのだった。