エピローグ「俺、脱サラして異世界でモンスターハンターになる」
テラゴリラを倒したあと。
俺達はゴリラから毛皮をはぎ取り、夜が明けるのを待ってダンタレスに戻った。
そして今は酒場でクエストリーダーであるルークが、マスターに報告を行う。
俺はクエストを無事乗り切った達成感の余韻を楽しみながら、酒場の壁に背を預け、報告が終わるのを待っていたのだが――
『コングラッチレショーン! クエストクリアおめでとうレンヤ!』
突然、パーンッ、と頭の中で神様がクラッカーを鳴らした。
超、うるさかった。
『余韻が台無しなんだが』
『いやー、一時はどうなることかと思ったけど、無事に戻って来れてよかった!』
『……話聞けよ』
まあ、確かにこうやって全員でちゃんと戻ってこられたのは喜ばしいことだが。
『でもいつまでも余韻に浸ってる暇はないよ。そろそろ報酬の話に入らせて欲しいからね』
『報酬? それなら今、ルークが受け取っているところだろ』
『お金のほうはね。
でも苦難艱難を乗り越えて目的を達成した勇敢なハンターには、もう一つ報酬がある。
それが『成長ロール』だ!』
『成長ロール?』
『うん。読んで字の如く。君のステータスを成長させるロールだよ。
レンヤが成長したいと思うステータスの現在の能力値を『目標値』として、ダイスを振る。
例えば『ちから』を成長させたい場合には目標値は5だね。
そしてダイスロールの結果、5以上の目が出ればステータスが『+1』成長するんだ』
『おおっ! ステータスって成長するもんなのか!』
『もちろんだとも。この成長ロールはクエストクリアの度に受けることが出来る。
そして成長ロールが振れる回数は、クエストの難易度によって変わってくるよ。
低難度クエスト――三回。
中難度クエスト――四回。
高難度クエスト――五回、という感じにね。
今回レンヤがクリアしたクエストは低難度クエストだから、レンヤは三回成長ロールが振れる。
さあ! 自分が成長させたいと思うステータスを選んでよ!
あ、ちなみに目なしはここでも三回で『0』扱いだからね。
あと『1,2,3』の『ヒフミ』もここでは『0』扱いだよ。
ファンブルしたからって能力値下げたりしないから安心して振ってね』
『俺の好きなステータスでいいのか?』
『いいよ。ただしわかってるとは思うけど、
元々の能力値が高いと当然成長ロールの目標値は高くなる。
つまり成長ロールが失敗しやすくなるんだ。
特に7から上はクリティカル以上が出ない限り成長しないから注意してね』
なるほど。
元々鍛えられている能力は、そう簡単には上がらない。
でも未熟な能力は上がりやすいってことか。
『よし、ならまずは『きようさ』に成長ロールを振るぜ』
テラゴリラとの戦いの最後。
あれにはなにげにハラハラさせられた。
武器による補正がなかったら防がれてたからな。
この能力は最低でも3にしておきたい。
『わかったよ。では成長ロールどうぞ!』
『たのむぜ!』
判定:きようさ成長ロール
目標値:2
ロール値:『5,6,5』――出目『6』 成功!
『おめでとう! レンヤの『きようさ』が1上がって3になったよ!』
『よっし!』
『さあ成長ロールはあと二回だ。どこに振る?』
『二回とも器用さに突っ込むのもいいけど、ここは『こううん』に振らせて貰うぜ。
俺の『こううん』は2しかないからな。ここも念のため3くらいにはしておきたい。
能力値1の差が命運をわけるのはイヤってほど実感したからな』
『オッケー。では『こううん』に対して目標値2で成長ロールどうぞ!』
判定:こううん成長ロール
目標値:2
ロール値:『1,3,4』――目なし
『5,6,1』――目なし
『2,5,3』――3連続目なしにつき出目『0』 失敗!
『ぐおおぉぉぉ! ここで3連続目なしかよ!』
『大丈夫! あと一回成長ロールは残ってるよ!』
『そ、それもそうだな。よし。『こううん』にもう一度成長ロールだ!』
判定:こううん成長ロール
目標値:2
ロール値:『3,3,1』――出目『1』 失敗!
『ギャーーーー!』
『あちゃー。こりゃさっきの戦闘でただでさえ少ない運を使い尽くしたのかもね』
『くっそー。結局上がったのは『きようさ』が1だけか……』
『まあそういうこともあるよ。
なに、これからたくさんクエストをこなして、少しずつ強くなっていけばいいのさ』
『……それもそうだな』
時間は、たっぷりあるんだしな。
「レンヤさん!」
「お、ルーク。報告終わったのか?」
「はいっ。これ、ルークさんの取り分です。どうぞ」
「サンキュー」
俺はルークから報酬の10000Gを受け取った。
それにしても、ルークの奴かわったな。
昨日この酒場であったときとは、あんなにオドオドしていたのに。
今では真っ直ぐに俺の目を見て、ハキハキとしゃべるようになった。
死線を潜り、男を一つ大きくしたのだろう。
「それからレンヤさん。
お店の人がクエストを成功させたパーティにはご飯をごちそうしてくれるそうですよ!」
「お! そりゃ助かる! もう腹が減って死にそうだったんだ」
「じゃあテーブルに行きましょう。お姉ちゃんはもう待ってますよ」
『ふふ。じゃあ流石に私はお邪魔だろうからしばらく引っ込んでるよ。
存分に楽しんでおいで。
ああ、あと。――ご苦労様。レンヤ』
『ああ。ありがとな、神様』
そして俺とルークはリルルの待つ10番テーブルに座った。
店の人の計らいですぐに乾杯用の木製ジョッキが届けられる。
リルルとルークにはジュースが。俺のジョッギにはビールがなみなみに入っていた。
「じゃあ、クエストの達成を祝して! かんぱーいっ!」
「「かんぱーいっ!」」
クエストリーダーのルークの音頭で俺達三人はジョッキを打ち鳴らす。
そして俺は零れるのも構わずにビールを思い切り呷った。
キンキンに冷やされたビールが、極度の緊張と戦闘の疲労で疲れ切った身体に染み渡る。
仕事の達成感もあり、その味は涙が出そうなほど格別だった。
俺は知らなかった。ビールがこんなにも美味いものだったなんて。
だから、俺は心に決めたんだ。
また、絶対に、こんな美味いビールを飲もうってな!




