リンの決意
そろそろ現実世界も絡んでくるから、登場人物たちの本名考えないと。いや、駿河さんはプレイヤーネームも本名なんですがね……
村正と駿河の立ち会いが終わって、その日のギルドとしての活動は解散となった。もちろん全員がログアウトしたわけでもなく、何人かは各々の時間を楽しんでいた。
「しっかし、本をめくる感触すら再現出来るとは。最近のダイブシステムは進化したのぉ」
ギルドホールのエントランスフロアの隅にある座椅子で本を読む駿河もまた、暇を持て余している一人である。
「おん? おや、リン君からではないか。何々…… 」
突如届いたメッセージを開く駿河。そこには『ホールの談話室4に来て下さい。話があります』とだけ書かれていた。
「ふむ」
静かに立ち上がる駿河。ツールバーを空中に表示させて座椅子を片付けると、そのままホールの奥へと消えていった。
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駿河が談話室に入ると、そこには少しだけ困った顔をしているリンがソファにちょこんと座っていた。
「こんな時間にそんなに改まってからに、何があったのかね? 」
「いやー、その…… 駿河さんに少しお話が」
「ほほぅ、それはあれか? 今日の試合の事かの? 」
リンの向かいに置かれた椅子に静かに腰かける駿河。リンは表情こそ困った顔のままであったが、その目線は強い光を宿していた。
「はい。村正班長を倒したあの技は明らかに『寸打』に見えました。ゲームのスキルとしての破壊力ではなく、現実の技のように見えて…… 」
「確かに、お前さんの言うとおりじゃな」
否定せず、ただ言葉を重ねる駿河。暫しの沈黙が流れたあと、リンが再び切り出す。
「五郎先生を否定する訳じゃないけど、駿河さんのあの技はとても綺麗でした。とても…… 」
「ありがたく受け取っておこう」
次の瞬間、リンが駿河の手を取った。
「それで!私、実は…… 」
「弟子入りか? 」
「うっ、バレてましたか…… 」
「メールをもらった時点でそんなことじゃろうとは思ってたよ」
ケラケラと笑う駿河に対して顔を赤らめるリン。獣人の特徴である獣耳が愛らしくピクピクと動いた。
「全く、可愛らしいことをいう子じゃ。お主の師範の許しは得たのか? 」
「はい! 五郎先生には既に話を。もちろん許してもらいました」
「うむ、なら好きなときに呼ぶがよい。儂は現実でも既に退職した身、時間なら有り余っとるからの」
「ありがとうございます!! 」
「今日はもう遅い。しっかりと休まれぃ」と部屋を出ていく駿河の背中を、リンはじっと見送った。
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「ふっふ〜ん♪ 」
意気揚々とログアウトしたリン。細く引き締まった体はいかにも武道女子という風である。
「随分とご機嫌だな、凜」
「あ、お兄」
現実世界ではヴァルマはマッシブな騎士ではなく、少し痩せたモデル体型の大学院生である。
「さっき駿河さんからさ、弟子入りの許しをもらったの」
「なるほど、道理で機嫌がいいわけだ」
ヘッドギアを置く凜。その時、扉越しに両親の声が聞こえた。
「凜ー、公彦ー、ご飯だよ」
「「はーい」」
二人は仲良く肩を並べて、部屋を出ていった。




