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花当番。虚勢はいらない。

続きです。


いつもありがとうございます。


※地の文のリリィーナ・F・アインツベルンの呼び方をリリィーナに変更しました。

それと、どんだけ地の文でヒロインの名前呼ぶんだよと、そう気づきました。

 翌日。

 家から星間学院間はもう迷わず行くことができるようになっていた。

 ただし、そこそこ距離があるために登校時間は比較的早くなるため、学園に足を踏み入れたものの、人物と一回も遭遇していない。

 そうなると途端に「俺はここにいていいのか?」と不安になるから、そろそろ誰かと合いたいが……、この時間にいるのかどうか……。

 だが、廊下の角を曲がった時、目の前に女の子が突っ立ってるのに気づいた俺は、近づく。


「あの……」

「……だれ?」


 こちらが聞きたいところなんですが、とは言わない。いきなり話しかけたのは自分だし、この女の子に罪はない。

 俺は多少の心細さと、どうしてこんなところで突っ立っているのか、それを聞きたいだけだったのだ。


「自分は昨日からここに通うことになった、芳情潤一といいます。一年です」

「……そ。私の名前、知りたい?」

「も、もしよろしければ、ですが」


 ここで「聞きたい」とがっつけば警戒心を抱かせかねないので、俺は当たり障りのない聞き方に徹する。

(この子のリボンは青色だな……先輩か)

 それに落ち着いて見てみれば、先輩の胸元に付いてるリボンの色が二年生のそれを表していた。


「私の名前、朝雛姫あさひなひめ。覚えるか覚えないかは好きにして。じゃあ行くから……」

「はい……今後会えるかどうかは分かりませんけど、もし会えたらよろしくお願いします」


 朝雛は「ん」と短く頷いて、俺の前から去って行く。


「もの静な人だなぁ……アインツベルンとは大違いだ」

「私が何ですの?」

「……いきなり背後から話しかけてくるなよ……おはよう」

「ごきげんようですわ」

「というか、お前来るの早いんだな。何故に?」

「私が今月の当番ですもの。教室の花を枯れさせないために、ですわ」

「へ~」


 掃除で勝負することになった時「そんなことは使用人のすることですわ!」と言っていたリリィーナがねぇ……。少しだけその事実に感動する。

 本当に家の権力は使ってないで頑張っているし、逆に凄いことなんだと、俺はそう思っていた。

(幼少の頃から権力バンバン使ってそうだもんな~こいつ)

 日本人が染めたとしても手が届かないような自然ナチュラルな金色の髪。片側でまとめられた一房の束が歩く度に左右に揺れる。

 そして、何よりも目立つのが、こいつの顔だ。

 顔が全てとは言えないけど、しっかりと整っており、こいつに悪口を言われたとしてもその容姿を見れば、あっという間に不満がどっか飛んでいきそうなくらいだった。

 ……ただ、それはそれ、これはこれの精神でやってきた俺にとっては、一方的に言われて黙るなんて絶対にできない選択だが……。へりくだるなんて、真っ平ごめんだ。


「アインツベルン、初日は悪かったな」

「まだ言ってますの? もう気にしてないですわ。それに、私もみっともなく乗ってしまったわけですし……一概に全てあなたが悪いとは言いませんわ」

「なんかエラく態度が違うな? 風邪でも引いたのか?」


 そう言って、リリィーナの額に手を当てる。リリィーナは俺の行動に仰天といった表情で、距離をとった。


「き、気安く触らないでほしいですわ!」

「すまんすまん。熱があるかと思ったんだよ」

「それじゃあまるで、私がしおらしくしていたらおかしいみたいな言い方じゃありませんの」

「いや、そのつもりだったんだけど……」


 その発言にリリィーナはプンスカ怒って先に言ってしまう。……どうせ目的は教室なんだから一緒に行けばいいだろうに。

教室に俺が入ってもまるで気づいていないように振る舞うリリィーナに苦笑しながら、俺はただじっとリリィーナの水やり作業をずっと見ていた。

 別にこれといって見ている意味はないが、何というかそれだけのことでもリリィーナなら華がある感じがするから……。それと、ただ暇だからという意味合いでもある。


「……見ないでほしいですわ」

「……それは君が自意識過剰なだけだよ」

「……本当にガン見してましたね」

「……だからそれは……」


 きっとこの学院に在籍している女生徒というのは、気配を殺すプロばかりなのだろう。昨日の学院長や森塚にしたって、今さり気なく会話に混ざってきている椎菜にしたって、全く存在に気づけていなかった。


「やぁ……おはよう」

「おはようございます。潤一くんは早速女の子に手を出し始めたんですね」

「そ、そんなつもりじゃないんだよっ? ただ、アインツベルンは頑張ってるな~って思って……」

「ふぅ~ん……ま、別に私には関係ないですけど」


 椎菜の目線が痛い。これこそ理不尽という現象を目の当たりにしているんじゃないか? だったら黙っていられるはずがない、動け!


「花当番をいつかはやることになるんだな~って思ってただけさ」

「はぁ……そういうことにしておいてあげます」


 何故俺が椎菜に許される展開になっているんだ。乙女の扱いは難しい。


「教室で仲睦まじくするのは構いませんが、不純異性交遊はダメでしてよ」

「アインツベルンも何言ってるんだ……それにこれのどこが仲睦まじいんだよ……俺、何か怒られてるんだけど?」

「怒ってません。ただ、昨日あんなにも激突しておきながら、早速アインツベルンさんを狙おうとしているのが気になっただけですので」

「声に棘を感じるよ!? しかも狙ってねぇ!」


 物語の主人公がヒロインの理不尽さに大声で反論したくなる気持ちが分かった気がした朝だ。


「それよりも椎菜さん、少しだけ手伝っていただいてもよろしくて?」

「はい。私なら大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


 おぉ? リリィーナが普通の口調に戻ったぞ?

 本人も一応できると言っていたし、嘘ではなかったということか。

(やたら表情に無理があるけど)

 何ていうか、整っている顔をだいぶ引きつらせて笑みを浮かべている。

 きっと自然な笑みを浮かべたいのだろうが、椎菜と二人という状況がそうさせているのだろう。

 別に何も構える必要はないだろうに……、でもそれが立場の違いってやつだろうか?

 椎菜も椎菜で、俺みたいに振る舞うことはできないと言っていた。椎菜の遠慮に気づいて、更に悪化という未来しか見えなかった。


「おい、アインツベルン」

「……何ですの?」


 無粋とは思いつつ、俺はリリィーナに一つアドバイスを送る。


「椎菜さんはいい子だ。変に構える必要はない。椎菜さんも、アインツベルン相手に遠慮する必要はない。本当はもっと仲良くしたいと思ってるんだろ? 仲良くしたいのに遠慮が出てモヤモヤしてるんだろ? だったら、お互いに手を伸ばそう。そして、それをお互い掴むんだ」

「いきなり来て何を言い出すかと思えば……私は――――」

「いちいち虚勢を張る必要はないんだ」

「……んぐ……もう……まったく、何なんですの? あなたは……」

「本当にそうですよね。普通身構えるもんです。なのに潤一くんときたら……きっと大人とかに対して、敬語が使えない人なんですね」

「……おい、流石に俺だって敬語くらい使えるぞ。昨日だってしっかりと椎菜さん相手にも使ってたじゃん!」


「それもすぐに剥がれましたけどね」そう言って尚も俺の傷口を弄ってくるが、アインツベルンと共感できてるみたいだから、俺の作戦は成功ということにしておく。……例え共感できる部分が俺に対する愚痴だったとしても確かに役立ったのだ。無駄ではない。


「感謝しておいてあげます」

「どういたしましてと言ってみます」


 そんなやり取りがどこかおかしくて、俺達は少しだけ笑った。

自分の作品にしては見てもらえていて、嬉しいです。


……表の部分だけで判断しておくことにします。裏を知るのは怖いので……。

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