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夏恋。名前呼びが許可されたら。

読んでくれるとありがたいし、嬉しいです。

「それに、俺が今更そっちに住む気になったって部屋がないだろ」

「私の部屋があるよ?」

「馬鹿か。俺らは年頃の男女なんだぜ? 何かあったらどうするんだよ」


 夏恋相手にそんな気を起こす気はさらさらないが、その場の空気に流されて「やっちゃったぜ」という展開は大いに有り得る。というか、夏恋は結構スキンシップが激しいところがあるので、こちらが危ない。

 俺の発言に夏恋は難しい顔で黙ってしまった。


「夏恋さんを困らせないであげてほしいですわ」

「いやいや、困ってるのは俺の方だから」

「……あなたがいくら困ろうと、私は気にしませんもの」


 気にしてくれ。リリィーナはやはり俺に対して棘がある。まぁ無理もない。

 ただ、こいつの夏恋に対するリスペクト感は何なのだろうか? 危ない時救われたとか? 逆に夏恋が助けられそうなくらいだぞ。

 気になったらすぐ聞くがモットーな俺は、それをリリィーナに聞いてみる。


「なぁ、どうしたってお前らは姉貴を気に入ってるんだ?」

「生徒会長ですもの。学院長を除いて、学園のトップと言えますのよ? 当然のことじゃなくて?」


 だから俺にはその生徒会長になってる理由も納得できていないんだよ、とは面倒くさくなりそうだから言わないでおいた。

 立場が立派な生徒がいると言っても、椎菜は各クラスに二~三人くらいだと言っていたし、俺と同じような位の者が多くいるのは分かっている。

 だが、確かにリリィーナみたいな奴らは存在しているわけで――――同じような考えばかりだな。

 とりあえず、森塚達が夏恋を気に入っているという見方でいいのだろう。


「それよりも、ですわ。勝手に抜けるのは――――」

「はいはい。しかしなぁ……お前もまだ気まずいのかよ?」

「あ、当たり前ですわ! これまでは皆、付かず離れずを徹底してきたのですから!」

「そこ、自慢げに言うところじゃないぞ。で、誰と話をしたいんだ?」

「……椎菜さん、ですわ……」

「おー……お前も大概椎菜さんのこと好きな」


 せめて誰か一人とは仲良く、その気持ちは分からないでもない。俺だってこれまでそうしてきたし、それができたからこそ、特別な関係になれそうだった女の子がいた。

(わざわざその子と同じ学校選んだんだけどなぁ……)

 が、それもこの学院に通うことになったことで計画が破綻はたん。確かにこの学院には可愛い子が沢山いるが、そうじゃないんだ。

 可愛い子が沢山いても、関われなきゃ意味ないのだから。


「椎菜さーん、ちょっといい?」


 俺は依然として森塚と話をしていた椎菜を呼んだ。隣にいるリリィーナがギョッとして俺を見るが、ここでいちいちコイツの言葉を聞いていたら仲良くはなれない。時には勢いも必要なのだ。


「はい、何でしょうか?」

「やーここにいるアインツベルンが椎菜さんと話したいっていうから呼んだんだよ。じゃあ後は二人でゆっくり――――」

「お待ちになってっ、くれないかしら!?」


 そう言って急に距離を近づけてきたもんだから、その甘い匂いに一瞬ドキっとする。


『どうして離れようとしているんですのっ!?』

『だってなぁ……お前が仲良くしたいのは椎菜さんなんだろ? 俺がいたって邪魔じゃないか』

『それはそうですが……確かにあなたは邪魔ですけど、私と椎菜さんの二人だけで会話が保つと思いますの!?』

『さっき続いてたじゃん。だから大丈夫だよ』


 一方的にリリィーナから距離を取って「大丈夫」ともう一度言ってやった。


「アインツベルンさん、向こうで話しましょうか」

「そ、そうですわね。ああ、それと椎菜さん。私のことはアインツベルンではなくリリィーナと呼んでほしいですわ」

「いいんですか? じゃあ、リリィーナさんと呼ばさせてもらいます」

「ええ、ですから私も――――」


 などと、すぐに盛り上がり始めた二人に安心する。

 相手は椎菜なのだ。そこら辺のくずな女や男が相手なのではないのだから、上手くいくことは当たり前なことだった。

 結局、その対話なる時間は昼飯を食う時間まで続いた。

 ……正直あれ以上俺のところには誰も来なかったが、皆が仲良くなったので俺は全然構わない。


「ちょっと」

「あん?」

「むっ、何ですのその反応はっ! ……ごほん、あなた、お弁当を持参されているのかしら?」

「あ、すっかり忘れてたな……ここって購買とかないの?」

「ありますわよ。この学院の生徒は殆どそこで食べますし……ではなくて……少しくらい分けてあげても、構いませんわよ?」

「まじ? じゃあありがたく!」


 貰える時は全力で貰うというのも俺のモットーだ。

 リリィーナは「そんな期待されても困りますわ」とか何とか言っているが、対する俺はそうじゃない。

 だってこいつはお嬢様なんだろう? なら弁当箱がでかくて当然の話だ。

 そして、それは確かに想像通りの代物がコイツの机の上に置かれていた。……この時間までどこに置いていたのだろうなんて野暮なことは言わない。ついでに、これ以上コイツの話も聞かないぜ。

 だってさ、こんな立派な、アニメみたいな弁当箱が目の前にあって黙ってられるか? って話だ。


「じゃあどれから食べ――――」

「全部!」

「お、落ち着きなさいなっ。それに、少しと言ったはずですわ」

「ふ~ん、そういうこと言っちゃう? じゃあもういいわ」


 一気に興醒めするリリィーナの言い分。だが、俺が貰う側なのだから多少は遠慮するのが当たり前の話だ。

(これも作戦のうちだぜ)

 リリィーナは途端に慌てた様子で俺を止めた。作戦通り、と思いつつも、表情だけ作り彼女を見る。


「ご、ごめんなさい……ですわ……期待を抱かせたのは私ですし、これではぬか喜び、といった感じですわよね……じゃあ全て――――」

「いただきます! うめぇ!」


 今の俺は普段懐いていないけど餌をくれた時だけ懐いているような素振りをする愛犬か、愛猫だ。


「ちょ! 先程の怒っている感じはどこにいきましたの!?」

「あぁ……あれは演技しただけだから怒ってないぞ。大体、アインツベルンの弁当なんだから、ああ言って当然だろ? お前は何も悪くないんだ」

「……演技しただけ……ですの?」

「おうよ! いやーこれ美味いなぁ……なぁなぁ、やっぱいい食材使ってるんだろ?」

「もうこれはあげませんわ!」

「あ、おい!」


 むしゃむしゃともう半ば食いあげていた俺からヤツは弁当を奪い取った。無情である……。


「まぁいいか……貴重な体験ができたよ。それに美味しかったし、ありがとう」

「そもそも私とこうして話をしているだけで貴重な体験なのですわ!」

「確かにな。あいつ以外の異性とこうして気軽に話をできているってことが意外だよ」

「……あいつって誰ですの?」

「あぁ……あいつってのはな? 本当は行くはずだった高校で一緒だった奴だよ」


 今頃どうしてるのかなぁ……、ふと気になったが、もう会うことはないのだろう。

 そうやって一人だけ遠い目をしてリリィーナの弁当箱を見つめていると、目の前のコイツはやたらと食いつてきた。


「詳しく聞いておきたいですわ! もしかしてあなたは、その方のことが好きでしたの?」

「う~ん……分かんない。でも、気になってるのは確かかな。だってその為に同じ高校を選択したんだし」

「……この学院に来たことを後悔したりは……」

「してないよ。どうせあっちには一日も通ってないし、ここで椎菜さんやお前と会えたし。後悔があるとすれば、男友達と馬鹿騒ぎできなくなったことだな」


 あいつらと下の話をしたりしてクラスの女子をドン引きさせるのは楽しかったなぁ……。


「ま、何よりも椎菜さんの存在が大きいよな。だってさ、これまで女子校だったのに俺が来ても嫌な顔一つしなかったし、サポートだっていつもしてくれる。ああ、ああいうのが天使って言うんだなと、俺は気づかされたよ」

「ふ、ふーん……ですわ。あなたは、しい――――苹果さんのことが好き……ですの?」

「まぁ特別な関係もいいかもしれないけど、今の距離感がいいんだよ。その方が落ち着くだろ?」


 実際そういう関係に憧れていないわけではない。齢=彼女いない歴の俺にとっては、ここは正に魅力的な場所だ。……ちなみに、俺の歳は一七歳。

 でも、だからこそ今後の為に迂闊うかつな行為ができない場所でもある。

 それが一学年毎に一クラスずつしかないこの学院の弊害へいがいなところだ。


「それによ、結局まだ名前呼びは許可されてないんだ。まだ好感度が足りないって話さ」

「……なら、もし私が名前呼びを許可したら……どうしますの?」

「なら呼ぶぞ? それにどうせ心の中でお前のことは名前呼びしてるしな」


 椎菜あいてなら遠慮が出るところだが、コイツ相手だと余裕でできちゃうから不思議な話だった。

 

「じゃあ、一回呼んでみてほしいですわ」

「リリィーナ」

「……っ、もう一度」

「リリィーナ?」

「……ふぅ……やっぱりまだダメですわね」

「じゃあ何で呼ばせたんだよ。それに「許可を出したら」云々を言い始めたのはお前だぞ」


 よく分からない女である。初日も俺が寝癖を直していないところに不満を持ったみたいだし、コイツも多分ズレてるところがあるんだろうな。

 ていうか、さっきからコイツの俺との距離はどうしてこんなにも近いのだろうか? あいつが息を吐くたびに顔に届いてきて、そうでなくても香るコイツの甘い匂いに、吐息の甘ったるい匂いが加わって、鼻がおかしくなりそうだ。

(エビフライとか肉系食ったくせに、何でこんなにもいい匂いなんだよ。お前の息も体も)

 女の子は砂糖でできていると言われても、今なら信じてしまいそうだった。


「どうしましたの?」

「何でもねぇよ……それよかほら、昼飯も食ったし、ちょっと歩かないか?」

「いいですわね。行きましょうか」

「ああ」


 昨日この学院を案内してもらったと言っても、代表的なところを紹介されただけだ。

 俺はゆっくり歩くことによって新たないいスポットを知れるかもしれないと、内心で期待していた。

お嬢様口調って難しいですね……。

まぁアブノーマルなお嬢様という扱いで、他作者さんとは違うお嬢様をお楽しみくださいませ、みたいな?

感じで、よろしくお願いします。

いつも、ありがとうございます。

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