表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脱サラ異世界転生  作者: 天地無用
2/11

第1話「ようこそロールワールドへ」

 闇の中に沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。

 その覚醒に抗わず、俺は目を開けた。

 そこに広がっていたのは……見たこともないような光景だった。

 アスファルトもコンクリートもない、黄土色の土と石畳の地面。

 中世ヨーロッパを思わせる石や煉瓦造りの建物の群れ。

 そして行き交う古めかしい服を着た人々や荷馬車。

 人々の中には、耳の尖った者や、ネコミミのついた者、異様に背の小さい筋骨隆々の男などが居る。

 間違いなくそこは、もう地球ではなかった。


『そう。ここはもう地球じゃない。ようこそ。ロールワールドへ』

「うわっ!」


 突然頭の中に現れた神様に、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「び、びっくりした。神様、アンタ俺の頭の中にいるのか?」

『そうだよ。これからはダイスと同じ、ここが私の居場所。

 あと私との会話は頭で考えるだけで出来るから、声に出さなくてもいいよ。

 一々声に出してたら変な人に思われるからね』

『お、おう……わかった』


 もうすでにちょっと視線が痛かった。

 というか俺は、街道のど真ん中に突っ立っているようだった。

 流石に邪魔だろうと、ひとまず道の脇に移動する。

 そして、そこで改めて周りの状況を見た。


『文化レベルは、まさしく中世ヨーロッパといったところか』

『大体そんなところだね。+魔法文化、ってかんじかな。レンヤたちの感覚で言えば』

『よく見たら俺の服装も替わってるんだな』

『うん。新米モンスターハンターの基本装備さ。装備の詳細、みせようか?』

『頼む』


 そういうと、頭の中に直接今の自分の装備が表示された。

 どうやら装備やステータスなどはこういう風に神様が頭の中に表示してくれるようだ。


 装備

 武器:ブロンズソード(戦闘時に『きようさ』+1)

 防具:レザーアーマー(装甲値:2)

 アイテム:なし

 所持金:10000G


『なあ、10000Gって日本円にしてどれくらいの価値なんだ?』

『お金の感覚は君が居た日本とほとんど変わらないよ』

『……全財産一万円か。もって3日ってとこだな。……この装甲値ってのは?』

『まあそれは判定が必要になったときに説明するよ。正直説明ばっかりで飽きた』


 身も蓋もねえな。

 でも、確かに説明は俺も飽きた。

 俺はゲームを買ったら説明書はちゃんと読む派の人間だ。

 読みながらワクワクを募らせるのも楽しいものだからな。

 でも、やっぱりゲームはプレイしてなんぼだ。

 なら、さっそくモンスターハンターとしての仕事をしようじゃないか。


『なあ神様。モンスターハンターの仕事っていうのはどこで受けれるんだ?』

『この町ダンタレスでは酒場がハンターズギルドを兼任しているね。酒場はあの建物だ』

『よっしゃ! じゃあ早速デビュー戦と行きますかァ!』

『気合い入ってるねー』

『そのために来たんだから当たり前だろ』


 俺は意気揚々と神様が指し示した建物へ向かう。

 色の濃い木材で作られた大きな二階建ての建物。

 中に入ると、


「いらっしゃいませー♪ お好きな席にどうぞー」


 給仕服を着たネコミミの女性が、明るい声で迎えてくれた。

 見渡す店内は、いかにも戦う人間でございといった風体の者達から子供まで、幅広い客層がひしめいてる。 


『酒場っていうからもっと怖いイメージだったけど、なんだかレストランみたいだな』

『まあね。ロールワールドの酒場はどこもこんなものかな。

 あ、ちなみに宿舎も兼ねてるから。お代は一日1000G。食事代は別ね』


 一泊1000G。

 カプセルホテルとしても破格の金額だ。

 でも今の俺には高い。早いとこ仕事して、金を稼がないと。


『神様。仕事ってのはどうやって受けたらいいんだ?』

『んー。僕に聞くのもいいけどさ、折角異世界に来たんだから、この世界の人とコミュニケーションしてみたら?』


 む。それもそうかもしれない。

 異世界の人間と話す。

 少し緊張するが、それもまた醍醐味だ。

 俺は先ほど声をかけてくれた給仕のネコミミ女性を呼び止める。


「あの、すみません」

「はい? どうかされましたか?」

「えっと、俺、ここにモンスターハンターの仕事があるって聞いてきたんですけど、仕事ってどういう風に受ければいいんですか?」

「ああ、ハンターさん、もしかして今日が初めてのお仕事ですか?」

「え、ええ。まあ」

「いいですよね! モンスターハンター! 男の人の仕事ってかんじで、格好いいです!」

「まだ新米もいいところなんですけどね。それで仕事はどう受ければ……」

「あ、ごめんなさい私ったら。

 クエストの受け方ですよね。

 それでしたら、あちらの黒板に現在メンバー募集中のクエストが書かれています。

 そこで参加したいクエストを選んで、集合場所に指定されている番号のテーブルに集まってください。

 大体三人か四人集まれば、そこでクエスト出発です。

 出発の判断はクエストを最初に受けた人、クエストリーダーが行うこととなります。

 説明はこれで大丈夫ですか?」

「うん。ありがとう。よくわかった」

「頑張って一流のモンスターハンターになってくださいね! 応援してますよ!」


 小さく手を振って給仕は仕事に戻る。

 彼女の後ろ姿を見つめ、俺は心の中で大きく息を吐き出した。


『…………き、』

『き?』

『緊張したぁ~!』

『なんでまた』

『いやだって、女の子とこんなに長い時間しゃべったの、いつ以来だろう。

 ……人生はじめてかもしれん』

『…………ここにもっと可愛い女の子がいると思うんですけどねぇ』


 まあ確かに神様はかなり可愛いんだけど、場合第一印象が電波だったからさ……。

 にしても格好いい男の仕事か。

 ふふふ、悪くないじゃないか!

 なんだかモテる仕事みたいだし。

 こりゃ、そう遠くない未来に童貞卒業も夢じゃないな!

 よっしゃ。俄然やる気が出てきたぜ。

 早速、クエストを受けよう!

 そう意気込んで俺は給仕のネコミミさんに教えて貰った黒板の前に行く。

 その黒板には確かにいくつものクエストが書かれてあった。

 なんか本当にモンハンみたいだな。

 まず目を惹いたのは、報酬がべらぼうに高いクエストだ。


 ★ドラゴン討伐★

 場所:グルガ渓谷

 難度:高

 報酬:1000000G

 詳細:グルガ渓谷に火吹きドラゴンが住み着いちまった。

    このままじゃグルガ鉱山との連絡が取れない!

    至急、ドラゴンを討伐してくれ!

 依頼人:ダンタレス町長


 経済感覚が日本と同じなら、とんでもない額だ。

 よだれが出る。

 このクエストを成功させれば、懐事情は一気に安定するだろう。

 だけど――


『難度:高、か。正直基準がどんなもんかわからないんだよな』

『別に難しく考えることはないよ。

 触れれば一発で塵になるような高温の炎を吹きまくりながら、

 空を飛びまくる体長十メートル以上のドラゴンと、

 リアルに自分の身体で戦うことを想像してくれればいいよ』

『よし。このクエストは無しで』


 物事には順序というものがある。

 焦ってはいけない。

 まずは簡単そうな依頼をこなしてこの世界に慣れることだ。


『――というと、コレなんかいいんじゃないか?』


 ★テラゴリラ討伐★

 場所:ライラ山道

 難度:低

 報酬:30000G

 詳細:ライラ山道で凶暴なテラゴリラが荷馬車を襲う事件が頻発している。

    なるべく早く退治してくれ。このままじゃ商売あがったりだ。

 依頼人:ダンタレス商会


『しかし、もう少し名前なんかあっただろこれ……』

『報酬三万かぁ。もしクエストメンバーの人数が三人なら丁度一万ずつだね』

『懐事情の安定、とまではいかないが、最初だしこのくらいがいい。まあゴリラで三万は美味しいぜ』

『あ、でもゴリラっていっても魔物だからね? テラゴリラだからね? そこは注意してね?』

『問題ねえよ。所詮ゴリラはどこまで行ってもゴリラだろ。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだろ』

 

 こっちは武器も持ってるし、戦いはダイスロールで行うんだ。

 俺のステータスで戦いに使いそうな能力値、『ちから』は5、『すばやさ』は6もある。

 ゴリラくらい余裕だっての。


『よし、これだ! コレに決めた! このクエストメンバーの集まってるテーブルは、10番か』


 よく見てみれば、テーブルには一つ一つ、真鍮のプレートに番号が振ってある。

 これがテーブル番号なのだろう。

 しかし、クエストメンバーかぁ。

 ……ベテランのやり手ハンターとかが居てくれたら頼もしいんだけどなぁ。

 ああでも、怖い人とかは嫌だな。

 夏侯惇みたいな顔の人とか居たら怖くてまともに話なんて出きんぞ。

 と、俺がそんなことを考えながら10番テーブルを探していると、


『あ、待って待って、レンヤ』


 いきなり神様に制止された。


『ん? なんだよ』


 尋ねると神様は『にま~』っとやたら嬉しそうな顔で笑い、わざとらしい咳払いを一つ入れてから言った。


『えー、ここでいよいよ、初イベントダイスロールをしてもらいます!』


 そう、ついに来たんだ。

 ロールワールドでの初ダイスロールが。

 へへ、まあ実は、俺もこのあたりで来るんじゃないかとは思っていたんだけどな。


『ロールするのは、メンバーの質か?』

『大正解! わかりが早くて助かるねー!

 幸運ロールで同行するハンターの質を決めさせて貰うよ。

 使用能力値は『こううん』。

 目なしは二回まで振り直しオッケー。三回目なしで実行値は0ね!

 今回は目標値の設定はしない。ただし、

 1~4:新米ハンター

 5~8:普通のハンター

 9~12:強いハンター

 クリティカル以上:ものすごく強いハンター

 という風に数字が大きければ大きいほど強いハンターが同行するって感じでいくよ!』


 俺の『こううん』の能力値は2か。

 この時点で強いハンターの目はない。

 実行値ロールで6を出しても8までしか届かないからだ。

 でもクリティカルを出せばものすごく強いハンターはあり得る!


『よっしゃ! やってやるぜ!』

『では、幸運ロールどうぞ!』

『うりゃあ!』


 俺は心の中のダイスを強く強く握り、念を込めて、放った!

 俺の初クエストを共に戦う運命の仲間を決めるダイス。

 その出目は――


 判定:幸運ロール

 目標値:なし

 能力値:2

 実行値:『2,4,4』――出目『2』

 結果:『2+2=4』――新米ハンター


『うわぁ……。え、えっと……じゃあ10番テーブルでは小学生くらいの男の子と女の子の新米ハンターが、ジョッキいっぱいのミルクを飲みながら貴方を待っていました』

『アカン…………』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ