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大罪の天使:嫉妬〜その3〜

システムブックの更新チャンスを私用と外出で全て失ってしまった。誠に申し訳ない。

「よいっと、馬鹿デカいとこうも力に頼るものなのかのぉ」


 駿河の太刀は天使の槍を全て駿河の体から防いでいる。振り下ろせば穂先は地面を叩き、突けば駿河の脇を紙一重で逸れていく。巨体であるがゆえに一撃を外してから次の動作に移るまでもかなり時間が長く、その隙をついて駿河はじわりじわりとダメージを重ねていく。


「よぉく見ておれ。『L・A(リトル・アーミー)』の諸君。君らは多分スポーツをやっとるのだろう? 」


 この攻防の最中ですら余裕と言わんばかりの駿河の問いに一輝たちも念話で応じる。


「ま、まぁ…… 」


「やとしたら今わしの動きが彼奴きゃつの動きを単純な筋力だけで受け止めとる様に見えとる訳じゃ。されどわしは今こやつの攻撃を受け止めとるわけではない」


 再び巨人が右手の槍を振り下ろす。駿河が頭の上で太刀を地面に水平に構えた『頭上一文字囲い《ずじょういちもんじかこい》』で槍を受けると、太刀の刃の反りにそって槍の穂先が徐々に滑り落ち、駿河の右脇の地面を叩いた。


「太刀という武器は長く、重い。それゆえ元々より腕力で振り回すための武器ではないのよ」


 続けざまに左手の突きを放つ天使。対する駿河はそれを中段に構えたまま刃に沿わせて突きを間一髪で外す。


「足を、腰を、体幹を。全身を余すことなく使うことで脇差しとは違う強さを得るための刀なのじゃ。故に腕を使ってはならないのだよ、太刀は」


 突きの勢いを御し切れず体勢を崩す天使の手首に回転しながら斬りかかる駿河。遠心力の乗った太刀は天使の巨体を易々と切り裂き、風圧で地面がめくれ上がる。


「戦闘と格闘、格闘とスポーツはそれぞれ求められるものが違う。共通して使える技もあれば無理なものもな。見識を深めなされ、強くなりんしゃい」


 そう言うと太刀で敵の槍を弾き返し、駿河はバックステップで巨人の足元を離れた。


「ほな、後は任せた」


「承った!! 」


 駿河の後退と同時に待ってましたと言わんばかりに村正、麒麟、玄武の三人が駆け出した。三者は共に俊敏性の高い職業ジョブで、三人がそれぞれに撹乱を混ぜながら走るために天使は狙いを定められずに固まった。


「そこっ!! 」


 麒麟がナイフを突き立てる。目を狙ったその一撃は見事に天使の左目に突き刺さり、その巨体をよじりながら麒麟を振り払った。


「玄武! 」


「分かってるって! 『必殺の一撃(フルカウル・アサルト)オォ』!!! 」


 玄武の職業ジョブは同じ暗殺者アサシン職業(ジョブ)の上位職とはいえ麒麟とは違い『シノビ』である。故に武器は日本的な武器が多く、玄武が使うのはコンバットナイフではなく小太刀こだちであり、リーチは長くその威力も麒麟の攻撃より高い。


「ハァ…… ハァ…… 入ったか」


「残りは片付けさせてもらおう!! 」


 肩で息をする玄武の脇を麒麟と村正が回り込む。より身軽な麒麟が天使の後ろに回り、二人が同時にジャンプした。


『オォォォォォォォ!!!! 』


 天使が羽根を広げる。しかし麒麟がそれを阻止する様にナイフを突き立てた。


「『遅延攻撃スタンアタック』!! 」


 相手の動作速度を低下させる『遅延攻撃』によって羽ばたきが遅れ体勢を崩す天使。そこに村正のレイピアが光り、筋を描きながら天使の巨体に襲いかかった。


「『終焉ヲ告ゲル剣戟(ファイナルアサルト)』!!」


 目一杯の遠心力を乗せた両手振り下ろし、その後体を捻りながら四回連続の突きを撃ち込み体の捻りの慣性を使って連続薙ぎ。回転が終わったと同時に再び飛び上がり、落下の勢いを使っての両手突きを放ち、突き刺さったレイピアを振り上げる。合計14連の攻撃からなる『闘士デュエラー』系の職業ジョブの攻撃スキルとして最強の威力を誇る『終焉ヲ告ゲル剣戟(ファイナルアサルト)』は虫の息となっていた天使の巨体を切り刻み、地面に沈めた。


 パキイィン、というポリゴンの砕ける音と同時に天使の体が崩れ落ちる。と同時に無機質なアナウンスがフィールドに響き渡った。


『クエスト名【大罪の天使〜嫉妬〜】のクリアを確認しました。クエストクリア第7号、おめでとうございます』





 ──────────────────────

「ファー、エグい相手だったな今回は」


 帰還のために乗ったドラゴンの背でアガレスが伸びをする。三回の挑戦の結果、一応の最速記録としてメンバーの残した9分38秒の記録は2位と10秒以上の差をつけて暫定世界最速記録に躍り出た。一度攻略してからは『L・A(リトル・アーミー)』の活躍もめざましく、それほど苦労はしなくなった。


「感謝致します、駿河殿。あれほどの技となればこのゲームの歴もかなり長いのでは…… 」


「いんにゃ、半年程かの」


『L・A』のメンバーが驚愕する。このゲームで最高レベル、つまりレベル85になるのには半年は十分すぎる時間であるが、彼ほどの実力になるには大量の実戦経験が必要で、とても半年で得られるものではないからだ。


「で、でもその腕前になるには…… 」


「もう現実で積んどるわい」


 駿河の微笑みで語りたい事を察したのか、一輝たち『L・A』の面々が口を開くことはなかった。


「俺も……」


 いつもよりも心なしか輝いて見える駿河の後ろ姿をぼんやりと眺めながらユーヤが呟く。


「出来るかな? 」


「出来るさ、時間はかかるがな」


 駿河がユーヤの肩を引き寄せる。その駿河の立ち姿は一同の心に強く焼き付けられた。


 後日、その記録は最速記録として正式に認定された。攻略メンバーもその名を公開され、駿河の名前は一段と知名度を上げていったのである。

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