速さ、重さ
お久しぶりです。こっからの数話分を入れるか否か大変迷ってました。
「また負けたァッ! 」
地団駄を踏むリン。勇也の中間テストも無事終了し、久しぶりにギルドの幹部メンバーが全員揃ったこの日は、道場を解放して訓練をしていた。
「なんで…… 一撃も…… 当たらないんだよぉ……
」
畳の上に大の字で転がるリン。他のメンバーもリンほどではないとはいえ、肩で息をしながら座り込んでしまっている。
「しかもほとんど動いていないんだよねー、駿河さん」
「他人事のように言うなよアガレス」
「そういうⅠ紅炎君こそ、同じサムライ系だろ? 何か分かったか? 」
「全く」
道場の端で2人が首をかしげあいながら話していると、三度目の敗北を食らったばかりのヴァルマが紅炎の横に座る。
「ダメだ、確実に急所を狙ってるはずなのに…… 」
飛びかかっては面を食らい、胴を食らうユーヤを眺めながら息を整えるヴァルマ。誰もが魔法をかけられたかのように不思議そうな面持ちで駿河を見ていた。
「……そこまで! 勝者 駿河」
「ありがとうございました」
村正の号令を受け、一礼するユーヤ。駿河もこれに続く。
「若いのォ、動きが。直線的すぎるんじゃよ」
うなだれるユーヤの肩を叩く駿河。ひとしきりアドバイスを終えると、ゆっくりと試合開始位置へと戻り、正座した。
「次はおるかえ? 」
「……では、私が」
審判用の旗を起き、二本のレイピアを装備する村正。駿河の顔が少し緩んだ。
「おぉ、えぇぞ」
道場がざわついた。レベルの低いものから古参の最高レベルプレイヤーまで、一斉に勝敗を予想し始める。
「玄武はどっちだと思う? 俺は班長だな。晩飯賭けるわ」
「乗ったわ。同じく晩飯で」
Ⅰ暗殺者の二人のベットが整ったところで、やっと道場内が静かになる。
「じゃあ、始めましょうか」
剣を抜く村正、しかし駿河は刀に手すらかけないで手招きする。
「そっちの好きなタイミングでかかってきなさい」
「ほぅ……では早速! 」
村正がしかける。全Ⅰ職業中最速を誇るⅠ決闘師の疾走ともあれば、それはもはや風より速い。
「ヌンッ!! 」
腰のレイピアを抜くが速いか、村正の攻撃が始まる。まだ駿河は刀を抜こうとしない。
「シュッ!! 」
突きを放った勢いをそのままに、回転しながら踊るように切りかかる村正。しかし、村正の猛攻が始まって暫く経ってヴァルマがポツリと呟いた。
「……当たってなくね? 」
道場がざわつく。その喧騒をかき消すかのように村正がレイピアを振り上げる。
「『双殺撃』!! 」
レイピア2本での真っ向斬り。小さく飛び上がりながら放つそれは、まさしく全体重の乗った攻撃であった。
「ウオォォォォォ!!! 」
村正のレイピアがチラリと光ったその瞬間、駿河の体が『揺らいだ』。
「………噴!! 」
次の瞬間、村正は真後ろに吹き飛び道場の壁に激突した。
「グァッ! 」
そのまま村正は床に伸びてしまう。背中を強打したらしく、立ち上がることもままならない。
「……な、何が起きた? 」
息を整えながら襟を正す駿河。その場にいた誰もが起きた事を理解できずに周りをキョロキョロと見渡すだけであった。
「……五郎先生? 」
「すまんユーヤ君、俺にも分からん」
五郎がボソッと呟いた。その目にはある種の恐れのような感情が見てとれた。
「……すまんの。つい本気を出してもうた」
いまだ立てずにいる村正の前でしゃがみながら駿河が口を開く。
「効いたか? 」
「えぇ、完敗です」
村正が右手を差し出す。静かにその手を握り、駿河が村正を起こした。
「ちなみに、今の技はなんですか? スキルにはあのような代物は無いはずですが…… 」
「おん? あれは『鎧通し』じゃな。打撃技としてはかなり基本的なもので…… 」
駿河の口がピタリと止まる。そして少し茶目っ気を含んだ笑みを浮かべた。
「ま、普通の体使いではないから習いたい人だけおいで」
呆然とする一同を置いていくかのように、駿河は道場を見渡しながら高笑いした。