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武芸百般~VRMMORPGの世界で武術という概念は通用するのか?~  作者: orion1196
第3話 勇也、勝ち方を習う
15/32

なぜか勝てない

久々の更新ですな。そして来週から合宿なのでまたまた更新出来ません……

「はぁ…… 」


 勇也はため息をつきながらログインする。


「春期大会もレギュラー落ちかよ…… 才能ねぇなぁ…… 」


 日本ランカーになったBZとは違い、剣道は結果が出る気配がない。中学一年生の頃に一度だけ出た新人戦でベスト8を取って以来全く試合に出ていなかった。


「人よりは練習してるんだけどなぁ…… 」


 なんだかんだで練習時間は他の部員よりも長いのに全く成果に繋がらないのが勇也の悩みを増大させていたのである。


「こんばんはー」


 ログインしてすぐにギルドホールに到着したので

 、現在クエストエリアがメンテナンス中なのが即座に分かった。


「お疲れー、部活どうでした? 」


 アガレスがビーストの中年と酒を飲んでいる。ビーストの男もユーヤを見ると「お疲れさん」と手を振った。


「お疲れ様です五郎さん、アガレスさん。部活は相変わらずレギュラーにもかかりませんでした」


 すると五郎と呼ばれたビーストの男が空のジョッキを円卓に叩きつける。


「そいつぁ残念。ま、夏があるから頑張りなって」


「まぁ望みは薄いですけどね…… 」


 落胆しながらもユーヤが席に着くと、武道場の方から大きな声が聞こえてくる。


「リンさんですか? 」


「おうよ。あの馬鹿、勝てもしない相手に向かって行きおってからに…… 」


 五郎は現実世界で教師をしており、リンの空手の師匠でもある。35歳にして段位は五段とかなり腕の立つ強者で、リンと同じく格闘家ファイター系の上位職、『拳闘逸者(モンク)』 としてプレイしている。


「あの方相手には勝てねぇよ。天元撫心流てんげんぶしんりゅうの術者なんて化け物に」


 前々から聞いたこともない流派だったのでユーヤは五郎に質問してみた。


「有名なんですか? 」


「古武術ではな。正しく武芸百般を再現している流派で発祥は室町時代にまで遡る」


「え? えぇ!? 」


 ユーヤが大声を上げると同時にアガレスもジョッキの中のビールを盛大にぶちまける。ユーヤに降りかかった分を「すまん…… 」と拭き取り始めた。


「五郎さんでも勝てないんですか? 」



「無理無理、撫心流は昔から不世出の流派だ。人気がない上に危険度の高い昔の技がそのまま残ってる」


「例えば? 」


「そうだなぁ…… 確か素手で真剣を振り回す相手を制圧する『組討剣伝くみうちけんでん』とかいう技があると聞いたな」


「えぇ…… 」


 そんな話をしている間にも「セヤァァァア!! 」とリンが駿河に向かっていく掛け声と床に叩きつけられる『ビタン!! 』という音が交互に響き渡る。


「リンもリンだぜ。勝てない相手にようもまぁあんなに…… 」


「なぁ五郎、ちょいと見に行かんか? 」


 アガレスが五郎の肩を抱き寄せる。「まぁ確かに見てみたいが…… 」と五郎は肩をすくめた。


「あんまりじろじろ見るのも良くないだろ? 」


 その時、駿河がさも涼しそうな顔で武道場の扉を開けてこちらを覗いた。


「そんなに気になるなら見て行きんさい。そっちで化け物みたいな言われ方されてもたまらんからの」




 ──────────────────────

 武道場に入って二人の組み手を見ること10分、三人はその光景に唖然とした。


「ハァ、ハァ、ハァ…… 」


「真っ直ぐやのぉ、ええ突きじゃわい」


 駿河は最初の位置からほぼ動いていないのに対してリンは肩で息をするほどに疲れきっていた。


「なんで当たらないのよぉー!! 」


「技の相性じゃろ。元々空手は古流柔術に弱いからの」


「だってさばきの動きも拳の速さも一緒なのに…… 」


「むしろお前の方が速かったぞ、リン」


 五郎が立ち上がる。そこにはさっきの飲んだくれの姿は欠片も見当たらない。


「一本だけ付き合って頂けませんか? 」


「構わんよ」


 そう言うと駿河はすぐに間合いを取って向かい合う。五郎も続いて間合いを取り、二人は揃って礼をした。


「アガレス、合図を」


 五郎が目線を送ると、少し遅れて立ち上がり腕を上げる。


「───始め! 」


 アガレスが腕を振り下ろすと同時に五郎が攻撃に出た。


「跳び蹴り!? 」


 アガレスは目を丸くするが、そんな事に驚く間もなく次の瞬間が訪れた。


「────!? 」


 攻撃をしていたはずの五郎の体が回転しながら地面に向かっていく。五郎は即座に受け身を取って体勢を建て直す。


「今の、どういう事だ? さっぱり分からん…… 」


「跳び蹴りを返したんですかね? 僕も見えませんでした」


 首を傾げる二人を置いてリンは目をキラキラさせていた。


「凄い…… 先生の得意技をあんなにサラッと…… 」


 すると今度は駿河が打って出た。たった一歩で間合いを詰め、五郎の喉めがけて一本拳いっぽんけん【中指の関節を立てた拳の形、より点に対する打撃力を上げるための握り方】を繰り出すが、五郎も負けじとこれを前捌きで対応する。


「オオォォォ!! 」


 そしてカウンターの左正拳突きを放つが、その拳の先端は駿河の顔面の寸前で停止した。


「……え? 」


 リンすらもその動きの意味が読み取れずに動きが固まったが、数秒後に「アァァァァ!! 」と大声を上げた。


「肩の付け根、急所を突いてる! 」


 それは、正しく点に等しい場所であったが確かに駿河の人差し指がその一点を押さえている。相当な痛みを伴うらしく五郎の表情も険しい。そのまま足をかけてあっという間に駿河は五郎を組伏せた。


「ヌゥン!! 」


 膝蹴りをしながら体を捻って駿河の拘束を抜けようとしたが、丁度うつ伏せになったところで駿河の両腕が五郎の左腕を掴み、完全に関節を取ってしまった。


「どや? なんか分かったか? 」


「はい、参りました」


 五郎は静かに全身の力を抜いた。

五郎との立ち会いで駿河が使ったのは「腕挫ぎ」と書き【うでひしぎ】と読む円心流和柔術の技です。初心者が真似してかけようものなら簡単に相手の肩が脱臼し、肘が砕ける恐れがあるので本編を読んで理解したとして絶対に使わないで下さい

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