うちに入りませんか?
最近、ちょっと忙しくて更新が止まっておりました。ゼロ・ブレイドの方も明日には1話分更新させますのでご理解のほどお願い申し上げます。
手入れを終えて刀を返す駿河、その飄々とした態度にユーヤたちは驚かされた。
「ほい、中々ええ刀じゃな。わしの好みじゃわ」
「は、はぁ」
困惑しつつも刀を受けとる紅炎。そして駿河は何も言わずにその場を去ろうとした。慌ててユーヤが引き留める。
「あの、駿河さん」
「なんでしょう? 」
ユーヤには思うところがあった。このために目の前の男が必要なことも理解できたし、皆の顔を見ても全員が同じ事を考えていることは容易に想像出来た。
「ソロですか? 」
「今はな。それがどうかしたかい? 」
「出来れば、その…… うちのギルドに入りませんか? 新しい刀を探すのもありますし」
「いきなり何かと思えばこれまた異な事を…… 」
駿河の顔が変わった。それが臨戦態勢なのは一目で分かった。
「何が目標や? 」
「あなたの『技』が欲しいです!! 」
「………は? 」
あまりにすっとんきょうな答えに駿河が驚きの声をあげる。ユーヤがいきなり頭を下げたのだから余計に駿河の態度は頷けるものであった。
「決して習いたいというわけではないんです。でも今なら答えが出る気がして…… 」
「ほう」
ユーヤの手のひらと顔を交互に見比べその理由に納得がいったのか駿河は「ほうほう」と頷いた。
「良かろう。わしみたいなじじいで良ければ付き合ってやろう」
「ありがとうございます!! 」
必死に手を取って握手しようとするユーヤに、駿河は「大仰すぎんか? 」と若干引き気味に対応した。
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「ほぉ、ここが…… 」
20分後、ユーヤと駿河はとある場所に来ていた。そこは日本最大を誇る生産系ギルド『海千山千』のホールだった。
「基本、生産系の人のほうが多いのでギルドもかなり大きくなりますよ」
このゲームでプレイヤーとして活動する際、戦闘に大きな影響を与える『メイン職業』とその他様々なスキルの習得に関係する『サブ職業』の二種類があり、サブ職業を戦闘に有効な職業にした人を『戦闘系』、その他料理人や鍛冶師など生産に関わる職業にした人を『生産系』のプレイヤーと便宜上分類しているのだ。
「はーい、ようこそ『海千山千』へ。何をおさがしですかー? 」
店の奥から恰幅の良いドワーフの男が現れた。男はユーヤを見ると一目散にこちらめがけて駆けてくる。
「お久しぶりユーヤ君、元気だったかい? 」
「すいませんノックスさん。もう少し顔を出せれば良かったんですが…… 」
「いやいや、元々多忙な戦闘系ギルドだから仕方ないことさ。それより横のお方は? 」
「新入りの駿河さんです。新しい刀を買いに、ってあれ? どこに…… 」
気付けば駿河は店の奥にひっそりとおかれていた一振りの太刀に釘付けになっていた。
「珍しいお客さんだな」
ノックスがぼそりと呟くとユーヤは不思議そうな顔をした。純白拵えの鞘に対照的な漆黒の柄糸を巻いた武骨ながらもシンプルで美しい刀だった。
「なぜです? 」
「彼が見てる刀、前回の降臨だった『原罪の竜:傲慢』の刀ですよ。属性攻撃もありませんし耐久力と物理攻撃力の高さが物珍しいだけの武器なんです」
なるほど、とユーヤは頷いた。前回イベントの最上位ボスとして降臨した『原罪の竜』の一匹『傲慢』は確かに物理攻撃が強かったものの属性攻撃は存在せず、その性質がそのまま刀にも現れている。そのため属性攻撃がないという欠点を補って余るその攻撃力を注目すらされずに放置されていたのだ。
「若干ピーキーなんですよね。属性攻撃がないのが痛すぎます」
最近ではボスの攻略に弱点属性を用いて戦略を組むのが当たり前なため、敬遠される理由もユーヤにはよくよく理解できた。
「だろ? 結局作ったは良いが売れ残ったのさ。防具はまだ全ての属性に対応するから売れてったがよ」
ノックスが腕を組んで渋い顔をしたその時、駿河がノックスの方を振り返った。その目はまるで少年のように輝いていた。
「店主さん、この刀で試し切りして構わんか? こいつが気に入った」