学院の案内。いつかきっと。
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※地の文のリリィーナ・F・アインツベルンの呼び方を、リリィーナに変更しました。
四月の始まり頃。俺は星間学院の一員となった。
そこは今にも廃校になりかけてる女子校で、俺以外の生徒や先生は、全員女性だ。
女性が多いからかは分からないが、甘い匂いがそこら中に充満しているような場所。
一つだけ幸いな点と言えるのは、そう普通の学校とそう大差のないことだった。
「聞いてますの?」
「あ、あぁ……アインツベルンか。どうしたんだ?」
「やっぱり聞いていなかったんですわね……この私自ら、学院の案内をしてさしあげようと――――」
「まじ? じゃあお願いするよ。椎菜さんも頼むな」
「分かりました。アインツベルンさんも、それでいいですか?」
「構いませんわ。……だってあなたとも自然に仲良くできるようにしたいもの……」
リリィーナが小声で言った言葉は全て聞こえているが、聞こえなかったフリをしておく。
……今朝の具合を見るに、リリィーナは恐らく不器用なのだと思う。だから、端から見れば圧力をかけているような状況にしてまで、あたかも仲が良いように振る舞ってるのだ。
ただ、周りの女子からすれば、リリィーナの存在は恐れるべき対象だと思う。
その為、椎菜とリリィーナ間ではぎこちなさは感じないものの、他の女子相手だと少し気まずくなってしまってる可能性はあった。
(まぁ、リリィーナも大して悪い奴じゃないって分かったし、求めてくるなら応援してやるか)
完全にチョロいことこの上ないが、ヤクザが少しいいことをすると評価が一転するように、大して理解もせずに一方的に決めつけてしまった自分が恥ずかしいから。
でも、改めて謝るのはこっ恥ずかしいので、これが俺にできる最大の償いだ。もちろん、求めてくればの話だったが。
「ここが入り口ですわ」
「うん……朝ここから入ってきたから知ってる」
「そして、あれが校舎ですわね」
「今ここから出てきたしね」
「あなたは椎菜さんからこの道の名前は聞いてまして?」
「いいや? 何ていうんだ?」
二回くらい今朝説明してもらったことと同様のことを聞いて若干胡乱げだった俺は、少しだけ興味の湧くリリィーナの言葉を聞いて耳を傾ける。
「いいですこと? この道の名前は!」
「いいから早く」
「進化する並木道、と呼ばれていますわ」
「ほ~で、何が進化するんだ?」
「さぁ……それは分かりませんわね」
分からんのかい! ……進化というのは俺達のことを指しているのだろうか? 一学年から一年ずつ経過して、進級している事を例えているなら間違ってはないだろうが……。
「そう呼ばれているだけで真意は分からないですが、この桜の木、実は奥に行くほど大きくなっているのですのよ!」
「あ、本当だ。気づかなかったなぁ……」
朝はそれどころではなかった。それに、ここの桜は既に散りかけであったし、あんまり美しいと思わなかったから。
向かい合ってる同士の桜の木々はしっかり高さが合わせられていた。少し差は感じるにしても、どれも誤差程度のもので、これを植えた人が拘っているということはよく分かる。
「この学院で説明できるものといえば、これくらいですわね……椎菜さんは、他に何か考えがありますの?」
「いいえ。私もありません。本当にこの学院の印象的な物といえば、この三つくらいしかありません」
まじかよ……、俺が内心で思わずそう呟いたのも無理はないだろう。
学院のアピールポイントとして説明されたのが入り口や校舎、それと校舎に続く道だけって……。他の高校でももう少しアピールポイントあるぞ……。
「この学院って部活ないの?」
「ありませんわ。……新たに始めようすればできると思いますが、自分から進んで動く方はいませんわね」
「皆さん怪我が怖いからと言ってましたし、これからも部活動が始まることはなさそうですね。もっとも、芳情さんの導入が成功し、この学院が共学校になったのなら、分かりませんが」
「アインツベルン、俺の寝癖云々は置いておくとして、男子がこの学院に入るのはやはり反対か?」
「……存続ができるのならば、私情を挟むつもりはありませんわ。けど……できることなら、女性のみの学院の方が気は楽、だと思いますわね……」
「そうかぁ……」
なら当初の策をと、俺はリリィーナに言った。しかし、リリィーナは静に首を振る。
「あなたは、いわばこの学院の存続権に関わる人間なのですわ。だから、排除なんて今後を思えばできるわけがない……それに先程も言いましたけど、権力は使えませんわ。使えたとしても、使いませんけれど」
「俺は学院を去れてラッキーアインツベルンは俺がいなくなることで気が楽になると思ったんだけどなぁ……」
「今更何を言ったところで事実は変わりませんよ。決まってしまったのですから、この学院でいかに楽しく過ごすか、それを考えませんか? ネガティブな感情は、決まってネガティブな感情を引き寄せますし……」
「そうだな。じゃあアインツベルン達には悪いけど、これからよろしくな」
「……分かりましたわ。こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
それから俺達はゆっくりと話をしながら校舎に帰った。
帰る途中で、リリィーナの御付きの人とやらがやってきてリリィーナを持ち去っていったけど意外にもいい時間を過ごせたんじゃないかと思う。
……まぁ、正直まだ昼前なのが異質なことだとは思うが、いい雰囲気のままで終われたので良しとしようか。
「……芳情さんは勇気があるんですね」
今度こそ本当の帰り道。
家に帰る時も朝と同じように付き合ってくれている椎菜が、当然そんなことを言ってきた。
「私だけだったらアインツベルンさんに対して、あんな風に話せません」
「やっぱり椎菜さんでもそういうのあるの?」
「ありますよっ。相手は遥かに立場が上の方達なのですよ!?」
珍しく声が大きくなったことを自分で気づいたのか「ごめんなさい」と謝る椎菜。
そういうものだろうか? でもそれって、
「差別とかと変わらないんじゃないかなぁ……もちろん、あいつらが俺らに対して馬鹿にしてるようだったら同じだけどさ。相手が上だからって、そいつら用の振る舞いをしてたら、俺らも変わらないんじゃないか?」
相手によって態度を変えるなんて、今までの人生の中で沢山やっていることだ。
それは俺も例外ではない。だから、責めるつもりは毛頭ないが、どうしても少しだけ気になってしまう。
俺の初期イメージが最悪で、実際あの場だけだったらリリィーナの評価は最低のままだった。
それでもこうして近づいて、また話をしたことで、あいつに対する認識を改めることができた自分は、相手が貴族だろうが何だろうが、同じように会話していきたいと思う。
きっと、本当のところは対等な関係を望んでいるのだ。だからこそ、リリィーナは椎菜と仲よくなりたいと呟いたのだ。
夏恋が生徒会長になることが反対な人物もいるように、これもまた一概には言えないものの、そう思いたいという希望的感想だった。
皆が皆仲良くなんて贅沢なことは言わないから、精々ギスギスしないような空間が作れればいいなと、本気でそう思っている。
「ですが……やはり、難しいですよ……いきなりはできません……」
「そうだよな。でも、それはあいつらも同じなんだよ。だからさ、お互いの伸ばした手を拒まずにやっていこうよ。そうすればきっと、いいことがあるかもしれないから」
そこに汚いイメージというのは一切ない。皆が望めば、きっといい学院になるはず。
「ふふ、おかしな人ですね……ほう――――潤一くんは」
「だろ? で、椎菜さんも名前呼びしてくれたし、俺も名前呼びしていい?」
「それはまだダメです」
「駄目かぁ~くそっ! もっと仲を深めてやる!」
今は呆気なく拒否されてしまったけど、いずれ、そう――――未来が何とかしてくれるはずなんだ。
俺はそうなるように願って、家までの道のりをキビキビと歩いた。
自分はチョロインを誕生させるのが好きでして……
でも、あまりチョロすぎてもな~とか
こいつ今さっき主人公といがみ合ってたのに、もう主人公を意識してやがるぜ、とか
一応最低限の人間らしさがあるキャラクターにしたいですね。
現実じゃ仲の悪い人同士は長くそのまま、みたいなこともありますし……。