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脱サラ異世界転生  作者: 天地無用
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プロローグ「俺、脱サラして異世界でモンスターハンターになる」

 二十七歳の誕生日を迎え、俺こと泉レンヤは工場を辞めた。

 毎日毎日朝から晩まで労働して、残業代込みで手取り15万円。

 独身だし、一人暮らしだし、金の掛かる趣味も持っていない。

 娯楽に使う金なんて、週一でジャンプ買ったり、たまにアキバで中古のエロゲーを買ったりする程度だ。

 だから給料に不満があったわけじゃない。

 ただ、……こう、これから毎日毎日工場で機械油に塗れながら、指先に突き刺さったステンレスのバリに悩まされながら、ずっとずっと代わりばえのしない毎日を過ごすのかと思ったら、俺の人生それでいいのか? という疑問がわいてきたわけだ。

 俺はそんなのは嫌だった。

 だから俺は仕事を辞めた。

 そして自分の天職を探すことにしたのだ。

 そんなときだ。


「そこの貴方。仕事を探しているようだね。だったら

 ――異世界でモンスターハンターとかやってみない?」


 俺は、異世界『ロールワールド』の『神様』に出会った。




 突然俺の目の前に現れた『神様』。

 最初は頭のおかしい女の子かと思ったのだが、

 話しているウチにどうにも本物の神様らしいことがわかった。

 まあさすがに目の前で空飛ばれたり、天候を操ったり、俺以外の目には見えなかったりすると、オカルト系を信じない俺でも現実を受け入れざるを得ない。

 で、だ。

 どうにもこの神様は、『ロールワールド』という剣と魔法の世界で、モンスターハンターとして働く人間を勧誘しているらしい。

 モンスターハンター。……なんともそそられる響きだった。

 きっとこれは俺の天職に違いない。

 そう思ったね。

 だから俺は神様を自分のアパートに招き入れて、詳しい話を聞くことにしたんだ。

 

「で、モンスターハンターってどういう仕事なんだ?」

「そりゃ読んで字の如くさ。

 この魔物を倒してください、っていうクエストを受注して、それを達成することで報酬を得る職業だよ。

 まさに男の仕事って感じで格好いいでしょ!」

「ああ、格好いいな。そういうのは確かに憧れる。モンハンとか超好きだし俺。

 だけど俺ってただの元サラリーマンだからさ、剣も魔法も使えないぜ?」

「そこは大丈夫。ロールワールドに行くときに一度身体を微粒子レベルまでバラバラにして、向こうで再構成するから。今の自分の能力は関係ないよ」


 バラバラって、なんかおっかないな……。


「それにロールワールドはこの世界と物事の法則が少し違う。

 ロールワールドは『全ての運命がダイスによって決められる世界』なんだ」

「ダイス?」

「わかりやすく言えばサイコロだね。レンヤ、ちょっと目を閉じてごらん」


 言われるままに俺は目を閉じる、と――


「うわ。頭の中にサイコロが三つある……っ」

「それがレンヤの運命を司るダイスだよ。

 ロールワールドではこのダイスの目が全ての命運を握るんだ。

 再構成される肉体のステータスもこのダイスの目で決めて貰うことになる。

 目の出し方は、三つダイスを振って、

 5,5,2――だったらダイス目は『2』

 3,1,3――だったらダイス目は『1』

 1,2,4――だったらダイス目は無しで振り直し」

「チンチロかよ!」

「そう。君たちの世界だとチンチロリンの目の出し方と同じだね。

 三つの内二つゾロ目がでたときの、残りの一つのダイスの数が『目』になるんだ」

「チンチロってことはさ、『1,2,3(ヒフミ)』とか『4,5,6(シゴロ)』や『1,1,1(ゾロ目)』もあるのか?」

「あるよ。基本的に『シゴロ』は『クリティカル』。

 『ゾロ目』は『スーパークリティカル』で、出すととてもいいことが起きる。

 逆に『ヒフミ』は『致命的失敗ファンブル』。これを出すとすごく良くないことが起きる。

 例えばモンスターに殴りかかるときの攻撃ロールで『ヒフミ』を出したら、モンスターの目の前でずっこけて防御も回避も出来なくなったりね」

「死ぬじゃん」

「死ぬね。だから出しちゃダメだよ。死んだらそこでこの作品終わるからね」

「何の話?」

「こっちの話。まあだから、ざっくばらんに言えば、

 『出目は大きければ大きいほどいい結果が起きる』

 『でも『ヒフミ』だけはカンベンな!』

 そう覚えておいてくれたらいいよ。それがロールワールドの大原則だから」


 なんだか思っていたよりもずっと運否天賦な世界なんだな。

 でも、何だろう……。

 結構楽しそうじゃないか、それって。

 不思議とその不安定っぷりに魅力を感じる。

 へへ、なんだ。俺ってもしかして結構ギャンブラーな人だったのかもな。

 博打なんてパチンコすらやったことなかったけどよ。


「よし決めた。俺はロールワールドでモンスターハンターになる!」

「ホントに!?」

「ああ。なんか面白そうだからな!」

「でしょでしょ? いや話が早くて助かるよー!

 じゃあ早速レンヤの転生先の肉体のステータスを決めようじゃないか!」

「さっき聞いたチンチロルールで頭の中のダイスを振ればいいのか?」

「うん。その通り。出た目が君のロールワールドでのステータスになる。項目は全部で6つ。


 ちから――力の強さ。攻撃ロールで高いダメージを出しやすくなる。

 きようさ――手先の器用さ、コミュニケーションなど世渡りの上手さも含まれてる。

 すばやさ――足の速さ。戦闘で先制しやすくなる。

 かしこさ――頭の良さ。魔法で与えるダメージが高くなる。

 こううん――運の良さ。宝箱でいいアイテムが出やすくなる。

 かっこよさ――見た目の良さ。人に好かれやすくなる。


 この6つの項目の能力値をダイスロールで決めて貰うよ」

「『クリティカル』や『ファンブル』の場合は目はいくつになるんだ?」

「能力値決定ロールの『クリティカル』は六面ダイスの最大値である『6』に『+1』のボーナスがついて『7』。

 『スーパークリティカル』だと『+2』のボーナスで『8』だね。

 逆に『ファンブル』だと最低値である『1』になる」

「思いの外『クリティカル』の恩恵と『ファンブル』の被害が少ないな」

「いや、これはあくまで『能力値決定ロール』の場合の判定であって、戦闘とかだと『クリティカル』も『ファンブル』ももっと激しく扱っていくよ。

 それこそ一撃決着が起こりえるレベルでね。

 でも最初の能力値決定ロールでそこまで意地悪はしないから、気軽に振ってくれていいよ」


 そんなわけにいくかよ。俺がこれから付き合っていく身体なんだから。

 俺は一つ深呼吸をしてから頭の中のダイスを握り、願いを込めて振るった。

 その結果、――出来たステータスがコレだ。


 ちから 5

 きようさ 1

 すばやさ 6

 かしこさ 6

 こううん 2

 かっこよさ 3


「うーん普通」

「いやいや。結構いいステータスなんじゃないかなこれ。『6』が二つもあるし」

「……そうかも知れないけど、『クリティカル』が一つくらいは出て欲しかったなぁ、って思うわけよ」

「そうそう出るもんじゃないよ。『シゴロ』も『ゾロ目』も」

「うーん……まあなぁ」


 きようさがやたら低いのは気になるが……しかたない。『ファンブル』しなかっただけ良しとするか……。


「じゃあ次は種族を決めて貰おうかな」

「種族?」

「うん。ロールワールドには『人間』の他に『エルフ』『亜人』『ドワーフ』といった様々な種族が同じ社会で生きてるんだよ」

「へえ。いよいよファンタジーの世界って感じだな」

「そりゃあ、剣と魔法の世界ですから。

 そして種族ごとにHPとMPが変わってくる。あと能力値にも変動が起きる。今一覧を出すね」


 種族ごとのHPとMP

 人間:HP10+ちから MP5+かしこさ

 エルフ:HP7+ちから MP8+かしこさ

 亜人:HP12+ちから MP2+かしこさ

 ドワーフ:HP12+ちから MP2+かしこさ


 種族ごとのステータス変動

 人間:ステータス変動無し

 エルフ:かしこさ+1 ちから-1

 亜人:すばやさ+1 きようさ-1

 ドワーフ:ちから+1 すばやさ-1


「腕っ節でガンガン魔物を倒していきたいならドワーフ。

 魔法を使いたいならエルフが能力値的には有利になれるね。

 でもレンヤの場合『きようさ』が元から『1』しかないから亜人もオススメだよ。

 能力値はどんな場合であっても『1』以下にはならないから、すばやさの+補正だけ無条件で受けられる」

「へえ。それは確かにお得だな。でも亜人ってなんなんだ? よくわからないんだが」

「ネコミミやウサミミがつきます」

「キモッ!」

「あ? 屋上行こうぜ。久しぶりにキレちまったよ」

「このボロアパートに屋上なんてねえよ。とにかく亜人は却下だ。自分のネコミミ姿なんて想像したくもないわ」

「似合うと思うけどにゃー」

「語尾を変えるな」

「じゃあ種族は何にするの?」


 そうだなぁ。エルフになって魔法っていうのを使ってみたい気もするけど――


「……やっぱ人間だな。別の生き物になるのは怖いし」

「オッケー。なら人間ってことで、能力値変動は無しね。

 さて、それじゃあ次がキャラクターメイクの最後の項目。『特性』を決めて貰うよ」

「特性?」

「そ。これは生まれ変わる君自身の才能みたいなものだね。

 特性によっては能力値が上昇したり、特定の状況下のダイスロールに強くなったりするんだ。

 特性の種類はかなり多いけど、選べる特性は一つだから、よく考えて選んでね」


 特性

 ・力持ち=ちから+1

 ・口八丁手八丁=きようさ+1

 ・俊足=すばやさ+1

 ・物知り=かしこさ+1

 ・福男=こううん+1

 ・さわやか=かっこよさ+1

 ・鷹の目=視力を使用するロールに+2

 ・集中=調べ物や薬品調合ロールに+2

 ・カリスマ=対人交渉ロールに+2

 ・隠密=姿を隠すロールに+2

 ・火事力=自分のHPが5以下のときにダメージロールに+2

 ・逆境=自分のHPが5以下のとき、戦闘中の全ロールに+1

 ・博愛=味方のHPが5以下のとき、戦闘中の全ロールに+1

 ・節約家=魔法を使うときの消費MPが-1

 ・ド根性=戦闘中、一度だけHPが0以下になってもHP1で踏みとどまれる。


「へえ、結構色々あるのな……。

 なあ。この戦闘中の全ロールってのだけど、戦闘中にはどんなロールがあるんだ?」

「細かいところは説明が必要な時が来たら説明するけど、ざっといえば、

 ダメージロール:敵にダメージを与える

 防御or回避ロール:敵からのダメージを防ぐ

 命中ロール:防御or回避ロールを行った敵に対して攻撃を当てる

 メインはこの三つだね」

「なるほどな……」


 ステータスそのものが上昇したり、汎用性の高い能力は+補正が少なくて、特定の状況でしか効果を発揮しない特性は+補正がやや多めなんだな。

 だけど俺の場合は――


「特性を決める前に一つ聞きたい」

「なんじゃらほい?」

「視力を使うロールとか、ダメージロールとか、色々用語が出てきたけど、実際ロールワールドのダイスロール判定ってどういうものなんだ?

 まだ目の出し方しか聞いてないから、どういう風に正否を判定するのか、そこのところを詳しく教えて欲しい」

「ああ、そうだね! ごめん。これは確かに話しておかないといけないことだった。

 ロールワールドのロールは、『能力値』と『実行値』の合計と、『目標値』を競わせて正否を判定するんだ。


 『能力値』=ステータスの数字

 『実行値』=その場でダイスロールして出た出目

 『目標値』=そのロールを成功させる最低値


 三つの値の内容はこんな感じ。そして、

 

 『能力値』+『実行値』の数字が『目標値』以上なら成功。

 『能力値』+『実行値』の数字が『目標値』未満なら失敗となる。


 例えばレンヤが町でAさんという人を探すとする。

 そのとき、私がAさんを見つけるのに必要な『目標値』を提示するの。

 その『目標値』が3だとすると、レンヤは捜索ロールで3以上の数字を出さないとAさんを見つけられない。

 そして捜索ロールは『きようさ』で振って貰うことになる。

 レンヤの『きようさ』は1だから、この式の『能力値』の部分に1が代入される。

 つまり『目標値』の3に届かせるためには、『実行値』のダイスロールで2以上を出す必要があるんだ。

 この式は『能力値』に代入するステータスを変えて、ほぼ全てのダイスロールで使うよ。

 ダメージロールの場合は『ちから』、回避ロールの場合は『すばやさ』って感じにね。 

 ロールワールドのダイスロールはほぼ全てこの式で求めると思っていて貰って構わない」


 なるほどな。

 『実行値』――つまりその場その場のダイスロールが正否の半分を占めてるわけだ。

 『能力値』が1しかなくても、『実行値』で6を出せば、『目標値』7までは成功させられる。

 だけど『能力値』が5あっても、『実行値』で1しか出せなければ、『目標値』7の行動は成功させられない。か。

 こりゃ、……予想以上に運がものを言う世界だな。

 でも――、そういうルールなら選ぶ特性はこれしかねえな。


「神様。特性は口八丁手八丁、で頼む」

「ほほう? 今強い能力を尖らせるんじゃなくて、弱い能力の補填に回るの?」

「ああ。ステータスを見て思ったんだけど、このロールワールドの『+1』って決して小さな数字じゃないだろ。

 なんてったって『能力値』は『クリティカル』をださなきゃ『6』が最高値なんだから。

 しかもさっきのロールの説明を聞く限り『能力値』+『実行値』って、俺の場合『12』が最高値じゃん。

 そんな世界で『1』しかない能力値があるのって結構おっかねえよ」


 俺がそう言うと、神様は「へぇ」と感心したような声を上げた。


「……ふふふ。その読みは正しいよ。

 ロールワールドの世界での『+1』っていう数が果たす役割はかなり大きい。

 いいところに目を付けたね、レンヤ」


 まあ、『+1』を付けても『2』にしかならないんだけどな……。


「じゃあ特性を口八丁手八丁にして――、と」


 レンヤ 27才 男 種族:人間

 HP15/MP11

 ちから 5

 きようさ 2(+1)

 すばやさ 6

 かしこさ 6

 こううん 2

 かっこよさ 3

 特性:口八丁手八丁


「よし! これでレンヤのロールワールドでのステータスが決定したよ! お疲れ様!」

「これで……もうやることは全部終わったのか?」

「うん! あとはレンヤの身体をロールワールドに運ぶだけさ」


 そうか。これでもう、全部なのか。

 だったら……、

 いや、やっぱり言っておこう!


「あのさ。神様。一つだけお願いしていいか?」

「ん? なに?」

「俺の顔はさ、今のままにしておいて貰えないかな」

「ふむー。まあそうだね、数字にすると3くらいの顔だし、別にいいけど、どうして? 好きなのその顔?」

「いやまあ……別に好きってわけじゃないんだよ。

 俺だってもっと、数字にしたらそれこそ6とか7のイケメンに生まれたかったさ。

 でもまあ、……なんだかんだいっても親に貰った顔だし、な」


 地球を捨てても、やっぱりこの顔を捨てるのは、ちょっと嫌だったんだ。

 そして、そう言った俺に神様はまるで母親みたいな柔和な笑顔を浮かべた。


「…………そっか。うん。全然問題なしだよ! じゃあ顔はそのままってことで。

 他に言うことない? この世界に思い残したこととかは?」


 思い残したこと、か――

 まあ、ワゴンセールで買ってまだやってないエロゲーとか、

 ワンピを最終回までみれなかったこととか、

 思い残したことは結構あるけど――でも、


「いいや、ない。だから連れてってくれ。ロールワールドに!」


 もう待ちきれなかった。

 こんなワクワクする気持ち、ずっと忘れてた。

 俺は脱サラして異世界でモンスターハンターになる!

 新しい世界。新しい人生。それが俺を待っているんだ!


「よーし! じゃあ行こう! 新しいレンヤの世界へ!」


 そう言って神様は指をパチン、と鳴らした。

 すると魔法の光が部屋に溢れて、――神様の目の前にチェーンソーが現れる。

 ……って、え?


「あ、あの、なんでチェーンソーなんか持ってるんですかねぇ?」

「え? 言ったでしょ? 一度身体を微粒子レベルまで『バラバラ』にして連れて行くって」

「そんな物理的な手段でバラバラにすんのかよォッ!?」

「さすがにチェーンソーで微粒子レベルまでバラバラには出来ないよ。これで細かくしてからミキサーに入れて――」

「うわぁあああああああ! 言うな! 聞きたくない! ていうかそんなことされるくらいなら、俺やっぱ異世界なんか行かない!」

「それはもう無理。門は開いちゃったから。だいじょーぶだって。痛くしないから~♪」

(ギュィィィン! ギュィィィン!)

「いや絶対痛いって! だってギュインギュイン言ってるモン! うなってんもん! まだ歯医者の『痛くしないから』のほうが信じられるからソレって、あれ!? 身体が動かな、ちょ、やめ、ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 こうして俺は、異世界ロールワールドに旅立ったのだ。

 ……出来ればもう少し穏便な方法で旅立ちたかったが。

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