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武芸百般~VRMMORPGの世界で武術という概念は通用するのか?~  作者: orion1196
第3話 勇也、勝ち方を習う
19/32

必要な分だけ

システムブックも更新しないとですね!本当に申し訳ない

「いってぇ!! 」


 ユーヤが頭を押さえて転げ回る。メンバーたちはなぜか秋葉原郊外にある『不吉の巣窟』という骨兵ボーンタイプの敵が多く現れる洞窟のダンジョンエリアに訪れていた。本来は初心者用のダンジョンなので彼らほどの高レベルプレイヤーが来る場所ではないのだが、彼らはとある目的の為にやって来ている。


「難し過ぎませんか? これ」


「うぉ!? 」


 いつもならば一撃で倒してしまうはずのボーンを相手に逃げ回るユーヤたち。一見滑稽にも見えるが本人たちは至って真剣である。


「肩と股関節だけって言われても…… キャアア!! 」


「今のは惜しかったですなぁ」


「怖いよぉ…… 」


 リンも何度か挑むが恐怖に負けて目で相手を追いすぎてしまう。途中から合流した紅炎も、五郎でさえも必死の形相で敵を見つめている。唯一駿河だけが涼しい顔をして敵の攻撃を避け続けていた。


「そうそう、相手の必要なところだけを見る。これが『先の先』のコツですな」


「でもこれ、防御一方になりませんか? 」


 リンとヴァルマが背中を合わせながら質問を投げ掛ける。すると今まで二、三体のボーンを一度に相手していた駿河が突如二人の方を向いて笑った。


「だからこそ、カウンターや投げ技に意味が生まれるんですよ」


 そして中段突きを放ったボーンの片手剣を右手で器用に捌き、そのまま右手で相手のこめかみの辺りを握って押し倒した。


「このように相手が動きを放つ前から動きが分かっているんですからな、カウンターにしろ投げ技、極め技にしろ後は容易い話です」


 五郎が駿河の手元を凝視する。そして堪えかねたかの様にボーンを殴り付けた。


「こうじゃないのか…… 」


「あぁ、『暗夜あんや』ですかい? 」


「さっきの技はそう呼ぶのですか。いやぁ、完璧過ぎる返しだったもので」


「なるほど、 これは少々難しい技でしてな…… 」


 後方から飛びかかって来て剣を振り下ろすボーンの頭を掴む駿河、その握力だけで相手の頭を砕きそうな程の威力でボーンの頭がミシミシと音を立てる。


「こうやってこめかみを押さえて相手の視覚を奪うじゃろ? その後こう足を使って…… 」


 そのまま振り下ろしの支点となっていた敵の右足を自分の右足の踵で払う駿河。宙を舞う相手の頭を鷲掴みにしたまま地面に叩きつけた。


「投げるんですわ。こいつはかなり素質のいる技なんで無理して覚えん方がよろしいわな」


「カッカッカッカ…… 」と乾いた笑いを残して駿河は何ともない風に敵を投げていく。その後ろ姿を見て五郎が呟いた。


「本当に底が分からない」


「どういう事です? 」


「やはり『間合いを掴むまで』が圧倒的に早い。相手の動きを最小限の動きで済ませているだろ? あれはやはり『試合時間を目一杯使って』相手との距離を掴んでいく格闘技の試合とは違ってここは『一発食らえば即死』の戦場であることを念頭においているがための強さだ」


「す、すみません五郎さん。もう少し砕いてお願いしても…… 」


「ああっと、ごめんねユーヤ君」


 そう言うと五郎はやっと要領を掴み始めた『先の先』でボーンにカウンターを決めその場に座り込んだ。


「相手の戦い方や動きを見極めるのにはやはり二、三分は欲しいんだよ。しかし駿河さんはその二分も必要じゃない。相手の一撃目を正確に見切り、その流れに乗っかって攻撃をしているだけなんだよ。ほら」


 五郎の指差す先では駿河がリンを教えていた。相変わらず一撃一撃を全力で打ち込むリンに対して、駿河の動きはまるで力がない。しかし駿河の攻撃は常に相手を捉え続け、一撃でボーンを地面に沈めていた。


「リンさんは若いですのぉ。動きが速い」


「そんな…… こと…… 言っても…… ハァ、ハァ…… 」


 リンの言わんとしている事は分かりきっていた。リンと同じペースで敵を倒していたというのに駿河には息の乱れがないのだ。リンの気持ちが分からなくもない。


「私も若いときはそんなもんでしたよ。しかしこの歳まで来るとそうもいきませんからな」


 そう言うと再びボーンたちの槍襖を静かに捌く駿河。その動きに一切の乱れは見えず、正しく『水の如く』美しい。


「一番重要なことは『無駄な力を使わない』事ですな。相手の流れに乗っかってその上に攻撃を重ねるんですわ」




 ──────────────────────

「そういえば、なんで駿河さんは格闘家ファイターの武器である拳甲ナックルを装備出来るんですか? 」


 数分後やっと『先の先』に慣れてきて余裕が出てきたところでユーヤは駿河の装備している拳甲に目がいった。


「おや、彼のサブ職業ジョブは武術家ですよ? 武術家はジョブボーナスとして格闘家と同じ装備が使えるんです」


「あ、なるほど…… 」


 一人納得したように頷くユーヤとやっとのことで先の先のコツが見えてきて楽しそうに動き回るリンの双方を眺めながら駿河が手を叩いた。


「さ、帰りましょうか。これで分かったと思いますが私のやってることは『そんなに』難しくはないんですわ」

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