衝撃
なぜかこのタイミングで思いついてしまいました。沸いてきたからには書かねばならぬ!ととりあえず投稿です。不定期ですのでゆっくりお楽しみ下さい
意識を電脳世界にダイブさせて遊ぶ。2145年現在においてのゲームは主にこの『フルダイブシステム』を用いたものが大半である。
その中でも群を抜いて人気なタイトルが『THE AMUSE ZONE』というゲームだ。このゲームはパズルやシューティングといったジャンルによってタイトルが区分されており、しかもタイトル間でのプレイデータの互換も可能となっている。つまり、この『THE AMUSE ZONE』、通称『AZ』だけあればあらゆるゲームがプレイ可能なのだ。
「ふぅ、三日ぶりか『AZ』は」
和泉 勇也、彼もまたそうやって『AZ』を楽しむ一人の高校二年生である。黒いヘルメットにも見える接続用のヘッドギアをおもむろに被り、プレイ用のフィードバックチェアに腰を下ろした。
『ようこそAZへ和泉 勇也さん。プレイしたいタイトルを選択してください』
無機質な音声ガイドが直接イメージとして頭の中を駆け巡る。目の前に表示されたタッチパネルから『BZ』と書かれた欄を選ぶと、光によって構成されていたタッチパネルが消滅した。
『それではごゆっくりと夢の世界をお楽しみください』
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しかも年に一回は『プレイヤー同士の』戦闘によるランクマッチも行われ、その様子は世界規模で中継されるほどだ。しかも出血エフェクトの非表示化によって対象年齢が12歳まで下がっていることもあってプレイヤー人口は10億を超える規模となっている。
ローディングの間上下すらない闇を浮遊し続け、勇也が着地した先は巨大な噴水のある公園だった。
「さ、今日も色々やってみるかな〜 」
日本エリア最大の拠点『秋葉原』、ギルド数もプレイヤー人数も世界有数の都市として日本に君臨している。勇也もここで『ユーヤ』というプレイヤーネームで日々過ごしている。
「平日なのに人多いなぁ…… 」
ゆっくりと公園から街に向かって歩を進める勇也。『異世界を体験する』事もこのゲームの醍醐味なので基本プレイヤーが選択できる種族だけでかなりの数がある。勇也は自分のプレイスタイルややりたい事と相談した結果、最もオーソドックスな『ヒューマン』という種族を選択している。
「毎回見てて思うんだけど本当に再現度高いよな…… 」
街に入ってすぐのところの高層建造物に手を当てる勇也。このゲームの世界観設定は『文明崩壊とその後』をモチーフとしているので風景自体は見覚えのあるビルや建物が建ち並ぶ。しかし文明は崩壊している設定なのでビルや建造物には蔦が絡み付き、道路のほとんどは通行に支障が出ない程度にヒビが走っている。
更に街並みの奥へと進むと、通行人の幾人かが勇也の方を見ながらひそひそと話を始めた。
「あいつって『銀狼』だよな? 」
「ホントだ、あんなに若いの? 」
「前回のグランプリじゃ関東9位だろ? あいつ絶対これから強くなるって」
聞こえてくる話に勇也は少しだけ頬が緩んだ。世界中の有名プレイヤーがこぞって参戦するバトルグランプリで上位に食い込んだのだから有名になるのは当たり前と言えた。それに勇也の使う装備はあるイベントクエストの最速クリア報酬で所持者は勇也のみ、しかも装備の名前は『銀狼』の名を冠しているため誰から見ても「こいつが勇也だ」と分かる状態なのだ。
「そろそろ装備変えよっかな…… 」
公園の前の通りを歩いてすぐ『探究者の集い ギルドホール』と書かれた看板を掲げた巨大な建物を見つけた。
「さぁ、いつも通りに⋯⋯、皆さんおひさー」
ホールに入ってすぐの円卓には既に一人の男が待っていた。長い耳に長髪、正しくと言うべきエルフである。茶色を貴重とした革製っぽい装備に身を固め、弓を携えている。
「あ、ユーヤ君こんばんはー」
男の名前は『斬月』。かなり古参のプレイヤーでBT開設当初から5年以上もプレイしているかなりの上級者だ。
「皆は? 」
「クエストに行っちゃいました。ユーヤさんもそんな感じでしょ? 」
「今日から新パックが始まりますから、やっぱ戦闘系ギルドの長としてはこのタイミングを逃せないかと」
ユーヤが笑うと斬月もつられてニヤッとする。
「それにやっとレベル上限が85に上がったし、85レべ限定クエストも明日から始まりますからねぇ、今日は混むでしょうね」
「人気タイトルだから仕方ないさ。それと斬月さん、他の皆は? 」
今勇也と喋っている耳の長いエルフの男性は『斬月』というかなり古参のプレイヤーである。BT開設当初から5年以上もプレイしているかなりの上級者だ。
「みんな明日のイベントに向けて経験値稼ぎにウロボロスの討伐にいっちゃいました。レベル80が過半数とはいえ、累積経験値が85に届いていなかったっぽいね」
今回導入された新パック『破滅の序曲』ではレベル上限が85に引き上げられ、レベル80以上のプレイヤーには過去に超過した経験値を自動で上乗せするという新設設計だ。しかしレベル85のプレイヤーだけが参加可能なクエストの解放が発表されたため、レベルが足りないプレイヤーは出払ってしまったらしい。
というのも『探究者の集い』は初心者も歓迎する優しいギルドでありながら、常に高ランクのクエストを攻略しては最新の情報を公開している『戦闘系ギルド』の日本代表のような存在なのだ。構成員も500人以上で保有戦力も最高峰である。
「そうそうユーヤ君、今日も散歩がてら初心者見つけてきたよ。最近ますます増えてるな初心者狩り」
「まぁ、EXPポット持ってますものね。イン率低いギルマスに代わって毎度ながらありがとうございます」
初心者に配られる経験値ボーナス用アイテム『EXPポット』は貴重なアイテムでそれを狙った中級者による初心者狩りが問題となっており、『探究者の集い』も初心者の受け口としてそういった弱い者いじめ的なPKの抑制に取り組んでいる真っ最中なのだ。
「もう少し考えてやればいいのに⋯⋯」
ギルドホールの中央に置かれた大円卓に装備と防具を置きため息をつく斬月。すると、荒々しい足音が近づいてきてホールの玄関で停止した。
「マスター! マスタァァァ!! 」
ドアを開けたのは狐の耳を生やした女の子である。この世界は現実世界と性別がリンクしてしまうため、プレイヤーは即座に男女の区別がついてしまうのだ。リンクを切りたければ課金しか方法がない。
「リンさん! どうしましたか? 」
そして、探究者の集いには女性プレイヤーも多いが獣耳を生やした『ビースト』の種族のプレイヤーはリンしかいなかった。だから人の顔を覚えるのが嫌いな勇也でもすぐに分かったのだ。
「どうしたもないっすよ! レベル60がレベル80を倒したんです!! 」
次回からはいつものごとく設定&用語紹介やります