興味津々
書いてみて気付いたんですが、駿河使いにくい……
「ほぉ、ヴァルマ君は電子工学専攻か」
駿河の問いにヴァルマは頭を掻きながら答える。
「えぇ、行きたい企業があるので」
「そいつは楽しみじゃな。頑張りなさい」
グリフォンの背で他愛ない会話を楽しんでいると、目の前の光景が暗くなってくる。
「いよいよですね」
ユーヤが指差した先には、雲を突き破ってそびえ立つ巨大な黒い山が現れた。
地理的には中央アルプスがある辺りに存在するウロボロスのボスエリア『蛇王の根城』である。限界が近付いたグリフォンは高度を下ろし始めた。
「毎回毎回中腹のキャンプに降ろされるんだよな、もう少し気を使ってくれてもよさげなものを…… 」
斬月の愚痴はシステム上仕方の無いことだった。現在ウロボロスを討伐出来るのは現在プレイ中の【空を覆う黒】だけで、しかもクエストの難易度上スタート位置がウロボロスとの会敵位置からかなり遠く設定されている。
「行きましょう」
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グリフォンから降りてキャンプに入る6人。リンがキャンプの周りに集まっている雑魚モンスターを倒したくてウズウズしている。
「若いのぉ、そんなに狩りが楽しいかなリンさんや」
「はい! 自分が空手やってることもあってワクワクするんですよ!! 」
リンが軽く正拳突きを見せると駿河は微笑んだ。
「基礎が出来とる。えぇ腕しとるわい」
斬月とアガレスが装備の確認を終えた所でユーヤたちは動き始めた。
「しっかし蛇系のモンスターが多いよなぁここ。マジで不気味だわ」
アガレスが弓をつがえると、ヴァルマがそれを手で制して剣を抜いた。
「まあまあ、私の腕ならしに付き合って下さい」
何の予兆もなくヴァルマが盾を大きく振りかざす
「聖なる障壁!! 」
ヘイト値を操作するスキル聖なる障壁は使用したプレイヤーに全てのヘイトを集中させる特殊スキルである。周囲にいたモンスターが一斉にヴァルマめがけて攻撃を開始した。
「中々きつい戦い方よのぉ」
「あれがヴァルマさんのスタイルです。多少仲間頼りですがパーティーにおいては重要なポジションなんですよ」
ユーヤのセリフは的を射ていた。すかさずヴァルマが次のスキルを発動させる。
「忍耐の一撃!! 」
次の瞬間、ヴァルマを覆うように囲んでいたモンスターが同時に絶命した。初めて見るであろう対モンスター用の上位スキルに駿河は目が点になった。
「格闘家系の職業が使うカウンターのようなものか。規模と威力は比較にならんが」
「そうです。自分に集中しているヘイトと与えられたダメージの積で求められるダメージをそのまま相手に反射する騎士系の上位職、守護者のスキルですよ」
ヴァルマが剣を納めて駿河に答えた。
「駿河さんはスキルを使わないのですか? 」
「使うとも、流水加速くらいじゃが」
それはそれで恐ろしい限りである。そもそも流水加速は初心者でも使える単純なスキルなのだ。
「え? 他は要らないんですか? 」
「大体な。使わずとも出来るものが多くてな、さっさとレベルを上げて欲しいスキルを丸ごと頂きたいのじゃ」
「なるほどぉ」
ヴァルマが「なるほど」と答えたことでとりあえずは他のメンバーも納得はしたものの、この時はまだ駿河の異常さに気付かなかった。
「そろそろ出発しましょうか、19時から夕飯なのでさっさと終わらせないと…… 」
ユーヤがボソリと呟くと、他のメンバーは「食べ盛りだ門ねー」と返したリンの台詞にドッと笑った。
「相分かった。では参るか!! 」
そう言うが早いかユーヤの後ろに迫っていた敵を一撃で切り伏せ、いの一番に駿河が走り始めた。
「ま、待って下さいよぉぉ!! 」
その後を追うようにユーヤたちが走り始めた。
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頂上の戦闘フィールドに着いたときには、全員の息が切れていた。
「はぁ、はぁ…… いくらなんでも遠すぎじゃろうが」
「仕方ないですよ、かなり飛ばしましたし…… ぜぇ、ぜぇ…… 」
ある程度息が整ったところで、空が急に暗くなってくる。上を見上げると、3つの頭が並んだ巨大な黒い蛇がこちらを睨んでいる。
「来ますよ、構えて!! 」
アガレスと斬月がお互いにフィールドの反対側の端に向かって走り始め、リンがガントレットの攻撃パーツを展開する。ユーヤとヴァルマが剣を抜いて構えたが、駿河は抜刀せずにウロボロスに向かって走り始めた。
「駿河さん!? 」
「ヘイト調整は任せた! 」
慌ててヴァルマが後を追う。
「出過ぎですって!! 」
こうして、ウロボロスとの戦闘は始まったのである。